制度変革期における産学連携の 実証研究:東京大学教員に対する 質問票調査の結果の分析 第5回産学連携推進会議 2006年6月 馬場靖憲(東京大学先端科学技術研究センター) 矢崎敬人(工学院大学グローバルエンジニアリング学部) はじめに • 日本の大学を取り巻く環境は1990年代終盤 から2000年代半ばにかけて大きく変化した。 • 工学系、医薬系の大学教員の研究活動と産 業との協力関係の実態と、制度変革期を通じ た変化を探るために、東京大学(全数)、他大 学(サンプル)の工学系、医薬系教員に対し て質問票調査を行った。 • 本日は、このうち東京大学教員を対象とした 調査の結果から報告する。 データ • 対象:工学系、医薬系の教授、助教授(特任含む)。 – 工学系:工学系研究科、先端研、生産研、人工物工学研 究センター。2003年度秋~春に実施。 – 医薬系:医学研究科、薬学研究科、医科研。2004年度に 実施。 – 715名に送付し、402名から回答を得た(回答率56%)。 • 教員による論文公刊についてのデータはISI Web of Science データベースのデータで補完した。 他機関の研究者たちとの研究上の協力関 係(1998,2003) 協力関係を持っている(%) 0 10 20 30 40 50 60 70 90 85 国内大学 74 66 国内の国公立試験研究機関 55 79 国内大企業 65 51 国内中小企業 30 65 外国大学 外国企業 80 54 15 15 2003 1998 他機関の研究者たちとの研究上の協力関 係,研究分野ごとの集計(2003) 協力関係を持っている(%) 0 20 40 60 80 85 84 88 85 国内大学 国内の国公立試験研究機関 75 79 65 54 国内大企業 74 38 41 国内中小企業 外国大学 外国企業 100 47 60 59 61 8 7 67 71 15 17 電気・電子工学,機械工学(N=97) 情報工学(N=16) 材料工学,化学工学(N=31) バイオ系(N=97) 86 81 83 協力相手別の協力関係の効果 協力の効果として重要(%) 0 10 20 30 40 13 12 国内大学 16 国内の国公立試験研究機関 26 28 13 36 31 33 51 31 17 24 32 国内中小企業 9 23 外国大学 4 4 研究資金の獲得 研究達成の早期化 39 26 37 26 27 外国企業 60 45 31 国内大企業 50 12 54 32 20 設備・機器の利用 55 人材の活用 情報の獲得 国内大企業との協力の効果,研究分野ご との集計 協力の効果として重要(%) 0 10 20 30 研究資金の獲得 31 25 研究達成の早期化 設備・機器の利用 人材の活用 40 4 32 50 60 48 48 59 50 49 7 13 6 8 20 12 情報の獲得 電気・電子工学,機械工学 31 16 24 25 33 材料工学,化学工学 情報工学 バイオ系 70 国内中小企業との協力の効果,研究分野 ごとの集計 協力の効果として重要(%) 0 10 20 17 研究資金の獲得 30 40 50 22 53 50 研究達成の早期化 44 設備・機器の利用 56 11 22 18 25 人材の活用 情報の獲得 電気・電子工学,機械工学 17 70 64 34 0 0 60 33 44 21 22 33 材料工学,化学工学 情報工学 バイオ系 研究者による商業的活動等,研究分野ご との集計(1998,2003) 該当する(%) 0 20 40 特許の共同出願('03) 特許の共同出願('98) 特許技術に基づく新製品開発 特許技術に基づく製造工程改善 TLOを経由したライセンス供与('03) TLOを経由しないライセンス供与('03) TLOを経由しないライセンス供与('98) (回答者自身の)ライセンス収入 30 33 30 27 23 29 60 44 41 39 47 60 12 8 8 3 6 13 6 17 14 20 12 13 10 20 7 15 12 78 18 77 73 78 寄附金の受け入れ('98) 論文の共著('03) 電気・電子工学,機械工学 33 材料工学,化学工学 48 46 100 65 寄附金の受け入れ('03) 論文の共著('98) 80 68 68 60 59 63 72 54 63 58 情報工学 バイオ系 88 スター研究者とそれ以外:論文公刊活動と 企業等との協力関係(1998,2003) 研究上の協力関係がある(%) 0 20 40 60 80 85 国内大学('98) 72 86 国内大企業('98) 国内中小企業('98) 66 47 28 90 国内大学('03) 85 90 国内大企業('03) 国内中小企業('03) 100 80 63 50 過去10年間の平均年間論文公刊数上位10%の研究者 それ以外の研究者 スター研究者とそれ以外:研究者による商 業的活動等(1998,2003) 該当する(%) 0 20 40 60 特許出願 これまでの特許出願件数(実数) 8 16 81 36 76 22 33 8 10 19 TLOを経由しないライセンス供与('03) (回答者自身の)ライセンス収入 58 24 特許の共同出願('98) TLOを経由しないライセンス供与('98) 100 15 3 特許の共同出願('03) TLOを経由したライセンス供与('03) 24 6 11 10 寄附金の受け入れ('03) 100 80 寄附金の受け入れ('98) 63 論文の共著('03) 64 論文の共著('98) 100 61 特許技術に基づく新製品開発 特許技術に基づく製造工程改善 80 45 過去10年間の平均年間論文公刊数上位10%の研究者 86 81 71 それ以外の研究者 スター研究者とそれ以外:特許出願の理由 5段階スケールで「重要」または「極めて重要」(%) 0 10 20 30 40 協力企業の要請 大学の要請 研究実績の大学・資金提供機関への表示 60 42 7 90 16 14 21 21 54 67 42 学術面での評価 20 51 33 45 42 研究資金の確保 ライセンシング 80 55 発明者としてのプライオリティー確保 新製品開発 70 60 40 研究の自由の確保 新会社設立 50 25 28 過去10年間の平均年間論文公刊数上位10%の研究者 それ以外の研究者 83 研究活動の変化(1998-2003) 5段階スケールで「増加」または「大きく増加」(%) 0 20 40 60 57 プロジェクト選択における商用化可能性の考慮 26 商業化の考慮のための成果の公刊の遅延 進行中の研究をグループ外と議論しないこと 6 他者に資試料の提供を拒絶された割合 5 他者からの資試料の依頼を拒絶した割合 3 他者保有の特許のために研究を停止したこと 3 80 100 結語 • 「制度化された技術移転の促進」という制度変革の 目的は一定程度達せられている。 • 中小企業との関係が拡大していることは注目に値 する。 • ただし、制度変革による新しい制度化された産学連 携の役割は、以前からの制度化されていないイン フォーマルな形を取る技術移転を置き換えるものと はなっていない。 • 制度変革がオープンさをもっとも重要な特徴とする パブリック・サイエンスや教育のあり方に与えている 影響についてはより詳細な分析を必要とする。 文献 • 詳細については下記を参照のこと。 – 馬場靖憲、J.P. Walsh、矢﨑敬人、鈴木潤、後藤 晃(2005)「制度変革期における産学連携:東京 大学教官への質問票調査の結果」『科学』75 (10)、1199-1203ページ。 – 馬場靖憲、後藤晃(編著)『産学連携の実証研 究』東京大学出版会、2006年出版予定.
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