8.支援提供プロセスの実際 江東区こども発達センター (園 長) 田村 満子 支援提供のプロセス ( 1 ) 相 談 支 援 時 の 状 況 把 握 ( 2 ) ア セ ス メ ン ト ① 初 期 状 態 の 把 握 ② 基 本 的 ニ ー ズ の 把 握 ③ 課 題 の 整 理 ( 3 ) 個 別 支 援 計 画 の 作 成 ① 到 達 目 標 の 設 定 支 ② 個 別 支 援 計 画 の 作 成 援 ( 4 ) 個 別 支 援 計 画 の 実 施 ( 5 ) 中 間 評 価 と 修 正 会 定期的に 繰り返し ① 支 援 計 画 の 中 間 評 価 ② 支 援 計 画 の 修 正 * * 他 機 関 と の 連 携 就 学 支 援 ( 6 ) 終 了 時 評 価 議 2 ケースの概要と経過-1 知的発達遅滞、不安・過敏傾向を伴う広汎性発達障害男児 3歳児健診で保健相談所に繋がり、当園を紹介された。 3歳3ヶ月時に相談面接を実施 主訴;ことばの理解はあるが、はっきりしたことばが出ない。 かんしゃくが激しい。新しい場面を嫌い人見知りが強い。 行動観察;建物に入るのを泣いて嫌がる。母親にしがみ付 いて離れない。泣き寝入りをする。 初回アセスメント時(生活年齢;3歳5カ月) 遠城寺式;移動運動・手の運動 ,基本的習慣・対人関係 , 発語 ・言語理解 発達検査 (2:6~2:9 2:3~2:6) (1:6~1:9 1:2~1:4) (1:2~1:4 1:9~2:0) 田中ビネーV;生活年齢3歳5カ月,精神年齢1歳11カ月,知能指数56 3 ケースの概要と経過-2 3歳6ヶ月から、週3回通園、1日(給食含)療育、親子分離 の療育支援を開始。3・4歳児クラス(1日定員8名)。 言語・認知個別指導(週1、45分)、生活指導(食事・着脱・ 排泄等)、集団指導(運動・集まり・音楽・造形等)を実施。 作業療法士の評価、心理検査を半年~1年で実施。 2週に1回の保護者個別面談で発達支援、身辺自立、就園・ 就学相談、育児や家庭生活について話し合った。 4歳児から区立幼稚園に入園。介助者が2年間付く。入園後 も週3回の並行通園を継続。職員の見学の受入れ、家庭連 携支援サービスによる訪問を実施。 特別支援学級へ就学。報告書の作成及び移行支援会議を 開催し引継を行った。 4 (1)相談支援時の状況把握 実施方法 • • • 必要なツール 保護者の主訴(心配なこと、相談・療育 機関利用の意向など)を把握する。 • 相談受付表 • 施設案内、施設の手続き説明書 • 重要事項説明書(契約時) 主訴と質問に応じた情報の提供をする。 これまでの経過について把握する(発達 経過、利用機関、医療情報等)。 • 子どもの状態像について把握する。 • 保護者の状況(心理状況、家族状況な ど)について可能な範囲で把握する。 • 個人情報の管理については慎重に行う 事例より (3歳3ヶ月) • • • • • 主訴はかんしゃくが強い、ことばの遅れ。 保健相談所より勧められ成長が心配。 不妊治療を実施。41週出産。第1子。 0歳児よく泣く。母乳の飲みが悪い。 人見知りが激しく父親にも懐かない。 5 (1)大切にしたい視点 • 気軽で身近なアクセス先になるように、施設の案内を地域に発信でき ているか。 • 相談者が初めてアクセスしたときに、分かりやいシステムと親しみや すい雰囲気をもっているか。 • 相談者の基本情報、主訴、これまでの経緯を過不足なく収集できてい るか。 • 相談者の質問や要望に適切に答えられているか。 • 必要な場合には他機関紹介ができるように、地域の情報を整理して いるか。 • 個人情報保護は職員に徹底できているか。 • 紹介元への必要な連絡(結果等)はできているか。 6 (2)アセスメント ①初期状態の把握 必要なツール 実施方法 • • • • 発達検査、あるいは障害に応じた適 切な評価を実施し、身体状況や心 理・発達状況など状態像の客観的な 把握に努める。 聴取により生育歴、発達歴などこれ までの状況を把握する。 必要な場合には、保護者の許可を 得て、他機関からの情報を入手する。 • 心理検査 発達検査、知能検査など (フォーマル検査) 発達評価表 (研究機関等によるもの、 施設固有のもの) 事例より • 知能検査で1歳半の遅れ。 言語課題に比べ視覚課題が良い。 • 日常的なことばの理解が弱い。 • 特定の遊び(車・回るもの)が多い。 • 人への関わりが少ない。 • 触覚への過敏さが見られる。 7 (2)ー① 児童発達支援管理責任者の 視点 • 適切な評価ツールを使用して実施しているか。 • 他機関の評価、保護者からの情報を含め、評価に必要な情報収 集ができているか。 • 評価の結果を、保護者に分かりやすく説明しているか。 • 評価の結果が、療育に活かせるようになっているか。 8 (2)アセスメント ②基本的ニーズの把握 必要なツール 実施方法 • 相談時の面談、初回アセスメントの情 報等を整理して、子ども、母親、父親、 それぞれのニーズを把握する。 • それらのニーズにずれはないか、その 有無を把握する。 • 面談時の情報、発達評価結果 事例より • 子どものニーズ 生活面、対人面含め発達支援が必要。 • 母親の主訴 思うように行かないとすぐかんしゃくを起 こす。話が分かるようになって欲しい。 • 父親の主訴 わがままなのだと思う。母親の育て方が 悪い。もっと厳しくした方が良い。 9 (2)ー② 大切にしたい視点 • 子どもの発達ニーズが適切に把握できているか。 • 父親、母親、家族の思いを丁寧に聞き取り、理解し、主訴と して把握できているか。 • これらを合わせて、家族支援のニーズを把握できているか。 10 (2)アセスメント ③課題の整理 実施方法 • 基本的ニーズの把握に基づき、課 題を整理する。 必要なツール • 支援項目ごとの課題の整 理表 事例より • 支援項目ごとの内容と方法は、保 護者の同意を得ながら進める。 • 併用する他の機関がある場合は、 必要に応じて、他機関と役割分担 と協働による支援を実施する。 <子どもの状況> ・全体的発達支援:運動・認知・社会・言語 ・就園に向けた身辺自立の獲得 ・不安軽減への対人関係の育成 ・感覚統合評価を含めた過敏さの軽減 <家族の状況> ・子への発達状況理解と関わり方の支援 ・父親‐母親の育児への協力関係づくり ・母親の育児負担感を軽減 (2)-③ 大切にしたい視点 • 列挙された課題に優先順位を付けて整理ができているか。 *緊急度、効果、般化度 • 家族支援についても同様に整理できているか。 • 発達支援の課題と家族支援の課題の関係性を整理しているか。 • 実施可能性を想定して課題整理しているか。 • 他機関との連携・役割分担が確認されているか。 12 (3)個別支援計画の作成 必要なツール 実施方法 • 支援項目の課題に基づき到達すべき長 期目標と短期目標を定める。 • 時間(支援期間)と領域(支援内容)とい う2つの観点から個別支援計画を作成 する。 • 到達目標は、時間軸を通して段階を踏 んで達成される。 • 保護者の意見や希望を確認しながら作 成し、保護者の同意を得る。 • 個別支援計画表 事例より ・長期目標(1年) 生活や集団に加わる力が育ち、身近な 人との関りが持てるようになる。 ・短期目標(3~6カ月) 園生活に合わせ生活リズムを作る 部分的に生活動作を自分で行う 特定の大人と安定した関係を築く 簡単な日常指示の理解を育てる 13 (3) 大切にしたい視点 • 長期目標と短期目標が適切な期間で設定されているか。 (短期:3か月前後~期間が長すぎる目標は具体性がないことが多い) • 目標と課題内容は分かりやすく、具体的で、実施可能か。 • 発達支援3、家族支援1、地域連携1は必ず考えよう。 • 多重性、相互性を活かした支援の組み立て。 • 育ちの特長・芽生えを活かしているか(ストレングス)。 • 分かりやすく文章化し、保護者に渡しているか。 保護者・子どもの立場に立った表現 ポジティブ表現 • 保護者の同意を得ているか。保護者の同意は選択可能な状況・条件の中 で行われているか。 14 (4)個別支援計画の実施 実施方法 • 支援スタッフはお互いに情報交換しな がら支援を実施する。 • 支援のペースやスケジュールについて は、保護者の同意を得て実施する。 • 設定された目標を、効率よく達成するこ とに努める。 必要なツール ケースファイル、各記録用紙、評価記 録用紙、支援実施一覧表など 事例より <療育実践> • 担当制による生活及び集団活動への支援 • OT・心理の個別評価の実施と結果につい て報告とクラスへのアドバイス • 週1回の言語・認知個別学習の実施 • 療育修了後に日々の振り返りを実施 <保護者関係> • 定期的な個別面談で療育状況を伝える • 療育見学・参加や日曜父親参加を実施 • クラス懇談会・保護者会の実施 15 (4) 大切にしたい視点 • 支援内容は計画通りに実施されているか。 • 支援の記録が残されているか。 • 支援内容と方法は、目標達成に効果がありそうか。 • 支援スタッフの相互連携がとれているか。 • 保護者が意見や希望を伝えることができているか。 • 安定した出席率となっているか。 16 (5)中間評価と修正 ①個別支援計画の評価 必要なツール 実施方法 • 時期(段階)ごとに、到達目標達成 度を評価し、分析する。 • 保護者からのサービス評価を取り 入れる。 • • • • 中間評価記録表 療育アンケート 必要に応じて発達評価など 事例より(半年中間評価実施) 保護者の要望や状況の変化につ いては、常時情報を得るようにする。 <子どもの様子> • かんしゃくが減り、大人に甘えるようになる • 着脱や食事を自分でやろうとする • 集団活動に興味を示し大人と参加する • 簡単な指示のことばやサインに気付く <両親の様子> • 笑顔が増え気持ちが伝わりうれしい。関わ り方が分かってきた。発語が育って欲しい。 17 (5)-① 大切にしたい視点 • 設定した期間(短期目標)ごとに中間評価を実施している か。 • 設定した期間以外でも、常に発達ニーズや保護者ニーズ の変化に気を付け、必要に応じて中間評価と修正を加える ことができているか。 • 保護者の満足度、要望、苦情を知る方法を設定しているか。 18 (5)中間評価と修正 ②個別支援計画の修正 実施方法 • 到達目標に達成できていない場合は、 その原因を分析的に考え、新たな目標 設定をしていく。 必要なツール • 個別支援計画の修正、変更記録表 事例より • 修正にあたっては、 担当者間で連携を 取る。必要に応じて、他の視点からの 助言を得る。 <園内関係者会議の実施> ・・・新たな目標に向けた役割分担の確認 • 保護者に修正や変更の同意を得る。 生活担当;生活の見通しが育ってくる。 生活場面で達成する部分を決める。 集団担当;対人関係が育ち、かんしゃくが減 る。参加し易い活動場面を設ける。 言語担当;言語や動作サインの理解が育つ。 発声遊び、出易い音の模倣遊び促進。 OT担当;触覚や前庭覚の過敏は軽減してい る。触・前庭感覚過敏の改善を継続。 面談担当;生活支援、就園への支援。 19 (5)ー② 大切にしたい視点 • 中間評価に基づき、適切な修正ができているか。 • 適切なスタッフで検討会議を開催しているか。 • 必要に応じて、修正内容の検討のための評価を実施している か。 • 保護者の意見を聞き、同意を得ているか。 • 修正結果を文章化できているか。 20 (6)他機関との連携 必要なツール 実施方法 • 併用機関について、内容、日程、担当 者等を正しく把握する。 • 電話、報告書、訪問等、必要に応じた方 法で連携を取る。 • 連携の希望の有無、その方法と内容、 時期については、保護者と十分に話し 合いながら実施する。 • 個人情報保護の視点と発達支援、家族 支援の視点から、伝えるべき内容と伝 えるべきでない内容について吟味する。 • • • 連携希望書 他機関連携記録 報告書 事例より <幼稚園との機関連携> • 文書報告や電話連絡での開始時連携 • 家庭連携支援を活用した幼稚園訪問、 担当保育士の来園による連携 • 支援内容、状態や配慮点、集団活動参 加、友達関係作りなどを話し合う。 • 互いの機関理解、役割分担、協力関係 作り 21 (6) 大切にしたい視点 • 必要な時に、主体的に、連携が実施されているか。 *連携の目的・・・そのための課題の整理 *連携する機関・人 *連携の方法 *頻度 *役割分担とキーパーソン • 保護者の希望、相手機関の希望を把握してるか。 • 地域ネットワークの視点で連携しているか *ヴィジョン・アクション・フィードバック・連携ツール • 個人情報保護の視点を持って行っているか。 (本人主体・倫理の共有) 22 (7)就学支援 実施方法 • 保護者への情報提供 • 保護者が悩みや考えを話し合える場 の提供。 • • 担当者が意見や考えを伝えるのでは なく、家族で話し合い、情報を収集し、 子どもにとって適切な場を選択してい くプロセスを支える。 このプロセスを通して、子どもを、地 域をより理解できるように支援する。 必要なツール • 各区市、都の特別支援教育体制に関 する情報 (就学相談、巡回相談、学習支援体 制など) • 学校情報 (学校公開日程、教育内容など) • 就学支援シート 事例より 就学時;保護者相談を頻回に実施。就学相 談を受けて、特別支援学級に就学した。 23 (7) 大切にしたい視点 • 就学に関する相談支援が、実施されているか。 (就学を迎える児全員に対して) • それは、保護者の主体的な行動・選択を支えているか。 • 地域の学校情報、最新の特別支援教育の体制やサービスについ て把握し、整理しているか。 • 就学に向けての企画が、タイムリーに実施できているか。 24 就学支援のプロセス(課題解決プロセス) • 気持ち・考えの整理・・なぜ○○学校に行かせたいか • 情報の収集・・資料の集め方、見学、体験等 • 情報の整理・・子どもにとっての長所と短所 • 子ども理解の再整理と親の希望(価値観)の整理 ・・ここが一番苦しい • 選択・・選ばなかったことの補償の方法 • 希望が満たされるための交渉、関係作り • 振り返り • このプロセスを支え課題解決の姿勢と方法を伝えていくことが、就学支援 • このプロセスに両親/家族の参加を促すことが、家族支援につながる。 • この姿勢とスキルは、その後の選択場面に活かされていく。 • この姿勢とスキルは、やがて子ども自身の生き方に活かされていく。 25 就学支援に含まれる意味 • • • • 障害理解と受容 エンパワメント カウンセリング 家族機能の育成・回復 なぜ「就学支援」が効果的か • • • • • • 全員が通過する課題 テーマと目標(学校決め)が明確 選択肢(学校)が絞られている 日程と期間が定められている 家族全体のことを考えられる 継続的に振り返りができる(結果検証) 26 (8)終了時評価 必要なツール 実施方法 • 到達目標達成度を含めた個別支援計画 全体を客観的に評価。 • 終了時評価表 事例より(5歳児終了時) • • • 支援提供はスムーズに行われたか、ま た、行われなかった場合の原因は何かを 評価。 ・かんしゃくはなくなり人との関係もある程 度上手に取れるようになってきた。 ・集団生活の基本的ルールを理解して場 に合わせ行動できるようになってきた。 利用者の状態の変化・満足度などの観 点から評価。 ・ことばが育ち、要求や要望、様子等を他 者に対して表現するようになった。 ・予定外の場面に不安を示すが、視覚的な 同様のケースの個別支援計画作成に評 手がかりも使い伝えると、軽減する。 価を活かす。 ・触覚・前庭覚過敏はあるが軽減している。 *父は3年間日曜参観に出席。父母で育児を 協力して行い、就学へも共通理解が出来 た。学校・地域活動に家族で参加している。 27 (8) 大切にしたい視点 • 到達目標の達成度はどうか。 • 適切な支援提供ができたか。 • 利用者の満足度はどうか。 • 事例としてまとめ、今後の参考としているか。 28
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