小規模空間における方向感覚研究 -迷路課題,時計文字盤読み取り課題を用いて- 内藤 健一 (関西大学社会学部) 日本心理学会第68回大会WS 「質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 」 1 小規模空間における方向感覚研究 小規模空間において測ることのできる基礎的な心的能力と, 方向感覚の自己評定の関連を見る. これまで検討されてきた基礎的な心的能力 心的回転能力(Bryant, 1982; 鈴木・芳賀, 2000; 竹内, 1992;谷, 1987) 空間位置の同時記憶能力(加藤, 1988) 継時的情報の再構成能力(加藤, 1990) 方向感覚の個人差は基礎的な心的能力の個人差よりも,よ り高次レベルでの心的処理の個人差に由来する(浅村, 1995). 方向感覚と関連する空間能力は,例えば継時的に提示され る情報を,同時的な空間図式に変換するような高次の情報 変換能力と関連しているのではないか(竹内, 1995). 2 本研究の目的 「時計文字盤読み取り課題」(二次元における 心的回転能力が必要とされる)と,方向感覚 の自己評定との関連を検討. 「迷路課題」と,方向感覚の自己評定との関 連を検討. 現実の移動を模した机の上での迷路課題を考案. 課題では,進んでいくべき経路が,継時的に提示 されるようになっていると同時に,どちらに進んで いくかは被験者本人の判断にゆだねられている. 3 方法 被験者 大学生66名(男子19名,女子47名)にSDQ-Sを実施し, SDQ-S合計得点[平均:59.75;SD:19.40]の上位25% から方向音痴群12名(男子1名,女子11名),下位25% から非方向音痴群12名(男子6名,女子6名)を選出. 課題 (1)迷路課題:15×15のマス目が書かれた板 (60×60cm)に,黒の丸印でルート. (2)時計文字盤読み取り課題:パソコンの画面に時計の文 字盤を提示.文字盤は左右にそれぞれ0,45,90,135, 180度回転. 4 手続き 個別実験. まず最初に迷路課題. マス目が書かれた板の前に被験者を立たせ,教示. 「このマスには黒の丸印でルートが示されています.左下がス タートで,右上がゴールになっています.道は必ず上下左右に進 んでいるので,斜めには進まないようにして下さい.マス目は厚 紙で隠されていますので,それを開いて黒の丸印を見つけ,なる べく早くゴールして下さい.一度開いたところはそのままでも戻し ても結構です.この実験は2回繰り返します.」 課題中,実験者はゴール時間(被験者がスタートしてから ゴールするまでの時間)と,エラー数(黒の丸印のないマ ス目を開いた数)をカウント. 5 手続き(2) 次に,時計文字盤読み取り課題. 被験者をパソコンの前に座らせ,教示. 「画面に時計の文字盤が出てきますので,時刻を読み 取って,なるべく早く口頭で答えて下さい.また,答える ときに,同時にマウスをクリックして下さい.」 練習試行を3試行おこなった後に,本試行を30試 行おこなった. 課題中,実験者は被験者が報告した時刻の正誤 をチェック. 6 結果 -SDQ-S合計得点- 表1 方向音痴群,及び非方向音痴群におけるSDQ-S合 計得点,「方位と回転」,「記憶と弁別」の平均と標準偏差 方向音痴群 非方向音痴群 SDQ-S合計得点 73.67(8.13) 29.67(7.01) 「方位と回転」 41.33(3.89) 16.92(4.87) 「記憶と弁別」 32.33(5.18) 12.75(3.14) 注)SDQ-S合計得点,「方位と回転」,「記憶と弁別」のいずれも二群 の間の差は有意. 7 結果 -迷路課題- 各被験者のゴール時間とエラー数それぞれ について,試行(2)×群(2)の,2要因分散分 析. ゴール時間:試行の主効果,群の主効果が有意. エラー数:試行の主効果が有意. 8 結果 -迷路課題-(グラフ) 40 150 30 秒 100 20 50 10 0 0 第1試行 回 200 非方向音痴群 方向音痴群 非方向音痴群 方向音痴群 第2試行 試行 図1 各群の平均ゴール時間(縦棒)と平均エラー数(折れ線) 9 結果 -時計文字盤読み取り課題- 時計文字盤の読み取りに要した時間(反応時 間)について群(2)×回転角度(5)×回転方 向(2)の,3要因分散分析. 群の主効果が有意傾向(p<.07).回転角度の 主効果が有意. 0度と45,90,135,180度,45度と180度,90度と180 度,135度と180度の間に有意差(TukeyのHSD検定). 10 結果 ms -時計文字盤読み取り課題-(グラフ) 非方向音痴群 方向音痴群 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 0 45 90 回転角度 135 180 図2 各群の平均反応時間 11 結果 -SDQ-Sの2つの尺度と課題成績の関連- 最後に,SDQ-Sの2つの尺度の得点を被験 者ごとに算出し,先の2つの課題成績との順 位相関を算出. 「方位と回転」と有意な相関が見られたのは 迷路課題における第1試行のゴール時間(.49), 第2試行のゴール時間(.50). 「記憶と弁別」と有意な相関が見られたのは 迷路課題における第2試行のゴール時間(.50). 12 考察 時計文字盤読み取り課題 群の主効果が有意傾向.回転角度の主効果が 有意.→課題時に心的回転が用いられていたが, 群による差は明確でない(回転対象となる材料が 被験者にとってなじみのあるものであった). 今後は現実の空間行動において心的回転能力 がどのように発揮されるのかを調べる必要性. 13 考察(2) 迷路課題 ゴール時間:試行の主効果,群の主効果が有意. エラー数:試行の主効果が有意. →ゴール時間にのみ群の主効果が見られたのは,教示の可能性(ただ しエラー数に群による差はない). 迷路課題においてのみSDQ-Sの2つの尺度と有意な相関. 「記憶と弁別」と第2試行のゴール時間 「方位と回転」と第1,2試行のゴール時間 第2試行は正しい経路の「再生」と関連. 方向音痴群の,迷路内で進んでいく方向に対する自信のなさが,試行を問 わず関係している可能性があるのではないか(被験者の実験時の様子よ り)? 相関が見られたといっても「方位と回転」は、東西南北に関する項目が多い。 試行数を増やすことによる経路学習の効果や,ゴールからスタートへ 逆にたどらせるなど,課題としての更なる応用が考えられないか? 14 迷路課題で用いられた迷路 15 時計文字盤読み取り課題における 提示刺激の例 16
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