12回目

はじめて学ぶ建物と火災
第1章 建物火災に対する安全
第2章 火災は意外と多い ー 火災の実態
第3章 ものが燃える ー 火災の現象
第4章 火災の被害を小さくするために
第5章 火・煙から人をまもる ー 避難安全
第6章 火災の拡大を防ぐ ー 延焼防止
第7章 火災に耐える建物をつくる
第6章 火災の拡大を防ぐ
-建物内での延焼防止-
6-1 火災が延焼拡大する危険
6-2 火災はどのように延焼拡大するか
6-3 延焼拡大を防ぐには
6-4 具体的な延焼拡大防止対策
6-1 火災が延焼拡大する危険
・室内火災:
室内の家具,衣料や寝具などの可燃物に
着火 → 拡大 → フラッシュオーバー
・建物火災:
室内全体に拡大した火災が壁,床,扉等
を越えて隣接室や上階に延焼
・人命の危険:
避難通路や階段に煙や熱気が流入する
と避難不可能 → 消防隊の救助を待つ
・建物自体の損害:
内装材の焼失や煙汚損,構造体の変形
などで,火災後の修復は長期化する
・建物の機能停止:
公共施設なら公的サービス,生産ライン
工場なら生産活動が不可能に
・建物の修復期間:
焼失面積が大きいほど損傷が激しく修復
や機能回復まで長くかかる
6-2 火災はどのように延焼拡大するか
・木造住宅:
火災発生後短時間で,壁や上階の床が
燃え抜け,隣接室や上階に延焼
・RC造(鉄筋コンクリート造)の床:
材料は燃えることはないが,床厚が薄い
と熱が伝導し上階の可燃物に着火
・S造(鉄骨造)の壁パネルや床パネル:
軽量鉄骨下地が熱変形して,パネルに
隙間が生じ,火炎や煙が噴出
鉄骨造の壁・床パネルからの延焼
隙間
隙間
隙間
6-2-2 扉等などを通して延焼拡大する
・鋼製扉の変形:
扉が熱膨張で変形して,枠との間に隙間
が生じ,火炎が噴出
・鋼製扉の放射熱:
火災室が高温になると鋼板は赤熱し,
反対側の放射熱や熱気流で着火する
・防火扉やシャッターの閉鎖障害:
防火扉や防火シャッターが故障や不適切
な使用で閉鎖しなかった(直下の物品等)
扉の熱気流や放射熱からの延焼
感知器連動閉鎖式シャッターが
閉鎖しなかった例
6-2-3 配管・ダクト等の貫通部から延焼
・区画貫通部:
防火区画を構成する壁や床を配管,
ダクト,電線などが貫通する部分
・壁や床を貫通する可燃物:
塩化ビニル製の配管やダクト,
電線の被覆材や絶縁材(ポリエチレン製)
・貫通孔との隙間:
可燃材を耐火充填材で被覆し,隙間は
モルタル等で充填して延焼を防ぐ
外壁と床の隙間からの延焼の例
床の配管貫通部から延焼した例
6-2-4 竪穴を介して延焼拡大する
・竪穴:
階段室,エレベーターシャフト,吹抜け,
パイプスペース,ダクトスペース等
・煙突効果:
下階の火災の煙や熱気が竪穴に流入する
と浮力のため激しい上昇気流になる
・竪穴上部階への延焼:
竪穴で大きな圧力分布が生じ,上部階には
強い正圧が作用して煙が上階へ噴出
6-2-4 竪穴を介して延焼拡大する
・竪穴内温度と開口面積:
わずかな開口でも竪穴内温度が上昇
すれば多量の煙が噴出,
下部の開口が大きいと速度が更に増す
・空調ダクトによる延焼:
ダクトスペースに煙が流入し,上部階
の空調機から煙が噴出(千日ビル火災)
火災室内の圧力分布
上部には強い
正圧が作用し
煙が噴出
竪穴における煙突効果
煙突効果:
下階から,火災の煙や
熱気が竪穴に流入する
↓
浮力のため激しい
上昇気流になる
エレベータシャフトによる漏煙
竪穴内温度とガス流出温度
千日ビル火災の概要
1972年5月 22時頃 3階の電気工事で
起こった火災の煙と有毒ガスが,階段,
エスカレータ,エレベータシャフト等を経て,
約10分で7階まで上昇,118人が死亡
千日ビル火災 出火階
エスカレータ
工事の火災
階段
エレベータシャフト
千日ビル火災 7階での被害者
竪穴内の
煙の流出
6-2-5 建物外部から延焼する
・板ガラス:
耐火性は乏しく,200℃近くになると破損
← 防火ガラスは網入りとする
・開口部からの上階延焼:
板ガラスが破損し火炎が外部へ噴出して,
放射熱などで上階に延焼
・スパンドレル:
上下階の窓と窓の間の壁,または,それに
使われるアルミやステンレスの金属板
開口部からの噴出火炎
開口部からの噴出火炎
ベランダと階段室の延焼例
6-3 延焼拡大を防ぐには
6-3-1建物に応じた対策が必要
・防火壁の設置:
床面積1000㎡以上の木造建築物は防火壁
で区画(屋根や外壁から50cm以上突出)
・隔壁の設置:
木造の長屋や共同住宅の界などは小屋裏
や天井裏に達する隔壁を設置
木造建物の防火壁
・耐火構造物:
主要構造を耐火構造とした建物で,延焼
範囲(1階:3m,2階:5m)には防火ガラス
・耐火構造:
RC造やレンガ造など,柱・梁・床・耐力壁
の構造部材が耐火性能を持つ
・耐火性能:
通常の火災の終了まで構造耐力上支障が
ある変形・溶融・破壊等はしない
・準耐火構造物:
主要構造が準耐火構造の建物+防火ガラス
隣接建物による延焼範囲
防火ガラスは網入り板ガラスが一般的
6-3-2 一定の床面積で区画
・面積区画:
耐火構造物:床面積1500㎡以内ごとを区画
準耐火構造物: 500㎡~ 1500㎡ごとを区画
・部屋の用途による防火区画:
火気を使用する部屋,貴重品を収蔵する部屋
・高層区画:
はしご車が届かない11階以上の階が対象
内装と下地が不燃材料:500㎡以内ごと
準不燃材料:200㎡以内ごとを区画
6-3-2 鉛直方向などの延焼を防止
・竪穴区画:
竪穴(階段室,吹抜け,パイプスペース,
ダクトスペース等)を他の部分と区画
・層間区画:
出火階から上階への延焼を防止するため
の区画 → 床と外壁を耐火構造化
・異種用途区画:
不特定多数の人が利用する建物は,
建物の用途ごとに区画
建物の防火区画の例
建物の防火区画の例
建物の防火区画の例
防火防煙シャッターによる区画
感知器連動
閉鎖式 防火
防煙シャッ
ター
特定防火設備による区画
感知器連動
閉鎖式防火扉
遮煙性能のある扉による区画
防火エレベータ扉
エレベーターホールによる区画
感知器連動
閉鎖式防火扉
エスカレーターの竪穴区画
層間区画のスパンドレル
6-3-3 建物の延焼拡大防止設計法
① 防火区画の計画:
建物の用途や使用状況等から,どの位置
で延焼を防止するかを決定
② 区画部材の構造を計画:
床と壁,扉とシャッター,貫通する配管類
やケーブルの部分
③区画部材の標準火災加熱時間の算定:
防火区画内の火災の継続時間から算定
6-3-3 建物の延焼拡大防止設計法
④ 区画部材の保有耐火時間の算定:
数値計算や耐火試験から
⑤ 区画部材の保有耐火時間が,
等価火災継続時間以上であることを確認
⑥ 建物の外部からの火災により建物が
延焼しないことを確認
延焼拡大防止設計法
吹き抜け内での出火
吹抜け隣接室内での出火
防火区画の要求性能
6-4-2 床や壁に要求される性能
・非損傷性:
鉛直荷重を支持する床や耐力壁は,火災時
も変形,溶融,破壊せず荷重を支持する
・遮熱性:
火災室と反対側の表面に接触している
可燃物の着火を防止する → 最高160℃
・遮炎性:
火炎が外部に噴出しないように,外壁を
貫通する亀裂などを生じさせない
6-4-3 床や壁の遮熱性の評価方法
・耐火試験:床や壁を試験体として試験炉
に用いて,非損傷性,遮熱性や遮炎性を評価
・標準加熱温度曲線:フラッシュオーバー後を
模擬,30分842℃,60分945℃,180分1110℃
・非損傷性の評価:
試験体の主要な各部が長期許容応力度を
作用させてもひび割れしない
・遮熱性の評価:
試験体の裏側温度が可燃物燃焼温度以下
標準加熱温度曲線
防火床と防火壁
防火壁の実験
6-4-3 開口部材の種類
・防火扉:
鋼板製が多いが,鋼板枠かアルミ合金枠に
網入りガラスか耐熱ガラスでもOK
・防火シャッター:
鋼板製が多いが,セラミックを用いた
クロスシャッターが出現
・水膜式延焼防止装置:
避難経路に高圧で水を放出して水膜を形成
して延焼を防止する
耐熱ガラスを用いた防火扉
防火シャッターのスラット形状
水膜式延焼防止装置
円筒状の防火区画
トンネル状の防火区画
6-4-3 開口部材に要求される性能
・ 開口部の遮炎性:
火災時に開口部材が高熱により変形
して,枠との隙間に火炎が噴出を防ぐ
・遮炎性の耐火試験:
壁と同じ耐火試験で,反対側に10秒
以上の火炎噴出がないかを確認
鋼製シャッターの放熱量
防火スクリーンシャッター
6-4-7 区画貫通部の種類と性能
・区画貫通部の可燃材:
塩化ビニル製の配管やダクト,電線の被覆材
や絶縁材
・貫通孔との隙間:
可燃材を耐火充填材で被覆し,
隙間はモルタル等で充填して延焼を防ぐ
・防火ダンパー:
冷暖房設備や換気用のダクト(風洞)の
貫通孔付近に設置,高温で閉鎖
床を配管が貫通する例
ケーブルが床を貫通する例
配管の防火区画貫通部の例
ケーブルの区画貫通部の例
防火ダンパーの例
建物の火災拡大防止対策
建物の火災拡大防止対策
第7章 火災に耐える建物をつくる
-火災時の構造性能-
7-1 火災に耐えるということ
7-2 鉄筋コンクリート造の耐火性
7-3 鉄骨を断熱材料で被覆する
7-4 燃えにくい木造とするために
7-5 載荷加熱試験で確かめる
建物の火災対策の目的
① 人命の確保:
建物から安全に避難する → 防煙区画
② 消防活動の遂行:消防拠点を確保する
③ 財産の保全:
建物が再利用でき,損失を最小限に
抑える →建物を耐火構造とする
④ 周辺への加害防止:
隣接建物への延焼を防止する
7-1 火災に耐えるということ
建物火災の進展
① 初期消火 → NG
② 防火区画で延焼防止 → NG
③ 消防隊の活動 → 近隣に延焼防止
→ 建物は全焼,全壊?
→ 耐火構造は全壊しない
RC造建物の地震火災の被害
大きく変形しても
倒壊はしない
被覆なしの鉄骨造建物の火災被害
21階から
27階が崩壊
建物の耐火構造化
・耐火構造物:
主要構造を耐火構造とした建物で,延焼範囲
(1階:3m,2階:5m以内)は防火ガラス
・耐火構造の種類:
柱・梁・床・耐力壁の構造部材と屋根・階段
・耐火性能:
通常の火災の終了まで構造耐力上支障が
ある変形・溶融・破壊等はしない
標準加熱温度曲線
構造部材の主要な材料
・鉄筋コンクリート構造:
鉄筋が高温にならないようにかぶり厚さを確保
・鉄骨造:
耐火被覆を施して,鉄骨が直接外気に曝され,
耐力(強度)や剛性が低下するのを防ぐ
・木質構造:
通常の断面は燃えるが,大断面の部材は
表面から徐々に炭化するので耐火性を持つ
RC造とS造の柱と梁
かぶり厚さ
耐火被覆
かぶり厚さや被覆厚さと耐火時間
耐火建築物(建築基準法)
・耐火建築物の種類:
3階建以上の劇場,映画館,病院,
ホテル,共同住宅,学校,百貨店など
・要求される耐火時間 :
最上階から数えて1~4階:1時間,
5~14階:2時間,15階~:3時間
耐火構造に要求される耐火時間
1時間
2時間
3時間
耐火構造物の要求耐火時間
7.2 鉄筋コンクリート造の耐火性
・線膨張係数(熱膨張係数):
1℃の温度上昇での伸びの歪み度
→ コンクリートと鋼は共に10μ/℃
・コンクリートの高温時の線膨張歪み:
600℃で0.5%~1.6%,珪岩(変成岩)が最大,
石灰岩は小さい
・高温時の強度:
550℃で圧縮強度と弾性係数は1/2に低下
RC造建物の火災の被害
コンクリートの熱膨張ひずみ
コンクリートの応力-ひずみ関係
コンクリートの圧縮強度の低下
コンクリートの熱膨張
・コンクリートの熱伝導率:
鋼の約1/40,壁厚10cmで2時間の延焼防止,
加熱すると減少,高強度コンクリートは大きい
・出火時の梁に作用する曲げ応力度:
火災室の上の梁が加熱され膨張し,上下の
柱が変形を拘束して,大きな曲げ応力が発生
・完全拘束時の応力度:
200℃で歪みは0.2%になるので,最大強度
と同等な圧縮応力度が作用
コンクリートの熱伝導率
コンクリートの高熱時の変形
加熱
出火
梁が伸びる
火災階の柱に作用する熱応力
火災階の梁に作用する熱応力
コンクリートの爆裂
・爆裂の原因:
水蒸気説(コンクリート中の自由水が蒸発)
熱応力説(線膨張歪みが一気に解放)
・高強度コンクリートと爆裂:
設計基準強度が36MPa以上,60MPa以上
は爆裂の検討が必要
・かぶり厚さと鉄筋温度:
幅400mmでかぶり40mm柱の鉄筋,
1時間:200℃,3時間:600℃
高強度コンクリートの柱の爆裂
コンクリートの火害診断
・火災室内の火災後の状況:
コンクリート表面に亀の甲状ひび割れ,
かぶり部分の爆裂と剥離
・目視による火害診断:
コンクリートの色,ひび割れ幅と長さ,
梁や床のたわみなど
・コンクリートの色と補修方法:
黒いすす → 表面の洗浄
ピンク色に変色 → はつり取り打ち直す
RC構造物の火害等級と補修方法
火害を受けたRC部材の補修方法
7.3 鉄骨を断熱材料で被覆する
・鋼材の高温時の引張試験:
200℃まではほぼ同じ,400℃で急激に強度
低下,600℃で1/3の強度になり塑性化
・高力ボルトの高温耐力低減:
鋼材よりも低い温度で強度が低下する
400℃で約1/2,600℃で1/6
・鋼材の座屈耐力の低下:
ヤング係数が高温で低下するので,火災時
に座屈耐力も低下→局部座屈も生じ易い
鉄骨造建物の火災実験(1)
鉄骨梁のたわみ
鉄骨造建物の火災実験(2)
梁の下フランジの座屈
高温時の鋼材の応力度-歪み関係
高温時の鋼材
のクリープ歪み
高力ボルトの高温時の強度低下
鉄骨造の柱の圧縮曲げ座屈
高温時の柱の座屈荷重
鉄骨造の梁の局部座屈
鉄骨造の梁の全塑性化
火災時の鉄骨梁の崩壊型
鉄骨部材の耐火被覆材(1)
・耐火被覆の目的:
室内温度が1000℃でも,鉄骨の表面温度
を使用限界温度の 600℃ 以下とする
・吹付け工法:
ロックウールにセメントを混ぜる,安価なので
80%以上で使用,原料は高炉スラグ
・成形板張り工法:
繊維混入珪酸カルシウム板,珪酸質原料に
石灰粉末を混ぜ高圧蒸気で反応
耐火被覆した鋼材の温度
鉄骨部材の耐火被覆材(2)
・巻き付け工法:
高耐熱ロックウールを巻き付けピンで留める
・塗装工法:
火災加熱で250℃くらいになると数十倍に
発泡・膨張し,灰化層が断熱性を持つ
・鉄骨造建物の火害診断:
鉄骨部材の塑性(残留)変形を外観で調査,
高力ボルトにも注意
主な鉄骨部材の耐火被覆
鉄骨部材の耐火被覆の例(1)
鉄骨部材の耐火被覆の例(2)
鉄骨部材の耐火被覆の例(3)
耐火塗料の発泡メカニズム
鉄骨部材の耐火被覆の例(4)
Concrete Filled Steel Tube
耐火鋼と無耐火被覆CFT柱
鉄骨造の火害診断
7.4 燃えにくい木造とするために
・木造建物の防火部分:外壁と軒裏
防火性能を持たせる → 30分間の加熱試験
・大断面集成材の燃えしろ設計: 1987年から
25mmの燃えしろを見込んで部材を設計する
・加熱により軟化しない接着剤:
フェノール樹脂やレゾルシノール樹脂
ただし,フェノール樹脂は接着力が弱く,
レゾルシノール樹脂はホルムアルデヒドを含む
大規模木造建物の防火壁
木造住宅の実大火災実験
各部屋の温度の推移
1階
2階
防火性能のある壁や天井で延焼が遅れる
大断面集成材の炭化速度
木材の加熱温度と破壊荷重
木造3階建住宅の防火規定
木造3階建住宅の準耐火構造
準耐火構造の木造外壁の例
準防火構造の非耐力壁の例
準耐火構造の木造外壁と屋根
7.4 燃えにくい木造とするために
・防火性能:
通常火災の加熱30分間で,反対面が
平均140℃,最高180℃以下
・木材の加熱試験:
150℃で表面が褐色になり,200℃で可燃性
ガスが発生,260℃で引火して出火する
・防火地域と準防火地域:
市街地における火災の拡大と延焼防止の
ため市町村の都市計画により定める
柱の背割りと炭化深さ
背割り部分が
炭化が深くなる
木造構造物の燃え代設計
高層木造
の例