原子力発電の仕組みと役割 平成21年11月26日 富士常葉大学「地球の資源」 原子力エネルギー① 金 氏 顯 (かねうじ あきら) 原子力有識者、三菱重工・特別顧問 1 自己紹介 名前:金氏 顕(かねうじ あきら) ・1944年生まれ、九州で大学まで過ごす。 ・1968年大学院機械工学修士卒、三菱重工業入社 ・原子力発電所(PWR型)初号機の関西電力美浜原子力発電所2号機の設 計担当、以来多くの原子力発電の設計,建設、保守、開発等に従事 ・1999年同社取締役神戸造船所長、2001年常務機械事業本部長 ・2004年役員退任、特別顧問 ・2006年原子力学会シニアネットワーク設立、代表幹事 ・2007年経産省「原子力有識者」 ・2008年日本女子大、福井工大など非常勤講師 趣味:登山(日本百名山終了、富士山には6回、海外登山も)、尺八、テニス など。 2 内 容 1.エネルギー資源問題と新エネルギーの可能性 2.原子力発電の仕組み 3.原子力発電の役割 4.原子力開発の現状、そして将来 3 第1章 エネルギー資源問題と 新エネルギーの可能性 4 世界の一次エネルギー消費の現状と将来予測 世界の一次エネルギーの88% は石油、石炭、天然ガスなどの 化石燃料 今後中国、インドなどアジア、アフ リカ諸国が人口増大、生活向上/ 経済成長しエネルギー消費は膨 大に増加 世界的にエネルギー危機、資源争奪となる! (参考)国際エネルギー機関(IEA)予想、2030年190ドル/バレル 5 石油はいつまで供給できるか? 発見埋蔵量 消費量 天然ガス 石油 1980年まで:発見油量>消費油量 1980年以降:発見油量<消費油量 現在、発見される埋蔵量の4倍以上の消費 ⇒過去の発見埋蔵量を食い潰し危機的状況 ピークオイル は近い! 安くて豊富な 化石燃料時代 の終焉 6 我が国のエネルギー自給率は先進国中で最も低い 我が国はエネルギー資源のほ ぼ全てを輸入しており、その安 定な確保は国家存続の基盤 ⇒エネルギー安全保障 原油の85%は政情不安国、 航路危険な中東から輸入 8 原油輸送のシーレーン 071029 OGAWA エネルギー問題・温暖化問題の解決 地球温暖化問題 オイルピーク オイルピーク エネルギー 安全保障 3つの問題を同時に解決できる有効な手段 ☆エネルギーの節約(省エネ) ☆エネルギー利用効率向上 ☆化石燃料に代わるエネルギー源 新エネルギー 原子力エネルギー 低炭素社会 へ 10 様々な新エネルギー 太陽光 バイオ 風力 水力 地熱 11 太陽光・風力発電の可能性ー1 太陽光は天候と時間の影響大で平均10%程度しか発電できない 風力は風況に左右され平均20%程度しか発電できない ⇒電気を蓄える電池か、代替電源(火力発電)、スマートグリット(次 世代送電網)が必要⇒電気料金負担が膨大となる。 12 太陽光、風力発電の可能性-2 発電に要する土地面積、設備投資額が原子力に比べ膨大 ~1.6km2 13 【出典:資源エネルギー-HP】 バイオマスエネルギーの可能性 穀物や木材などの植物(バイオマス)は炭酸同化作用により二酸化炭素を炭素とし て固定、それを燃焼させると二酸化炭素が発生するが、空気中の二酸化炭素の 増減はない。 しかし、、、 ◆現在のバイオエタノール生産0.5億トン(注1)(米国、ブラジル他) (注1)石油換算トン ⇒世界全体のエネル ギー(100億トン)の わずか0.5% ◆現在のバイオエタノールは穀物(トウモロコシ、小麦、サトウキビ)から生産 ●穀物生産は肥料、機械、輸送など石油に大きく依存 ●食糧高騰、森林伐採などの問題 ⇒穀物原料のバイオエタノールは好ましくない ⇒建築廃材、林業間伐材、生ごみ、家畜糞尿などから生産するのが好 ましいが、原料が少なく、収集に問題あり。 14 水力発電の可能性 1.水力発電は、発電により二酸化炭素を排出せず(クリーン)、再生可能エ ネルギーであり、純国産エネルギー。 2.我が国の水力発電は明治時代から開発され、大正、昭和そして高度経済 成長の初期に全国各地の河川を開発、戦後間もなくまでは電力の主たる位 置(水主火従)。 3.現在では大規模水力に適した地点の開発はほぼ終了し、中小規模の開 発が中心。 (狩宿発電所 : 環境に配慮した新しい中小水力) (佐久間発電所 佐久間ダム : 大規模水力開発の先駆け) 15 地熱発電の可能性 現状 日本は火山国、 地熱発電には 有利 日本の地熱発電は全国18箇所、20プラント、 最大出力53.4万KWe、全電力の0.3%、風 力+太陽光発電と同等。 経産省 支援強化 開発・発電施設費補助:2割⇒3分の1 有望な未開発 地域29箇所、 約247万KW。 経産省試算 2020年 120万kWe 2030年 190万kWe 自然公園の景観問題、温泉 業者の反対などで開発は容 易ではない。 16 我が国の新エネルギー導入実績と目標 太陽光発電と風力発 電は1%以下 (上限ケース) 17 【出典:総合資源エネルギー調査会総合部会/需給部会報告書(2001年7月) 総合資源エネルギー調査会総合部会/需給部会中間とりまとめ(2004年10月)】 第2章 原子力発電の仕組み 18 原子力発電の原理(1) 化学エネルギーと原子力エネルギーの比較 石炭 石油 天然ガス C + O2 → CO2 + 熱エネルギー 熱エネルギ - 中性子 内部エネルギーが 熱エネル 中性子 ギー 大きくなり変形した ウラン236 核分裂生成物(FP) ウラン 熱エネル ギー FP ウラン235 酸素によって 燃焼してエネ ルギーが発生 核分裂によって エネルギーが発 生 中性子 中性子 核分裂 原子力発電所の燃料として使われる ウラン燃料(ウラン235)1gが完全に 核分裂すると,石油2,000ℓに相当 する熱エネルギーを出します。 ウラン235 1グラム 石油2,000ℓ 原子爆弾は核分裂を起 こすウラン235の割合が ほぼ100%、原子力発電 用のウラン燃料は3~ 5%程度。このため、原 子力発電の燃料は核分 裂の制御が可能で、原 子爆弾のような核爆発 を起こすことはない。 19 世界のウラン資源埋蔵量 世界に広く分布し、政情安定な国々 20 原子力発電の原理(2) 原子力発電と火力発電の違い 蒸気を作る熱源として化石燃 料の燃焼によるか、ウランの核 分裂によるかの違い。 21 原子力発電の代表的型式 PWR(Pressurized Water Reactor) 加圧水型軽水炉 格納容器 BWR(Boiling Water Reactor) 沸騰水型軽水炉 格納容器 加圧器 蒸気発生器 主蒸気(放射性) 主蒸気(非放射性) 制御棒 水(非放射性) タービン 発電機 原子炉 圧力容器 水(放射性) タービン 発電機 燃料 燃料 制御棒 復水器 原子炉 容器 一次冷却材ポンプ 復水器 再循環ポンプ 冷水(海水) 海水 水 給水ポンプ 給水ポンプ 温度 循環水ポンプ 圧力抑制プール 循環水ポンプ 圧力 ℃ MPa BWR 287 7.2 PWR 325 15.4 送電線 変圧器 送電線 22 原子炉の基本構成 ◆原子燃料(核燃料とも言う):ウラン235を3~5%に濃縮したも のを使用(注)天然ウランには核分裂するウラン235は僅か 0.7%しか含まれてない。 ◆減速材:中性子を高速から低速に減速するもの。 軽水炉では水を使用。 ◆冷却材:核分裂で発生した熱を燃料から吸収して冷却すると ともに、その熱により蒸気を発生してタービンを回転し、電気を 起こす役割をするもの。軽水炉では水を使用。 ◆制御材:中性子を吸収することにより、燃料の核分裂を制御 するもの。軽水炉では炭化ホウ素、銀、カドミウムなど色々な 材料を使用。 23 原子燃料の構造(PWR) 17×17型 燃料集合体 ペレット 端栓 燃料被覆管 この中で核 分裂し熱を 発生 スプリング 上部ノズル 4.06m コイルばね 燃料棒 支持格子 (グリッド) 9.5㎜ 制御棒案内管 (シンブル) 炉内計装用 案内管 ペレット 原子燃料 ペレット 端栓 下部ノズル 燃料棒 約4年間エネルギーを出し続ける! 燃料集合体 24 制御棒クラスター 被覆管:ステンレス鋼 制御材(中性子吸収材): 銀・インジウム・カドミウム ボロンカーバイト 25 5重の壁で放射能が閉じ込められている ⑤原子炉建屋 ④格納容器 蒸気発生器 制御棒 ③原子炉 ②原子燃料 ①燃料ペレット (放射性物質) 26 原子力発電所の構成(PWR) タービン建屋 格納容器 蒸気タービン 発電機 燃料ピット 加圧器 蒸気発生器 原子炉容器 27 原子力発電の安全確保 1.原子力発電は厳重な環境審査で設置場所を厳選 2.周辺に放射線・放射能の漏洩を防止する安全の仕組 ①自己制御性:原子炉は自然にブレーキがかかる設計☆ ②放射能漏洩防止の5重の壁☆ ③多重防護の安全確保のしくみ 異常発生防止 ☆ ⇒異常拡大防止☆ ⇒周辺への放射能異常放出防止☆ ☆ソ連のチェルノブイリはこれら ④地震対策 に欠陥があった! 3.国が安全審査、工事認可 4.運転中も定期検査により遵守状況や健全性をチェック 5.運転員や保守員、検査員の教育・訓練、資格認定制度☆ 6.万一の故障やトラブル発生時の地方自治体・電力会社・医療施設等の緊 急体制、定期的に原子力総合防災訓練☆ 原子力発電所周辺の放射線量は 自然放射線やX線健診に比べ極めて低い 人工放射線と自然放射線は全く同じ 太古から放射線 は自然界にある 1人当たり 自然放射 線被曝は 2mSi 放射線は医療、 農業、工業に役 立っている 原子力発電所からの 放射線量は自然の 5%以下 人間の体内には 7000ベクレル の放射能を持っ ている 放射能、放射線を正しく理解して、 29 正しく怖がろう 第3章 原子力発電の役割 30 高速増殖炉リサイクル実 用化によるプルトニウム 利用によりウランの利用 年数は約2500年に。 海水中ウラ ン(3mg/t)の 回収が実用 化するとほ ぼ無尽蔵 31 発電コスト比較 (\/kWh) 70 経済産業省 総合資源エネルギー調査会総合部会 60~70 コスト小委員会(2003年) 最近の電気事業者試算例(2008年) 60 30 20.1 10~24 9.6 11.9 10 水 力 6.8 石 LNG 油 火 火 力 力 7.0 6.0 5.7 5.3 石 炭 火 力 原 子 力 耐用年数 : 40年 設備利用率 : 80%(水力45%) 燃料価格 : 石油 = 27.4 石炭 = 35.5 LNG = 2.8 ウラン= 10.1 10.7 20 0 原子力が最も安いエネルギー源である! 条件 (鉱石) 風 力 太 陽 光 2002年度平均 (コスト小委のベース) 90.7 $/バレル 76.5 $/トン 5.3 万円/トン 95.0 $/lbU308 2008年2月 (試算例のベース) 原子力: 再処理費用、再処理設備廃止費用、 高レベル廃棄物処理・処分費、廃炉等含む 32 各種電源別のCO2排出量の比較 原子力は火力の1/20~1/40、 太陽光発電の1/2 33 【出典:電力中央研究所報告書 他】 各種エネルギーの総合評価 原子力 石油 天然ガス 石炭 太陽光 風力等 バイオ 資源量 ◎ △ ○ △ △ 経済性 ◎ ○ ◎⇒○ △ △ 地 球 温暖化 ◎ △ ×⇒△ ◎ ◎ 社会の理解 △ ○ ○ ◎ ◎ 課 題 ・安全・安心と社 会理解 ・高レベル放射性 廃棄物処分場 ・耐震安全性 解決策 技術的解決と社 会への理解活動 資源に限界 ・石炭ガス化 ・CO2回収固 定化技術 ・発電効率向上 ・経済性・大規模 開発の限界 省エネ、エネル 技術開発で温 中小規模分散電 ギー効率向上 暖化影響軽減 源として拡大 34 第4章 原子力開発の現状と将来 35 主要国の発電量と原子力発電の割合 世界の電力の16%を原子力で供給 36 米、仏、日3カ国で全世界の56%、 イギリスより上の9カ国で82%。 37 世界は原子力ルネッサンス 現在:世界の31カ国で合計436基、372GWの原子力発電が運転中、世界の電 力の15%、一次エネルギーの6%を供給 1.原子力発電の安全性に対する信頼性が回復 2.エネルギー需要、特に電力需要が高まり、オイルピーク対策 (エネルギー安全保障)を重視 3.エネルギー資源価格が高騰、原子力発電の経済性向上 4.地球温暖化対策として大規模供給力の低炭素エネルギー源と して原子力を再評価 米国:30年ぶりに新設計画30基以上。 英国、スウェーデン、イタリア:脱原子力政策を破棄し、建設へ政策 変更、ドイツも政権連立変更により脱原子力政策見直しの方向 中国、インド:数10基の建設計画。 中東、東南アジア、南米など:原子力導入への動き活発 38 現在:370GW ⇒2030年には 発電割合 :最大810GW(2.2倍)9.0% :最小510GW(1.4倍)7.1% (前年より8%上方修正) 2008年末時点の建設中原発は44基 我が国の原子力発電技術を基に 政府並びに原子力産業企業が 協力・貢献 世界の原子力発電メーカーは、日立・GE(日米)、東芝・WH(日米)、 三菱重工、AREVA(仏)、ロシア、韓国重工など。 39 わが国の原子力発電所建設の動向 1次エネルギーの約40%は 電気エネルギー 約30年で51基建設 石油危機後は石 油を減らし、原 子力、石炭、天 然ガスを増加。 チェルノブイリ事故 TMI事故 石油危機 石油危機 原子力は極少量 で発電を継続で きることから国産 に準じたエネル ギー⇒自給率向 上に貢献。 原子力発電 40 我が国の原子力発電所 我が国の電力の 約33%を担っている もし原子力発電を石炭発電したら CO2約20%増加 41 我が国の建設中プラントは3基、 計画中も12基 建設中、計画中の原子力発電所は15基、 うち建設中は3基(泊3、島根3、大間)、 42 我が国の原子力発電の長期計画 当面の建設計画15基を順次建設、一方既設の軽水炉は60年運転 したのち、順次次世代軽水炉でリプレースし、2050年以降は高速 増殖炉を建設。 (財団法人 エネルギー総合工学研究所HPより) 43 我が国の長期エネルギー需給見通し 原子力:20.7% 新エネ:7.4% 原子力:48.7% 新エネ:9.4% 44 44 原子力発電の新たな開発プロジェクト 1.新型の軽水炉(現在の原子力発電と同じ原理) 1)次世代軽水炉開発:リプレース用、また海外輸出用に、より信頼性、経 済性、安全性の高い大容量の原子力発電の開発。 2)小型炉開発:発展途上国向けの小型の原子炉の開発。 3)原子力発電船:船に小型の原子炉を搭載発電。既にロシアで開発中。 4)小型本質安全炉:安全性を高めた小型炉。開発初期段階。 2.高速増殖炉:ウラン238をプルトニューム239に転換、同時に発電。ロシ アで商業運転中1基。フランス、インド、中国などで開発中。我が国も原子 力研究開発機構で実験炉「常陽」は運転中、原型炉「もんじゅ」は来年早々 運転再開。実証炉を官民協力して開発中。 3.高温ガス炉:気体を冷却材とし、発電と共に900℃以上の高温ガスを生 成、製鉄や化学プラントの熱源に利用、また熱化学反応で水素を生成。我が 国で原子力研究開発機構が実験炉HTTRを完成、運転中。 4.トリウム原子炉:核燃料としてウランではなくトリウム(Th232)を用い る原子炉。トリウムは自然界にウランより豊富に存在、核兵器に出来ない利 点あり。技術が複雑で高コストが難点。トリウム資源豊富な印度で開発計画 あり。 45 核燃料サイクルと高速炉の開発 「核燃料サイクル」とは、原子力発電所の使用済燃料を再処理することに より取り出 したウランとプルトニウムを再利用すること。 限りあるウラン資源を有効利用し、エネルギーの安定確保に貢献。 放射性廃棄物の量を減らすことができる。 ウラン燃料 天然ウラ ン 鉱石 ウラン鉱 山 燃料製 造 工程 (濃縮 等) 中間貯蔵施設 (青森県むつ市) 原子力発電所 (軽水炉) (全国55基) 使 用 済 燃 料 軽水炉 サイク ル [現在] (福井県敦賀市原型炉もんじゅ) (佐賀県玄海町等で予定) プルサーマル MOX燃料 MOX燃料工場 (青森県六ケ所村) ウラン・プルトニウ ム混合燃料 高速増殖炉用 燃料工場 原子力発電所 (高速増殖炉) 高速増殖 炉 サイクル [将来] (研究開発中) ウラン・ プルトニウム MOX:MixedOxide, 混合酸化物 再処理工場 (青森県六ヶ所 村) 高 速 増 殖 炉 使 用 済 燃 料 ウラン・ プルトニウ ム 高レベル放射性廃棄 (地点募集 物 中) 高レベル放射性廃棄 物 高速増殖炉用 再処理工場 (研究開発中) 46 完 人類が生存するにはエネルギーが欠かせません。 これまでは安くて豊富な石油を始めとする化石燃料 資源に頼ってきましたが、石油は既に半分を消費し 残りは40年分しかありません。 将来のエネルギー源として、新エネルギーは高コス ト、不安定、小規模であり、化石燃料の代りにはなり えません。原子力エネルギーは低コスト、安定発電、 大規模であり、既に電気の30%を供給し、今後ます ます増やす必要があります。皆さんにはこれから大 いに関心を持ってもらいたいと思います。 47
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