RANSによる船体・プロペラ・舵の相互干渉のシミュレー

RANSによる船体・プロペラ・舵
の相互干渉のシミュレーション
応用流体工学研究室
46295 箕輪 剛
指導教員
川村 隆文助教授
山口 一教授
発表内容
・研究背景と目的
・数値計算
プロペラ単独性能計算
プロペラと舵の直接計算
プロペラと船体の直接計算
・結論
研究背景と目的
研究背景 1
近年、CFD (Computational Fluid Dynamics)を活用
した船型設計が盛んに行われるようになった。
船舶設計の3要素
船型
プロペラ
舵
従来は、船体周りの流場解析を中心にCFDの
応用が進められてきた。(宮田ら、児玉ら、F.Sternら等)
研究背景 2
最近では、プロペラへの適用も進められている。
プロペラの幾何形状の複雑さがボトルネックに
個々の要素の性能推定に関する研究が盛んに
これらの要素の相互干渉が
設計効率向上の観点から重要である。
要素を組み合わせて性能を推定する
研究背景 3
これまで、相互干渉に関する実験的研究や数
ポテンシャル計算を用いた場合、
値計算による研究が数十年に亘り行われてき
時間平均的な影響についてある程度の
たが、未だ評価計算手法は確立されていない。
精度の推定は可能だが・・・
主流
プロペラ・舵周りの局所的流れが反映さ
プロペラをポテンシャル理論で解き、その解を
れないため、
船体周りのCFD計算に体積力として与える
・表面圧力変動の推定が不可能
(日夏ら、川村ら、田原ら、Chaoら等)
・キャビテ-ションの予測が不可能
研究目的
CFDのみを用いた手法により、船体・
プロペラ・舵の相互干渉を詳細に解き、
実用的な予測手法を確立する。
1.船体・プロペラ・舵の形状モデリング方法、
格子生成手法を確立する
2.高精度な性能推定を可能とする格子パラ
メータと計算条件を確立する
3.実験データとの詳細な比較により、実現可
能性と問題点を明確にする
数値計算
プロペラ単独性能計算
プロペラ単独性能計算の目的
1.数値データからCADモデルを作成する手
法を確立する
2.高精度で性能推定可能なパラメータを明か
にする
3.最適化したパラメータを4つの異なるプロペ
ラの格子に適用し、一般性の高い結果を得る
CADモデリングには、Pro/Engineer
格子生成には、GRIDGEN 15.7
数値計算には、Fluent 6.2 を使用する。
計算対象プロペラ
5翼のハイリースキュー
ドプロペラ(HSP)
「P410R」を中心に、パ
ラメータの検討を行う。
HSPの場合、通常型プ
ロペラと異なり、捩れが
大きくなって多少格子生
成が複雑となる。
図1.P410RのCADモデル図
計算対象プロペラ 2
MP-B-通常型プロペラ
KP505-HSPプロペラ
青雲丸通常型プロペラ
CADモデル作成
点列のオフセットデータを用意
オフセットデータをプログラムで処理
(翼端形状のスプライン補間等)
CADソフトにデータを読み込み、成形
データが形状に正確に反映されているか
チェックをおこなう
格子生成へ
翼面の格子生成
中心:非構造格子
一般に翼面格子は、
構造格子又は、非構
翼面ハイブリッド格子
造格子のいずれかで
生成するのが普通
・構造格子の特徴である、縦・横方向の格
子間隔の独立した制御、
翼面の格子は、「翼面
・非構造格子の格子生成の容易さ、
ハイブリッド格子」を新
両者の利点を取って組み合わせた格子
翼縁:構造格子
たに提案し、生成する。
図2.翼面ハイブリッド格子
変更パラメータ
スパン方向格子間隔
1.00、2.70、5.80×10-3の3通り
periodic
コード方向格子間隔
0.50、1.00、2.50×10-3の3通り
境界層成長率
1.35、1.30、1.25、1.20の4通り
(境界層格子厚さは一定とする)
対称性を利用し、1翼のみ
の格子で計算を行う。
図3.計算格子全体図と境界層格子
計算条件
計算コード
Fluent6.2
乱流モデル
SST k-ω
(精度は標準k-ωとほぼ同じだが、計算が安定)
スキーム
圧力:2次中心差分、運動量他:QUICK
格子数
約25~60万
レイノルズ数Re 0.6×106
計算領域
半径3D,長手7,角度72°(周期境界)
翼は固定し、周囲流体を旋回させ、
セル中心に遠心力とコリオリ力を体積力として与える
最適格子を用いた計算結果
パラメータを変更させて生成、試計算繰り返し、
最適な格子生成パラメータを明かにした。
表1.格子パラメータ
スパン方向格子間隔 5.80E-03
コ
ード方向格子間隔 5.00E-04
最適化したパラメータを
境界層第一層厚さ
5.00E-05
用いた格子では、前進
格子成長率
1.25
係数Jが0付近で、推定
境界層数
20
精度が落ちるものの、実
上記のパラメータを用いた
験値と非常に良い一致
格子で計算を行い図4に
を示す結果となった。
その結果を示す。
KT:スラスト係数、KQ:トルク係数
η
10KQ
KT
図4.P410R計算結果-POT曲線
最適格子を用いた計算結果 2
他のプロペラに適用し、良い結果を得た。
10KQ
10KQ
KT
KT
η
η
図5.MP-B計算結果-POT曲線
実験値:NMRI(1978)
図6.KP505計算結果-POT曲線
実験値:NMRI(2000)
最適格子を用いた計算結果 3
他のプロペラに適用し、良い結果を得た。
10KQ
KT
η
図7.青雲丸通常型プロペラ計算結果-POT曲線
実験:IHI試験水槽(1983)
プロペラ単独性能計算について
高い精度で性能予測が可能な格子パラメータを
標準化することが出来た。
CADモデルの成形においては、プログラムの適
用や、ソフトのギャップ補間機能を用いることで、
正確な形状の表現を可能にした。
数値計算
プロペラと舵の直接計算
プロペラ・舵の直接計算の目的
1.最適化したプロペラ格子生成パラメータを
用いて格子生成し、高精度な性能推定を行う。
2.舵についても2次元で最適な格子を検討し、
プロペラと舵の相互干渉効果を再現する。
3.安定して計算が行われる条件を明かにす
る。
計算対象プロペラと舵
5翼の通常型プロペラ
「MP-B」と、
NACA0015の一様断
面を持った矩形舵
「MR-2」を組み合わせ
て計算を行った。
図8.プロペラ・舵のCADモデル
計算格子生成
プロペラの格子は、単独性能計算で標準化した
格子生成パラメータを用い、舵については、2次
元で格子の最適化を行い、それを元に生成した。
図9.プロペラ・舵の計算格子全体
図10.プロペラ・舵の表面格子
計算条件
移動ブロック境界面
計算コード
Fluent6.2
乱流モデル
SST k-ω
スキーム
圧力:2次中心差分、運動量他:QUICK
格子数
約241万
レイノルズ数Re 0.48×106
前進係数J
0.501
スライディングメッシュ
計算領域
水平方向6D、鉛直方向6D、長手7D
プロペラの格子を含むブロックを回転させ、その他の
舵を含むブロックは静止させたままで計算を行う「スラ
イディングメッシュ法」を用いて計算を行った。
時間刻みは、プロペラが1度回転するように設定した。
計算結果
プロペラの舵へ及ぼす影響について
プロペラの舵への主な影響は、プロペラ
旋回流による左右の舵表面の圧力差
図11.舵表面の圧力分布 (左:左舷 右:右舷)
舵表面の圧力分布比較
実験値、森山ら(1981)
chord-A
chord-B
chord-C
chord-D
chord-E
x
赤:左舷
青:右舷
図12.舵表面圧力測定点
図13.chord-Aに於ける圧力分布
B
C
舵表面の圧力分布比較 2
赤:左舷
赤:左舷
青:右舷
青:右舷
図14.chord-Bに於ける圧力分布 図15.chord-Cに於ける圧力分布
舵表面の圧力分布比較 3
赤:左舷
青:右舷
D
E
赤:左舷
青:右舷
図16.chord-Dに於ける圧力分布 図17.chord-Eに於ける圧力分布
舵表面の圧力分布比較について
プロペラ軸中心(x軸)の近くでは、負圧のピー
ク値の推定精度は良くないが、ピークを除けば
実験値と良い一致を示している。
また、軸から遠くなるほどピークも精度良く再現
されており、誤差は2%程度である。
計算結果
舵のプロペラへ及ぼす影響について
線は舵無し
舵のプロペラへの影響
点は舵有り
は、舵による排除効果
でKT、KQが増加する
ことである。
KT、KQ共に増加し、定
性的に見て良く再現さ
れていると言える。
図18.舵の有無による性能の変化
数値計算
プロペラと船体の直接計算
プロペラ・船体の直接計算の目的
1.最適化したプロペラ格子生成パラメータを
用いて格子生成し、高精度な性能推定を行う。
2.船体との直接計算を行い、自航要素や伴
流分布を実験値と比較し、CFDによる性能推
定が可能であることを示す。
*2005年のプロペラと船体の相互干渉
計算に関するワークショップに於いて、プ
ロペラの扱いは無限翼数理論が主流。
計算対象プロペラと船体
プロペラは、5翼のHSP「KP505」と、船型は、コ
ンテナ船「KCS」を対象に計算を行った。
図20.船体KCSのCADモデル(上)と
5翼のプロペラ、KP505のCADモデル(左)
計算格子生成
プロペラの格子は、単独性能計算で標準化した
格子生成パラメータを用いた。船体は単独で格
子生成し、検討を行ったものを用いた。
図21.船尾の格子の様子
図22.船体格子全体図
計算条件
計算コード
乱流モデル
スキーム
格子数
レイノルズ数Re
計算領域
Fluent6.2
SST k-ω
圧力:2次中心差分、運動量他:QUICK
約175万
0.591×106
水平1L、鉛直1L、長手4L (Lは船長)
舵の相互干渉計算時と同様、「スライディングメッシュ
法」を用いて計算を行った。
計算結果
プロペラと船体の相互干渉について
自航要素と呼ばれる要素から評価を行う
有効伴流係数 (1-wt)
船体影響によるプロペラへの流入速度変化
推力減少係数 (1-t)
プロペラの吸い込み効果による船体抵抗の増加
プロペラ効率比 (ηR)
プロペラ単独と船尾で作動する時の効率比
推力減少係数(1-t)
有効伴流係数(1-wT)
自航要素の推定精度
1.00
0.90
0.80
0.70
0.60
0.50
実験
実験
7m模型船
海技研
(海技研)
実験
0.50
(海技研)
本研究
本研究
Fluent
全CFD
本研究
Fluent
Luebke
Taharaら
C hao
C FX5
Flow pack
C om et
ポツダム水槽 府大田原ら
HSVA
Luebke
Chao
無限翼数
全CFD
プロペラ プロペラVLM
Luebke
Taharaら
C hao
C FX5
Flow pack
C om et
0.60
0.70
0.80
0.90
1.00
実験及び他の計算は、CFD WORKSHOP2005@海技研より
船体による影響 -伴流- (曳航状態)
図23.プロペラ直前の伴流分布
実験値:日夏ら(2000)
船体による影響 -伴流- (自航状態)
図24.プロペラ直後の軸方向流速分布
(左:実験値、右:計算値)
ビルジ渦の影響による右舷での流速の
実験値:日夏ら(2000)
増加が計算により再現出来ている
CFDによる非定常な流場の再現
船体伴流中で作動するプロペラの圧力変動
(非定常キャビテ-ション)
サーフェースフォース
ベアリングフォース
(エロージョン)
(船体振動)
プロペラ近傍の圧力変動、船体表面の圧力変動
プロペラ・船体の相互干渉について
伴流中でのプロペラの作動による非定常な
船尾流場をCFDにより詳細に再現した。
曳航状態及び自航状態の伴流分布も実験
と良い一致を示しており、ビルジ渦のプロペ
ラへの影響も再現することが出来た。
定量的に見て、自航要素を高い精度で推定
出来た。
結論
結論
CAD・格子生成法・CFDソルバーの連携により、船体・プ
ロペラ・舵の相互干渉の詳細なモデリングを実現した。
翼面ハイブリッド格子の適用、格子パラメータの標準化に
より、相互干渉を推定するのに十分な精度を持つ格子生
成を可能とし、また実験と比較することで、精度を十分検
証した。
CFDの適用により、自航要素の推定だけでなく、船体・プ
ロペラの相互干渉に関し、非定常かつ詳細な解析が可能
であることを示した。
結論 ~今後の課題~
プロペラ単独性能、自航要素の定量的な推定について
かなり改善をしたが、まだ数%の誤差があり、実験と置
き換えるまでには至らない。
乱流モデルの検討(LES、DESなど)
格子のさらなる検討
等が必要となる。
非定常流場に関しては、実験値とのより詳細な比較が
必要である。変動圧に関しては、本質的にはキャビテー
ションが重要となり、今後、キャビテ-ションモデルを導
入した計算を行う必要がある。本研究ではその基礎を
築いたと言える。
終