1節 マーシャル ・物価はなぜ下落するのか? …当時のイギリスで多くの経済学者・実務家によって信じら れていたのは貨幣数量説(Quantity Theory of Money) ・貨幣数量説とは… …社会に流通している貨幣の総量が物価の水準を決定して いるという経済学上の仮説。たとえば、「ある国の物価水準 は、その国に流通している貨幣の量に比例して決まる」と いったもの。 ・貨幣数量説を前提にすると… …物価が下がり続けるのは、実体経済と比較して貨幣数量 が不足しているからである。したがって、デフレを止めるため には貨幣数量を増やさなければならない →解決策:金・銀複本位制度(bimetallism) 1節 マーシャル ・しかし、金・銀複本位制度は採用されず… 1886-87年の王立委員会におけるマーシャルの表明 「他の事情にして等しければ、価格は価格基準として用いられる貴金属 の増減に比例して上昇ないし下落する、という学説を私は受け入れるが、 『他の事情にして等しければ』という条件がきわめて重要であり、それこ そを精査する必要がある(Marshall [1926;P.21])」 →つまりマーシャルは、貨幣数量説を受け入れるもデフレの原 因を貨幣数量の変動以外にも求めた。 ・根拠:イギリスの物価指数の推移(図表3-3, P.85) …銀の供給量は金の供給量をはるかに上回っているのに、対応 する物価の動きには大きな違いが見られなかった。 →ということは、物価の変動を生み出す主因は貴金属の供給 量とは異なるところにある…? 1節 マーシャル ・それでは、デフレの原因はどこにあるのだろうか? →通貨供給量よりも「実物的」(real)な要因によって生み出される。 「通貨価値がどのような貴金属にその基礎を置くにせよ、信用の膨張と収 縮や価格の上昇と下落は、常に戦争や戦争のうわさ、豊作や不作、有望 な新しいビジネスの誕生、そしてそれに基づく希望の消滅によって生み出 される。こうした原因が、貴金属の供給量や相対価格の変動よりはるかに 大きな影響を価格の動きに与えてきたことは、図表3-3から明らかである」 (Marshall[1887;P.194]) ・マーシャルはまず、1814-37年の価格の長期的下落を分析した トゥック(1857)に言及。トゥックはナポレオン戦争後のデフレにつ いて六つの要因を挙げたが、そのうち四つは当時の大不況にも 当てはまると指摘。
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