企業法Ⅰ(商法編) 講義レジュメNo.03 商法の基本概念(商人と商行為) 固有の商人と擬制商人 絶対的商行為と営業的商行為 商人資格の得喪 テキスト参照ページ:9~22p 1 講義のねらい • 商法における基本概念である商人 の意義と商行為の意義を理解する とともに、相互の関係を理解する。 • 商人や各商行為の意義を理解し、 具体例をあげられるようになるこ とを目的とする。 2 1.商法の適用対象 これを明らかにするために商人と商行為という 二つの概念が用いられるが、その概念の定め方 については、3つの立法主義がある。 i. 客観主義:まず商行為の概念を定め、それを営業 とする者を商人とする立場 ii.主観主義:まず商人の概念を定め、その営業上の 行為を商行為とする立場(会社法) iii.折衷主義:両者の方法を併用する立場(商法) 3 2.日本の商法の定め方(1) ア.一定の行為を絶対的商行為および営業的 商行為と定める→これらを併せて基本的 商行為と呼ぶ イ.基本的商行為を営業とする者を商人と定 める:固有の商人と呼ぶ ウ.それ以外の一定の者をも商人とみなす: 擬制商人と呼ぶ エ.固有の商人と擬制商人が営業のためにす る行為をも商行為(附属的商行為)とす る 4 個人商人に限る 絶対的商行為 501条 為 商 営業的商行為 502条 基本的商行為 営業とする 固 有 の 商 人 四 人商 条 一 項 行 附属的商行為 503条 営業のためにする 店舗物販人 (準商行為) 旧523条削除 営業とする行為 鉱業を営む者 民事会社(削 除) 擬 制 商 人 四 条 二 項 商行為を 営業とは しないが、 経営形式 や企業的 設備に着 目して商 5 人とみな される者 会社の場合 株式会社 会社を右の ように定義する 合名会社 合資会社 (会社2①) 合同会社 (会社2②) 外国会社 事業としてする 事業のためにする 商 行 為 ( 会 社 5 ) つまり、会社は商法501条または502条の商行為 を行うか否かにかかわらず、すべて「自己の名をもっ て(会社3)、商行為をなすことを業とする者」である といえる=固有の商人(商4Ⅰ) 6 会社法5条と商法503条2項 • 会社には事業としてする行為か、事業のためにす る行為しかありえないので、附属的商行為性の推 定規定(商503Ⅱ)の適用はない(会社法立法担 当者、学説の多数説) • 会社の行為には、事業としてする行為、事業のた めにする行為、そのいずれにも当たらない行為、 が存在するが、会社は商人(4Ⅰ)であり、商 503Ⅱの推定が働くため、商行為性を否定する者 が、事業のためにする行為でないことの主張・立 証責任を負う(判例:最判H20.2.22) 7 ※基本用語解説 • 「業として」と「営業のために」 – 「業(事業)として」:営利追求の目 的のために反覆継続的に行う本来の営 業行為として行う法律行為(営業とし て、事業として) – 「営業(事業)のために」:本来の営 業行為の補助として行う法律行為や準 法律行為 例:資金を借りる、従業員を雇うなど 8 ※基本用語解説 • 「推定」と「擬制(みなす)」 – 「推定」:ある事実が一応存在するこ とを認めるが、これに反する証拠の提 出があれば覆される(反証の余地があ る) – 「擬制」:ある事実が存在する、ある いは真実であるとみなし、反対の主張 (反証)を許さない 9 3.商人(個人商人に限る)の意義 固有の商人と擬制商人: (営業とする行為)による分類 ア.固有の商人:自己の名をもって商行為をすること を業とする者(4条1項) イ.擬制商人:固有の商人ではないが、商人と「みな される」者(4条2項) a.店舗その他類似の設備によって物品の販売を することを業とする者「店舗物販人」 b.「鉱業」を営む者 10 3.商人の意義 • 小商人(定義は商法施行規則3): – 営業の用に供する財産につき貸借対照表に計上し た額が50万円を超えない商人(会社には適用されな い) • 以下の規定は、小商人には適用されない – 商業登記に関する規定(5,6,8~10:第3章) – 商業帳簿に関する規定(19:第5章) – 商号の登記に関する規定(11Ⅱ・15Ⅱ・17Ⅱ前) – 店舗使用人に関する規定(26条) 11 4.絶対的商行為と営業的商行為 I 絶対的商行為(501条): ・行為の客観的性質から強度の営利 性があるものとして、営業としてな されるか否かにかかわらず、商行為 とされる ・商人でない者の間で行われた場合で も、民法ではなく商法の規定が優先 して適用される。 12 1号:投機購買及びその実行行為 • 「利益を得て譲り渡す意思(投機意 思)」をもってする、動産、不動産、有 価証券の「有償取得」 →有償取得:仕入れ・原材料の購入、交換、消 費貸借、請負、委託売買を含む • その取得したものの譲渡を目的とする行 為(実行行為)→実行販売 ※仕入れたものに手を加えて (製造・加工)譲渡してもよい 13 ②部品からデジカメを生産 ①部品の購入 CASIO ③製品を出荷 投機購買とその実行行為は それぞれいくつありましたか? 精密機械生産業者 家電量販店 ④一般消費者に販売 14 具体例 • (小売業・卸売業)等の流通業 • (製造・加工業)等 ※原始取得した農産物、海産物、鉱物等を譲渡 する行為は商行為ではない 本を購入する時点では自分で使う(読む)つもりだっ ※自己利用目的で購入した書籍を古書店に売る た場合、購入する時点で利益を得て譲渡する意思 行為は投機購買とその実行行為に当たらない がなかったことになるから →なぜか? 15 2号:投機売却及びその実行行為 • 他人から有償取得すべき動産または 有価証券の供給契約(投機売却) • その供給契約の履行のためにする物 品の他人からの有償取得を目的とす る行為(実行行為) (例:予約販売、先物取引など) ※供給契約:契約締結後一定の時期に目的 物の所有権を譲渡する旨の有償契約 16 投機購買と投機売却の違い • 投機購買と投機売却とでは、仕入れと販 売の順序が逆 • 投機売却の目的物には不動産を含まな い: →不動産は、目的物が特定されるため、 性質上なじまないから 17 3号:取引所においてする取引 • 金融商品取引所(証券取引所)およ び商品取引所で行う取引 ※取引所とは:多数の商人(会員)が定期的に集 合して、一定の商品・有価証券などの取引を大 量になす設備を備えた法人 ※近時、国際的競争力強化のため株式会社化・非 会員組織化への改革が行われている(東京証券 取引所、大阪証券取引所、名古屋証券取引所な ど) 18 4号:手形その他の商業証券に関 する行為 →有価証券(手形・小切手、株券、貨物 引換証など)上になされる振出、引受、 裏書などの行為(通説) →有価証券自体を目的とする売買などの取引 行為を含むとする判例もある(大判昭6/7/1) 19 Ⅱ 営業的商行為 • 営業として行う場合にはじめて商行為と される行為(502) • 但し、もっぱら賃金を得る目的で物の製 造や労務に服する者の行為は、商行為で はない(同条柱書き但書) →例:小規模な賃金労働や手内職など • 同条の規定は限定列挙と解されている: 商法の適用の有無を判断する基準となる ため、明確さが重要(38事件参照) 20 1.投機賃借とその実行行為 • 例:不動産賃貸業、各種レンタル・リー ス業(貸本、貸衣装、CD,DVDレンタル業、 レンタカーなど) • 賃貸目的で動産または不動産を有償取得 するか賃借する行為(投機賃借) • 取得または賃借した物を他人に賃貸する 行為(実行行為) • 有価証券は営業としての貸し借りにはな じまないので目的物に含まれない 21 2.他人のための製造・加工 • 他人の計算で製造・加工すること:原材 料を注文者から受け取るか、その費用を 注文者が負担して、製造または加工する ことを有償(手数料)で引き受ける行為 • 製造:原材料を全く異なったものにする • 加工:物の同一性を失わない程度で材料 に変更を加える 22 3.電気・ガスの供給 • 電気(電力)、ガスの供給を有償で 引き受ける行為 • 電気事業法、ガス事業法により、電 気やガスの供給事業を行うためには、 経済産業大臣の許可が必要⇒新規参入 は困難 – 例:関西電力、大阪ガスなど(通常、会社 形態で行われるため会社5により商行為と なる 23 4.運送に関する行為 • 有償で運送(人や物を場所的に移動 させる)を引き受ける行為 • 人を輸送する:旅客運送(鉄道・バ スなど) • 物を輸送する:物品運送(宅配業者、 運輸業) – 例:旅客・物品等の運送業者 24 5.作業・労務の請負 • 作業:道路の建設、家屋・工作物の 建築、船舶の建造など • 労務:労働者の供給 • 具体例: – 不動産工事の請負(建設業) – 労働者供給の請負(※人材派遣会社) 25 6.出版・印刷・撮影 • 出版:文書等を印刷して販売・頒布 する行為 • 印刷:機械力または化学力をもって 文書・図画の複製を引き受ける行為 • 撮影:写真の撮影を引き受ける行為 – 例:出版、印刷業者、新聞社、写真撮 影業者 26 7.場屋取引 • 多くの人の来集に適した施設を準備して、 来集した客の需要に応える諸種の契約 • 例:旅館、飲食店、浴場、野球場、劇場、 遊園地等 • 理髪店について争いあり →場屋営業者(場屋の主人)には客から預 かった物の滅失・毀損について重い損害 賠償責任(594)が課せられる 27 8.両替その他の銀行取引 • 例:両替商、銀行などの金融業者 • 銀行取引:与信行為(融資業務)・受信 行為(預金業務など)の双方を行うこと が必要 →与信行為のみを行う貸金業(消費者金融・ノ ンバンク)、質屋営業は含まれない(通説・判 例) ※では、アコム、武富士、プロミス、アイフルな どは商人ではないのか? 28 9.保険 • 営利保険業者:対価を得て保険を引き受 ける行為 – 生命保険株式会社、損害保険株式会社 • 非営利の保険:社会保険、相互保険はこ こでいう商行為としての保険ではない – 保険相互会社とは?: 保険業法に基づいて保険業にのみ認められる特殊 な会社(会社法上の会社ではないが、商法・会社 法の多くの規定が準用される:保21) 例:ニッセイ、第一生命、明治安田生命など 29 10.寄託の引受 • 寄託:他人のために物の保管を引き 受ける行為(民657以下) • 例:倉庫業者、駐車場、トランク ルームの経営など 30 11.仲立・取次 • 仲立:他人間の法律行為の媒介を引 き受ける行為(法的性質は準委任) – 仲立人・民事仲立人(不動産仲介業者 など)・媒介代理商 • 取次:自己の名義で他人の計算にお いて法律行為を引き受ける行為(委 託者との関係は委任関係) – 問屋・準問屋・運送取扱人 31 12.商行為の代理の引受 • 委託者(他の商人)である本人に とって商行為である行為の代理を 引き受ける行為 • 具体例:締約代理商 – 旅行代理店、損害保険代理店など 32 5 附属的商行為(503) • 附属的商行為とは:商人が「営業のため に」する行為で、基本的商行為と同様の 規制をうける =本来の営業目的の行為を助ける手段的な行 為(1項) • 例:店舗の借り入れ・購入、従業員の雇用、 営業資金の借り入れ、商品の配送委託等 33 ・附属的商行為の推定(2項) • 趣旨:個人商人の場合、個人の私生活上 の行為か、営業のための行為か明らかで ない場合があり得るので、取引相手の保 護のために商人の行為は営業のためにす るものと推定した =商人と取引する者は、通常商法の適用を念頭に 行為すればよく、商行為ではないと主張する側 が営業のためになされたのではないことを証明 する責任を負う。 34 6.準商行為(旧商523) • 擬制商人の「民事会社」が「営業として」する 行為=商行為に関する規定が「準用」される • 趣旨:民事会社が営業のためにする行為は附属 的商行為として商行為に関する規定が適用され るが、本来の営業の目的たる行為には民法が適 用されるというのは均衡を失することから、準 商行為として商行為に関する規定を準用するも のとした • 会社法は、会社が事業としてする行為を商法上 の基本的商行為か否かにかかわらず商行為とし たため、民事会社・準商行為という概念は廃止 35 された ※民事会社以外の擬制商人に ついては準用されないのか? →立法のミスとして他の擬制商 人にも類推適用する(旧通説) ・改正商法からは523条は削除されたので、類推適用 もできなくなるため、民事会社以外の擬制商人の営業行 為は商行為とは扱われないこととなる→民法の規定が 適用されるとなりそうであるが、附属的商行為との均衡 上、商行為法の適用を受けると解する見解が有力 36 7 一方的商行為(3) • 当事者のどちらか一方にとって商行為となる行為 については、原則としてその双方に商法が適用さ れる(Ⅰ) • 当事者の一方が複数人の場合で、そのうちの一人 にとって商行為となる行為については、その全員 に対して商法が適用される(Ⅱ) • ただし、当事者双方が商人である場合(商人間の) や、当事者の特定の一方が商人である場合(商人 が)にのみ適用される規定もあるので、個々の規 定について適用範囲を注意する必要がある 37 8 商人資格の得喪 • 自然人:(1)商人資格の取得の可否 – 「権利能力」(民3Ⅰ)に制限がないので、 誰でも商人となり得る。 – 但し、単独で有効に営業するためには「営 業能力」が必要 – 「未成年者」について:民4~6、商5、 会584参照 – 後見人が代理する場合、登記が必要で代理 権に制限を加えても善意の第三者に対抗で きない(商6) イ)成年被後見人 • 後見人(法定代理人)が成年被後見人を代理 して営業を行い、それにより成年被後見人が 商人となる(民9、859、864条参照) • 後見人の登記を要する点、代理権の制限を善 意の第三者に対抗できない点は、未成年者の 後見人と同じ(商6) ロ)被保佐人 • 民13条に列挙された重要な財産の処分を行う には、保佐人の同意が必要であるが、それ以 外の行為は単独で有効に行うことができる • しかし、営業活動には保佐人の同意を要する 行為が多く含まれる→取引のたびに保佐人の 同意を得ながら営業を行うことは事実上困難 • 被保佐人について営業許可の制度はなく、保 佐人も法定代理人ではない • 被保佐人は営業活動において制限行為能力者 の中で不利な立場にある (2)商人資格の取得時期 • 営業自体を開始しなくても、営業の意思を実 現する開業準備行為の時点で商人資格を取得 し、その開業準備行為がその商人の附属的商 行為となる(判例・通説)→具体的にどのよ うな行為が商人資格を取得させる開業準備行 為となるかについては、諸説が分かれる イ)画一的に決定する立場 1. 表白行為説(旧判例):営業の意思を店舗の 開設、開店広告等により外部に表白すること が必要→あまりにも遅すぎる 2. 営業意思主観的実現説(昭和初期の判例): 特別の表白行為がなくても営業意思を開業準 備行為によって主観的に実現していれば足り る(営業資金の借り入れ等) Cf.百選3事件→相手方に予期しない損害を与 えるおそれがある イ)画一的に決定する立場 3. 営業意思客観的認識可能説(昭和後期判例、 現在の通説的見解):営業意思が客観的に認 識できるような開業準備行為が必要(相手方 以外の者にも認識可能) 4. 準備行為自体の性質による営業意思客観的認 識可能説(最近の判例): – 営業設備のある営業所の借り受け(テナントの 賃借等) ロ)段階的・相対的に決定する立場 • 段階説(相対説):最近の有力説 – 営業意思が準備行為によって主観的に実現された 段階→相手方は行為者の商人資格と行為の附属的 商行為性を主張できる(商事法定利率など) – 営業意思が特定の相手方に認識され、または認識 可能となった段階→行為者もその相手方に対して 自己の商人資格と行為の附属的商行為性を主張で きる(商事債権の消滅時効など) – 商人であることが一般的に認識可能となった段階 →その者の行為について附属的商行為性の推定が 生じる 商人資格の喪失時期 • 営業自体が終了したときではなく、残務処 理が終了したときに喪失する。 法人の商人資格 • 商人資格の取得の可否:法人は権利能力がその 目的の範囲に制限される(改正民34)ことから 、商人資格の取得の可否が問題となる • 会社:自己の名をもって商行為をなすことを業 とする商人 • その他の法人:公益目的を達成する手段として 付随的に営利目的で事業を営む場合には、その 限りで商人となりうる(多数説) • 協同組合、保険相互会社には商人資格を認めな いのが判例・通説 (2)商人資格の得喪(法人) • 会社: – 設立登記(会49、579、911以下等参照)により 取得→生まれながらの商人 – 清算手続の終了(清算結了の登記)によって喪 失(会929) • 会社以外の法人:自然人と同様に考える
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