基礎商法2 第1回 総論 商法の構造 I. 法体系における位置づけ 民法の特別法 II. 分野としての「商法」 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 商法総則(商法) 会社法(会社法) 商行為法(商法) 有価証券法(手形法・小切手法) 保険法(保険法) 海商法(商法) 民法・商法対照表① 民法総則 人 法人 商人 ○ 商業登記 ○ 商 商号 法 商業帳簿 総 則 商業使用人 物権 物 法律行為 時効 物権 担保物権 ○ ○ 代理商 ○ 雑則 総則 ○ ○ ○ 売買 商 交互計算 行 匿名組合 為 法 仲立・問屋 運送・倉庫 海商 ○問屋 ○ 民法・商法対照表② 債権 債権総論 契約総論 契約各論 不法行為 その他 商人 商業登記 商 商号 法 商業帳簿 総 則 商業使用人 ○ ○ 代理商 ○ 雑則 総則 ○ ○ 売買 ○ ○ ○ 商 交互計算 行 匿名組合 為 法 仲立・問屋 ○ 運送・倉庫 ○ 海商 ○ ○ 民法と商法の関係 民 法 商法が民法の特別法であることは 確かだが、守備範囲の境界は曖昧 商 法 このほか、経済法や労働法との間 にも守備範囲の問題が存在 商法の守備範囲 • 抽象的な議論 1. 商法の存在意義 商的色彩論 商法企業法説(通説) ⇒商法の「商」=「企業」 2. 「企業」の意義 資本的計算方法の下に経営される継続的・営利的 経済単位であり、法律上独立対として取り扱われる べきもの • やや具体的な議論 商法の守備範囲 1. 明らかに守備範囲に入るもの 営利企業(「営利」の意義は後述) 2. 性質上守備範囲外のもの 非営利事業(公益事業含む) 芸術家等の自由職業 医師・弁護士 3. 歴史的経緯で守備範囲外のもの 農林水産業 ※鉱業を行うものは承認と見なされる(S13改正) • 具体的な議論 1. 商法の規定 「商人の営業、商行為その他商事」が守備範囲(商 1Ⅰ) 2. 「商人」概念と「商行為」概念 商人が行うのが商売(商行為) 商売(商行為)を行うのが商人 商法の法源 I. 法源 ① 商事制定法 ② 商事条約 ③ 商慣習(通則Ⅲ、商1Ⅱも参照) ※H17改正で「商慣習法」→「商慣習」 ④ ⑤ ⑥ ⑦ 商事自治法(例:定款) 約款(普通取引約款) ←議論あり 商事判例 ←実質的な法源性の肯定の余地 条理 II. 適用順位 強行規定 商法 当事者の合意 任意規定 商慣習 強行規定 民法 当事者の合意 任意規定 商人 商人資格 I. 商人資格確定の必要性 • 商法は「商人」に関する法でもある • 商人ではない者が行う商行為が存在する II. 商人資格の確定方法 商人が行うのが商売(商行為) 商売(商行為)を行うのが商人 鶏が先か、卵が先か(一種の循環論法) III. わが国における商人の定義 • 「自己の名で商行為を行うことを業とする者」が「商人」 (商41 ⇒先に商行為を定義し、商行為を行う者が商人=商行為法 主義 • 「商人がその営業のためにする行為」は「商行為」(商50 3Ⅰ) ①商行為を定義(商501、502) ③商人が営業のためにする行為は商行為 ②商行為を業として行うのが商人 III. 「商行為」 営業の基礎となる行為か 基本的商行為 附属的商行為 絶対的商行為 絶対的商行為 (商501) 絶対的か否か 営業的商行為 附属的商行為 相対的商行為 (商502ほか) (商503) ※当事者の一方に取ってのみ商行為である場合を「一方的商行為」(例: 銀行からの住宅ローンの借入れ)、当事者双方にとって商行為となる場 合を「双方的商行為」という 1. 絶対的商行為 誰が行っても、1度限りでも商行為となる行為 ※立法論としては削除すべしとの見解が有力 ※限定列挙 内容 例 備考 ① 投機購買(仕入れ)及び その実行行為(売却) 安く仕入れて 高く売る ・対象は「動産、不動産、有価証券」 ・加工しての譲渡を含む ・営利意思が必要(取得時) ② 投機売却(売る約束)及び その実行行為(仕入れ) 高く売る約束を して仕入れる ・対象は「動産、有価証券」 ・営利意思が必要(約束時) ③ 取引所においてする取引 証券取引所で の株の売買 ・わが国の取引所は証券会社等に 限られる(顧客は売買を委託) ④ 商業証券に関する行為 手形振出 ・手形、小切手は少なくとも含まれる 2. 営業的商行為 営利の目的を以て反復継続して行われる場合に商行為 ※もっぱら賃金を得る目的での物の製造、労務への従事を含まない (商502但し書き) ←小規模すぎて商法の規制になじまない ※限定列挙 内容 例 備考 ① 投機貸借(仕入れ)及び その実行行為(賃貸) 仕入れて貸す ・対象は「動産、不動産」 ・取得は売買でも賃借でもよい ② 他人のためにする製造・ 加工 他人の原材料 で加工 ・「他人のため」=「他人の計算」 ・原材料は依頼者持ち ③ 電気・ガスの供給 ④ 運送に関する行為 宅配便、バス ⑤ 作業・労務の請負 建設業、人材 派遣業 ・作業の請負は造船、建築等含む ・労務の請負とは、労働者の供給を 引き受ける請負契約 ⑥ 出版、印刷、撮影に関す る行為 出版社、新聞 社 ・出版にはデジタル媒体を含む ・撮影には動画を含む ・水道は含まない(類推適用もない) 内容 例 備考 ⑦ 場屋取引 レストラン、カラ ・テーマパークや映画館など オケボックス ・理髪店を場屋でないとした判例有 ⑧ 銀行取引 銀行 ・与信と受信の双方が必要 ・消費者金融は含まれない ⑨ 保険 生命保険 ・営利保険の引受けを指し、社会保 険や相互保険を含まない(通説) ⑩ 寄託の引受け 倉庫 ・消費寄託を含むが、金銭・有価証 券の消費寄託は銀行取引 ⑪ 仲立ちまたは取次に関す る行為 不動産会社/ 証券会社 ・詳細は商行為法(仲立営業・問屋 営業)で ⑫ 商行為の代理の引受け 代理店 ・本人から独立した存在であるが、 継続的に代理を行う行為 ⑬ 信託の引受け ・信託とは受託者に権利を委託しつ つ委託者の指示に従いこれを利用 するもの 3. 付属的商行為 商人が営業のためにする行為は商行為 〔例〕事業資金の(親族からの)借入れ、従業員の雇用等 ※法律行為のほか、準法律行為(事務管理等)も含まれる 商人の行為は営業のためにするものと推定される ※推定規定なので反証可(反証に成功した例として最判H20.2.22百 -36〔H17会社法制定前の事例〕) 4. 商行為であると擬制される行為 会社がその事業としてする行為及びその事業のために する行為はすべて商行為として扱われる(会5) IV. 商人資格 1. 商人の分類 ① ② ③ i. 固有の商人(商4Ⅰ) 擬制商人(商4Ⅱ) 小商人(商7) ・・・①②の規模の小さいもの 固有の商人 ① 自己の名を以て商行為をすることを業とする者 「自己の名を以て」 行為から生じる権利義務の帰属主体であること ② 商行為をすること業とする 業とする=「営利の目的をもって同種の行為を反復継続するこ と」 営利の目的=最低限収支相償うことを意図していること iii. 擬制商人商人の分類 ① ② 物品販売店舗を業とする者(例:農家の直売所) 鉱業を営む者 iv. 小商人 • 商人(擬制商人を含む)のうち、営業用財産の価値が50万円を 超えない者(商法施行規則3) 2. 商人資格の取得の可否 i. 自然人 原則として誰でも商人資格を取得しうる(権利能力があるから) が、営業能力の有無は別問題 ① 未成年者・・・法定代理人の許可を得れば営業が可能であり、 その範囲で成年と同じ行為能力を有する(民6Ⅰ)。ただし、許 可のない営業でも取り消されない限り有効であり、商人資格が 肯定される ② 成年被後見人・・・営業能力は否定され、後見人が代わって営 業するほかない ③ 被保佐人・・・同意が必要な行為の多くが営業にとって不可欠 な行為であるから事実上不可能。保佐人による代理もできない ので、支配人を選任して営業を委ねるほかない 被補助人・・・基本的に被保佐人と同じ ④ ii. 法人 法人の権利能力は定款所定の目的に限られる(民34)ことと の関係で、特に公益目的の法人が商人になれるかどうかが問 題となる ① 公法人 ・・・国や地方自治体であっても、行政目的の遂行のた めに営利事業を行う場合には商人になることができる(例:都 営地下鉄) ② 公益目的の法人 ・・・公益事業については商人性はないが、 付帯事業については商人性が肯定される(例:お寺の経営する 駐車場) ③ 共益目的の法人・・・一般法人については設立目的達成のため に対外的事業を行いうるので商人性は肯定される。一方、特別 法によって設立された法人については商人性が否定される ケースが多い(最判S48.10.5百-4。信組の貸付けは相互扶助で あり営利性を欠く)。 被補助人・・・基本的に被保佐人と同じ 特殊法人、独立行政法人 ・・・商人資格を取得できる ④ ⑤ 3. 商人資格の取得時期 i. 問題意識 開 業 を 決 意 当事者が商人であるかどうかで、時効(商522)や法定利率(商 514)について、民法とは異なる規定が適用されることになる 自然人が営業を行う場合、どの時点で商人となるのか 親 か ら 借 入 ( 開友 業人 意か 思ら 表借 明入 ) 店 舗 の 賃 借 仕 入 れ 開 始 開 店 印広 刷告 発 注 開 業 開 業 を 決 意 親 か ら 借 入 ( 開友 業人 意か 思ら 表借 明入 ) 店 舗 の 賃 借 仕 入 れ 開 始 開 店 印広 刷告 発 注 開 業 ① ② ③ ④ ①営業意思表白行為説 ・・・営業意思を表示したときから商人 ②営業意思主観的実現説 ・・・内心で営業意思を持ったときから商人 ③営業意思客観的実現説 ・・・営業意思が客観的に外部に明らかになって商人 ④段階説 ・・・営業意思が内心に留まる段階の行為については相手方からのみ商 人資格を主張可。表明後は本人からも主張可。客観的に看取できる時点以降は 商行為と推定 ※判例は一応②説に立つが(最判S33.6.19百-3)、その後③に近い立場にあるとも 言われる(最判S47.2.24) 営業 営業の意義 • 営業 ① 活動としての営業(主観的意味での営業) ② 組織としての営業(客観的意味での営業) ⇒区別は有益だが両者は密接に関連し事実上不可分 (組織がなければ営業活動は行えないし、営業活動を品 ければ組織には意味がない) ※会社法では、商法における「営業」について「事業」と いう語を用いるが、意味は同じであるとされている I. 営業活動 1. 営業の自由 営業の自由は憲法上保障(憲22) ただし行政上の理由での制限は一定範囲で可能 2. 営業能力 未成年者は法定代理人の許可を得れば、当該営業 について成年と同一の権利能力有する(営業の許可 を得ればその後の個々の取引行為についての同意 は不要) 成年被後見人、被保佐人、被補助人の営業は事実 上不可能 3. 営業所 i. 意義 営業活動の中心である一定の場所 ii. 営業所であることの要件 内部的に拠点であることだけでなく、対外的にも、その場所 で営業上の主要な活動がされることにより、営業活動の中 心として現れる場所であることが必要 ※たとえば売店や鉄道の駅は営業所とは限らない。他方、バス の営業所のように、取引自体は行われなくても営業活動の 中心地であれば営業所となる iii. 本店と支店 商人が複数の営業所を有する場合は、全営業を統括する 営業所を「本店」、それ以外を「支店」 II. 営業組織 1. 営業組織の内容 積極財産と消極財産 2. 営業の特殊性 組織としての営業は、構成する個々の財産の価値の 総計よりも高い価値を持つことが多い(いわゆる「の れん」) 営業は一括して他人に譲渡しうる(いわゆる営業譲 渡〔事業譲渡〕) ←ここでいう「営業(事業)」の意義
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