今ハ昔 - 名古屋大学 大学院国際開発研究科

今ハ昔…
A Linguistic Journey from Konjaku to Uji
せつわぶんがく
説話文学
 Commonly referred to as “tale literature.”
Originally coined by scholars as a term equivalent to the Western
folk or fairy tale, as distinct from densetsu (legend) or shinwa (myth),
the word setsuwa now has a very general meaning. Legends, myths,
fairy tales, episodes in Chinese history, war tales, and anecdotes about
ordinary life are all included in setsuwa, collections compiled between
800 and 1300.[1]
 Famous setsuwa collections include:
•
•
•
•
日本霊異記 「にほんりょういき」 ca. 821
三宝絵言葉 「さんぼうえことば」 ca. 984
古本説話集 「こほんせつわしゅう」 ca. late Heian
古事談 「こじだん」 ca. 1212
Kodansha Encyclopedia of Japan, “Setsuwa Bungaku,” http://www.encyjapan.com.ezproxy1.lib.asu.edu/subscriber/default.asp?sessionid=6349958795184930938.
[1]
こんじゃくものがたりしゅう
今昔物語集
 ca. 1120 (Generally accepted compilation date)
 Compiler unknown
 More than 1000 tales ranging from Buddhist
topics to the secular.
 Divided into 31 Books of various subjects:
Books One ~ Five: Tales of India
Books Six ~ Ten: Tales of China
Books Eleven ~ Twenty: Tales of Buddhism in Japan
Books Twenty-one ~ Thirty-one: Secular Tales of Japan
Note: Books 8, 18, and 21 are missing.
こんじゃくものがたりしゅう
今昔物語集
 Written in 漢字カナ混じり文
 Each tale begins with the line “今ハ昔”
 Each tale concludes with “トナム語リ伝エタルトヤ”
 Arranged in a couplet style according to subject
matter
うじしゅういものがたり
宇治拾遺物語
 ca. early 13th century
 Compiler Unknown
うじだいなごんものがたり
 Title is an allusion to 宇治大納言物語,
a
みなもとのたかくに
collection of tales compiled by 源隆国[1004-1077]
 197 tales of various subjects
 Most common version is divided into 15 Books.
うじしゅういものがたり
宇治拾遺物語
 Written in 和文体
 Titles all end in 事
 Arbitrary division of books
 Less regimented than 今昔物語集
 Many stories from previous setsuwa collections
appear reprinted in Uji
あべのせいめい
安倍晴明
 921~1005
 An
onmyōji in the mid-Heian Period
considered a very powerful fortune teller
and exorciser of demons. Member of the
Abe Family and the most famous of the
recorded onmyōji. Author of Senji
Ryakketsu占事略決 and Kin’ugyokutoshū
金烏玉兎集
あべのせいめい
安倍晴明
 Current
manga and movies feature Seimei
frequently
 Subject of numerous setsuwa
as well
 Shrine to him
in Kyoto
おんみょうどう
陰陽道
 A type
of Daoist mysticism imported from
China
 Actual date of arrival is unknown, though
the Bureau of Yin and Yang 陰陽寮 was
established during the reign of Emperor
Temmu [673-686]
 Based around the 5 elements and the
concepts of Yin and Yang
おんみょうどう
陰陽道
 Astrology,
astronomy, and calendrical
divination began to be associated with 陰
陽道 as well
しきがみ
 Use
of 式神, spirits which could be
おんみょうじ
controlled by the 陰陽師, practitioners of
陰陽道
今昔物語集:巻第二十四第十六
「安倍晴明随忠行習道語第十六」
宇治拾遺物語:巻き第十一第三
「晴明を試みる僧の事」
今昔、天文博士安倍晴明ト云陰陽師有ケリ。古ニモ不恥
ヂ止事無リケル者也。幼ノ時、賀茂忠行ト云ケル陰陽師
ニ随テ、昼夜ニ此道ヲ習ケルニ、聊モ心モト無キ事無カ
リケル。
而ルニ、晴明若カリケル時、師ノ忠行ガ下渡ニ夜業ニ行ケ
ル共ニ、歩ニシテ車ノ後ニ行ケル、忠行車ノ内ニシテ吉
ク寝入ニケルニ、晴明見ケルニ、艶ズ怖キ鬼共車ノ前ニ
向テ来ケリ。晴明此ヲ見テ驚テ、車ノ後ニ走リ寄テ、忠
行ヲ起シテ告ケレバ、其時ニゾ忠行驚テ覚テ、鬼ノ来ル
ヲ見テ、術法ヲ似テ忽ニ我ガ身ヲモ恐レ無ク、共ノ者共
ヲモ隠シ、平カニ過ニケル。其後、忠行晴明ヲ難去ク思
テ、此道ヲ教フル事瓶ノ水ヲ写スガ如シ。然レバ、終ニ
晴明此道ニ付テ、公私ニ被仕テ糸止事無カリケリ。
From the top….
今:而ル間、忠行失テ後、此晴明ガ家ハ土御門ヨリ
ハ北、西ノ洞院ヨリハ東也、其家ニ晴明ガ居タリ
ケル時、老タル僧来ヌ。共十余歳許ナル童二人
ヲ具シタリ。
宇:昔、晴明が土御門の家に、老い白みたる老僧
来たりぬ。十歳ばかりなる童二人具したり。
今:晴明此ヲ見テ、「何ゾノ僧ノ何ヨリ来レルゾ」ト問ヘバ、
僧「己ハ播磨国ノ人ニ侍リ。其ニ、陰陽ノ方ヲナム習ハ
ム志侍ル。而ルニ、只今此道ニ取テ止事無御座ス由ヲ
承ハリテ、少々ノ事習ヒ奉ラムト思給ヘテ、参リ候ツルナ
リ」ト云ヘバ、晴明ガ思ハク、「此法師ハ此道ニ賢キ奴ニ
コソ有ヌレ。其レガ我ヲ試ムト来タル也。
宇:晴明、「何ぞの人にておはするぞ」と問えば、「播磨国
の者にて候。陰陽師を習はん志にてそうろう。この道に、
殊にすぐれておはします由を承りて、少々習ひ参らせん
とて、参りたるなり」といへば、晴明が思ふやう、この法
師はかしこき者にこそあるめれ。我を試みんとて来たる
者なり。
今:此奴ニ弊ク被試テハ口惜カリナムカシ。試ニ此法師少
シ引キ掕ゼム」ト思フ。「此ノ法師ノ共ナル二人ノ童ハ職
神ニ仕テ来タルナリ。若シ職神ナラバ、忽ニ召シ隠セ」ト
心ノ内ニ念ジテ、袖ノ内ニ二ノ手ヲ引入テ、印ヲ結、蜜ニ
呪ヲ読ム。其後、晴明法師ニ答ヘテ云ハク、「然カ承ハ
リヌ。但シ、今日ハ自ラ暇無キ事有リ。速ニ返リ給テ、後
ニ吉日ヲ以テ坐セ。『習ハム』ト有ラム事共ハ教ヘ進ラ
ム」ト。法師「穴貴」ト云テ、手ヲ押摺テ額ニ宛テ、立走テ
去ヌ。
宇:それに悪く見えては悪かるべし。この法師少し引きまさ
ぶらんと思ひて、供なる童部は、式神を使ひて来たるな
めりかし。式神ならば召し隠せと、心の中に念じて、袖の
内にて印を結びて、ひそかに咒を唱ふ。さて法師にいう
やう、「とく帰り給ひね。後によき日して、習はんとのたま
はん事どもは、教へ奉らん」といへば、法師、「あら、貴」
といひて、手を摺りて額に当てて、立ち走りぬ。
今:「今ハ一二町ハ行ヌラム」ト思フ程ニ、此法師亦来タリ。
晴明見レバ、可然キ所ニ車宿ナドヲコソノゾ臨行メレ。臨
行テ後ニ、前ニ寄来テ云ク、「此共ニ侍ツル童部二人乍
ラ忽ニ失セテ候フ。其給ハリ候ハム」ト。晴明ガ云ク、
「御房ハ希有事云フ者カナ。晴明ハ何ノ故ニカ人ノ御共
ナラム童部ヲバ取ラムズルゾ」ト。法師ノ云ク、「我ガ君、
大ナル理ニ候フ。尚免シ給ハラム」ト侘ケレバ、其時ニ
晴明ガ云ク、「吉々。御房ノ、人試トテ職神ヲ仕テ来タル
ガ不安思ツル也。然様ニハ異人ヲコソ試メ。晴明ヲバ此
不為デコソ有ラメ」ト云テ、袖ニ手ヲ引入テ、物ヲ読ム様
ニシテ、暫ク有ケレバ、外ノ方ヨリ此童部二人乍ラ走入
テ、法師ノ前ニ出来タリケリ。其ノ時ニ法師ノ云ク、「誠ニ
止事無ク御座ス由ヲ承ハリテ、『試ミ奉ラム』ト思給ヘテ、
参リ候ツル也。其ニ職神ハ古ヨリ仕フ事ハ安ク候フナリ。
人ノ仕タルヲ隠ス事ハ更ニ可有クモ不候ハ。穴忝。今ヨ
リ偏ニ御弟子ニテ候ラム」ト云テ、忽ニ名符だヲ書テナ
ム取セタリケル。
宇:今は去ぬらんと思ふに、法師とまりて、さるべき所々、
車宿りなど覗き歩きて、また前に寄り来ていうやう、「こ
の供に候ひつる童の、二人ながら失ひて候。それ賜りて
帰らん」といへは、晴明、「御房は、希有の事いう御坊か
な。晴明は何の故に、人の供ならん者をば取らんずる
ぞ」といへり。法師のいふやう、「更にあが君、大きなる
理候。さりながら、ただ許し給らん」と詫びければ、「よし
よし、御坊の、人の試みんとて、式神使ひて来るが、うら
やましきを、ことに覚えつるが、異人をこそ、さやうには
試み給はめ。晴明をば、いかでさる事し給ふべき」とい
ひて、物よむやうにして、暫しばかりありければ、外の方
より、童二人ながら走り入りて、法師の前に出で来けれ
ば、その折、法師の申すやう、「まことに試み申しつるな
り。使ふ事はやすく候。人の使ひたるを隠す事は、更に
かなふべからず候。今よりは、ひとへに御弟子になりて
候はん」といひて、懐より名簿引き出でて取らせけり。
Frog tales…
今:亦、此晴明広沢ノ寛朝僧正ト申ケル人ノ御房ニ参テ、
物申シ、承ハリケル間、若キ君達僧共有テ、晴明ニ物語
ナドシテ云ク「其ノ職神ヲ仕ヒ給フナルハ。忽ニ人ヲバ殺
シ給フラムヤ」ト。晴明、「道ノ大事ヲ此現ニモ問ヒ給フカ
ナ」ト云テ、「安クハ否不殺。少シ力ダニ入テマツラヘバ
必ズ殺シテム。虫ナドヲバ塵許ノ事セムニ、必ズ殺シツ
ベキニ、生ク様ヲ不知バ、罪ヲ得ヌベケレバ、由無キ也」
ナド云フ程ニ、庭ヨリカエルノ五ツ六ツ許踊ツ、池ノ近様
ニ行ケルヲ、君達、「然ハ彼レ一ツ殺シ給ヘ。試ム」ト云
ケレバ、晴明、「罪造リ給君カナ、然ルニテモ、『試ミ給ハ
ム』ト有レバ」トテ、草ノ葉ヲ摘切テ、物ヲ読様ニシテカエ
ルノ方ヘ投遣タリケレバ、其ノ草ノ葉カエルノ上ニ懸ルト
見ケル程ニ、カエルハ真平ニ{
}テ死タリケル。僧共
此ヲ見テ、色ヲ失テナム恐ヂ怖レケル。
宇:この晴明、ある時、広沢の僧正の御房に参りて、物申
し承りける間、若き僧どもの晴明にいふやう、「式神を使
ひ給ふなるは、たちまちに人をば殺し給ふや」といひけ
れば、「やすくはえ殺さじ。力を入れて殺してん」といふ。
「さて虫なんどをば、少しの事せんに、必ず殺しつべし。
さて生くるやうを知らねば、罪を得つべければ、さやうの
事よしなし」といふ程に、庭に蛙の出で来て、五つ六つ
ばかり踊りて、池の方ざまへ行きけるを、「あれ一つ、さ
らば殺し給へ。試みん」と僧のいひければ、「罪を作り給
ふ御坊かな。されども試み給へば、殺して見せ奉らん」
とて、草の葉を摘み切りて、物を誦むやうにして、蛙の方
へ投げやりければ、その草の葉の、蛙の上にかかりけ
れば、蛙真平にひしげて死にたりけり。これを見て、僧ど
もの色変りて、恐ろしと思ひけり。
今:此晴明ハ、家ノ内ニ人無キ時ハ職神ヲ仕ケル
ニヤ有ケム、人モ無キニ、蔀上ゲ下ス事ナム有
ケル。亦、門モ差ス人モ無カリケルニ、被差ナム
ドナムアリケル。此様ニ希有ノ事共多カリ、トナ
ム語リ伝ルル。
其ノ孫于今公ニ仕テ、止事無クテ有リ。其土御門ノ
家モ伝ハリノ所ニテ有リ。其ノ孫近ク成マデ職神
ノ音ナドハ聞ケリ。
然レバ、晴明尚只者ニハ非リケリ、トナム語リ伝ヘ
タルトヤ。
宇:家の中に人なき折は、この式神を使ひけるに
や、人もなきに、蔀を上げ下し、門をさしなどしけ
り。
Resources





D.E. Mills, trans. A Collection of Tales From Uji: A Study and
Translation of Uji shūi monogatari. Cambridge University Press,
London 1970.
Murayama Shūichi 村山修一. Nihon onmyōdōshi sōsetsu 日本陰
陽道史総説. Hanawa Shobō, Tokyo 1981.
Nihon Koten Bungaku Zenshū 日本古典文学全集Mabuchi Kazuo,
Kunisaki Fumimaro, Konno Tōru, ed. 馬淵和夫、国東文麿、今
野達. Vol. 22-23 of Konjaku monogatari shū 今昔物語集.
Shōgakkan, Tokyo 1974.
Nihon Koten Bungaku Zenshū 日本古典文学全集 Kobayashi
Chishoū, ed. 小林智昭. Vol. 28 Uji shūi monogatari 宇治拾遺物語.
Shōgakkan, Tokyo 1973.
Marian Ury, trans. Tales of Times Now Past: Sixty-two Stories
From a Medieval Japanese Collection. University of California
Press, Berkeley 1979.