牛肉のトレーサビリティ制度に対する 消費者評価 2009年12月2日 濱野靖代 1 目次 1、はじめに 2、牛肉のトレーサビリティ制度の概要 3、アンケートの分析方法 4、アンケート調査概要 5、結果と考察 6、結論と今後の課題 2 1、はじめに 3 はじめに 2001年9月国内でBSE(牛海綿状脳症)牛確認 平成14年1月 雪印食品の牛肉偽装 平成19年6月 ミートホープの牛肉偽装事件 「牛肉の個体識別のための情報の管理および伝達(トレーサビ リティ制度)に関する特別処置法」平成15年法施行 ※流通段階に至る法施行 平成16年12月 (と畜・解体から店頭販売まで) トレーサビリティ制度導入対し消費者が許容する追加的な支払 意志額(WTP)を求め、消費者の個人属性(牛肉購買行動や制 度の認識含む)がWTPに与える影響を明らかにする。 4 2、牛肉のトレーサビリティ 制度の概要 5 牛肉のトレーサビリティ制度の概要 内容 個体識別番号(10桁)により生産、処理・加工、 流通・販売のフードチェーンの各段階で、食品 とその情報の管理、追跡遡及を可能にする。 目的 ①正確な牛の情報伝達→安心材料→牛肉の需要増加 ②食品事故が発生した場合にもその製品の迅速な回 収や原因究明を容易にする。 (リスク管理) 6 牛肉のトレーサビリティ制度の概要 (独)家畜改良センターHP http//www.nlbc.go.jp/ 7 牛肉のトレーサビリティ制度の概要 トレーサビリティ制度の情報の流れ 生産者 個体識別番号 生年月日・品種 生産者・出生地 生産方法 など と畜場 と畜年月日 と畜場所 枝肉番号 BSE検査結 果 など 流通業者 小売店への 情報提供に 必要な方法 を取得 小売業者 店頭販売時 に必要な 情報を取得 消費者 店頭や自宅 で生産・流 通情報を調 べることが できる 牛肉に関する情報(牛個体識別台帳)を貯えるシステム(独)家畜改良センター 8 澤田 学編著 食品安全性の経済評価より 3、アンケートの分析方法 9 環境経済評価 代替費用法 選好独立アプローチ 回避支出法 用量反応法 選好依存アプローチ 顕示選好法(RP) ヘドニック法(HPM) トラベルコスト法(TCM) 表明選好法(SP) 仮想評価法(CVM) コンジョイント法(CA) 10 仮想評価法(CVM) 仮想評価法(contingent valuation method:CVM) 食品安全や環境改善に対するWTP(支払意志額)や環境悪化に 対するWTA(受け入れ補償額)を直接人々に質問することにより、 環境の価値を直接導く手法。 メリット 食品安全性、生態系や環境の価値など非利用・非市場財の価値ま であらゆる環境サービスを直接アンケートで尋ねることで計測可能 。 デメリット アンケート調査の結果のゆがみ(バイアス)が生じる。 評価結果の信頼性低下の恐れ。 11 仮想評価法(CVM) 質問形式 自由回答形式、付け値ゲーム形式、支払いカード形式、 二肢選択形式、二段階二肢選択形式がある。 手順 1、人々のトレーサビリティに対するWTAを引き出すため のアンケート調査票を作成し、調査の実施、データ収集。 2、データを用いて、WTP分布推定。 3、WTPの平均値、および中央値を計算。 4、E-viewsを用いてCVMの関数推定。結果の信頼性を 明らかにする。 12 4、アンケート調査概要 13 アンケート調査 実施日時・場所 11月6日(金)スターグリーンヒル店 11月8日(日)セブンイレブン草津南笠町店 立命館大(学生) 方式 一対一の面接方式 サンプル総数 65 14 アンケート調査質問内容 問1 普段どのような牛肉を購入するか。(国産、米国産、豪州産など) 問2 普段購入される牛肉の価格(円/100g)。 問3 牛肉を選ぶときどのような点をどのぐらい重視するか (価格、産地銘柄、霜降り・赤身具合について5段階評価)。 問4 BSE(牛海綿状脳症)問題にどれくらい関心を持っているか。 問5 牛肉のトレーサビリティ(生産履歴追跡)制度を知っているか。 問6 実際インターネットで個体識別番号を調べたことがあるか。 問7 トレーサビリティが保障されていない商品の産地などの情報の 信頼度 (5段階評価)。 問8 トレーサビリティ保障商品に対する追加的な支払い額(円/100g)。 問9 消費者が望ましいと思う新しいトレーサビリティ制度。 問10~15 属性に関する質問。 15 5、結果と考察 16 回答者属性 女性が圧倒的である。 大学生と中高校生や大学生 の子を持つ40、50代の親 が比較的多いという結果。 17 回答者属性 正規雇用者(会社員、公務員など)半数近く 年収は無回答が多かったが、500~700万円平均 18 普段購入される牛肉 産地銘柄関係なしの国産牛200~300円/100g 19 普段購入される牛肉 BSEを問題視する消費者が ほとんどである。ブランド牛より より国産であることを重視している。 20 普段購入される牛肉 国産表示の商品にこだわる消費者。しかし相次ぐ 食品偽装問題などで情報(産地)の信頼度は低下 の傾向!! 21 牛肉のトレーサビリティ制度の認知度 制度について聞いた ことはあっても、調べたこと はない人が圧倒的であっ た。 22 牛肉のトレーサビリティ制度の認知度 41~50歳代以上になるとインターネットを利用しない 割合が全体の大部分を占めている傾向がある。 23 CVMによるWTPの分析(質問内容) アンケート内のCVM質問内容 トレーサビリティシステムは人の手によって牛肉現品とその生産流通ルートのデータを対応させて記録 されているため、データ記録のために現品管理のコストやデータ改ざん防止のための抜き打ち調査コス トなどが必要となり、商品価格の高騰につながります。 この状況を踏まえた上でお尋ねします。トレーサビリティが保障されていない牛肉と、保障されている牛 肉があるとき、あなたは、追加的な値上がりがいくらまでだったら、トレーサビリティが保障されている商 品を購入しますか。問2でお答えいただいた普段買われている牛肉100g当たりの価格をベースにお答 えください。 ① 追加的な値上がりが( 円/100g)までならトレーサビリティ商品を購入する。 ② 価格が上がるのであればトレーサビリティが保障されていない商品を購入する。 24 CVMによるWTPの分析(結果) WTP平均値と中央値 平均値 中央値 72.3円 50円 牛肉のトレーサビリティに対する消費者の価値は 平均72.3円/100g,中央値50円/100g 25 WTPの関数推定 トービットモデル(センサー(検閲)された正規モデル) yi 0の場合 β i x i ui WT P yi ≦ 0の場合 0 β i :係数 x i :説明変数 ui :誤差項 yi :WTP 線形回帰モデル( yi = βi xi ui ) yi = βi xi ui では実際データに存在する WTP =0の観 測値は除外されてしまう。 つまり βi xi ui >0の観測値だ けが含まれていることになる。 26 WTPの関数推定 説明変数の一覧 変数 内容 定義 BEEF 国産牛肉の購入状況 国産=1、それ以外=0 INTEREST BSE問題の関心度 KNOW トレーサビリティの認知度 よく知っている=3、言葉は聞いたことがある=2 言葉も聞いたことがない=1 TRAST トレーサビリティの保障外 の商品表示の信頼度 完全に信頼=5、まあ信頼する=4、どちらでもない=3 あまり信頼しない=2、全く信頼しない=1 GENDER 性別 女性=1、男性=2 JOB 職業 正規雇用(会社員・公務員など)=1、非正規(年金・学生)=2 INCOME 所得 400万以下=1、401~600万=2、601~800万=3、 801~1000万=4、1001~1200万=5、1201~1400万=6、 1401~1600万=7、1601~1800万=8、1800万以上=9 CHILD 12歳以下の子供 いる=1、いない=0 INTERNET インターネット使用頻度 非常に関心がある=3、少し関心あり=2、関心なし=1 利用しない=1、月1~2回=2、週1~2回=3、2日に1回=4 週に4~5日=5、ほぼ毎日利用=6 27 WTP関数推定結果 計測 E-views5.1 以下のWTP付値関数はその説明変数の中からAICとp 値のあてはまりのよい変数を採用 変数 係数統計値 t統計値 p値 BEEF(普段牛) 67.526 1.471 0.1414 TRUST (信頼度) -40.225 -3.006*** 0.0026 AGE(年齢) 26.518 2.523** 0.0116 INCOME (所得) 14.886 1.671* 0.0947 *10%水準で有意、**5%水準で有意、***1%水準で有意。 28 結果の考察 個人属性がWTPに与える影響 ・より国産牛肉を好んで買う消費者ほどWTPが大きい。 ・年齢や所得の高い消費者ほどトレーサビリティに対する WTPが大きい。 ・実際のパック表示の情報の信頼度が低い消費者ほど WTPが大きい。 ↓ ・トレーサビリティ保障外の商品情報に対して信頼が高ま ればこの制度の価値は小さくなる。 29 6、結論と今後の課題 30 結論 WTP推計 平均72.3円/100g 中央値50円/100g 個人属性がWTPに与える影響と考察 ・より国産牛肉を好んで買う消費者ほどWTPが大きい。 ・年齢や所得の高い消費者ほどトレーサビリティに対する WTPが大きい。 ・トレーサビリティ制度保障外のパック表示の情報信頼度が 高まれば消費者の制度に対するWTPは小さくなる。 31 今後の課題 問題点 ・トレーサビリティ制度を聞いたことが ある消費者は52%である一方で実際 調べたことがあるのはたったの5%。 ・インターネットの使用は大学生を除く 一般の消費者(特に40代以上)は利 用しないという回答が多い。 WTPからトレーサビリティ制度に対し消費者は一 定の価値があると判断、しかし開示方法に問題。 32 今後の課題 改善の方向性 インターネットでの情報開示の 見直しの必要性がある。 83%の消費者が望むパッケー ジに信頼のおける豊富な情報 を表示する取り組みへ。 消費者の望む情報開示を行うことでよりトレーサビリティ 制度に対する消費者価値は高まりうる。 33 終 ご清聴ありがとうございました
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