すざく衛星による、2005年9月の太陽活動に起因する太陽風 と地球大気の荷電交換反応の観測 松本浩典、小澤碧、小山勝二(京都大学理学部物理) Abstract すざく衛星は、 (α, δ)J2000 = (14h58m34s, -42d23m51s)の領域を2005/9/12と2006/1/26の2回にわたりX線で観測した。 この二つの観測を比較すると、2005/9/12はE<2keVで2倍明るい。2005/9/12のX線スペクトルは、2006/1/26のスペクトル に多数の輝線を加えることで再現できる。この輝線は、基本的にはC, N, O, Ne, Mg, Siの高階電離イオンの特性X線とし て説明できる。 2005/9/12は太陽活動の激しい時期であり、その太陽風に含まれる高階電離イオンが、地球大気の中性原 子と荷電交換反応を起こして励起状態になり、特性X線を発生しているのであろう。 1. すざく衛星による観測 3. X線スペクトル すざく衛星は、超新星残骸SN1006の観測に対するバックグラウンドを取得 するため、2005/9/12と2006/1/26の二回にわたり、(α, δ)J2000 = (14h58m34s, -42d23m51s)の領域を観測した。すざく衛星搭載X線 CCD(XIS)を用いて、0.4-2.0keV bandで取得したX線イメージを図1に示 す。 2005/9/12(非フレア時)と、2006/1/26のX線スペクトルを比較すると、E<2keV の低エネルギー側で差が大きい(図4)。一方、2005/9/12のフレア時のスペクト ルは、非フレア時と比較すると、E>2keVと1.48keV Al line(検出器由来)で大きく 異なっている (図5)。 2005年9月12日 2006年1月26日 図4: X線スペクトルの比較。 2005/9/12 非フレア時(赤) と、2006/1/26(黒) 図5: 2005/9/12のスペクトル。フ レア時(赤)と非フレア時(黒)。 2006/1/26のスペクトルは、現象論的にkT=0.2keV, 0.7keVの2温度プラズマ、 およびCosmic X-ray Background成分で表される。 図1.すざく衛星搭載X線CCD(XIS0)による、0.4-2keVバンドのX線イメー ジ。(左)2005/9/12, (右)2006/1/26。 一方2005/9/11のスペクトルは、2006/1/26のスペクトルに、多数の輝線を 加えることだけで表すことができた (図6, 表1) 以下のライトカーブ、スペクトル解析では、図1中の緑円内の領域を使用す る。ただし、赤斜線の領域は取り除いた。 2.X線ライトカーブ 図1の緑円内(ただし赤斜線部は除く)のX線イベントを用いて0.4-2.0keV band, 2.0-10.0keV bandのライトカーブを作成した(図2)。2.0-10.0keV bandのカウントレートは2005/9/12と2006/1/26でほぼ同じ。しかし、0.42.0keV bandでは、2005/9/12は2006/1/26のほぼ2倍になっている。ま た、2005/9/12 9:30(UT)ごろにフレアが見られる。 図6: 2005/9/12非フレア時のスペクト ルを、2006/1/26のスペクトルモデル に輝線(ガウス関数; 青)を加えて再 現。 表1: 図6で検出された輝線の中心 エネルギーと、その同定 Counts/sec これらの輝線は、基本的にはC, N, O, Ne, Mg, Siの高階電離イオン (水素状、ヘリウム状)からの特性X線として説明できる。 フレア 太陽の活動性は、2005/9/10前後に非常に活発になっていた。 SOHO衛星により、2005/9/10 22h(UT)にX2.1のフレアに伴う CME、2005/9/11 12h30m(UT) M3.1フレアに伴うCMEが観測され ている。ACE衛星によると、2005/9/12の太陽風速度は~1000km/s と非常に高速であった (2006/1/26は~500km/s)。 図2: 2005/9/12(左)と、2006/1/26(右)のライトカーブ。 すざく観測時間 GOES衛星による太陽X線強度観 測を調べると、同時刻にM6.1のフ レアが発生していることが判明。 すざく衛星が検出したフレアと同時刻 図3: GOES衛星による太陽X線 の観測。 太陽風に含まれている高階電離イオン(Xq+)が、地球大気の中性原子(Y) から電子を奪うことにより (荷電交換反応)、励起状態のイオン(X*(q-1)+)が 発生。このイオンが基底状態に戻る際に特性X線を発していると思われ る。 Xq+ + Y X*(q-1)+ + Y+ 励起状態 X(q-1)+ 特性X線 基底状態 Fujimoto et al. 2007, PASJ, 59. S133と同様の現象である が、より多くの高階電離イオンの観測に成功した。
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