ニューヨーク継承日本語教育 多読プログラム 大山 全代 Masayo Ohyama @日本出版クラブ会館: Aug 22.2006 目次 1.多読(Extensive Reading)と多読教材(Graded Readers) ①英語教育 ②国語教育③日本語教育 ④継承語教育 2.どのように読みを学ぶのか 3.ブルームの分類表 4. 継承語学習者のための多読プログラム ● 読解学習+多読テキスト 5. 多読テキスト + 質問カード 多読と多読教材 1 国語教育 対象:日本国内・日本人学校・小学生~高校生等 現状:最近、テレビゲームなどにより、活字離れが進み、国語力の低下が叫ばれ ている。多読を通して情操豊かな子どもたちを育て、また、読書好きな子ど もを育てたい。 多読教材: 推薦図書や課題図書の提示 (小学低、中、高学年、中学生向き等目安あり) 全校での「朝の10分間読書」等の取り組み等実施 (自分で選ぶ) -読書リストに本のタイトルは書かせるが、感想などは要求しない。 -多くの場合評価はしないが、熱心に読んでいる子どもにプラス評価をするところもある。 -中には、自分で本が選べない子どももいる。 (日本の小学校の先生談) -読む力のある生徒は楽しめているが、一方で基礎的な力が身についていない子どもと の差が出てきている。 -語彙力が大切であり、いろいろな文章に触れる多読が必要であり、言語環境を整える 必要がある。 (2004年7月第13回中央教育審議会初等中等教育分科会報告より) 多読と多読教材 2 英語教育 対象:中学生~大人の英語学習者 現状:今まで、大学での英文学の読みものというと、難しすぎて、辞書を引きながら1年かけ て1冊を読む、という事も多く、1年後に終わる頃には始めの内容を覚えていないという例が 多く聞かれた。 まだ、一部だが、語彙や文法を簡易化してレベル別に設定してある多読教材を使って、集 中的に自分のレベルにあった本をたくさん読むことで英語力をつけようという動きが出始め ている。 (Rod Waring. (1997).The Language Teacher ) 多読教材: 「100万語英文多読」、「グレイデッド・リーダー」等、英語圏で開発された多読教材 (Graded Readers)を使う。 辞書はほとんど使わない - 各語の意味や文法にこだわらず、分からないところは飛 ばす - 難しいと思ったら違う読みものにかえる ー 多くの場合読書記録はつけるが、評価には加えない。 - ジャンル:ノンフィクション、スリラー、探偵物、ミステリー、フィクション等豊富にある ― (小学生用にはThe Reading Treeシリーズ(オックスフォード出版)がある。) 多読と多読教材 3 日本語教育 対象:日本語を第2言語や外国語として学習している 高 校生~大人等 現状: 第二言語学習者のための、読み物が少なく、小説等表現や漢字等難しく 学習者のレベルに合う読み物を見つけるのが大変であった。 多読教材: 日本語多読研究会の取り組みにより「日本語能力試験出題基準」 を基に4段階にレベル分けをして、 2001年から音声付で作成されている。 -作成にあたり以下の条件を考慮している ①読解難易度の段階がある ②ジャンルによる分類がある ③要点が把握できたかを試す問題が用意されている -オリジナル作品&再話 例)レベル1「女の子」「タクシー」「浦島太郎」 -レベル別にした推薦図書 例)レベル1「だれかがいます」、レベル3「クレヨンしんちゃん」 レベル3「となりのトトロ」、レベル4「ドラえもん」「高瀬舟」 多読と多読教材 継承語教育 4 対象:長期滞在、永住日系人児童、国際児童等 現状: -グローバル化に伴い、クラスがマルチレベル・マルチエイジで構成され、 生徒の日本語レベルも外国語に近いレベルから、母語話者のレベルまで 範囲が広い。 -日本語に接する時間数が少ない。 -継承語に多く見られる弱い文法(助詞等)、文型(やりもらい、使役、敬語 等)や語(助詞)等の特徴がある。 多読教材: ① ニューヨーク継承語教師会では、それぞれの生徒のレベルに合う語彙 や文法を簡易化してレベル別に設定し、問題解決力、クリティカルシンキ ングを引き出しやすい書き下ろしの多読教材及び ② 既存の絵本、読み物を利用した方法を今、研究中である。 継承語学習者 Q:子ども達はどのように読みを学ぶのか? ① 会話力は読解力を高めるために基本的に必要なことである ② 読解力は生活言語のように自然習得はされない ③ 読解力は読みの方略(Reading Strategies)やスキル(Reading Skills)を使いながら問題解決 や分析や判断のようなクリティカルシンキングといわれるHigher-order thinking のレベルに発展 させるための学習をしないと習得が難しい ④ 読みの早期成功は就学期の学習成果に大きな影響を与える Q:多読するだけで読み能力を伸ばせるか? 読解学習 + 多読テキスト (ガイデッド・リーディング) 読みのストラテジーとスキル 1.知っている知識を使う 2.文脈を使い分からないことばの意味を推測する 3.辞書の使い方を学ぶ 4.テキストのジャンルを知る 5.読み直し、言い直し、質問により明確にする 6.文章、絵、図からテキストに描かれていないことを導き出す 7.視覚化する 8.要約する 9.キーワードをさがす 10.パラグラフのトピックをさがす 11.テキスト全体のメインアイディアを考える 12.ことばの接頭語や接頭語の知識を増やす ブルームの分類表(Higher-order thinking) 訳:大山 By Barbra Fowler, Longview community College レベル キーワード 定義と質問例 評価 結論、批評、決定、 反論、同意、解釈、 優先、意見、支持、 基準、評価、立証 基準に基づいて、アイディア、情報、結果が生み出したものの価値を判 断できる。また、その判断を弁護できる。例)~の価値をどのように評価 できますか。なぜ、主人公はそれを選んだのか。あなたは、他にどんな 選択があったと思いますか。支持するためにどんな情報を使いますか 築く、選ぶ、構成する 創造する、企画する 発展させる、推定す る、適合させる、理 論だてる、練る 分解した構成要素を新しい全体像を作るため一緒にまとめられる。例) 何を変えると問題は解決すると思いますか。理由をもっと詳しく説明して ください。違う結論を導き出すために、何を適用しますか。発展させるた めに、何と結び付けますか。もし、~の場合、結論として、どんなことが、 推測できますか。他の方法で企画してください。 分析、分類、比較、 対照、発見、調査、 単純化、区別、関係 機能、前提、推測 考えを構成要素に分解できる。考察する。構成を支持するために、証拠 を見つけられる。例)なぜ、そう思いますか。どんな影響を与えることが できますか。どんな結論を引き出しますか。AとBにはどんな関係があり ますか。どんな証拠を探せましたか。どうやって区別しますか。 応用する、選ぶ、発 展させる、利用する、 試みる、系統だてる 情報を新しい状況で、応用できる。新しい問題を解決できる。例)どんな 例が見つけられますか。どんなやり方を使いましたか。他にどんな方法 がありますか。もし~だと、どんな結果になりますか。変えるために、ど んな要素を選びますか。インタビューでどんな質問をしますか。 比較、対照、説明、 概要、推測、言い換 える、要約 伝えられた情報やアイディアを理解する、描写する、また、主題が言え る。例)どんなタイプに分けられますか。比較してください。自分の言葉 で説明してください。どんな事実があるか言ってください。どんないみで すか。 だれ、いつ、何どこ、 どうして、どうやって、 選ぶ、伝える 情報を知る。例)何ですか。どこですか。主人公はだれですか。いつ起 こりましたか。3つ例を挙げてください。どうしていきましたか。主人公は どちらを選びましたか。 (Evaluation) 総合 (Synthesis) 分析 (Analysis) 応用 (Application) 理解 (Comprehension) 知識/記憶 (knowledge) 5W 継承語学習者のための 多読プログラム 1 読解学習 ガイデッドリーディング Q.ガイデッドリーディングとは 教師が小さなグループでそれぞれの生徒が少 し新しいことや難しいことが含まれている物語 を読む過程で、効果的なストラテジーやスキ ルを使って読みを発展できるようにスカフォー ルディングをして、最終的に一人で読めるよう にすることである。 継承語学習者のための多読プログラム 2 ヴィゴツキー 「発達の最近接領域」:スカフォルディングのモデル Wilhelm, J., Baker,T., Dube,J. (2001). Adapted from Strategic Reading:Guiding Students to Lifelong Literacy. New Hampshire, USA 教師がガイド スカフォルディング 教師声に出して読 む 新しいことや 少し難しいことが 入っている 教師と一緒に読む 教師 とストラテジーやスキルを 使いながら一緒に読む 生徒がガイド 生徒は教師に質問をしながら ストラテジーやスキルを使って読 む 生徒一人で好きな本を選んで 読める you do, I help I do, you watch I do, you help You do, I help. You do, I watch 継承語学習者のための 多読プログラム 3 多読テキスト+質問カード K-2:宿題.家の人と一緒に質問カードに従い読む 音読し、スラスラ読めるようになるまで読む 質問 例)推察力をつける ・表紙や裏表紙を見てください。どんなお話が始まるかお子さんと 話しましょう。 ・なぜ、そう思ったのか聞いてください。 ・Keyになったものは何でしたか。 理解力をつける ・P22の「あっこ!」ってどんな気持ちでしょうか話あってください。 ・何が起こったのですか。 ・お話シート(主役はだれ)を書きましょう。 継承語学習者のための 多読プログラム 4 多読テキスト+質問カード 4年-6年:自分の力でする 例)・「ストーリーマップ」に記入する ・主人公はだれですか。なぜ、そう判断したのか理由を書きなさい。 ・主人公はどんな問題に直面しましたか。 ・どのように問題を解決しましたか。 ・その問題解決の方法についてどう思いますか。 ・もし、自分が登場人物だったらどうするか書きなさい。 ・テキストを読んで疑問に思ったことを書きなさい。 ・また、なぜ疑問に思ったのか理由を書きなさい。
© Copyright 2024 ExpyDoc