磁気光学材料の基礎と光通信への応用

2002.2.8
日本応用磁気学会第123回研究会
磁気光学材料の基礎と
光通信への応用
東京農工大学
佐藤勝昭
CONTENTS
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はじめに
磁気光学効果の物理的起源
光通信における磁気光学デバイスの位置づけ
光アイソレータ・サーキュレータの原理と構成
アイソレータ・サーキュレータ材料
次世代磁気光学デバイスの開発動向
おわりに
はじめに
• 最近の情報通信技術におけるブロードバンド
化 ←波長多重通信(WDM)の寄与大
• 家庭への光ファイバ導入 :アイソレータなど非
相反光回路素子の需要
• このledcture:磁気光学効果の基礎
• 光通信用磁気光学デバイス・材料
磁気光学効果の物理的起源
• 光=電磁波
• 電磁波の伝搬現象:マクスウェル方程式
• 媒体:連続体とみなす→誘電率テンソル
– 磁化の効果→非対角成分
• 固有値問題→複素屈折率:2つの固有値
固有解:左右円偏光
– 左右円偏光の位相差→旋光
– 左右円偏光の振幅差→円二色性
ファラデー効果
• 透過の磁気光学効果
– 磁気旋光性(ファラデー回転)θF
– 磁気円二色性(ファラデー楕円率)ηF
• 自然旋光性との違い
– ファラデー効果は非相反(往復すると2倍回転)
– 自然旋光性は相反(往復すると回転ゼロ)
• ヴェルデ定数
– θF=VlH (反磁性体または常磁性体)
磁性体のファラデー回転角
磁性体
Fe
回転角
(deg)
3.825・105
性能指数(deg/dB)
Co
1.88・105
546
〃
2
1.11)
Ni
1.3・105
826
120 K
0.27
1.11)
Y3Fe5O12
250
1150
100 K
1.12)
Gd2BiFe5O12
1.01・104
800
RT
1.13)
MnSb
2.8・105
500
〃
1.14)
MnBi
5.0・105
633
〃
1.15)
YFeO3
4.9・103
633
〃
1.16)
NdFeO3
4.72・104
633
〃
1.17)
CrBr3
1.3・105
500
1.5K
1.18)
EuO
5・105
104
660
4.2 K
2.08
1.19)
CdCr2S4
3.8・103
35(80K)
1000
4K
0.6
1.20)
44
1.43
波長
(nm)
578
温度
(K)
RT
磁界
(T)
2.4
文献
1.11)
ファラデー回転と楕円率
主軸の傾き:回転角
楕円の短軸と長軸の比:楕円率
直線偏光が入射したとき
• 出射光が楕円偏光になり
(磁気円二色性)
磁界
楕円偏光
• その主軸が回転する効果
(磁気旋光:Faraday回転)
直線偏光
電磁気学と磁気光学効果
マクスウェル方程式 rotrotE 
~  2 E
c t
2
2
0
 iNx 
E  E0 exp

 c 
誘電率テンソル
  xx

~
     xy
 0

 xy
 xx
0
0

0
 zz 
磁化された等方性媒質の
誘電テンソル
固有値と固有関数
固有方程式
固有値
 Nˆ 2   xx

  xy

0

  xy
Nˆ 2   xx
0
0  E x 
 
0  E y   0

  zz  E z 
Nˆ 2   xx  i xy
固有関数:左右円偏光
非対角成分がないとき:左右円偏光の応答に差がない
磁気光学効果は生じない
磁気光学の式
Nˆ  Nˆ   Nˆ    x x  i x y   x x  i x y  i
xy
 xx
Nˆ 
i  x y
F  




 xx
 (xy1) M
i



 (xx0)  12  (xx2) M 2
磁気光学効果には対角・非対角両成分が寄与
磁気光学効果の現象論
直線偏光は等振幅等速度の左右
円偏光に分解できる
媒質を通ることにより左円偏光の位相
と右円偏光の位相が異なると旋光する
媒質を通ることにより左円偏光の振幅
と右円偏光の振幅が異なると楕円になる
一般には、主軸の傾いた楕円になる
磁気光学効果の 量子論
• 磁化の存在→スピン状態の分裂
– 左右円偏光の選択則には影響しない
• スピン軌道相互作用→軌道状態の分裂
– 右(左)回り光吸収→右(左)回り電子運動誘起
• 大きな磁気光学効果の条件
– 遷移強度の強い許容遷移が存在すること
– スピン軌道相互作用の大きな元素を含む
– 磁化には必ずしも比例しない
電子分極のミクロな扱い
E
+
+
電界の
摂動を受けた
波動関数
-
無摂動系の
波動関数
+
-
=
+ ・・
+
+
s-電子的
p-電子的
無摂動系の固有関数で展開
円偏光の吸収と電子構造
px-orbital
py-orbital
Lz=+1
p+=px+ipy
Lz=-1
p-=px-ipy
Lz=0
s-like
スピン軌道相互作用の重要性
Jz=-3/2
Jz=-1/2
L=1
LZ=+1,0,-1
Jz=+1/2
Jz=+3/2
LZ=0
交換分裂
Jz=-1/2
Jz=+1/2
交換相互作用
L=0
磁化なし
+スピン軌道相互作用
反磁性型スペクトル
Lz=-1
励起状態
0

Lz=+1
1
”xy
’xy
2
1+2
基底状態
Lz=0
磁化の無いとき
磁化のあるとき
光子エネルギー
光子エネルギー
誘電率の非対角成分のピーク値
 xy
Ne f SO

2
4m 0
2
peak
大きな磁気光学効果を持つ条
件:
・光学遷移の振動子強度 f が大きい
・スピン軌道相互作用が大きい
・遷移のピーク幅が狭い
磁性ガーネット
• 磁性ガーネット:
– YIG(Y3Fe5O12)をベースとす
る鉄酸化物;Y→希土類、Bi
に置換して物性制御
• 3つのカチオンサイト:
– 希土類:12面体位置を占有
– 鉄Fe3+:4面体位置と8面体
位置、反強磁性結合
– フェリ磁性体
ガーネットの結晶構造
YIGの光吸収スペクトル
• 電荷移動型(CT)遷移
(強い光吸収)2.5eV
• 配位子場遷移
(弱い光吸収)
– 4面体配位:2.03eV
– 8面体配位:
1.77eV,1.37eV,1.26eV
磁性ガーネットの3d52p6電子状態
J z=
J z=
J=7/2
6P (6T , 6T )
2
1g
5/2
-
-3/2
3/2
7/2
-7/2
J=5/2
-3/2
3/2
-3/2
3/2
-3/2
J=3/2
P+
P+
P-
P-
6S (6A , 6A )
1
1g
without
perturbation
spin-orbit
interaction
5/2
tetrahedral
crystal field
(Td)
-5/2
octahedral
crystal field
(Oh)
品川による
x104
• 電荷移動型遷移を多電
子系として扱い計算。
0.8
(a)
experiment
+2
0
0.4
-2
(b)
calculation
0
0.4
-
300
400
500
600
wavelength (nm)
Faraday rotation (deg/cm)
YIGの磁気光学スペクトル
Bi置換磁性ガーネット
• Bi:12面体位置を置換
• ファラデー回転係数:Bi
置換量に比例して増加。
• Biのもつ大きなスピン軌
道相互作用が原因。
• Bi置換によって吸収は
増加しないので結果的
に性能指数が向上
Bi置換YIGの磁気光学スペクトル
実験結果と計算結果
• スペクトルの計算
– 3d=300cm-1,
– 2p=50cm-1 for YIG
– 2p=2000cm-1 for Bi0.3Y2.7IG
K.Shinagawa:Magneto-Optics, eds. Sugano, Kojima,
Springer, 1999, Chap.5, 137
II-VI系希薄磁性半導体の結晶構造と
組成存在領域
Material
Crystal
structur
e
Range of
Composition
Material
Crystal
structure
Zn1-xMnxS
ZB
WZ
0<x<0.10
0.10<x0.45
Cd1-xMnxSe
WZ
0<x0.50
Zn1-xMnxSe
ZB
WZ
0<x0.30
0.30<x0.57
Cd1-xMnxTe
ZB
0<x0.77
Hg1-xMnxS
ZB
0<x0.37
Hg1-xMnxSe
ZB
0<x0.38
Hg1-xMnxTe
ZB
0<x0.75
Zn1-xMnxTe
Cd1-xMnxS
ZB
WZ
Range of
Composition
0<x0.86
0<x0.45
II-VI DMS の格子パラメータ
XRD
J. K. Furdyna et al., J. Solid State
Chem. 46, (1983) 349
EXAFS
B. A. Bunker et al., Diluted Magnetic
(Semimagnetic) Semiconductors,
(MRS., Pittsburg, 1987) vol.89, p. 231
Cd1-xMnxTeにおける
バンドギャップ のMn濃度依存性
Cd1-xMnxTeのバルク成長
• ブリッジマン法
–
–
–
–
–
出発原料: Cd, Mn, Te元素
石英管に真空封入
4 mm/hの速度でるつぼを降下させる。
融点: 1100°C
WZ (高温相) → ZB (低温相) 相転位(温度低下)
• 過剰融液組成→相晶を防ぐ効果
CdMnTeの磁気光学スペクトル
• II-VI族希薄磁性半導
体:Eg(バンドギャップ)
がMn濃度とともに高エ
ネルギー側にシフト
• 磁気ポーラロン効果(伝
導電子スピンと局在磁
気モーメントがsd相互作
用→巨大g値:バンド
ギャップにおける磁気光
学効果
小柳らによる
Furdynaによる
光通信における磁気光学デバイスの
位置づけ
• 戻り光は、LDの発振を不安定にしノイズ発生の原因
になる→アイソレータで戻り光を阻止。
• WDMの光アドドロップ多重(OADM)においてファイバ
グレーティングと光サーキュレータを用いて特定波長
を選択
• EDFAの前後にアイソレータを配置して動作を安定化。
ポンプ用レーザについても戻り光を阻止
半導体レーザモジュール用アイソレータ
Optical isolator
for LD module
Optical fiber
Signal source
Laser diode
module
光アドドロップとサーキュレータ
光ファイバ増幅器と
アイソレータ
今後の展開
導波路形アイソレータ
• 小型・軽量・低コスト化
• 半導体レーザとの一体化
• サイズ:波長と同程度→薄膜/空気界面、
あるいは、薄膜/基板界面の境界条件重要
• タイプ:
– 磁気光学材料導波路形:材料の高品質化重要
– リブ形
– 分岐導波路形
導波路形アイソレータ
• 腰塚による
マッハツェンダー形アイソレーター
リブ形アイソレータ
半導体とアイソレータの一体化
• 貼り合わせ法
– 半導体上に直接磁性ガーネット膜作製→格子不整合の
ため困難
– ガーネット膜を作っておき、半導体基板に貼り合わせ
る方法が提案されている
• 希薄磁性半導体の利用
–
–
–
–
DMSの結晶構造:GaAsと同じ閃亜鉛鉱型→
半導体レーザとの一体化の可能性。
導波路用途の面内光透過の良質の薄膜作製困難。
安藤ら:GaAs基板上にMBE法でCdMnTeの薄膜を作製。
バッファ層:ZnTe, CdTe層