アフガニスタン医学教育プロジェクト 医学教育短期専門家(教材開発) 帰国報告 東京大学医学教育国際協力研究センター 大西弘高 東大とアフガン医学教育 2003年8月:アフガニスタン保健医療基礎調査団分遣隊 (医学教育) 2003年12月:アフガニスタン「医学教育」研修員招聘 (Cheraghカブール医科大学学長ら計2名) 2004年7月:医学教育プロジェクト事前評価調査団 2005年1~2月:カブール医科大学より6名の研修受入 2005年11~12月:カブール医科大学から5名,ナンガ ハール大学医学部から1名の計6名の研修受入 2005年11~12月の研修員 長崎原爆公園見学 短期専門家(教材開発)活動概要 任 期:平成18年2月2日~12日 活動場所:カブール医科大学 (KMU) 及び高等教育省 TOR (Terms of Reference) ① GP育成のための医学教育システムに関する教員養成を実施 ② GP育成のための医学教育システムに関する教材を開発 ③ 医学教育に関係する情報や統計を収集するシステムを構築 ④ Problem-based learning (PBL) のシナリオ開発方法を指導 ⑤ Education development centre (EDC) の専任教員を育成 アフガニスタンの医師養成概要 卒前教育は7年カリキュラム PCB (physics, chemistry, biology, etc):1年 Paramedical (basic science):2年 Clinical:3年 House job (internのような医師):1年 卒直後:MD degree授与及び医師登録 卒後2年間公衆衛生省管轄病院での業務 (これがなければ後の専門研修が不能に) General Practitioner (GP)とは 卒後2年間の公衆衛生省管轄病院で業務 する医師そのものがGPと呼ばれる 本来様々な領域に関して即戦力となるべ き人材として求められている 現状では卒直後に必要な知識はあっても 技術や経験は不十分 高等教育省は現状教育内容に比較的満足 公衆衛生省は不満足 KMUの学生数の現状 2003年3月から入学定員がカットされた 質が低く数が多い医師養成を食い止める目的 2006年2月現在(3月21日より進級予定) PCB 1st class 2nd class 3rd class 4th class 100 100 100 600 600 基礎医学 5th House class job 600 臨床医学 (今は現場は飽和) 600 臨床教育の内容とリソース 午前:教育病院での実習 3年:面接,4年:+診察,5年:+マネジメント 午後:KMUでの講義など 教育病院 Aliabad病院―200床 Maiwand病院―350床 旧Aliabad大学病院 Aliabad Hospital 中庭の青空教室 Maiwand Hospital 臨床教育現場 200床,350床の病院にそれぞれ数百名の 学生が押し寄せる カンファレンス室等は各病院1~2部屋 学生は居場所もない状況が予測される 教育病院だが図書館,学生が利用可能な インターネット接続環境はなし GPを育成するための医学教育システム 現状では3rd, 4th, 5th classの教育改善は 今のままの臨床現場の状況では困難? 1st , 2nd classについてはできるだけ臨床 能力が身に付きやすい教育を Problem-based learning (PBL)の必要性 様々な健康問題 感染症(結核,下痢症,リーシュマニア…) 低栄養児(7ヶ月) PBLとは 問題基盤型学習と訳される 臨床的な問題事例(多くの場合は症例)について 小グループで討論し,問題を同定し,各自が調査 して討論を深める学習方法 通常各小グループに教員(テューター)が付く 問題解決能力,自己主導型(決定)学習スキル, グループ学習スキル等の改善が期待される 慈恵医大のPBL例 (吉田,大西編.PBLテュートリアルガイド.pp126-129) PBLのプロセス PBL導入,課題,利点 現在,日本の80医学部の80%がPBLを導入 多くの学生はPBLを好むようである 従来の教育との間で特にアウトカム(問題解決 能力,自己主導型学習スキル,グループ学習ス キル)の差は証明されていない 各グループに教員を配置すると必要人数が多い 教育学的に高度な知識が必要 PBL導入により縦割り組織の再構築を促進 PBL導入に向けた段階 1. PBL導入が決定される 2. 施設や教材の準備 PBL用シナリオ作成 部屋の整備 自己主導型学習用教材整備 3. 希望者等への小規模試験的導入 4. 本格的導入 PBLワークショップ(5-6 Feb 2006) PBLワークショップ評価1 有効回答数28名 P B Lのシナリオが作成できる P B Lの利点欠点が挙げられる P B Lに必要な教育理論が理解 できた 3.46 3.18 3.39 3 2 1 (1:全くダメ,2:少しだけ,3:幾分,4:十分) 4 PBLワークショップ評価2 小グループディスカッション ワークショップ内容 講義の技法 3.39 3.07 3.29 1 2 3 (1:全くダメ,2:少しだけ,3:幾分,4:十分) 4 PBLワークショップ評価3 最も役に立った内容は? 全て:14名 シナリオ作成:4名 新しいカリキュラムへの考え方:6名 ワークショップのやり方(討論など):3名 PBLワークショップ評価4 最も役に立たなかった内容は 特になし:18名 講義:1名 KMUの現実とのギャップがあること:1名 PBLワークショップ評価5 更なるコメント もっとワークショップをやって欲しい 外部の専門家にもっと来て欲しい とにかく導入しなくてはいけないと思った 教材がない まずテューター養成を急ぐべき ワークショップの成果 2月6日付でPBL導入決定の高等教育省 文書が発布された PBL委員会も組織されメンバーには日本 で研修を受けた者の大半が含まれた 5グループが各々シナリオを1つずつ作成 PBL導入に向けた段階 1. PBL導入が決定される→達成 2. 施設や教材の準備 PBL用シナリオ作成→一部達成 部屋の整備→PBL用2部屋整備(東大予算) 自己主導型学習用教材整備 3. 希望者等への小規模試験的導入 4. 本格的導入 米国での医学カリキュラムの変遷 1765~:徒弟性基盤型 1871~:学問分野基盤型:基礎医学の興隆 1951~:臓器系統別:知識の膨大化,基礎と 臨床の統合,教育の効率化 1971~:問題基盤型:自己主導型学習,問題 解決能力重視 Papa & Harasym. Acad Med 1999 更なる大学組織への影響 学問分野基盤型のカリキュラム 月 火 水 木 金 1 生化学I 解剖学I 生化学I 生化学II 衛生学 2 生理学II 解剖学I 生理学II 生理学I 生化学II 3 衛生学 生化学 実習 組織学 組織学 実習 生理学 実習 4 発生学 生化学 実習 解剖学II 組織学 実習 生理学 実習 臓器系統別のカリキュラム Semester 1 医学入門1:解剖/正常機能/医療面接(16週) 選択課程,開業医実習1↓ Semester 2 医学入門2:病理/病原体(12週) 心血管系(5週) Semester 3 呼吸器系(4週) 血液系(4週) 消化器系(6週) 選択課程,開業医実習2↓ Semester 4 腎泌尿器系(4週) 生殖系(5週) 内分泌系(4週) Semester 5 神経系(6週) 地域保健(3週) 筋骨格系(4週) 学問分野基盤型→臓器系統別の変化に よって,大学組織の変化が急務に 臓器系統別カリキュラムでは科同士のやり 取りが非常に重要 週間スケジュールではなく,年間スケ ジュールを先に配布する必要が生じる 概して教務部門の強化が非常に重要 PBL本格導入に向けた課題 シナリオ作成:もう少しひな形が必要か 部屋の整備:2部屋は春から利用可能.他 は教授室等を仮に使用し始める形で 自己主導型学習教材:図書館は現在整備 中.インターネット環境は国のインフラ次第 教務部門強化:現状把握はまだ 美しい山々 City Centre EDC(Education Development Centre) 以前は各教員が少しずつ教育に力を割く ことで教育体制が維持されていた 教育システム,カリキュラム,理論や原則 が専門分化し,専任者を置く傾向 いくつかの方向性 新たな教育や評価システムの導入 教育質管理,評価,教員養成ワークショップ 教育研究,教育専門課程 KMU-EDCの現状 センター長:Dr. Salehi(耳鼻科教授)兼任 他の機能については未定.専任者不在 部屋は2,3室確保されている 事務員が3名配置されている カリキュラム委員会,評価委員会,卒後研 修委員会,PBL委員会(新設)はいずれも Dr. Salehiに委任されている KMU-EDCの展望 専任教員を配置する 学生委員会の新設 現状では教育を専門にする能力,余裕なし まずは併任者へのcapacity buildingから 学生を模擬患者,テューター,診察技法指導に 新たな部門設置 カリキュラム開発+教員養成,カリキュラム評価, 卒後研修の各部門に部長職(兼任)を配置 EDC周辺の組織図 Chancellor Education Development Centre (EDC) Clerical Staff (X3) Adjunct Appointment to EDC (20%)* Head, EDC (50%)* Chairman Dept of Curriculum & Staff Development (50%)* Examination committee Committees (1)Curriculum (2)Evaluation (3)Postgraduate (4)PBL (5)Student Chairman Dept of Evaluation & Feedback (50%)* Chairman Dept of Postgraduate Education (50%)* TORと実績との関連 ① GP育成に向けた教員養成プログラムの実施 ② GP育成に向けた教材開発 ④ PBLシナリオ開発方法の指導 PBLワークショップ,シナリオ作成 ③ 医学教育情報や統計の収集システム ⑤ EDC専任教員の育成 EDC機能強化 日本国内での研修に向けた提案 PBL導入対策 シナリオ作成能力 教務機能に関する知識 EDC機能改善対策 質管理サイクルを体験させる実習 統計などデータ分析の実習 施設や教材に対する提案 教育病院への教室,図書室等の建設 PBLを支える自己主導型学習を促すため の教科書供給→印刷機供与? KMU作成のダリ語教科書はほぼ全科揃って おり,これを印刷するだけでもかなりの効果 ダリ語教科書はNangarhar, Balkh等5校でも 利用される(他3校はパシュトゥン語) 東大IRCMEからの意見 今回,KMU内に東大の共同研究拠点, Collaborating Research Centreを立ち上 げた.予算も付いており,JICAプロジェクト とのタイアップを継続していきたい 日本国内での研修を受けた気心の知れた 教員が様々な形で貢献してくれた.今後も 研修員受入は重点的に請け負いたい 謝辞 この場を借りて御礼申し上げます JICA人間開発部(保健1)保健行政チーム JICA派遣支援グループ JICAアフガニスタン事務所と他のチームの方々 現地調整員石嶋忠行様,現地スタッフ KMU教員とサポートスタッフ 東大IRCMEスタッフ
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