共分散構造分析と同値モデル 前川研PD 村山 航 Contents SEM 入門 同値モデルについて Stelzl (1986) Mayekawa (1994) Lee & Hershberger (1990) Raykov & Penev (1999) 共分散構造分析 (structural equation 適合度 model; SEM) とは パス図(モデル) χ2(1) = 0.041 RMSEA = 0.00 SRMR = 0.003 a21 = 0.43** 睡眠時間 x1 分散共分散行列 (データ) 疲労感 x2 a32 = 6.27** 業績 x3 疲労 業績 睡眠 睡眠 4.64 疲労 業績 2.00 12.1 3.24 20.3 466.2 N = 252 解の推定メカニズム(1) 変数の測定方程式をモデルから立てる 内生変数を外生変数によって表現 解の推定メカニズム(2) モデルの分散・共分散を母数で構造化 解の推定メカニズム(3) 標本分散・共分散にもっとも近づくように,母数を 推定する(最尤法などで) ⇒ 5つのパラメータに対し6つ の方程式 ⇒ 自由度1 推定結果 標本分散・共分散行列と非常に近い ⇒ モデルへの適合がよい 一般的表現(RAM) とする。 すると となる。すなわち このとき,v の共分散構造は あとは, ⇒ ただし として最適化 :観測変数 :外生的潜在変数 :内生的潜在変数 :潜在変数の誤差 :観測変数の誤差 補足事項 SEM では観測されない変数(潜在変数)を扱うこともで きる。 知能 社交性 数唱 迷路 語彙 友人 外向 笑顔 共分散行列ではなく,相関行列を分散共分散行列とみ なして分析もできる 睡眠 疲労 業績 ※ 標準誤差などの推定が 不正確になることがある 睡眠 1 疲労 0.52 1 業績 0.26 0.52 1 共分散構造分析の強み 適合度に基づいたモデル間比較ができる 意欲 意欲 努力 成績 意欲 努力 1 0.56 1 0.19 0.38 努力 成績 成績 Which is better? (相関行列からも推測可能) 1 努力 意欲 成績 Plausible な因果モデルをデー タから選ぶことができる!? Contents SEM 入門 同値モデルについて Stelzl (1986) Mayekawa (1994) Lee & Hershberger (1990) Raykov & Penev (1999) 同値モデル (equivalent model)とは 異なるモデルであるにも関わらず,適合度がまっ たく同じであるモデル:2つのタイプ ある特定のデータにのみ同値になるモデル群 どのようなデータに対しても同値になるモデル群:以 後はこちらを扱う データの情報だけではモデルの違いを識別でき ない,ということ。 具体例(1) 2変数の場合 “相関は因果関係を意味しない”をSEMで 解消できる? 意欲 成績 意欲 成績 どちらも適合はパー フェクト。 統計的にどちらがよ いかを区別できない 同値モデル 具体例(2) 3変数の場合 a21 = 0.43** 睡眠時間 x1 疲労感 x2 a32 = 6.27** χ2(1) = 0.041 業績 x3 同値モデル 睡眠時間 疲労感 x1 x2 a12 = 0.62** a32 = 6.27** 業績 x3 χ2(1) = 0.041 “寝ていないから疲れて業績が悪い”のか“疲れてい るから寝ていないし業績も悪い”のか区別できない 飽和モデル 飽和モデル (saturated model) モデル上のどの2変数も直接のパスでつながっている。 飽和モデルは常に完全フィットを示す:同値モデル A A C B A C B C B (重回帰モデル) 同値モデルのインパクト 研究者が立てた因果モデルとまったく同じ程度 plausible なモデルが他にもある可能性 こうしたモデルは,まったく因果の方向が逆かもし れない (for a review, MacCallum et al., 1993) モデル構築時に,どのような同値モデルがあるの か,その上でなぜこのようなモデルにするのかを 説得的に示す必要性 “SEMは因果モデルか”:同値モデルの可能性をす べて排除した上ならば,ある程度因果は主張可能。 同値モデルの見つけ方 基本的な方法の提唱 より包括的・分かりやすい方法を提唱 Stelzl (1986) Lee & Hershberger (1990), Hershberger (1994) Mayekawa (1994) 同値モデルかどうかの判別方法を提案 Raykov & Penev (1999) Stelzl (1986) の方法 逐次 (recursive) モデルにのみ適用可能 基本的なアイディア SEM のモデル構築は“パスを引かない”制約を置くこと “パスを引かない”ということは,その変数間の偏相関 係数を0と制約したことと等しい 従って,パスがない変数間の偏相関の構造を壊さない モデルはすべて等値モデルである 準備:パスモデルを以下の形で表現 全変数を(逐次モデルの)上位-下位の順に並べる パスがない変数間には線を引く (ほぼ)すべての逐次モデルはこの形で表現可能 例 A 元モデル Stelzl の 表現 B E C A D B C D E 同値モデル作成のルール Rule I パスのない結果変数を境に“境界”を引く 境界で区切られたブロック「内」で変数を入れ替えると, 同値モデルができる(交換可能である) 境界をまたがないなら,線でつながる変数は交換可能 交換可能 A 交換「不可能」 B… E… I… K…… 変数交換可能 P… V 変数交換可能 変数交換可能 例1 A A B C D B E C C B A D E E A D B C E D 例2 A A B C D B E C A D C B E E A D D C E B Rule II A ある隣接する変数が,同一の変数(群)から “パスがない”とき,その隣接変数は交換可能 B… E… I… M N… …V 変数交換可能 例 A A B C D B E C A B C E E D A D B C D E その他のルール(今回は例なし) Rule III ある変数 M がそれより上位のすべての変数からパスを 受けているとき 上位のある変数 E からのパスを除去し,代わりに E と M に誤差相関を仮定しても等価モデルである Rule IV ある隣接する変数 M と N がある(M が上位)。 N にパスがない変数すべてが,M にもパスがないとき, M と N の間のパスを除去し,変わりに M と N に誤差 相関を仮定しても等価モデルである。 まとめと限界 逐次モデルで等価モデルを生成するためのルー ルを,偏相関の観点からはじめて整理して提唱 なお,これらのルールは生成された新たなモデル に繰り返し適用可能(以降のルールも同様) 潜在変数間の関係にも適用可能 必要条件ではないが十分条件 難点 かなり分かりにくい:ランクの変更という形でモデル生成 パスが複雑になるほど適用の難しさが増す Mayekawa, Hershberger のルールへ Mayekawa (1994) の方法 パス図そのものから同値モデルを簡易に見つける 方法を提唱 逐次モデルで誤差相関がない場合のみ適用可能 2つの鍵概念 Exogenous set of variables (EXSV):その群内ではお互 いにパスが引かれているが,群外からはパスが入ってこ ない変数群。外生変数群 Symmetric set of endogenous variables (SSENV):群 内のどの変数も,群外の同じ変数(のセット)からパスを 受けている変数群。 例 EXSV A B C D SSENV Rule EXSV,もしくは SSENV 内でパスを入れ替えて 同値モデルを作成する。その新たな EXSV, SSENV をもとの変数群と置き換えると,全体 のモデルも同値モデルのままになる。 具体例 残り2つは各自で オリジナル 1 1 2 2 5 5 3 4 3 4 1 2 1 2 EXSV 5 5 3 4 3 4 3変数の場合 4変数の場合(1) 4変数の場合(2) 4変数の場合(3) 4変数の場合(4) まとめ 適用が容易で分かりやすいルール 双方向矢印(相関)がある場合は,片側矢 印に置き換えてから 潜在変数間の関係にも適用可能 繰り返しの適用が可能 Stelzl (1986) の rule I, rule II を包括 Rule I: EXSV, SSENV で説明可能 Rule II: SSENV で説明可能 Lee & Hershberegr (1990) の方法 非逐次モデルにも適用可能:Limited block recursiveness のもとで有効 パス図を先行ブロック,焦点ブロック,後続ブロックの 3つのブロックに分ける(先行もしくは後続ブロックは なくてもよい) ブロック間は逐次モデルである必要性 焦点ブロック内は逐次モデルである必要性 残りの部分は非逐次モデルでも構わない e 基本ルール X P e Q Y “Replacing rule” R 焦点ブロックに適用 「X -> Y のパスがあるとき,Y に影響を与える 変数が X に影響を与える変数を包括している か同じとき,X と Y の直接パスを誤差相関に 置き換えても同値モデルになる。」 その逆も適用可能(誤差相関を直接のパスに 置き換える)。 繰り返しの適用が可能 重要な派生ルール Replacing rule より導かれる,重要な派生ルール 焦点ブロックにおいて,Y に影響を与えている変数が,X に影響を与えている変数と同じとき,X と Y の間のパス は向きを変えても全体モデルが同値モデルになる。 X -> Y を誤差相関に置き換えてさらに replacing rule を適用 先行ブロック(他の変数群からのパスがない変数群)が飽 和モデル (just identification block; JID block) のとき, その先行ブロックのどのパスを入れ替えても,もしくは誤 差相関に置き換えても,全体モデルが同値モデルになる 先行ブロックを焦点ブロックとみなす。JID ブロックの変数はどの 変数からもパスがないので,replacing rule が適用可能になる。 例 Locke et al. (1984) 7に影響を与えている変数が6 に影響を与えている変数を包 括している(≠同じ)ので,誤差 相関に置き換え可能。ただし, パスの向きは変えられない 1 3 4 5 6 2 JID なので,パス の向きを変更可能 同じ変数群からパスを受 けているので,パスの向き が変更可能(もしくは誤差 相関に置き換え可能) 7 まとめ シンプルで非逐次モデルにも適用可能なルール Stelzl (1986) のルールを包括している Mayekawa (1994) のルールも包括? 潜在変数間の関係にも適用可能 Hershberger (1994):因子分析モデルにおける reversed indicator rule を提唱(今回は扱わない) Raykov & Penev (1999) の方法 同値モデルである必要十分条件を記述 基本的に,同値モデルを生成するルールではない 2つのモデルが同値モデルかを判別するのに便利 Luijben (1991) も必要十分条件を提唱 しかし,ヤコビアン行列を計算する必要があり,面倒くさい Raykov の方法の方が,より計算しやすい(それでも面倒 だが)。 Rule の概略 モデル1とモデル2がある。モデル1のパラ メータからモデル2のパラメータを一意に求め る関数 g が存在するとき,この2つのモデル は同値モデルである。 例 e3 e2 Model 1 睡眠時間 x1 a21 疲労感 x2 a32 業績 x3 Model 2 睡眠時間 x1 e*1 a*12 疲労感 x2 a*32 業績 x3 e*3 Model 1 と Model 2 は同値モデルか?(we expect they are) Model 1 と 2 の構造方程式 と置いて,モデル1のパラメータをモデル 2のパラメータ変換で表現できるか(もしく はその逆)をチェック 結果 Model 1 のパラメータが, Model 2 のパラメータで一 意に表現できた! Model 1 のパラメータを知 るだけで,Model 2 のパラ メータを知ることができる Model 1 と Model 2 は同値 モデル まとめ 同値モデルを判別する方法を提供 同値モデルの生成には向かない(不可能 ではないけれど,,,) 計算は,やはり意外に大変 総合考察 同値モデルの検討は非常に重要 現在のパスモデルと同じくらい説得的なモデルが存在 することになる。 同値モデルに対処するには 先見的な知識・理論 道具的変数の利用 次のスライドで説明 高次のモーメントの使用 Rakov (1997):多母集団分析で集団間に等値制約を課 すと,等値モデルでも適合度に違いが出ることを示す 参考文献 Hershberger, S. L. The specification of equivalent models before the collection of data. In A. Von Eye and C. C. Clogg (Eds.), Latent variables analysis (pp. 68-108). Thousand Oaks, CA: Sage. Lee, S. & Hershberger, S. L. (1990). A simple rule for generating equivalent models in covariance structure modeling. Multivariate Behavioral Research, 25, 313-334. Luijben, T. C. W. (1991). Equivalent models in covariance structure analysis. Psychometrika, 56, 653-665. MacCallum, R. C., Wegener, D. T., Uchino, B. N., & Fabrigar, L. R. (1993). The problem of equivalent models in applications of covariance structure analysis. Psychological Bulletin, 114, 185-199. Mayekawa, S. (1994). Equivalent path models in linear structural equation models. Behaviormetrika, 21, 79-96. Rakov, T. (1997). Equivalent structural equation models and group equality constraints. Multivariate Behavioral Research, 32, 95-104. Rakov, T. & Penev, S. (1999). On structural equation model equivalence. Multivariate Behavioral Research, 34, 199-244. Stelzl, I. (1986). Changing a causal hypothesis without changing the fit: Some rules for generating equivalent path models. Multivariate Behavioral Research, 21, 309-331.
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