河川構造物エラー事例 事例ー1 : 護岸・築堤設計 (護岸根入高 、天端工、堤防強化について) 事例ー2 : 樋門設計 (新しい設計法への対応、継足し樋門の設計等 について) 事例ー3 : 水門設計 (揚圧力の考え方について) 事例ー4 : 床止工設計 (新しい設計法への対応、魚道設計について) 事例ー5 : 排水機場設計 (設計条件の妥当性、情報伝達に関わるエラー等 について) 河川構造 1 河川構造物エラー事例 【護岸・築堤設計】 近年、河川工学における知見が高まったことにより、 河川の特徴を踏まえた設計が求められてきている。 このため、河道特性に関するエラーの事例内容を 中心に紹介する。 また、堤防強化対策が重要とされてきている。この ため、堤防の質的強化(浸透破壊)に関わるエラー 事例も合わせて紹介する。 河川構造 2 築堤・護岸事例ー1 (護岸基礎根入高の設定に関するエラー) ① 検討対象範囲の判断エラー 設計概要) 低水護岸設計 : 設計区間200m 河川特性 : セグメント2-1 低水路蛇行が激しく 移動性の交互砂州 測量データ : 経年データなく、最新測量のみ 護岸基礎根入高の設定は、 以下の2手法の検討より実施した。 ・測量からの最深河床高 1.0m ・既往研究事例 1.5m ⇒ 採用 河川構造 3 当初設計の内容 平面図 砂州 低水路 砂州 砂州 設計範囲 H.W.L 1.0m (最大洗掘深) 1.5m(既往研究) 最深河床高 河川構造 高 平均河床 当初護岸基礎根入高 (既往研究成果) 4 上流区間設計 : 最大洗掘深(2.0m)の評価 過小評価した下流区間において護岸の根入高の 見直しが生じた。 設計変更 設計範囲 H.W.L 高 平均河床 高 最深河床 2.0m(最大洗掘深) 1.5m 当初設計の護岸根入高 護岸基礎根入高修正 上下流同様となる区間を含めて評価 河川構造 5 【エラー発生原因の分析】 上下流含めた河川縦断特徴を十分把握することが重要 この点に対する判断知識が乏しく、設計参考書のポイ ントのみで作業を進めたことによって生じたエラーである。 【改善策】 護岸設計等河川構造物の設計では、河道特性を十分 に把握できる技術者を育成することが重要である。 (構造設計+河川屋であること) 河川構造 6 設計河床高設定に関する留意事項 設計範囲外の河川上下流の特性を把 握したか 現状の砂州は固定性のものか、移動 性のものか 湾曲部など局所的な水理特性を把握し たか 河床材料の特性を把握したか 河川構造 7 【河床構成地層の縦断分布の把握における留意事項】 河床鉛直方向の地層分布構成が相違 現状の河床変動特性と相違が生じる場合があり留意が必要 設計時に詳細な調査は困難なケースが多い 施工時に留意する旨の記載が必要 既往の河床変動は、 砂礫河床による変動 既往最 高 深河床 高 設計河床 細砂 シルト系 砂礫層 粘性土 河川構造 河床掘削 河床変動に鋭敏な層が露出、 被災が生じる危険性が高い 8 築堤・護岸事例ー2 (低水護岸の天端工に関するエラー ) 【設計概要】 川幅約20mの中小河川における低水護岸の詳細設計 :練り石積み低水護岸(延長45m) 河川構造 9 【エラーの内容】 天端工に設計時の配慮不足により中規模洪水で護岸被災 被災内容:裏込め部が幅2m、深さ3m吸出し 水衝部で練り石積み低水護岸を採用 形状・構造:一般的な標準設計による(安定性照査未実施) 天端工 : 法覆工と違う護床ブロックマット工 幅1.0m 【エラー発生原因の分析】 天端工は法覆工と同じ工種とすべき 構造を変える場合は、代表流速に基づく流体力に対する力学 的安定性の照査が必要 今回の場合天端工の照査検討を実施していなかった。 代表流速が4.0 m/sを越える急流区間で、天端工+天端保護 工まで設置すべき 河川構造 10 【改善策】 法覆工天端部 : 土砂と河岸保護工との境は弱点 洪水時に流水が高水敷を流下すると当該箇所が侵食 され、裏側から損壊される場合が多い。 このため、天端工、天端保護工の検討を十分行うべき である。 また、一般的にセグメント1の河道における低水護岸に は、巻止め工を設置した方がよい。 河川構造 11 築堤・護岸事例ー3(堤防強化に関するエラー) 設計概要) 2取水堰の統合計画 : 計画湛水位の変更(水位上昇) 堤内地盤高 < 計画湛水位 計画湛水位の変更により、堤防強化対策が必要となった。 (浸透破壊に対する対策工) 河川構造 図 検討箇所の概要図 12 対象箇所】既往にパイピングの被災事例あり拡幅対策が実施済 検討】浸透流解析による堤防安定検討実施(堤体部砂礫層) 地質調査 : 小規模断面で2本のボーリング調査 対策工 : 堤防法尻部にドレーン工 当初浸透破壊検討 Bor No.1 対策前 H.W.L 腹付け盛土 (既設) Bor No.2 B 対策後 計画湛水位 堤内地盤高 ドレーン工設置 As1 Ac 河川構造 13 【エラー内容】 施工時にドレーン設置箇所が粘性土による腹付対策が 行われていることが判明 ⇒ ドレーン工効果検証を実施 以下のエラーが判明 ① 浸透流解析の条件設定エラー 周辺初期地下水位 ボーリング結果使用 堰の計画湛水位変更に伴う影響の考慮が必要で あった。 ② 既往対策の法尻部を粘性土使用 法尻の粘性土 : 堤体内の湿潤面が高くなる 河川水位の急降下時 :表法面の安全率が確保できない結果となった。 河川構造 14 新たな対策検討の結果 : 対策工を堤防前面への不透水層設置へ変更 設計変更後 Bor No.1 対策前 H.W.L Bor No.2 粘性土 B 対策後 計画湛水位 堤内地盤高 As1 Ac 河川構造 図 変更検討結果 15 【エラー発生原因の分析】 ①周辺地下水位の状態は、河川水位の変動により変 化し、このことをモデルに反映していなかった。 ②堤防履歴の確認をしていなかった。 堤防の脆弱箇所での被災履歴把握は重要 また、当該箇所のみ法尻部に腹付け盛土がされてい たことから、既往の対策実施が推定可能 この予測のもと、地質調査位置への配慮が不足 河川構造 16 【改善策】 堤防の強化対策を行う場合、過去の被災や既往対策 の過程を十分に把握して上で、調査計画を立案し、 その上で対策工の検討を行うことが必要である。 なお、古い対策箇所等が把握できない場合は、 現地状況などから想定できる力を持つことも必要 (可能な範囲でのリスク管理) 河川構造 17 河川構造物エラー事例 【樋門設計】 河川堤防強化や既設樋門の老朽化により、 今後樋門の改築設計業務が増加すると考えられる。 これより、樋門の改築設計における設計エラー事例を中心に紹介 する。 河川構造 18 樋門事例ー1 (継足樋門の地盤対策工に関するエラー) ・堤防拡幅に伴う既設取水樋門の改築 ① 既設樋門の健全度調査より老朽化が進行していない。 ② 経済性に優位である継ぎ足し形式を採用。 一部撤去 堤防増設 柔構造樋管の継ぎ足し 河川構造 19 ○ 当初設計 ・継足部の沈下量35cm(>柔構造樋門の許容沈下量30cm) となり、地盤対策工が必要。 ・非出水期施工かつ、取水樋門の改築であるため非灌漑期 で単年施工を基本 (施工期間 6ヶ月間) プレロード工法には約4ヶ月必要 単年施工が不可能と判断。 地盤改良工法 を採用 地盤改良工法 30cm以上 河川構造 20 【エラー内容】 設計者の検討 ・プレロード盛土規模=拡幅する堤防高の規模 4ヶ月必要 指摘事項 ・プレロード盛土規模を拡大 施工期間の短縮が可能 ・プレロード工法に対し地盤改良工法は不経済 再検討結果 ・プレロード盛土規模を拡大 2.5ヶ月まで短縮可能 プレロード工法に修正 河川構造 21 【エラー発生原因の分析】 ・プレロード工法の不採用 →盛土高および地盤の評価に対する検討が不十分 当初サーチャージ盛土も視野 基礎地盤の安定性から限界盛土高を計画堤防高までと判断 盛土施工に伴う強度増加考慮 サーチャージ盛土可能 河川構造 22 【改善策】 ・プレロード工法は経済性に優れ、地盤を改良する必 要がないため地盤対策として優先的に採用すべき 工法である。 ・プレロード工法を不採用とするには、施工期間、経済 性を十分な検討し、決定しなければならない。 留意事項 取水樋門の改築において、継足形式とする場合は単年施工 が基本となり施工期間の制限が厳しくなる。このため、プレ ロード工法の採用に際しては、十分な検討を行う必要がある 河川構造 23 樋門事例ー2 (残置杭の評価に関するエラー) ・既設樋門の健全度調査の結果、部材の老朽化が進行していた。 ・既設樋門を撤去し全面改築をすることとなった。 ・既設樋門の基礎形式は杭基礎であり、樋門撤去の際、杭頭のみ を切断し杭は残置するものとした。 柔構造樋門に 全面改築 杭頭切断・残置 河川構造 24 ○ 当初設計 ・残留沈下量の計算より、最大沈下量は25cm程度となり、許容沈 下量(30cm)以下となるため、地盤対策は不要と判断。 ・残留沈下計算では、残置した杭の影響は考慮していなかった。 可撓継手を設置 25cm程度 杭の影響は考慮し ていない沈下曲線 河川構造 25 【エラー内容】 指摘事項:残置した杭の影響を考慮していない。 ・ 杭の影響により継手の相対変位量が許容値以上となる。 ・ 杭の影響で中央スパンは殆ど沈下しないため、過大な配筋量 となる。 杭を考慮した沈下曲線(推定) 相対変位が許容値以上となる 15cm程度 過大な配筋量となっている。 河川構造 26 【修正後の考え方】 プレロード工法により、圧密沈下を収束させ、継手に生じ る相対変位量を軽減。沈下が収束した状態で構造計算を行う。 【エラー発生原因の分析】 杭残置の地盤 : 沈下量の評価方法が確立されていない。 既設杭を評価せず 沈下量大 大きな応力が作用し安全側と判断 継手部では過小設計 【改善策】 杭基礎を有する樋門の改築設計手法を確立する必要がある。 また、現段階では技術者の判断となるため、多角的に杭等の影 響を評価し設計を行う必要がある。 河川構造 27 樋門事例ー3 (遮水矢板設計に関するエラー) 軟弱層2.0mの下部 遮水矢板の設計 支持抵抗となる砂質層が分布 砂質層の支持バネが懸念 確実に貫入する2.5mで設計 縦方向の設計 遮水矢板を支持バネとして設計を実施 河川構造 図 基礎地盤状況 28 遮水工の設計 遮水壁と遮水矢板の接合部は、砂層の支持に伴い可撓 矢板は必要ないものと判断 その後、地質担当者から樋門の横断的な方向での沈下 が相違している点が指摘 (堤防嵩上げにより、砂層下の粘性土が圧密沈下) 可撓矢板を設置することに変更 河川構造 29 【エラー発生原因の分析】 設計当初は、地質担当者との協議を実施 詳細部の最終的な判断を独自に判断した 【改善策】 沈下量の検討(縦方向のみでなく横断方向も確認必要) 地質的な判断が重要な条件:地質技術者との共同が必要 設計と調査が分離されて発注 設計者は、発注者を通じて、 地質調査者と必要に応じ合同協議を提案する事が必要 河川構造 30 河川構造物エラー事例 【水門設計】 水門等河川構造物における揚圧力と浮力の 取り扱いによるエラー事例紹介と、考え方つ いて述べる 河川構造 31 水門事例-1 水門設計における技術的判断に関するエラー エラー1 翼壁構造のエラー(旧指針や既往事例による判断) 旧指針 : 3m以上の河川幅 水叩きと翼壁は分離が一般 一体構造と分離構造の比較検討の結果、一体構造でも構造形式とし て十分対応可能であり、一体構造が経済的であることが判明し、修正 を行った。 見直設計 経済的にも構造 的 にも有利 当初設計 河川構造 32 エラー2 揚圧力照査におけるエラー U型構造翼壁における揚圧力照査におけるエラー U型構造における揚 圧力計算を右図に示 す流水方向に対して のみ行っていた。 河川構造 33 U型翼壁における揚圧力検討は、前述の 流水方向に対する検討の他、横断方向 に対する検討が必要である。 河川構造 34 【エラー発生原因の分析】 <エラー事例-1> 技術的判断の基準が示方書、基準書からの譲り受 けとなっており、技術的な判断ができていない、また は、基準の知識不足に原因があると考えられるエラー である。 河川構造 35 エラー2) 逆T型翼壁の揚圧力照査におけるエラー 逆T型擁壁における安定計算において、設計者は水位以下の 躯体重量を水中重量(浮力考慮)として計算を行っていた。 さらに、擁壁フーチング上面に水重を考慮し安定計算を行っ ていた。 河川構造 36 <エラー事例-2> 河川構造物における逆T擁壁は、橋梁橋台のように 単体で存在することなく、連続体で存在することから、 内外水位差が発生する。 従って、河川構造物の設計では、浮力の考え方は取 り入れず、全て、揚圧力で考えるのが一般的である。 河川構造 37 水位差が生じる場合、コンクリート内の水位を設定するこ とは困難である。また、背面底版側で揚圧力が大きくなる ことから、転倒に対して不利となるが、浮力による検討で は、この点について、計算上評価することが出来ない。 河川構造 38 U型構造における揚圧力検討エラー(検討を行っていないエ ラー)は、特に、プレキャスト製品を使用した場合に多く発生 する。これは、既製品を使用することにより、設計者自らが構 造計算を行わないことに起因していると考えられる。 プレキャスト製品の場合、自重も小さく、揚圧力に対して安定 性が現場打ちコンクリートに比べ不安定となることもあり、 特に注意が必要である。 河川構造 39 河川構造物エラー事例 【床止工設計】 新たな設計方法に関するエラーや魚道に関するエラーを 中心に紹介する。 床止工事例ー1 (水叩き工長設定におけるエラー) 従来設計:浸透破壊を対象(ブライの式) 改訂後の設計:越流水落下による下流側河床 の洗掘を対象(ランドの式) +浸透破壊を対象(ブライの式) 河川構造 40 ランドの式の考え方 W/D=4.3×(hc/D)0.81 W:水叩き長(m) D :落差高(m) hc:限界水深(m) 河川構造 41 ケース1) 設計条件 計画高水流量 :360.0m3/s 河川幅 :40.0m 計画水深 :4.5m 河床勾配 :1/2,000 落差高 :1.0m 水叩長 :L=8.0mと設計 W=4.3×(hc/D)0.81×D =4.3×(2.1/1.0)0.81×1.0 ≒8.0m 河川構造 42 ランド式の適用範囲:完全越流時 河川砂防技術基準(案)における記述 「水叩き長の計算は低水流量から 計画流量のうち完全越流から潜り越流に変化する限界条件 (一般的にはhc+D=h2でよい)について行なう。」 本設計対象施設は、計画高水流量時には潜り越流状態であった。 河川構造 43 水叩長の最適設計 完全越流時の最大流量を対象流量(240m3/s)として照 査を実施 その結果、水叩長 L=6.0mとなり、当初設計L=8.0m は過大設計と判明 河川構造 44 ケース2) 設計条件 計画高水流量 :360.0m3/s 河川幅 :40.0m 計画水深 :4.5m 河床勾配 :1/2,000 落差高 :2.0m 水叩長 :L=8.0mと設計 W=4.3×(hc/D)0.81×D =4.3×(1.8/2.0)0.81×2.0 ≒8.0m 河川構造 (設計対象流量Q=295.0m3/s) 45 設計担当者は、従来の浸透路長の確認を実施していなかった 施工前に照査実施(河床:粗砂) ブライの式 W=0.6 Co √D W:水叩き長 Co:ブライの浸透路係数 D:水叩き天端高から 本体天端高までの高さ(m) 区 分 Co 微細砂またはシルト 18 細 砂 15 粗 砂. 12 砂、砂利混合物 9 玉石混じり粗砂利 4~6 Co:12.0で照査 その結果、水叩長は10.5mとなり、当初設計8.0mは 過小設計と判明 W=0.6×12√2.0 ≒10.5m>Randの式8.0m 河川構造 46 【エラー発生原因の分析】 エラー1 ・落差工部の越流における水理的な現象に対する理解不足 エラー2 ・新たな設計法が示される中で、チェックポイントが不明確と なったことによるエラー 【改善策】 技術者における基礎的な力を常に向上させておくことが不 可欠である。 また、このように新たな設計手法になった場合、 想定されるエラーについて内部で十分に吟味し、社内におけ るチェックシートを、適宜変更しておくことが必要である。 河川構造 47 床止工事例ー2 (設計荷重の入力ミス) 床止め工の安定計算に用いる一般的な荷重 河川構造 48 低水路の澪筋確保のため切欠を設定した断面の設計 切欠部の天端高 実際の天端高 計算者が確認した標準縦断図 河川構造 49 荷重条件のエラー 計算担当者は下図のとおり、切欠部の天端高からの 水圧とした条件で設計を実施 切欠部の天端高 河川構造 50 【エラー発生原因の分析】 条件設定を行う設計者と安定計算などを実施する設計 者の間において意思疎通が十分図られていなかったた め生じたエラー 【改善策】 環境への配慮などから、極め細やかな設計が要求され てきており、従来のような比較的単純な構造が少なく なってきている。 このため、細かな点まで、関係担当者が十分に理解し て設計を進めるよう、徹底した情報共有化を図るシステ ム作りが必要である。 河川構造 51 床止工事例ー3(魚道工設計における流量設定のエラー) 河川の床止工に魚道工を設置する設計において、現況河道の澪筋 の状況を考慮し、魚道を右岸側に設置した。 設置後、魚道機能は発揮できたが、魚道下流部での河岸侵食が著し くなり、堤防機能に支障をきたしかねない事態が生じた。 河川構造 52 【エラー発生原因の分析】 ・計画地点の右岸側は高水敷幅が少ない水衝部 ・常時安定した流水の確保が可能 (魚道設置には条件的に適している) ・堤防安定に対しては対策が必要な箇所 魚道設置により、中小洪水時の流水の集中がさらに 著しくなり、下流側での河岸洗掘が発生しやすい状 況となって発生したエラーである。 河川構造 53 魚道設計にあたり、設置地点の河道特性を充分に把握し、 右岸高水敷造成、左岸砂洲の掘削等により、水衝部対策を 併用した魚道設置を提案すべきであった。 河川構造 54 河川構造物エラー事例 【排水機場設計】 設計条件の妥当性や、樋門との接合部の考え方に関する エラーを中心に紹介する。 排水機場事例ー1 設計地下水位の設定エラー ○計画地点の地層は緩い砂礫層 ○地下水の利用により地下水位の変動 が大きな地域 ○常時地下水位は、地質調査結果の 孔内水位を使用 河川構造 55 地質調査時期を考慮せずに孔内水位から 地下水位を高く設定してしまったため、揚 圧力が大きくなり、鉛直荷重が過小に評価 された 河川構造 56 【エラー発生原因の分析】 設計条件の一覧表での照査 地下水位の項目が同一である事で問題ないもの として判断されて行ってしまった。 【改善策】 照査時点における作業を簡便化したため、本来 必要である個々の構造に対する設計条件につい て行われず、照査が機能しなかったことにある。 設計時の各段階での照査が確実に行われるよう にする。 河川構造 57 排水機場事例ー2 基礎構造の違いによる挙動特性の配慮 不足のエラー ○吐出水槽基礎は杭基礎を採用 ○樋管基礎は、堤防部の地盤沈下に追従で きるように柔支持基礎を採用 河川構造 58 ○樋管と吐出水槽の接続は、吐出水槽 からのソケッ ト構造として接続 ○計算条件と不一致 ○柔構造樋管樋管の特性を活用できて いない構造 柔支持基礎 杭基礎 河川構造 ソケット 構造 59 継手構造の変更 耐圧ゴムプレートによる継手構造へ変更 耐圧ゴムプレート により吐出水槽と 樋管を接続 河川構造 60 【エラー発生原因の分析】 本エラーは、剛支持の機場と柔支持排水樋管との相違 した基礎構造における接合部で生じたエラーである。 それぞれの構造形式を理解せずに実施されたため 【改善策】 杭支持基礎と柔支持基礎が混在する施設で、近年既設 樋管の継足しなどにおいても同様にこの種のエラーが 生じる可能性がある。 このため、「樋門補強マニュアル(案)」などを参考に、社 内におけるマニュアル作成が有効と考えられる。 河川構造 61 排水機場事例-3 排水機場詳細設計における情報伝達に関わるエラー 【設計概要】 排水機場設計では、土木施設、建築施設(操作 室)、機械設備(ゲート設計)の詳細設計があり、 社内の各部所で分業される箇所の設計に関する エラーについて紹介する。 河川構造 62 エラー2)操作室、機械設備設置のための挿筋図の編 集に関するエラー 操作室設置挿筋図は建築設計部門で作成 機械設備設計の挿筋図は機械設計部門で作成 図面編集において、挿筋図は各々建築・機械設備編図面集 に編集し、提出していた。 工事発注は、土木工事、建築工事、機械設備工事に分割発注 され、土木工事が先行して施工着手することとなっていた。 工事発注後、土木工事現場からの問い合わせにより、土木 発注工事に操作挿筋図が含まれていないことがわかり、工 事変更により、操作室挿筋図を変更増とした。 河川構造 63 【エラー発生原因の分析】 樋門、水門、揚排水機場等設計の分業化に伴い多く発生する打 合せ、連絡不足に起因するエラーである。 各 部 所 間 の 設 計 打 合 せ の 不 足 、 情 報 の 共 有 化 が で き て いな い、)工事発注方式を念頭にいれた図面編集がなされていない ことが原因と考えられる。 【改善策】 作業の分業化が必要な河川構造物の設計においては、打合せ・ 情報共有化が重要となる。 また、設計者自らの照査と共に、第三者によるレビューの実施 が重要となる。 河川構造 64 排水機場事例-4 取水ポンプにおけるエラー 【設計概要】 河川改修に伴う、既設揚水機場の全面改築設計業務 ・取水施設の設置位置は河川改修前と同じ位置 ・吸水部は堤外地に水中ポンプを設置し取水する ・ポンプを使用しない期間はポンプ本体を引き上げ 吸水槽内の格納庫に設置することとしていた。 河川構造 65 【エラーの内容】 ポンプ設備の維管理を考え、格納施設を設置したが、河川 改修に伴う中小洪水時の水位の変化に注意を怠り、格納庫の 高さが低く、ポンプ設置期に冠水する施設となっていた。 河川構造 66 【エラー発生原因の分析】 取水施設であるため、渇水時の水位設置には細心の注意を 払って設定を行ったが、中小洪水時の維持管理についての配 慮が不足していた。 施設の完成形が想定できていないために発生したエラーであ る。 【改善策】 河川における水理現象を十分把握し、渇水時から洪水時まで の状況を把握して設計を行う必要がある。 特に、河川改修により現況河道状況が大きく改変される場合 は、改変の状況を充分に予測し設計を行うことが大切である。 河川構造 67 まとめ 河川構造物エラーの特徴 河川特性の判断力不足によるエラー 構造物の水位条件の判断エラー 施工計画反映に関わるエラー 土木施設以外との情報伝達エラー 新しい設計法への対応不足 多くの基準対応の必要性から生じるエラー 照査要領が未作成(堰、水門等) など 河川構造 68 エラー防止に有効となる今後の方策 方策の1つとして照査要領の肉付け 現行の照査要領の記述は、チェック項目としては有 効であるが、以下の課題がある。 抽象的な表現が多い このため、具体的なチェック内容が記載さ れていない。 河川構造 69 チェックシートの肉付け(案) 照査・ 確認項目一覧表の作成要領 N o. 項 目 5 設 計 基 本 条 件 主 な 内 容 照査要領の詳細項目の設定方法 照 査 要 領 1)築堤の計画断面及び 施工断面は妥当か 2)護岸形式は適正か 3)護岸基礎形式は適正か 4)洗掘深の設定は妥当か 河道全般におけるチェック項目 ・ 河川上下流の特性を把握したか ・ 砂州は固定的なものか移動性なものか ・ 湾曲部等の水理特性を把握したか ・ 設定河床付近の土質状況を把握したか ( 河床掘削後の河床構成材料の確認) 経年的な変動からの設定におけるチェック項目 ・ 最深河床の設定は、縦断的な包絡線から 行われているか。 ・ セグメント2-2区間は別の評価方法を利用する ことが望ましい。 既往研究からの設定におけるチェック項目 ・ セグメント別の評価が行われているか。 ・ 設定に用いる水深は、平均年最大流量時の物が 用いられているか。 ・ 砂州の波高は、最深河床高からの設定になっているか。 ・ 湾曲部及び構造物周りの評価は行っているか。 河川構造 70 補足事例ー1(水制工設置に関するエラー) 設計概要) 河岸侵食対策 : 河岸侵食による崖部の崩壊 対象区間 : 全区間に渡り自然河岸 河岸侵食 : 湾曲水衝部に大規模な洗掘 図 検討箇所の概要図 河川構造 71 護岸単独対策:護岸設置による流速増加、洗掘の進行懸念 対策工 :自然環境への配慮から護岸+水制工 +水面下に魚巣ブロック配置 当初河岸保護の目的は達成 ただし、水制工の設置による2次的な影響の発生 ・ 下流対岸において大規模な河岸洗掘の発生 ・ 護岸部前面の土砂堆積で魚巣ブロックの埋没 河川構造 図 対策後の状況 72 【エラー発生原因の分析】 下流での新たな侵食 : 河川連続性を加味すれば十分に推測可能 事前に具体的な対策が提示されなかった。 魚巣ブロック設置 : 土砂堆積は予測していた。 護岸全面が土砂堆積する事はなく、 一部で魚巣ブロックが機能すれば問題 がないと考えた。 ただし、 報告書への明記、発注者への確認を怠った 河川構造 73 【改善策】 下流の侵食 設計時点で予測可能な2次的な影響 ・ 河川の連続性を十分に踏まえた判断力が必要 ・ 設計時に2次対策含めた案の提示 魚巣ブロックの設置 魚巣ブロックの土砂埋没を予測したが、一部施設 の機能を狙ったもの(設計思想)。 ・ 重要事項に対し 発注者と協議し議事録に留めておくこと ・ 報告書に明確に記述しておくこと 河川構造 74 (環境関連事業の判断) 環境に対する投資には様々な意見があるため、 現段階での事業の妥当性評価には議論が分かれる。 そのため、 ・設計当初における考え方を明確にしておくこと ・地元住民や学識経験者などの意見ヒアリングの実施 ・場合によっては、住民参加による川作りの開催 など が必要である。 河川構造 75 補足事例ー2 (改築後の樋門延長に関するエラー) ・川側に腹付盛土を行うことで、堤防強化を行う計画となっていた。 ・堤防強化に伴い、既設の樋門を改築することとなった。 ・既設樋門の老朽化は進行しており、全面改築を行うこととした。 ・堤内側は5m程度平場となっており、樋門は取水枡に接続されていた。 ①既設樋門概要図 平場 取水工 約5m 河川構造 76 法尻部を既設樋門と同様箇所までの範囲とし 樋門長 L=38.0mで設計 堤防の定規断面 既設と同様の 構造で設計 河川構造 77 【エラー内容】 経済性から堤防の定規断面区間までを樋門 すりつけ部を開水路。 樋門長:32mに短縮 開水路に修正 河川構造 78 【エラー発生原因の分析】 樋門延長を既設樋門長と同様にすることとし、コスト縮 減の観点がないまま設計を実施した。 【改善策】 改築設計においては、既設の復旧が基本となるが、 可能な範囲で経済性を追求することが必要である。 河川構造 79
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