造前学会 秋期講演会発表 平成16年11月26日 於 東京海洋大学 オールブレードに働く非定常流体力 (アスペクト比と先端形状の影響) ○宮下 雅樹(東大生研)、木下 健(東大生研)、 小林 寛(海技研)、板倉 博(東大生研)、鵜沢 潔(東大工) 研究の背景 漕艇を工学的見地から研究することは長 らく行われてこなかった。 オールのブレードに働く力を推定する際に は、定常状態を仮定して行われている。 実際のブレードは、流速迎角がダイナミッ クに変化する振動翼として働いている。 平板を用いた回流水槽実験で、非定常の 流れに対する平板の振る舞いを調べた。 本研究の概要 実際に使用されているオールブレードに対 して、アスペクト比やブレード先端形状を変 えた計4種類のオールブレードに対して回 流水槽実験を行った。 漕艇機械効率に大きく寄与する直圧力係 数Cnに対する、オールブレードのアスペク ト比とブレード先端形状の影響を調べた。 Rowing Boatの動き 進行方向 ドライブ Catch 進行方向 フォーワード 進行方向 Finish オールブレードの水中での動き (流れの迎角の変化) <ストロークサイド(左舷> middle catch <流れの迎角の変化> catch finish middle 艇の進行方向 finish 流れの速度の変化 流れの速度 : VB V θ l u R B out VB h 流れの迎角α、速度VBは 水中で過渡的に変化する。 ハンドル ブレード FB θ クラッチ lout u 艇の速度 R h オールブレードに加わる流体力 実艇実験より推定された、オールブレード に加わる流体力は、準定常の考えから得 られるものとかけ離れている。 オールブレードに加わる力には、流れの速 度・迎角が過渡的に変化することによる非 定常流体力の寄与が大きい。 回流水槽実験(平板) ストローク中にブレードにかかる非定常流 体力をより定量的に評価するために、オー ルブレードを模した平板を回流水槽内で回 転させ、平板にかかる流体力を測定した。 直圧力係数Cnの定義 F [kgf ] L MZ L Fy U [m / s] F Cn ( ) 1 2 2 U S Reduced frequency (換算周波数) 翼の運動1周期ごとの対翼弦長比速度 2c fr TU U :流速、 T :振動の代表周期 c :翼弦長 類似現象の指標として、Keulegan-Carpenter number K c , 泳動数 S w 、ストローハル数 S0 など がある。 平板の実験結果 平板を回転させた場合は、回転させない場 合よりはるかに大きな直圧力係数Cnを示し た。 非定常流体力の寄与が大きい。 平板が流れに対して直角のときの直圧力 係数Cn(α=π/2)は、換算周波数 fr と非常 に大きな相関を示した。 Cn(α=π/2)の reduced frequencyに対する変化 Cn vs fr (angle of attack = ƒÎ/2) 6 5 Cn 4 3 Small/0.5[m/s] Small/0.8[m/s] Small/1.0[m/s] Small/1.2[m/s] Normal/0.8[m/s] Normal/1.0[m/s] Normal/1.2[m/s] Large/0.8[m/s] 2 1 0 0 0.5 1 1.5 fr 2 2.5 3 実際のオールブレードを用いた 回流水槽実験 ブレードを回転させたときの直圧力係数Cnの 変化に対する、ブレードのアスペクト比やブ レード先端形状の影響を調べる。 直圧力係数Cnと換算周波数 fr との関係を調 べ、実際のオールブレードを用いた場合におい ても、Cnがfrの関数となっているかを調べる。 使用したオールブレード Original形状(アスペクト比=0.44) Highアスペクト比(アスペクト比=0.52) Lowアスペクト比(アスペクト比=0.35) Delta翼形状(アスペクト比=0.42) 回流水槽実験の模式図 PMMに接続 Load Cell Mz 天蓋 天蓋 100mm tip 一様流 neck アウトボードモーメントMn 直圧力係数Cnと着力点の位置Lを用いて、 以下の様にアウトボードモーメントMnを計算。 M n Cn (lout L) ブレードの中心 着力点 ハンドル スリーブ lout L 実験条件 回流水槽の流速 0.8, 1.0, 1.2 [m/s] ブレード上面と水面の 100[mm](天蓋有り) 距離 ブレードの回転周波数 0.01, 0.02, 0.05, 0.1, 0.15, 0.2, 0.25, 0.3, 0.4, 0.5, 0.6 [Hz] ブレードの回転角 0~π[rad] Reynolds数 約4×105 結果の解析 1.それぞれのブレードに対して、ブレードの 回転に伴うアウトボードモーメントMnの変 化を調べ、アスペクト比と先端形状の影 響を調べる。 2.ブレードが流れに対し直角の時のアウト ボードモーメントMn(α=π/2)と換算周波 数 fr との関係を調べる。 実験結果 Mnの変化:Original形状 12 fr=0.075 fr=0.148 fr=0.370 fr=0.734 fr=1.052 fr=1.382 fr=1.642 fr=1.854 fr=2.146 fr=2.324 10 8 Mn 6 4 2 0 0 π/4 π/2 ブレードの回転角[rad] 3π/4 π 実験結果 Mnの変化:Highアスペクト比 12 fr=0.059 fr=0.117 fr=0.282 fr=0.569 fr=0.822 fr=1.065 fr=1.257 fr=1.435 fr=1.730 fr=1.780 10 8 Mn 6 4 2 0 0 π/4 π/2 ブレードの回転角[rad] 3π/4 π 実験結果 Mnの変化:Lowアスペクト比 12 fr=0.076 fr=0.150 fr=0.374 fr=0.718 fr=1.058 fr=1.343 fr=1.620 fr=1.887 fr=2.215 fr=2.252 10 8 Mn 6 4 2 0 0 π/4 π/2 ブレードの回転角[rad] 3π/4 π 実験結果 Mnの変化:Delta翼形状 12 fr=0.076 fr=0.152 fr=0.368 fr=0.745 fr=1.091 fr=1.375 fr=1.604 fr=1.831 fr=2.193 fr=2.326 10 8 Mn 6 4 2 0 0 π/4 π/2 ブレードの回転角[rad] 3π/4 π 考察:Mnの変化 frがおよそ2以下の時は、平板の場合と同様にfr に比例してMnも大きくなっていくが、frがおよそ2 以上の時は、Mnはやや減少する。 オールブレードの種類によって、同じfrに対する Mnのとる値が異なる。Original形状に比べ、 Lowアスペクト比、Delta翼形状はより大きな値 を とる。 結果:Mn(α=π/2)とfrの関係 14 12 Mn(α=π/2) 10 8 Originall形状 6 Highアスペクト比 4 Lowアスペクト比 Delta翼形状 2 平板の近似曲線 0 0 0.5 1 1.5 fr 2 2.5 3 多項式 (Originall形状) 多項式 3.5(Highアス ペクト比) 多項式 (Lowアス 4 考察:換算周波数との関係 実際のオールブレードの場合においては、 Mn とfrの関係は平板の場合のように線形ではなく より複雑になり、また、ブレードの形状によって もその関係は変化する。 実際のローイングに近い、fr=1.4の時のMn(α =π/2)で比較 Lowアスペクト比 Delta翼形状 13.6%の向上 13.1%の向上 結論1 実際のブレードの場合においては、ブレードに 加わる流体力を、平板の場合のように一意に 換算周波数のみで評価することは難しく、関係 はより複雑であることが明らかになった。 Original形状のブレードに対して、Lowアスペ クト比、Delta翼形状の方が、大きなMnを得る ことが分かった。アスペクト比や先端形状を変 えることで、漕艇機械効率を向上させることが 可能であることを示すことが出来た。 結論2 翼のアスペクト比が低い方が効率的であるという 結果は、蛾やとんぼの羽ばたきの場合と同様の 結果を示している。 前縁に生ずる2次元的な渦がスパイラル状に発 達することにより大きな流体力が生じる可能性が あるとされている。 オールブレードの場合においても、羽ばたきと同 じような非定常渦による流体力が大きいと考えら れる。 これからの展望 CFDを用いた現象の解明 •シミュレーション結果と実験結果と照合 することで、ストローク中のオールブレード に働く流体力が何によるものであるのかを 調べる。 •アスペクト比やブレード先端形状を変化 させることで、実際に物理現象としてどの ような変化が生じているのかを調べる。
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