Thermodynamic observation of first-order vortex-lattice melting transition in Bi₂Sr₂CaCu₂O₈ E.Zeldov , D.Major , M.Konczykowski , V.B.Geshkenbein , V.M.Vinokur & H.Shtrikman 実験の概要 • Bi₂Sr₂CaCu₂O₈(BSCCO)をホール素子を用 いることで、高温超伝導体の混合状態におけ る局所磁化測定を行う。 混合状態における渦について • 温度‐磁場相図 type-Ⅰ Pb,Sn,Alなど純粋な超伝導単体金属 1 2 type-Ⅱ 他の多くの合金や化合物 1 2 • type-Ⅱの混合状態の様子 どのように超伝導体中に磁場が侵入するか? 第2種超伝導体にHc1より大きい磁場をかけると、円筒状に 超伝導電流が流れ、その中に磁束線が閉じ込められる。 その磁束は量子化され 0 hc 2e の整数倍となる。 渦の様子 さらにそれらの渦はAbrikosov格子と呼ばれる三角 格子を組む。外部磁場が強くなるに従い格子間隔が 狭くなり、Hc2を超えると三角格子を維持できなくなり、 常伝導状態へと転移する。 • 高温超伝導体の相図 高温超伝導体は臨界温度が高く、また コヒーレンス長が短く、磁場侵入長が長い ので磁束線の熱ゆらぎが強い。 この熱ゆらぎにより混合状態の相図内で Tc以下のある温度において格子状に配列 した円筒型の渦糸が融解し、液体のように ふるまう。 melting 渦糸液体において量子化された磁束は 時間的・空間的に変化しており、有限の 抵抗を生じる。外部磁場や温度を増加さ せることで抵抗も増大し、常伝導状態とは クロスオーバーする。 (相図におけるHc2曲線が点線で描かれ ている。) 高温超伝導体のH-T相図。混合状態中に融解線が引かれ、渦の状態が分かれている。 • CuO₂を含む高温超伝導体 2つの超伝導体層で絶縁体層を挟んだとき、クーパー対が同時にトンネルする。 (ジョセフソン効果) 銅酸化物高温超伝導体は超伝導を示すCuO2層と絶縁体層とが交互にc軸方向に 積み重なった層状構造を持っている。(固有ジョセフソン接合) また層構造により2次元的に超伝導を考えることになるため、混合状態における 渦構造で超伝導電流は円盤型になる。 BSCCO結晶の構造 Tc=90K 銅酸化物高温超伝導体の混合状態の渦の様子 渦糸液体 渦糸格子 渦パンケーキ液体 • 層構造における渦のふるまい 渦糸格子、渦糸液体については従来型の 高温超伝導体と同様に、層間の相互作用 のため円筒型の磁束(3次元)と考えること ができる。 さらに外部磁場を強くするとそれぞれの円 盤の間隔が狭くなり、層間の相互作用より 面内での各磁束間の相互作用の方が強く なる。 よって、層間のコヒーレンスが消失し (decoupling)各層内でパンケーキ磁束 (2次元)が液体のように自由に動くことが できる。 融解転移の観測の歴史 • CubittによるBSCCOの中性子回折の実験 一定磁場(47.5mT) 1.5K 56K 62K 一定温度(1.5K) 50mT 70mT 95mT Nature 365, (1993) 407 回折パターンの消失から混合状態内で渦糸格子の融解が起こっていると 推測できる。 • 1992年 SaferらによるYBCOのab面内の抵抗率 の測定実験 • 1994年 PastorizaによるBSCCOの磁化測定実 験・Yamaguchiによる同様の実験 Phys. Rev. Lett. 69 (1992) 824 Physica C 246 (1995) 216 ・ マクロな磁化測定の問題点 内部の磁束密度が不均一に分布していた場合、巨視的な 試料全体の磁化測定では全体を平均することになり、融解 転移があったとしてもその転移幅は広がってしまう。 空間分解能を高め鋭い転移を観測するために 巨視的ではない測定を行う必要がある。 そこでZeldovらが用いたのは微小ホール素子であり、 これにより局所的な磁束密度の測定が可能となる。 実験の手順 • BSCCOとホール素子の接合 使用するHTSCは高品質のBSCCO単結晶(0.7×0.3×0.1mm³,Tc=90K)で、これを 直接センサーの上に置く。これに外部磁場Haをc軸方向に加える。センサーの大きさ は各3×3μm²で10個並んでいる。 • ホール効果について B(c軸) v(b軸) F(a軸) b軸方向に電流を流し、c軸方向に磁場を かけるとa軸方向にローレンツ力が働く。 この力により電流はa軸方向に曲げられ その方向に電場が生じる。 Ea RH jb Bc :ホール係数 ここで既知のホール係数の素子を用いれば、 測定した電圧から磁場の大きさが求まる。 実験の結果 • 一定温度での磁場スイープ T=80K(const)での磁場スイープの結果。横軸は外部磁場で、縦軸は観測した磁束密度 から外部磁場を引いた値である。外部磁場Ha=58 Oeほどで磁束密度のとびが観測さ れる。転移幅は0.4 Oe以下である。 • 一定磁場での温度スイープ Ha=53 Oe 外部磁場Ha=53,240 Oeでの温 度スイープの結果を示す。磁場ス イープと同様に磁束密度のとびが 見られる。 一般的な固体と異なり、固体から液 体へ相転移するときに密度が増え ている。(氷から水への転移) Ha=240 Oe また温度が増えるにつれ、YBCO 結晶で観測された抵抗ヒステリシス に似た小さなヒステリシスが観測 された。 また、1つの量子化磁束の大きさはφ0=2.07×10-7 gauss・cm²であり、 ホール素子1つあたりの接触面積は~10-7 cm²である。 外部磁場が240 Oeの場合、相転移したときの1つのセンサーの渦の数は B=218.0 gauss・・・約100個 ΔB=0.3 gauss・・・約0.1個の増加 のようになっている。 これらの温度・磁場スイープの結果より、磁束密度 (渦密度)の不連続なとびがはっきりとわかり、これに より転移が1次の相転移であるということが示された。 • 融解転移線Bm(T)のふるまい 四角点が温度スイープの、円点が磁場スイープの結果を表す。低温で傾きが0に近づき ある点(critical point)で消失する。また、実線はLindemannによる渦格子融解線の フィッティングで、破線は渦糸液体から渦パンケーキ液体へのdecoupling転移の理論に よるフィッティングである。 融解線のフィッティングについて ・Lindemannの渦格子融解の理論では、融解転移線は T Bm (T ) B0 (1 ) Tc で近似され、これによるフィッティングの結果は α=1.55 , B0=990 gauss , Tc=94.2 K ・渦糸液体から渦パンケーキ液体へのdecoupling転移は Tc T BD (T ) B0 T D 203 B0 (4(0))2 Tc d で与えられ、このフィッティングでは B0=400 gauss , Tc=90.9 K • 磁束密度のとび 融解線にそった温度と磁束密度を横軸にとり、縦軸が磁束密度のとびの大きさを 示す。ΔBは臨界点(37.8 K,380 gauss)以下の温度で完全に消滅し、Tm=83 K, Bm=40 gaussほどで最大値(約0.4 gauss)をとる。また、TmがTcに近づくとΔBは 急速に減少する。 磁束密度のとびからエントロピーの変化を求める 融解線上で各相の自由エネルギーが等しいので、dF SdT MdH より Slat dT Mlat dH SliqdT MliqdH S M B H 4M より S dH dT B dH m 4 dT これが磁束系におけるClausius-Clapeyronの関係式であり、潜熱は L TmS となる。1枚の層の1つの渦あたりのエントロピーの変化は d0 B dHm s 4 Bm dT となる。 dHm/dTをdBm/dTで近似し、単位渦あたり のエントロピーのとびを左図に示す。 低温ではΔsは温度の1次関数的に減少 し、臨界点でそのまま0となる。これは融解 線においてdBm/dTが0に近づくためである。 高温ではΔSはΔBに伴い減少し0に近づ くが、ΔBよりBmの方が減少の度合いが 大きいため、Δsは温度がTcに近づくに つれ、急に増大する。 • 転移の理論について 融解転移とdecoupling転移とでそれぞれ理論からΔBを 求め、実験の値と比較する。 転移温度において自由エネルギーは等しいので F U Tm S 0 Lindemannの理論によると単位体積の渦固体を液体に変えるのに必要なエネルギーは U cL2c66 cL 0.2 c66 よって :Lindemann数 0 Bm (8 ) 2 :渦固体の剛性率 cL2c66 S Tm Blatterによる融解温度の試算を用いると Tm 10.8cL2c66a03 a0 0 Bm :渦密度の平方根の逆数 ゆえに、単位渦あたりのエントロピーの変化は s 0 .1 d Bm 0 また、これより磁束密度のとびは 3 2 Bm dBm B 0.4 0 dT 1 低温では、この値は0.2 gaussほどになり実験の結果とよくあう。 しかしながら、高温でLindemannの指数則においてα=2を用いると T s (T ) 1 Tc T B 1 Tc 2 観測されたΔsの増加を記述せず、理論的なΔBの温度依存性は観測されたΔBの 減少の度合いを多く見積もりすぎているように見られる。 • decoupling転移の可能性について 単位体積の渦糸液体を分離(decouple)するのに必要なエネルギーは U EJ 2d D 202 EJ 4 2 d TD EJ a02 同様に計算すると 単位渦のエントロピーは Tc付近では :Josephson結合エネルギー :分離温度 EJ 1 1 S 2 2 2d EJ a0 2a0 d s 1 kB 2 B 2 Tc T 0 d よってT=80KでΔBは0.3 gaussほどになる。 中性子回折のデータからは ・低温での秩序状態(渦糸格子)の存在 ・転移における長距離にわたっての秩序の消失 がわかり、これから融解転移と考えられる。 しかしながら、低磁場において実験と理論のΔBの値を 比較すると融解転移とdecoupling転移が同時、もしくは ほぼ近接して起こる(昇華型転移)と考えるのがふさわしい。 ただどちらの理論もBm(T)とΔB(T)の温度依存性を完全に 説明できない。 • 潜熱について 一般的な金属において原子あたりの潜熱の値は1kBTmである。 またTm=83 Kのとき単位渦のエントロピーはΔs=1kBであるので、転移での 潜熱はL=TmΔs=1kBTmとなり、これだけのエネルギーが渦格子を融解する のに必要とされる。 一般固体において、密度は外部の圧力によって大幅に変化させることは できないが、渦格子の場合、外部の磁場を変化させることで融解線に沿った オーダーだけ変化させることができる。つまり潜熱もそれに伴って変化する。 • 現在考えられているHTSCの相図
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