スライド 1 - 日本大学工学部:建築学科

産学技術移転
~死の谷を如何に乗り越えるか~
2006年10月25日
九州大学ビジネススクール助教授
九州大学知的財産本部技術移転Gr.リーダー
高田 仁
[email protected]
産学技術移転活性化の背景
プロパテント政策と産業振興
• なぜプロパテントか?(アメリカ経済の力強さ)
– 80年代前半までの米国産業競争力の低下(自動車、エレ
クトロニクスなど、特に日本の存在が脅威に)
– レーガン政権時にプロパテントへ方向転換
• CAFC(連邦控訴巡回裁判所)設立(‘82)
• ヤング・レポート(‘85)
• GATTウルグアイラウンドの交渉に知的財産権を持ち込む(‘86)
• 大学の知財マネジメントと産業振興への影響
– バイ・ドール法により政府R&D成果が大学に帰属(‘80)
– 大学毎にTLOによる知財マネジメントが進む
– 大学による技術移転は右肩上がり
バイ・ドール法
• 1980年に成立
• 連邦政府の研究助成によって得られた発明を大学
に帰属させ、技術の普及を促進させる
⇒大学による知財の組織管理
• 得られた収入は、a)発明者個人へのインセンティブ、
b)大学の研究教育費、として還元
• 現在、平均ライセンス収入は、大学の総研究費の約
4%程度
• 収入以外に、有形・無形のメリットが多い
• 納税者への説明責任
• 研究者の知財意識の向上
• 教育的効果
・・・・・等々
米国の大学の技術移転
• 米国の技術移転は右肩上がりに成長(2003年)
–
–
–
–
–
7,921件の特許出願、3,933件の特許登録
4,516件の新規ライセンス契約(総計25,979件)
1,310億ドルのライセンス収入(151件は$1MM以上の収入)
374社の大学発ベンチャー
472の新製品
ライセンス収入(億ドル)
14
12
10
8
6
4
2
0
12.63
12.67
10.71
8.62
1.86
91
2.48 3.23
92
93
3.6
94
4.24
95
5.14
96
6.11
97
7.25
98
99
00
01
02
AUTM annual survey、2003年
技術移転の専門家集団:AUTMとは
• AUTM;Association of University Technology
Managers
• 設立:1975年(NPO)
• 会員数:約3,000名
• 会員の横顔:大学関連46%、企業16%、法律特許
関連10%、政府関連5%、その他、知的財産とライ
センスに関する専門家
• 活動内容:
–
–
–
–
①メンバー間での教育・研修機会の提供
②ネットワーキング
③新事業・R&D・ライセンス・知財の最新動向の把握
④ジャーナル発行、・・・・等
大学の技術移転の特徴
• カリフォルニア大学の総ロイヤリティ収入:$67M
• カリフォルニア大学における発明収益のTOP5
–
–
–
–
–
Hepatitis-B Vaccine (SF, ‘79&’81)
Intracranial Aneurysms Treatment (LA, ‘89)
Camarosa Strewberry (DA, ’92)
Dynamic Skin Cooling Device (IR, ’93)
Interstitial Cystitis Therapy (SD, ‘80)
$20.6M
$7.3M
$3.0M
$2.9M
$2.9M
• 上記TOP5が全ロイヤリティ収入に占める割合:55%
• 収入上位25件のうちライフサイエンス分野:21件
(出所:UC OTT annual report ’03)
TLOと知財本部の設立
• 知財本部・・・・全43大学
• 承認TLO・・・・・全41機関(2006.2現在)
• 国立大学等の93%、公立大学等の25%が知財
を原則機関帰属・組織管理へ
• 国立大学等の国内特許出願は7.6倍、特許実施
件数は3.8倍、実施料収入は1.7倍に増加
(2002年からの3年間)
→大学が知財創出の核として本格的に稼働
九州大学の産学官連携活動
• 活動は着実に進展
共同研究
2000
2001
2002
2003
2004
2005
115
149
193
243
(4)
350
(21)
388
(32)
( ) ------うち組織対応型共同研究
大学発
ベンチャー
特許出願
技術移転
2000
2001
2002
2003
2004
2005
3
3
4
1
7
5
2000
2001
2002
2003
2004
2005
38
73
68
86
100
167
2000
2001
2002
2003
2004
2005
1
6
5
23
40
39
(+44)
(+66)
(
) ------不実施条項付の企業共願件数
大学の技術移転のゴール
• 大学で生まれた研究成果を、出来る限り早く、
そして広く社会に普及させる
• そのために、事業化のパートナー企業を探し、
良好な関係を構築することによって技術を移
転する
※大学の技術移転は、単なるモノの売り買いで
はない。結婚のようなもの。
発明開示~実用化までの流れ
発明開示
・研究者からの
開示
・アソシエイトの発掘
・面白そうなプロ
ジェクトを常に探
して注目
特許出願 マーケティング
評 価
開 発
・契約=
結婚生活
の始まり
・対象分野に強
い弁理士事務
所に委託
・コストとの戦い
・特許性
(先行特許、先
行技術の調査)
・市場性
(既存技術、プレ
マーケ)
ライセンス
契約
・“売る”のでは
なく、“パート
ナー探し”
・能力・熱意・コ
ミットメント
・時間との戦い
・コンサルティングや
共同研究で開
発を支援
実用化
成 功
発明の開示(1)
• ライセンス・アソシエイトからの働きかけが不可欠
– 発明の見極めは困難(仮に学内発明規定があっても届け
出ないことも)
– 忙しい、面倒、良くわからない
→ 特許はいつも後回し…
• 研究者の知財意識
– 研究者の知財意識は徐々に向上
– 最初は失敗が多い(公知、30条適用不可、…)
– 直接、自らの案件で経験することが重要
※ライセンス・アソシエイト・・・技術移転の専門家
発明の開示(2)
• 新規性・進歩性の見極め
– 従来技術の到達点は?その課題は?
– 未発表の部分は?
– 今回の発明はどこが優位なのか?
• 事業化のイメージ
– 結局、何に使えるのか?
• 手続き上の確認点
– どのような研究資金を用いたか?
– 真の発明者は?
– 近々の発表予定は?
出願すべきかどうかの判断
• 先行特許の有無、特許性
• 既存製品や技術の特徴、市場規模(各種データ
ベースやweb情報から)
• 既存製品や技術に対する優位性
• プレマーケティング(企業担当者に直接聞く)
出願
• その分野に強い弁理士さんに委託
• 通常、まずは国内出願、場合によっては米国仮出願
• “弁理士さん泣かせ“
=「再来週に学会発表なんです・・」
出願戦略
• 最小限のコストで、ライセンスの可能性を最大化
• 緊急の場合は、米国仮出願の利用も
• マーケティングを通じた技術の評価が最も重要
First file
in JP
PCT
12 months
Marketing
File in
each country
Issue &
maintain
18 months
Marketing
Low possibility
of licensing
Give up
Low possibility
of licensing
Give up
大学全体の出願コスト試算(例)
出願関連費用シミュレーション
1年目
国内出願
(100件/年)
@40万円
40,000
PCT出願
(20件/年)
@70万円
2年目
3年目
4年目
5年目
6年目
7年目
8年目
9年目
40,000
40,000
40,000
40,000
40,000
40,000
40,000
40,000
40,000
14,000
14,000
14,000
14,000
14,000
14,000
14,000
14,000
14,000
15,000
15,000
15,000
15,000
15,000
15,000
15,000
15,000
15,000
15,000
15,000
15,000
15,000
15,000
各国移行初期
(5件/年)
@300万円(US,EP)
各国移行分の権利化
(5件/年)
@300万円
国内審査請求・権利
化(20件/年)
@50万円
合
計
40,000
54,000
10年目
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
79,000
79,000
94,000
94,000
94,000
94,000
94,000
94,000
→定常的に、最低でも約1億円/年が必要
マーケティング準備
• ①発明者情報、②特許情報、③その他企業情報、
を収集
–
–
–
–
競合製品の情報
市場規模、シェア
各社の製品の特徴or開発動向
公開特許情報
• ツール
– インターネット
– 外部専門家
– 他のTLO(USが多い)
• ポテンシャルライセンシーを選定
マーケティング(1)
• ファーストコンタクトの相手が重要
– 企業内で意思決定権を持つ人
– 知財/法務部よりも新規事業系の部署
– まずは電話・メールでアポとり(会社の代表電話から
攻めることも・・)
• 最初のプレゼン
–
–
–
–
簡潔なもの(A4×1枚以内)
関連する論文や概説など(公知のもの)
守秘情報なし(ノン・コンフィデンシャル)で
2週間程度で先に進むかジャッジをもらう
マーケティング(2)
• さらに情報開示&本格検討
– 守秘契約(NDA)ベースで情報開示
– 発明者とのミーティングをセット
– 特許情報開示(実施例など、一部)
– 企業がどんな実用化を考えているか引き出す
(対象とするマーケット、そのサイズや拡張性、開発
期間、開発投資額など=条件ネゴの際に必要)
ネゴシエーション&ライセンス
• 企業側の思惑、こちら希望等を勘案し、条件を提示
• 良くあるパタン
– 1回目(ラフに“このくらい”)、2回目(タームシート提示)、3
回目以降(ネゴネゴ・・・)
• タームシートレベルでおよそ合意ができたら契約書
に落としこんで、更に詳細を詰める
• 祝・契約!(契約は結婚生活の始まり)
ライセンスアソシエイト
(お見合いのおばちゃん)の素質
1. 軽いフットワーク
2. 良い面をうまく伝えられる(この子は非常に気立てい
い子で・・・)
3. 双方から嫌われないキャラクタ-
4. 適度なお節介
5. 情報収集能力(あそこの妹さんが今度短大を出た)
6. 頼りになる専門知識(どこの結婚式場がいいよ!)
7. 何よりも、この仕事が好き
(資料:リクルート テクノロジー・マネジメント・ディビジョン)
求められる専門人材像
法務
知財
マーケッ
ティング
事業
開発
『仕切り屋』 ⇔
『情報通』
⇔
『迅 速』
⇔
『柔 軟』
⇔
『個人プレー』 ⇔
R&D
マネジ
技術
科学
『聞き役』
『ムダ情報の切り捨て』
『気 長』
『芯がぶれない』
『チームワーク』
価値観 目標設定 俯瞰力 異文化寛容
コミュニケーション力 フットワーク 信頼感
専門知識
キャラクター
基礎
人間力
如何にしてギャップを越えるか?
(欧州の公的な産学連携機関の事例)
①技術移転を進めるために、大学と企業だけでなく、その間に
TNOやIMECのような第三の機関があり、「死の谷」を乗り越
える仕組みをしっかりと構築している。
②このような機関は、予算の1/2~2/3を民間からの業務
委託で稼いでいる。
③国や地方政府が、このような産学連携機関の必要性や位置
づけを明確にして、しっかりとサポートしている。
官
死の谷
学
第三の産学
連携機関
(TNO、FhG、IMEC)
産
ケース
技術の概要:
• 工学部A教授の発明。超微細組織を持つ金属材料
の連続製造方法。
• 塑性加工性と強度に優れるので、自動車や航空機、
モバイル機器の軽量化に貢献できる。
• 学会や新聞で発表したところ、複数の企業(自動車
会社、自動車部品会社、航空機会社、医療機器会
社)から共同開発の依頼が来ている。
ライセンス先は?
•
•
•
•
•
•
自動車(製造)会社?
自動車部品会社?
航空機(製造)会社?
医療機器会社?
大手? 中小? ベンチャー?
その他は?
ライセンス先の選定(1)
(最終メーカー or 部品メーカー)
最終メーカー
メリット
デメリット
部品メーカー
ライセンス先の選定(2)
(業界トップ or 2位以下)
業界トップ
メリット
デメリット
業界2位以下
その他、ライセンス先選定の際の留意点
• 技術の補完性(シナジー)
– タテ展開、ヨコ展開
• 事業計画のリアル度
–
–
–
–
人的・財政的資源投入の担保
想定マーケット(内容、サイズ)
開発期間
リスクファクター
• 企業トップ層も含めた事業化意欲
• そもそもの企業風土
• その他
まとめ
• 技術の評価は事業の評価
• 間に立つ人(アソシエイト)の質が重要
• ギャップを埋める仕組みの工夫
• 移転先企業を見極める
『九州大学COE大学改革』
• 日経BPが取材、出版
• 九大のCOEのうち4プロ
ジェクトを紹介
–
–
–
–
ユーザーサイエンス機構
水素キャンパス
システムLSI
分子情報科学
(未来化学創造センター)
BBIQ モーニングビジネススクール
http://bbiq-mbs.jp/blog/
KBCラジオ
朝8:10頃~
約10分間
ブログあり