GPS初期位置算出時間(TTFF)短縮のための検討

電子情報通信学会SANE研究会
電子航法研究所
July 27, 2007
GPS初期位置算出時間(TTFF)
短縮のための検討
坂井 丈泰 (電子航法研究所)
July 2007 - ENRI
Introduction
SLIDE 1
• 初期位置算出時間(Time To First Fix):
– 衛星航法システムの性能指標のひとつで、受信機の電源投入後、最
初の位置情報が出力されるまでの時間。
– 航空機や船舶の航法では重要ではない。
– GPSの応用の拡大に伴い、短縮への期待がある。カーナビやセキュリ
ティ分野など。
• TTFFの短縮:
– TTFFの支配的要因は、航法メッセージの受信に要する時間。
– 何らかの通信回線経由で航法メッセージを伝送すれば、TTFFを短縮
できる。
– 静止衛星から補強情報を放送するSBASについて、TTFF短縮のため
のメッセージが実装可能であるかどうかを検討した。
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SLIDE 2
受信機位置の計算
• 受信機が測定するのは、衛星と受信機
の間の距離。
衛星の位置は既知
• 4機以上の衛星との間の距離を測定す
ることで、受信機位置を計算できる。
• 受信機位置を計算するには、衛星の位
置が既知でなければならない。
• GPS衛星が放送する測距信号には航
法メッセージが乗せられており、これに
軌道情報(エフェメリス情報)が含まれて
いる。
r2
真距離
r3
r1
(x, y, z)
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SLIDE 3
測位に関する情報の流れ
ユーザ
GPS衛星
測距信号
擬似距離
航法メッセージ
クロック補正値
測位計算
位置情報
衛星位置
時刻・経緯度など
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SLIDE 4
航法メッセージ
300ビット = 6秒
5サブフレームで
1フレーム
(1500ビット=30秒)
サブフレーム #1
衛星の状態・クロック補正
サブフレーム #2
軌道情報(エフェメリス)
サブフレーム #3
軌道情報(エフェメリス)
サブフレーム #4
電離層補正・UTC・アルマナック
サブフレーム #5
軌道情報(アルマナック)
• 航法メッセージは全部で1500ビット(50bps→30秒)。繰り返し放送される。
• サブフレーム#1~3は、放送している衛星自身のクロック・軌道情報(エフェメリス情
報)。30秒毎に同じ内容が繰り返される。
• サブフレーム#4~5は、他のGPS衛星のおおまかなクロック・軌道情報(アルマナッ
ク情報)や、電離層補正情報など。全体では25ページが順番に放送されるので、
全衛星の情報を得るには12.5分かかる。
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SLIDE 5
人工衛星の軌道の表現
a
e
i
W
w
n
長半径
離心率
軌道傾斜角
昇交点赤経
近地点引数
真近点角
衛星
近地点
春分点方向
昇交点
(1)楕円の形状を長半径 a,離心率 e で決める。
(2)慣性系に対する軌道面の方向を軌道傾斜角 i,昇交点赤経 W で与える。
(3)近地点引数 w により、軌道面内における楕円の向きを指定する。
(4)エポック時点における衛星の位置を真近点角 n により与える。
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SLIDE 6
エフェメリス情報の内容
項目
ビット数
内容
項目
ビット数
内容
toc
16
エポック時刻
e
32
離心率
toe
16
エポック時刻
sqrt A
32
軌道長半径
af0
22
クロック補正
dot W
24
Wの変化率
af1
16
クロック補正
dot i
14
iの変化率
af2
8
クロック補正
Crc
16
補正値
M0
32
平均近点角
Crs
16
補正値
W0
32
昇交点赤経
Cuc
16
補正値
w
32
近地点引数
Cus
16
補正値
i0
32
軌道傾斜角
Cic
16
補正値
Dn
16
補正値
Cic
16
補正値
合計
420
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エフェメリス情報の利用
SLIDE 7
• エフェメリス情報:位置計算に使用するクロック・軌道の情報。
– 測位計算を実行するにはエフェメリス情報が必要(アルマナックではだめ)。
• エフェメリス情報の更新:
– 現在は2時間に一度の頻度でエフェメリス情報が更新されている。この場
合、エフェメリス情報の有効期間は放送後4時間(エポック時刻±2時間)。
– エフェメリス情報にはIODEという番号が付けられており、IODEの変化によ
りエフェメリス情報が更新されたことがわかる。
– 各GPS受信機は、エフェメリス情報が更新された場合、基本的には新しい
ものを使用する。
• TTFF(Time to First Fix):最初の位置出力までの時間:
– 有効期限内(4時間以内)のエフェメリス情報を持っていれば数秒程度。
– そうでない場合、エフェメリス情報の取得に30秒を要する。
– エフェメリス情報の検査をする場合、60秒以上かかる。
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アルマナック情報
SLIDE 8
• アルマナック情報:
– エフェメリス情報とは別に、概略の軌道情報をアルマナック情報として放送
している(サブフレーム4、5)。
– アルマナックには、軌道上の全GPS衛星の情報が含まれる(32衛星まで)。
– アルマナック情報は、他の衛星の信号の捕捉に利用する。概略のクロック
と衛星位置がわかっているとドップラ周波数が計算でき、捕捉が早くなる。
• アルマナック情報の更新:
– 現在は約1日に一度の頻度でアルマナック情報が更新されている。この場
合、エフェメリス情報の有効期間は放送後6日間(エポック時刻±3日間)。
– エフェメリス情報のIODEのような発行番号はないので、エポック時刻の変
化により更新されたと判断する。
– 衛星の捕捉に使用する場合、数週間程度にわたり有効といわれる。
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SLIDE 9
アルマナック情報の内容
※エフェメリス情報との違いを表示
項目
ビット数
内容
項目
ビット数
内容
toc
16→8
エポック時刻
e
32→16
離心率
toe
16
エポック時刻
sqrt A
32→24
軌道長半径
af0
22→11
クロック補正
dot W
24→16
Wの変化率
af1
16→11
クロック補正
dot i
14
iの変化率
af2
8
クロック補正
Crc
16
補正値
M0
32→24
平均近点角
Crs
16
補正値
W0
32→24
昇交点赤経
Cuc
16
補正値
w
32→24
近地点引数
Cus
16
補正値
i0
32→16
軌道傾斜角
Cic
16
補正値
Dn
16
補正値
Cic
16
補正値
合計
420→174
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初期位置算出時間(TTFF)
SLIDE 10
• 初期位置算出時間(TTFF):
– 受信機の電源投入後、最初の位置情報が出力されるまでの時間。
– 受信機内蔵の不揮発性メモリの内容により、条件が異なる。
• コールドスタート:
– 不揮発性メモリに何の情報もない場合。
– 測距信号の捕捉と航法メッセージの取得に数分程度かかる。
• ウォームスタート:
– 不揮発性メモリにアルマナック情報のみある場合。
– 測距信号を捕捉後、航法メッセージの取得に30~60秒かかる。
• ホットスタート:
– 不揮発性メモリ内のエフェメリス情報が有効な場合。
– 数秒程度で測距信号を捕捉、位置を算出できる。
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TTFFの短縮
SLIDE 11
• TTFF(ウォームスタート)の短縮に必要な情報:
– 位置計算に使用可能な精度の軌道情報。
– 30秒よりも高い頻度で(あるいは受信機の要求に応じて)放送される。
– 通信回線にSBASを使用する場合:毎秒50ビット程度の伝送速度ですむ
こと。
• SBAS(静止衛星型衛星航法補強システム):
– 静止衛星による補強システム。日本ではMSASが実用化されつつある。
– GPSと同じL1周波数で補強情報を放送するので、受信機に余分なハー
ドウェアが必要ない。
– データ速度250bpsのうち、1/5程度をTTFF短縮に利用可能と思われる。
• アルマナック情報を利用する:
– 受信機は有効なアルマナック情報を持っているものとする。
– エフェメリス情報のアルマナック情報に対する差分を伝送する。
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メッセージの設計目標
SLIDE 12
• SBASによる伝送:
– 毎秒1個のSBASメッセージが放送される。
– 1個のメッセージに収容可能なデータ量は212ビット。
– 使用可能な伝送容量は、全SBASメッセージのうちの1/5程度以下と思わ
れる。5秒間に1個以下のメッセージしか使えない。
• 複数のGPS衛星が必要:
– 4個以上のGPS衛星の軌道情報がないと、位置の計算はできない。
– 30秒よりも高い頻度で放送する必要がある。
• メッセージに必要な特性:
– エフェメリス情報に相当する精度(数m以内)のクロック・軌道情報である
こと(ただし、アルマナック情報に対する差分でよい)。
– 4~5個のGPS衛星の軌道情報を212ビット以内で表現すること。
– 少なくとも10~15秒間にわたり有効な精度を維持すること。
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クロック補正値の差分
SLIDE 13
• アルマナック情報のエフェメリスに対する差分。600m=1.8ms以上の差がある。
• ±4.096msまでの差を表現できるようにする。
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クロックドリフトの差分
• クロックドリフトは、大きくても0.6mm/s程度の差しかない。
• 0.06m/100sなので、補正する必要はない。
SLIDE 14
July 2007 - ENRI
衛星位置の差分
• アルマナックとエフェメリスでは、各軸とも±3000m程度までの差がある。
• ±8192mまでの差を補正できるようにする。
SLIDE 15
July 2007 - ENRI
衛星速度の差分
SLIDE 16
• 各軸とも±0.5m/s程度までの差がある。
• 5m/10sに相当。もともとのエフェメリス情報の精度を勘案すると、必ずしも補正しな
くてもよい。
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SLIDE 17
量子化ビット数の比較検討
パターン
量子化ビット数
クロック 衛星位置
精度劣化量(遅れなし)
精度劣化量(遅れ10秒)
合計
水平
垂直
3D
水平
垂直
3D
(a)
12
12
48
1.45
2.08
2.54
2.08
2.60
3.33
(b)
11
13
50
0.82
1.20
1.45
1.73
2.03
2.67
(c)
11
12
47
1.49
2.16
2.63
2.13
2.73
3.46
(d)
11
11
44
2.88
4.08
4.99
3.30
4.42
5.52
(e)
10
12
46
1.67
2.43
2.95
2.29
2.91
3.70
• エフェメリス情報により測位計算した結果と、差分方式で与えた衛星位置を使って
測位計算した結果の差のRMS値を表示(単位[m])。
• 2004年5月6日00:00~24:00、東京付近における結果。
• 差分情報生成後、10秒の遅れまで考慮(10秒間隔でのメッセージ送信に相当)。
• 衛星あたり46ビット程度で精度に関する要求は満たせる。この場合、1メッセージに
4衛星分の情報を収容できる。
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非対称量子化
SLIDE 18
• 衛星航法システムの特徴:
– 衛星位置誤差のうちの視線方向成分のみがユーザ測位誤差の要因で、
直交方向成分は誤差とならない。
– クロック誤差はユーザ位置に関係なく、どこのユーザに対しても等しい誤
差となる。
• 非対称量子化によるビット数削減:
– 衛星位置の差分情報について、視線方向については細かく、直交方向
については粗く量子化する。
– 測位精度を維持しながら、差分情報全体のビット数を削減することができ
る。
– 視線方向を決める規準位置としては、サービスエリアの中心付近である
東京とする。
– 東京のほか、稚内および那覇における測位誤差も考慮する。
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SLIDE 19
量子化ビット数と測位精度
パターン
量子化ビット数
クロック 視線方向直交方向 合計
精度劣化量(遅れなし)
精度劣化量(遅れ10秒)
水平
垂直
3D
水平
垂直
3D
(f)
11
13
7
38
2.85
5.17
5.90
3.24
5.66
6.52
(g)
11
12
8
39
2.01
3.52
4.05
2.52
4.24
4.93
(h)
11
11
8
38
3.26
5.55
6.44
3.58
6.28
7.23
(i)
10
13
8
39
1.80
3.22
3.69
2.40
3.97
4.63
(j)
10
12
8
38
2.14
3.80
4.37
2.68
4.45
5.19
(k)
9
13
8
38
2.31
4.15
4.75
2.76
4.75
5.50
• 量子化を非対称とした場合の計算結果(計算条件はスライド17と同様)。
• 東京(基準ユーザ位置)、稚内、那覇における計算結果の最悪値を表示(実際はす
べてが那覇における結果)。
• パターン(j)が有望。衛星あたり38ビットで、1メッセージに5衛星分の情報を収容で
きる可能性がある。
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SLIDE 20
差分情報メッセージの設計
繰返し回数
内容
ビット数
範囲
単位
合計ビット数
1
IODA(アルマナック識別番号)
5
0~31
—
5
PRNi-1
5
0~31
—
クロック差分
10
±4.096ms
8.192ns
視線方向差分
12
±8192m
4m
直交方向差分(東西)
8
±8192m
64m
直交方向差分(南北)
8
±8192m
64m
DPRNi-1
3
0~7
—
クロック差分
10
±4.096ms
8.192ns
視線方向差分
12
±8192m
4m
直交方向差分(東西)
8
±8192m
64m
直交方向差分(南北)
8
±8192m
64m
1
4
43
164
July 2007 - ENRI
Conclusion
SLIDE 21
• GPSにおける初期位置算出時間(TTFF)の短縮について検
討した:
– 航法メッセージの受信に要する時間が制約となっている。
– エフェメリス情報を別途伝送できれば、TTFFを短縮できる。
• SBASメッセージの設計:
– アルマナック情報に対する差分としてエフェメリス情報を放送すること
で、少ないビット数で所要の精度のクロック・軌道情報を提供できる。
– 視線方向と直交方向で量子化ビット数を変えることにより、さらにビット
数を削減できる。
– 1メッセージに5衛星分の情報を収容可能なメッセージを設計した。測
位精度の劣化量は、10秒の遅れを考慮しても約5mであった。