集中講義(九州大学数理学研究院) バイオ構造データに対する数理モデルと アルゴリズム(2) タンパク質進化の数理モデル 阿久津 達也 京都大学 化学研究所 バイオインフォマティクスセンター 内容 タンパク質ドメイン進化の数理モデル タンパク質相互作用ネットワークの 数理モデル マルチドメインタンパク質進化の数理モデル 研究の目的 タンパク質ドメインおよびタンパク質相互作用 ネットワークにおける各種分布の数理的説明 タンパク質相互作用ネットワーク:power-law [Jeong et al., 2001] k種類のドメインからなるタンパク数: exponential [Koonin et al., 2002] k個のドメインからなるタンパク数: power-law [Koonin et al., 2002] タンパク全体におけるドメインの分布: power-law [Wuchty, 2001] 進化に基づく数理モデルの構築 ネットワークそれ自体が進化するわけではない。進 化するのは遺伝子・タンパク質である。 タンパク質ドメイン進化の 数理モデル J.C. Nacher, M. Hayashida and T. Akutsu: Physica A, 367, 538-552, 2006 タンパク質ドメイン Domain: Well-defined region within a protein that either performs a specific function or constitutes a stable unit 3種類のドメインからなる タンパク質 タンパク質ドメインの例 D3 D1 D2 D2 D4 タンパク質ドメイン進化の数理モデル 別々のドメイン1個 からなる定数個の タンパク質 次のステップを n 回繰り返す a) 確率 (1-a) で、新規なドメイン1個からなる新規なタンパクを生成 (MUTATION) b) 上記が選択されなかった場合、1個のタンパク質をランダムに選んで、 そのコピーを生成 (PROTEIN DUPLICATION) 仮定:1個のタンパク質は1個のドメインから構成される Model (continued) Mutation Duplication of Protein a 1-a T times a ~ 1.0 i : ドメイン i k i : ドメイン i からなるタンパク質の個数 t i : ドメイン i が最初に生成された時刻 dk i ki a dt t t ki c ti PD (k ) k [ 1(1/ a)] PD(k): k 個のコピーを持つドメインの頻度 a As in Barabasi & Albert 1999 優先的選択型成長モデルとの比較 類似点 ドメイン i を持つたんぱく質の個数⇔ 頂点 i の次数 ドメイン i のコピーの生成 ⇔ 頂点 i への辺の接続 突然変異(新規ドメインの生成) ⇔ 新たな頂点の追加 相違点 k [ 1(1/ a)] vs. k 3 PD(1)=3 PD(2)=1 PD(3)=1 1-a a Duplication Mutation new edge a ~ 1.0 new node タンパク質相互作用ネットワークの 数理モデル J.C. Nacher, M. Hayashida and T. Akutsu: BioSystems, 95, 155-159, 2009 ドメインに基づくタンパク質相互作用モデル [Sprinzak & Margalit 2001, Deng et al. 2002] タンパク質が相互作用 ⇔ 相互作用するドメインペアが存在 ドメイン間相互作用 A X タンパク質間 相互作用 B Y C D Z ドメインの進化モデルとドメインに基づく相互作用 モデルの組み合わせ ドメインの進化モデル PD (k ) k [ 1(1/ a)] ランダムなドメイン間相互作用モデル Pr(Di interactswith Dj ) ドメインに基づく相互作用モデル タンパク質が相互作用 ⇔ 相互作用するドメインペアが存在 タンパク質相互作用ネットワークのスケールフリー性 PPPI (k ) k [ 1(1/ a )] 数理解析 1個のドメインペアをランダムに選択 x 個のコピーを持つドメインAと、y 個のコ ピーを持つドメインBが選ばれる確率は x y domain A domain B 次数が y となるタンパク質の個数の期待 値は K P r(nB y ) E[n A ] y 1 y x 2 2 K 1 1 x x dx nA=x =3 nB=y =2 K 2 1 y 2 ⇒ power-law分布 (しかし、中心極限定理によりドメインペアの個数が多い と正規分布) 3 proteins with degree 2 マルチドメインタンパク質進化の 数理モデル J.C. Nacher, M. Hayashida and T. Akutsu: BioSystems, in press. ドメイン融合と内部重複 (1) 1. 内部重複 1個のタンパク質内にある1個もしくは複数のドメインが重複 2. ドメイン融合 2個のタンパクが融合 ドメイン重複 突然変異 内部重複 ドメイン融合 二種類の分布 k種類のドメインからなるタンパク数 ⇒ exponential k個のドメインからなるタンパク数 ⇒ power-law [Koonin et al., 2002] A ドメインの種類 4 B ドメインの個数 A 3 C 2 B A A 1 B B C 1 2 3 重複、突然変異、融合のモデル化 (1) Ni(t) : 時刻 t において i 個のドメインからなるタンパク質 の個数 pm : 突然変異の確率 pd : タンパク質重複の確率 pf : ドメイン融合の確率 (t ) 1 (t ) 1 dN N pm pd dt t (t ) (t ) (t ) (t ) k 1 dNk Nk N k i N i pd pf dt t t t i 1 重複、突然変異、融合のモデル化 (2) dN1(t ) N1(t ) pm pd dt t k 1 dNk(t ) N k(t ) N k(t)i N i(t ) pd pf dt t t t i 1 ni(t) =Ni(t) /t , ni = ni(t) for t→∞ と置くと n1 pm pd n1 k 1 nk pd nk p f nk 1ni i 1 重複、突然変異、融合のモデル化 (3) 母関数を用いると以下の厳密解を得る nk pm p f 2pf (2k 2)! 4 pm p f 2 k 1 2 k!(k 1)! ( pm p f ) k Stirlingの公式を用いると以下の近似を得る ( pm p f ) 1 nk 2 p f (2k 1) k 4 pm p f pm p f nk はほとんど exponential distribution k 内部重複のモデル化 (t ) k dN ps dt N (t ) (k / r ) t (t ) k N ps t ni(t) =Ni(t) /t, ni = ni(t) for t→∞ と置くと nk ps n( k / r ) ps nk l ps ps n( k / r ) n( k / r l ) nk 1 ps 1 ps ps nk 1 ps log r k k p log r s 1 p s nk : power-law 突然変異、融合、内部・外部重複すべての組み合わせ dN1(t ) N1(t ) N1(t ) pm pd ps dt t t (t ) k (t ) k k 1 (t ) k i (t ) i dN N N N pd pf dt t t t i 1 ps N ((kt )/ r ) t N k(t ) ps t 厳密解を求めるのは困難 ⇒ 計算機シミュレーション まとめ ドメイン進化の数理モデル ドメインのタンパク全体にわたる分布: power-law ドメインに基づく相互作用モデルとドメイン進化モデル の組み合わせ ⇒ 相互作用ネットワークの次数分布: power-law ⇒ 既存モデル (e.g., duplication-divergence) より単純 マルチドメインタンパク質進化の数理モデル ⇒ k 種類のドメインからなるタンパク数: exponential ⇒ k 個のドメインからなるタンパク数: power-law ⇒ データベース解析とシミュレーション結果の整合性 ⇒ 内部重複の重要性
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