第10課 豊かさゆえの病がある • Ⅰ.読む前に • ❶ 次の言葉は、これから読む文章の中に出てくる言葉です。 • (1) 下の枠の中から、適当な言葉を選び、 に書き入れ ること。 • ① 男も女も、日本人の肉付きのよさ、 有り体 に言えば肥満 の現実であった。 • ② 一年半の間、見続けていたイラン人に腹の 突き出た 男 はいなかった。 • ③ 中年男性たちはおなかのあたりが ポコン と膨らんでいる。 • ④ 体全体に余分な肉が びっしり とくっついている、という風 情なのだ。 • ⑤ 中年になっても顎の線が くっきり と保たれている人は腹も • 出ていないし、ウエストラインも すっきり としている。逆に言 えば、首から顔へ 地続き が完成し、顎の線が ボヤケてしまった 人は肥満である。 • ⑥ 摂取すべきカロリー量以上に毎日食べ続け、それに • 見合う カロリー消費をしない生活を続けていれば、 当然のごとく人間は肥満する。 • ⑦ 手袋をして寝床に入った冬の日々の記憶が まざまざ と蘇 る。 • ⑧ 少年Aの住んでいたあたりは、 ゆったり とした敷地に個性 的な一戸建てが並ぶ、理想的な住宅街である。 ⑨ 庭で卓球に 興じる 家族の姿を多くの人が目撃している。 ⑩ それは死の醜さ、恐怖といった、暗黒面の実体験、実感の希薄 さの中で育った死への 執心 である。 • ボヤケてしまった まざまざ 突き出た ポコン くっきり すっきり 地続き 執心 びっしり 興じる 有り体 ゆったり 見合う ❷ 使い分け ひときわ・一段と・ひとしお • ひときわ:多くの中から、特に目立つものを取り 立てて言う場合に使う。 • ひとしお:物事の程度が増す事情を取り立てて 言う場合に使う。 • 一 段 と:時間的、範囲的な比較の結果を取り 立てて言う場合に使う。 (1) 次の表に挙げた文例の括弧に入れる語として正しい と思うものに○、使えないと思うものに×、どちらとも いえないと思うものに△をそれぞれ入れること。 寒さが 中で 文例 ⊂⊃身 ⊂⊃高 にしみ い山 語 る ○ ×× ○ △ 今後は 感慨も ⊂⊃気 ⊂⊃だ をつけ ます × × ○ ○ × ○ ○ ○ × ひときわ 一 段 と ひとしお 背の高 さが ⊂⊃目 立つ男 ○ 膨らむ・膨れる 「膨らむ」も「膨れる」も、「物が内から外へ盛り上がって(丸く)大きく なる」という点では、意味が似ているが、「膨らむ」は植物の開花時 期が近づくという意味にも用いられる。一方、「腫れる」という意味 を表す場合には「膨れる」が使われる。また、考えや計画などの規 模が大きくなったり、広がったりする意味を表す場合には「膨らむ」 が使われるが、頬を、膨らむようにして不機嫌や怒りを面に表す動 作の場合には「膨れる」が使われる。 文例 餅が つぼみ ひねった足 期待 気に入ら ⊂⊃ が⊂⊃ 首が⊂⊃あ が⊂⊃ ないとす 語 がる ぐ⊂⊃ ○ × み れ ○ × ○ × 膨れる ○ ○ × 膨らむ ○ Ⅱ.読む • まず、次の質問を考えながら、全文を読みなさ い。 • ❶ 筆者は、この文章で何を言いたいのでしょうか。 筆者の主張がまとめられていると思われる段落を 指摘しなさい。(また、一つとは限りません。) • ❷ 筆者が考える「病」「カゲリ」とは、具体的にはどん なことでしょうか。例を挙げてみなさい。 作者Profile ニュースの職人 鳥越 俊太郎 さん • とりごえ・しゅんたろう 1940年生まれ、福岡県出身。 65年 京都大学文学部国史学科卒業。同年毎日新聞入社。新潟支局、 大阪本社社会部、東京本社社会部、サンデー毎日編集部、外 信部(テヘラン特派員)を経て、88年『サンデー毎日』編集長と なる。89年同社を退職、同年10月から報道番組『ザ・スクー プ』(テレビ朝日系)のキャスターを務める。現在は、『スーパー モーニング』(テレビ朝日系)のコメンテーターを務めるなど、テ レビで活躍する傍ら、関西大学で教鞭を執る。また、ウェブサイ ト「ほぼ日刊イトイ新聞」で連載「鳥越俊太郎のあのくさ これば い!」を持つ。著書には、『桶川女子大生ストーカー殺人事件』 (鳥越俊太郎&取材班 メディアファクトリー)、『ニュースの職人 「真実」をどう伝えるか』(PHP研究所)、『報道は欠陥商品と疑 え』(ウェイツ)、『親父の出番』(集英社)などがある。趣味は、水 泳、ゴルフ、ドライブ、ジャズ・バロックなどの音楽鑑賞。 Ⅲ.読んだあと 質問と解説 • 1.下腹部と首から頬にかけての部分が肥満を 測るポイントであると、筆者は言っているが、 このポイントに基づいて、具体的に肥満の様 子とそうでない様子を描いた文を本文から抜 き出してみなさい。 肥満の様子: 下腹部――お腹のあたりがポコンと膨らんでいる。 首から頬にかけての部分――首から顔へ地続き が完成し顎の線がボヤケてしまった。 肥満でない様子: 下腹部――腹も出ていないし、ウエストラインも すっきりしている。 首から頬にかけての部分――顎の線がくっきりと 保たれている。 2.「『飽食』状況を放置したまま」とあるが、 具体的にどのようなことか。 摂取すべきカロリー量以上に毎日食べ続け、 それに見合うカロリーを消費しない生活を続 けるということ。 3.「そんな話を今の子供たちにしたところで、 驚かされるならまだしも笑われるぐらいがオ チだろう。」とあるが、それと似ている表現手 法で書かれた文が本文にはもう一箇所ある。 それを探し出してみなさい。 少なくとも貧しさと戦いつつ育ってきた、わ が世代の少年たちには想像もつかない世 界がそこにはある。 4.『聖なる実験』とは、何のことか。 少年Aによる殺人。 5.この文章での「通り魔犯行」は、具体的 に誰が誰に対して犯した犯行なのか。 少年Aが土師淳君に対して犯した犯行 6.この文章は次のような構成で書かれて いると思われるが、それぞれの部分の具体 的な内容を簡潔に書き出して見なさい。 • 現実 → 原因 → 社会的背景 → 落としたカゲ → 分析 → 注意喚起 現実――肥満 原因――飽食 社会的背景――豊かさ 落としたカゲ――精神面の疾患による少年Aの 犯行など 分析――カゲリのない環境に育った少年の心の 中には途方もないカゲリが生じ、それ は途方もない怪物に変身していった。 注意喚起――貧しさと戦いつつ育ってきた世代 の少年たちには想像もつかない世 界が現代の豊かな社会にはある。
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