セラミックス 第13,14回 7月13日,20日(火) セラミックスの物性③ セラミックス材料の今後の展開 (-ナノテクノロジー,物質創製科学, 宇宙環境を利用した材料科学研究-) 担当教員 永山 勝久 1.ナノテクノロジーの概要 1 nm = 1/10 億 m = 1/100万 mm ( = 10-9m ) 1μm(10-6 m) 100 nm(10-7 m) LSIの最小素子寸法 ナノ領域 10 nm(10-8 m) ウィルス、カーボンナノチューブ 1 nm(10-9 m) タンパク質分子、DNA二重らせん径 1Å(オングストローム,=10-10 m) 水素原子の直径 カーボンナノチューブ ・・・0.5~10 nmの直径と1μm程度の長さの円筒構造を有する炭素の結晶 ( → 1991年、NECシステムデバイス基礎研究本部 飯島澄男 主席研究員によって発見) 【特徴】 ①立体構造の違いにより、半導体/金属の両方の性質をとる →『究極の集積度を有する新たな半導体の創製』 ②高い(金属をはるかに超える)電気伝導特性 ③巨大磁気抵抗 ④水素吸着特性→『水素燃料エンジン、燃料電池』など 『ナノ・テクノロジー』の21世紀における応用分野 ①IT,②医療・バイオ,③環境・エネルギー ◎『新材料の創製(ex.ナノ結晶・ナノ粒子、ナノ粒子分散・析出・複合)』 富士通研究所(FUJITSU)ホームーページより http://jp.fujitsu.com/group/labs/ 有機化学美術館 ホームページより http://www.org-chem.org/yuuki/yuuki.html フラーレンC60(1985年,クロート博士により発見 ) と カーボンナノチューブ(炭素の中空・円筒状物質) ・・・導電性、半導体、燃料電池、軌道エレーベーター など無限の可能性を有する 1991年に、日本の飯島 澄男博士(当時,NEC 筑波研究所。現在、NEC 特別主席研究員、 産業総合技術総合研究所ナノチューブ応用研究センターセンター長、名城大学大学院理工学 研究科 教授) が発見 2.日本政府における科学技術の重点4分野 (2002年度に制定・発表,現在も継続中) 1. ライフサイエンス(生命科学) 2. IT(Information Technology:情報・通信技術) 3. 環境 4. ナノテクノロジー・材料 (1)次世代情報通信システム用 ナノデバイス・材料 (2)基礎技術:ナノレベルでの計測・評価・加工など (3)革新的な物性・機能を有する物質(材料)開発 ※ 日本政府のナノテクノロジー分野に対する研究費 :558億円(2001年度) 5.ナノテクノロジーの市場規模予想 (日本経済団体連合会資料 より) 国内市場規模 2005年(億円) 2010年(億円) 市場規模合計 23,501 273,296 分野別内訳 ( )内は市場占率% IT・エレクトロニクス 9,144 138,649(50%) 新素材・プロセス 4,717 89,079(33%) 計測・加工 6,282 21,311( 8%) 環境・エネルギー 1,130 15,932( 6%) ライフサイエンス 883 4,150( 1%) その他 1,404 4,175( 1%) ◎ 2010年の国内市場規模予想 : 27兆3,296億円 (※ 世界市場規模予想 :133兆円) ↑ 『IT・エレクトロニクス,新素材分野が主要分野となる』 8.ナノスケール物質の形態(類型) 0次元構造 (球状) クラスター フラーレン 超微粒子 1次元構造 (針状) ナノチューブ ナノワイヤ 量子細線 2次元構造 (薄膜,板状 ) ナノシート ナノ薄膜 ヘテロ接合 3次元構造 (バルク状) ナノセラミックス ナノメタル ナノ構造フィルター 粒子状 ワイヤー状 平面状 立体状 ↑ ↑ ↑ ↑ ex.C60 直径: 厚さ:数nm 3次元的構造 :直径0.7mm 1nm~数十nm の超薄膜 (立体構造) ↑ ↑ ↑ ↑ 中空構造 1軸方向に伸びた 2軸方向に 3軸方向に 針状の結晶 展開した ナノスケール 薄膜形態 制御が可能 9.代表的なナノ物質およびナノ材料 1. カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube) 2. フラーレン(Fullerenes) 3. ナノ粒子(Nanoparticles) 4. ナノ高分子(Nanopolymers) 5. デンドリマー(Dendrimers)・・・規則正しく枝分かれした樹脂状高分子化合物 6. ナノクリスタル(Nanocrystals) →分子量の制御だけでなく、 7. ナノ結晶シリコン(Silicon Nanocrystals) 分枝のサイズや形状も予想で 8. ナノメタル(Nanometals) きる規則正しい枝分かれ構造 9. ナノ結晶合金(Nanocrystalline Alloys) を有する 1) 10. ナノセラミックス(Nanoceramics) 「単分散樹枝状高分子」 11. ナノダイヤモンド(Nanodiamonds) 12. ナノクラスター(Nanoclusters) 13. ナノコンポジット(Nanocomposites) 14. ナノポーラス材料(NanoporousMaterials) 15. ナノワイヤ(Nanowires) 16. ナノゼオライト(Nanozeolites) 17. ナノ触媒(Nanocatalysts) 18. 自己組織化材料(Self-Assembled Materials) 19. メゾスコピック材料(Mesoscopic Materials) 20. ナノ空間(Nanospaces) 21. ナノガラス(Nanoglasses)2) 『ニューガラス(機能性ガラス)』とは :最先端のプロセス技術と精密加工技術(超高純度化、 超微細・ナノ加工など)を用いて製造した高機能ガラス ①エレクトロニクス、②光エレクトロニクス、③ディスプレイ ④新エネルギー、④バイオ科学、⑤環境 などの 21世紀の産業分野にとって不可欠な新素材として注目 「ニューガラス」の特徴 1)光学的に均質で光を良く通す(・・・透光性) 2)高機能発現を可能とする種々の元素を溶かし込むこと が出来るので、広範囲な優れた特性が得られる 3)成形性に富む(・・・多様な形状のガラス成型が可能) 4)高強度,高硬度を有し、化学的安定性も優れる 5)表面処理・加工により、種々の機能を付加できる など 『ナノセラミックス』の定義 :ナノサイズの超微細結晶粒からなる「ナノ多結晶体」やナノレベル の超微細構造制御が可能な「無機膜」などがあり、ナノ粒子化により 機能特性(電気・電子・磁気特性)や構造特性(超硬度、超延性など) の顕著な改善を可能とする「次世代社会を牽引する新たな材料」 「無機材料研究(セラミックス材料)」の新たな展開を可能 とし、特に「環境保全・新エネルギー関連」への応用が期待 応用例:「ナノ光触媒」 ・・・ex.酸化チタン:TiO2 ①地球温暖化防止・環境浄化用材料 ②環境ホルモンの分解用材料 ③光触媒デバイス用材料 ④色素増感型太陽電池 など 『ナノガラス』 とは :「ナノテクノロジー」を用いて、原子・分子レベルの操作を ガラスに施して生成された全く新しい機能を持ったガラス」 「ナノガラスの製造法」 ・・・超短パルスレーザー、超高圧装置、ドライエッチング 装置、真空成膜装置などにより作製 「ナノガラスの応用分野」 ①三次元光回路デバイス(光情報処理用ガラス) ②超大型薄型テレビのディスプレイ用ガラス (・・・立体映像用大型ディスプレイ、 壁掛け軽量大型ディスプレイ など) ③高強度ガラス,④有害ガス分離用の環境ガラス ⑤超高性能DNAチップ用のバイオガラス ⑥燃料電池用ガラス、⑦大容量光メモリ用ナノガラス薄膜 『ナノガラスの応用例』 「高強度・超大型薄型テレビのディスプレイ用ガラス」 ①超短パルスレーザーで薄くて軽い高強度ガラスを実現 ②立体映像の臨場感あふれる大型ディスプレイを実現 (社)ニューガラスフォーラムNew Glass Forum (NGF),ホームページより http://www.newglass.jp/ngfinfo/index-j.html 『大容量光メモリ用ナノガラス薄膜』 ナノガラス薄膜を用いた大容量光ディスク ナノガラス薄膜の集光機能により高い記録容量を実現 (・・・映画20本分が1枚の小型ディスクに記録可能) (社)ニューガラスフォーラムNew Glass Forum (NGF),ホームページより http://www.newglass.jp/ngfinfo/index-j.html 『大容量光メモリ用ナノガラス薄膜』 「ナノガラス回折格子」:ナノ積層構造ガラスの回折格子に より光素子の超小型化を実現 ・・・光通信用デバイス、 光情報処理・計測・機器が小型化され、光情報通信の 高速化がさらに加速される 『三次元光回路デバイス』 「三次元光回路」:ガラスの中に微小光部品を三次元的に 集積化して光を光で制御する超高速デバイス ・・・超高速・光通信デバイス、超高密度・光メモリ、 光コンピュータなど「今後の光情報化社会を支える 基盤技術の構築」が期待される 10.ナノテクノロジーと応用分野【 総括 】 ナノテクノロジー の流れ<:ナノ基盤技術> ナノ観察 ・・・原子、分子を自由に「見る」技術 ナノ計測 ナノ評価 ・・・原子、分子を自由に「測る」技術 〔応用分野〕 ナノ操作 ・・・原子、分子を自由に「操作する」技術 ナノ加工 ・・・原子、分子ナノスケール状態から 物質やデバイスを「組み立てる」技術 ナノシミュレーシション ・・・コンピュータシミュレーション技術 (ナノ物質創製シミュレーション) ナノ構造体の創製 (ナノスケール物質・デバイス) ① 環境・医療 ② 構造・機能材料 ③ バイオテクノロジー ④ 半導体デバイス ⑤ メモリデバイス ⑥ 光通信 ⑦ ディスプレイ ⑧ エネルギー・資源 ⑨ メカトロニクス ナノテク応用新物質・デバイスの創製 『Nd-Fe-B永久磁石材料(ネオジム磁石)』 ・・・エレクトロニクスの高性能化・小型軽量化に大きく貢献 (※ 1982年に住友特殊金属の佐川眞人らによって発明 された世界最強の高性能永久磁石材料) 【応用例】 ① ハードディスクHDDのヘッドを駆動するリニアモータ およびディスクを回転させるスピンドルモータに使用 ② 携帯電話の振動用モータ(・・・マナモード時)に使用 ③ CD,DVDなどの光ピックアップなどの各種小型モータ ④ 風力発電用・永久磁石式発電機 ⑤ MRI-CT(強い磁場を利用した身体の断層映像医療・ 観察・診断用)用マグネット(核磁気共鳴NMRを利用) ⑥ ハイブリッドカーや電気自動車の発電・動力用モータ (・・・永久磁石式自動車用同期モータ)に大量に使用 1983年:Nd-Fe-B系永久磁石の登場 永久磁石の強さの指標:最大エネルギー積(BH)max (1) 高速急冷法 (GM社) 溶融金属 (2) 粉末焼結法 (住友特殊金属) 急冷薄帯 磁場中成形 トヨタ・プリウス(ハイブリッドカー) ウィキペディア (Wikipedia) http://ja.wikipedia.org/ より Nd-Fe-B永久磁石:1982年に住友特殊金属の佐川眞人らによって、 Nd-Fe-B磁石(ネオジム磁石)が発明された。ネオジム磁石を使った 永久磁石式同期モーターは、新型ハイブリッドカーや電気自動車の 発電・動力用モーターに大量に使用される ハイブリッドカーの駆動モーターには、車1台当たり、 1.2kgのNd-Fe-B焼結磁石が使用される ※ 駆動モーターの中で、最も普及しているのが『永久磁石型同期モーター(PM)』 であり、現在、実用化されている電気自動車や、トヨタのハイブリッドカーなどに搭載 ネオマグ株式会社 Neo Mag (http://www.neomag.jp/)より 永久磁石発電機を使った 風力発電 HDD用ボイスコイルモータ(VCM) 図13 HDDの内部(右下にあるのがVCM ) 図14 ソニ-のカメラ一体型VTR 「CCD-TR45」のVTRデッキ部 と回転ヘッドドラム用モ-タ-(左),右は据え置き型VTRのデッキ 部と回転ヘッドドラム用モ-タ- ③医療機器関連 :永久磁石式 MRI (Magnetic Resonance Imaging)*) *) MRI:核磁気共鳴(NMR)を利用して身体の断層映像を得る装置 別名NMR-CT [特徴]:超伝導磁石によるMRIよりも発生磁場は小さいが、コンパク トかつコストが安い[:図15,図16参照] 図16 永久磁石式MRIを搭載したMRI検診車 図15 Nd-Fe-B系焼結磁石を使った永久磁石式MRI 永山研究室の概要と研究紹介 - 浮遊実験と宇宙環境を利用した材料科学研究の意義 - 国際宇宙ステーション(ISS) 日本実験モジュール「きぼう」 次世代超音速機技術の研究開発 (現在の大型旅客機に比較して2倍の 速度で飛行し、300人の乗客を運ぶ 次世代の超音速旅客機の開発) マッハ5で飛行する極超音速機システム JAXA ホームページ より (http://www.jaxa.jp/) イプシロンロケット (全段固体で惑星探査にも使用できる 世界最高性能の多段式固体ロケット) 謎に包まれる惑星の素顔を探る 水星探査プロジェクト「BepiColombo」 ・・・「BepiColombo(ベピコロンボ)」は、 日本とヨーロッパ(ESA):欧州宇宙 機関との共同で計画中の水星探査 ミッション用・惑星探査機 他 次世代ロケット・往還機、 地球観測・通信・気象用人工衛星 惑星探査機(太陽系)など多数あり 技術水準・経済性ともに世界のトップ レベルの日本の主力大型ロケットH-IIA 材料科学研究に対する宇宙環境の利点・特徴 無対流 熱による対流が起きない ため、物質のわずかな荷 電状態を利用した分離・ 精製などが効率的に行え ます。また、結晶成長で も拡散特性のみによる良 質な結晶ができ、エレクト ロニクスや医療品、バイ オテクノロジーなどの分 野で応用が期待されます。 無浮力・無沈降 軽いものや重いものを均一 に混合することができ、軽く て強い耐熱合金や複合材 料などの新材料などをつく ることができます。 熱対流が起きないので、 効率的な分離・精製が 可能になる。 重い物質と軽い物質が 均一に混合する。 ・電気泳動分離の向上 ・拡散支配による良質な 結晶成長 ・比重差を無視した 均一混合状態の形成 無静圧 無接触・浮遊 試料の自重によるひずみ 無容器プロセス や電子配列の乱れが生 じないため、欠陥のない 超音波や電磁波・静電気を利 優れた大型結晶がつくれ、 用して、物体を空間に保持し 画期的な半導体やセンサ たまま溶解や凝固を行うこと で容器との接触による不純 材料などの製造が可能 物の混入を防ぐことができ、 になります。 光学用の超高純度ガラスを 作ることができます。 格子欠陥のない単結 晶製造。 ・欠陥のない単結晶作製 (材料の変形、歪みがない) 空間に浮いて真球となる。 ・材料の浮遊現象に起因 した非接触溶解及び凝固 無容器・浮遊プロセス(Containerless Process) 音波浮遊法 静電浮遊法 絶縁体でも浮遊可能 加熱機構を付帯させるため装置規模が大きくなる 電磁浮遊法 浮遊と加熱を一系統電源で可能とする 宇宙ステーション・日本実験 モジュール『きぼう』搭載用装置 (・・・2012年に日本とドイツで 共同実験を実施予定) 物質創製科学 現状の材料のプロセスと既存核生成機構 ○ 材料(物質)の製造(現状の材料プロセス) (ex. 金属合金,半導体,無機,有機(含 医薬品)材料) 結晶成長(Crystal Growth) 気相プロセス(ex. 半導体,薄膜材料など) 液相プロセス(ex. 単結晶材料のMelt Growth) 固相プロセス(ex. メカニカルアロイング,粉末焼結) 既存「核生成理論」(Nucleation Theory) 均一核生成,不均一核生成ともに; 安定(平衡)結晶の成長のみを仮定した統一的理論 21世紀の材料科学(物質科学:Materials Science) における新たな展開 1. 従来の安定平衡物質(製造,材料物性)の延長でよいか? 2. 既存概念にない新たな構造と物性を発現する. ⇒ 新物質創製(≡非平衡相,非平衡物質)の探索 既存核生成理論に変わる 新たな『非平衡相の核生成理論』構築の必要性
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