生物学 第8回 細胞の数を増やす 和田 勝 皆さんが知りたいと 思っていることは、どうしてヒトはこん な形をしているのか、自然界の花鳥 風月はどうして様々な形をしているの か、ということだと推測します。 繰り返し述べているように、生物の 形(表現型)はタンパク質で決まりま す。そのタンパク質の設計図がDNA です。 繰り返しになりますが タンパク質とDNAは、まったく異なる 分子です。 タンパク質 DNA 本当はもっと長いが、、 こっちが設計図 こっちが実働部隊 DNAからタンパク質へ 設計図(遺伝情報、DNA) 転写(transcription) 遺伝情報とタンパク質の仲立ちとなるRNA 翻訳(translation) タンパク質が構造と機能を実現 このような情報の流れをセントラル・ドグマと言います。 染色体-染色質-DNAの関係 染色体 細胞分裂 のとき 染色質 (chromatin) 核の中に 収められ ている状 態 DNAが裸に 遺伝情報を読 み出すとき 設計図としてのDNA 細胞が数を増や すとき、当然まっ たく同じ設計図を 持った細胞を作ら なければなりませ ん。これがDNAの 複製の過程です。 核(nucleus) 核膜 ●核小体 ●染色質 ● ふだんは 染色体は 見えない。 体細胞分裂と染色体 間期 ● 後期 前期 ● 終期 ● ● 中期 ● 前期にDNA-染色質-染色体 染色体 凝縮した染色質 染色質 ヌクレオソーム DNA 糸巻きみたいなタンパ ク質に巻き取られる ここでもう一度、 体細胞分裂の過程を位相差顕微鏡 で見てみましょう。mpgのファイルなの で、別画面で。 位相差顕微鏡: 位相を変えることのできる特別な集光装置と対物レン ズを使って、小さな屈折率の差をコントラストの差に変 換して目に見えるようにした顕微鏡。 体細胞分裂 体細胞分裂の過程を模式図の動画 で見てみましょう。 mpgのファイルな ので、別画面で。 間期から分裂期へ 染色質 (chromatin) この時期を間期と呼 びます 染色体 この時期を分裂期と 呼びます 染色体(中期)の構造 セントロメアにはタンパク質が付着して動 原体(キネトコア)という構造をつくります。 植物細胞の体細胞分裂 分裂期は4つに分けられる 前期 中期 後期 終期 体細胞分裂の過程 前期(prophase) 体細胞分裂の過程 中期(metaphase) 体細胞分裂の過程 後期(metaphase) 体細胞分裂の過程 終期(anaphase) 体細胞分裂の過程 細胞質分裂(cytokinesis) 染色体が縦に割れる 前期に染色体として観察できるように なるときには、2本の染色分体が寄り そった状態。 寄りそった2本の染色分体は、多数の タンパク質(コヒーシン)のクリップで 止められた状態。 染色分体を繋ぎ止めている コヒーシン ヒトの染色体(中期) 22対の定染色体と2本の性染色体 体細胞分裂 体細胞分裂の過程では、次の3つのこ とがおこる必要がある。 ●DNAを正確にコピーして2倍にし、 それから染色体を複製する。 ●ミトコンドリアのような細胞小器官も 均等に分配する。 ●細胞質を2つの娘細胞に分離する。 前期にDNA-染色質-染色体 染色体 凝縮した染色質 染色質 ヌクレオソーム DNA 糸巻きみたいなタンパ ク質に巻き取られる DNAの複製 つまり分裂期に入る前に、DNAは複 製されていることになります。 間期の間に、DNAは複製されている のです。 さてそのDNAの複製ですが、、。 DNAの複製 ワトソンとクリックは、染色体が複製す るときには、一方の鎖それぞれを鋳型 にして新しい鎖が複製される予想しま した(半保存的複製、semiconservative replication)。 メセルセンとスタールは実験によって 証明することが必要だと思い、実験法 を考案しました。 メセルセンとスタールの実験 CsClの濃い溶液を沈降セルに入れて 大きなG(10,000g)をかけて遠心する と、セルの上から下に密度勾配ができ ます。 溶液に重さ(密度)の異なる高分子を 入れておくと、高分子はCsClの同じ密 度のところに集まってきます。 メセルセンとスタールの実験 DNAに重さの差を出すために、 14NH OH のかわりに15NH OHを培 4 4 地に入れて何代も大腸菌を飼育した。 メセルセンとスタールの実験 重たい培地で飼育した大腸菌を、ふ つうの14NH4OHで飼育し、最初の世代 、次の世代、さらに次の世代と時間を 追って大腸菌を集め、DNAを抽出し 密度勾配遠心を行う。 実験の解釈 この実験は、明ら かに新しく複製され た二本鎖DNAの半 分が軽いNの鎖で 、もう一本が元の重 いNのDNAである ことを示している。 DNAの複製 DNAの複 製は、2本 鎖がほど けて、それ ぞれを鋳 型に合成さ れるので す。 DNAの複製 DNAの複製は半保存的に起こってい ることが確かめられました。 しかし実際に、どのような過程でDNA が複製されるかが分かったわけでは ありませんでした。さらにDNAポリメラ ーゼの発見など、多くの実験が必要だ ったのです。 DNA複製の過程 転写にはRNAポリゼラーゼが必要だ ったように、DNAの複製にはDNAポリ メラーゼが必要だとわかりました。 RNAポリメラーゼのお話をしたときに、 かならず5’→3’の方向に合成が進む と言いました。 DNA複製の過程 つまり、鎖の長さが伸びるときは、必 ず次のヌクレオチドの5’のリン酸が、 糖(デオキシリボース)の3’のOHと 結合するということです。 リン酸 4’ C C 5’ 3’ C 塩基(A, T, C, G) O C 1’ C 2’ OH DNA複製の過程 DNA複製の過程 ところがやっかい なのは、DNAは 二本鎖だというこ とです。前のスラ イドの図は左図の 右側で起こってい ることで、左側で は逆向きに合成 が進む必要があ ります。 DNA複製の過程 右側は、二本鎖 をほどきながら そのまま合成を 進めることがで きます。こちら側 をリーディング 鎖と呼びます。 DNA複製の過程 いっぽう、左側 ではほどいた場 所から遠ざかる ように合成を進 めなければなり ません。こちら 側をラギング鎖 と呼びます。 DNA複製 すなわち、リー ディング鎖とラ ギング鎖では 合成の方式が 異なることにな ります。これを いっぺんにや る必要がある のです。 プライマーゼ 複製は複製開始点から DNA複製の全体像 細胞周期 間期にDNAの合成が起こっているこ とがわかったので、間期はさらに3つ のステージに分けられました。 まず、DNAの合成が起こっているの でS期(synthesis)です。分裂期をM期 (mitosis)と呼び、その間をG期(gap) といいます。 細胞周期 細胞周期 細胞分裂をくり返している細胞では、 この周期をくり返しています。 多くの細胞では、G1期で細胞周期の 外へ出る。この状態をG0といいます。 G0期の細胞でも、必要があると細胞 周期の戻ることができます(成長因子 、ホルモンなどの作用で)。 細胞周期の調節 周期の重要なポイントに検問所(チ ェックポイント)があり、検査に合格 しなければ次のステップへ進むこと はできません。 それぞれの検問所では、必要な部 品がすべてそろったか、DNA複製 は完了しているかなどが検査され ます。 細胞周期の調節 DNAに損 傷はない か、DNA合 成の原料 は十分か 紡錘体は 正常につく られている か DNAに損 傷はない か、DNA複 製は完了し たか 細胞周期の調節 実際には酵素の活性が検問所の 働きをしています。 リン酸化酵素とそれに結合するタン パク質です。がん抑制遺伝子の一 つであるp53がコードするタンパク 質は、G1/Sチェックポイントで重要 な役割をはたしています。 ガン化した細胞は、検問所を無視し て暴走している状態なのです。 生命と情報 DNAの情報を誤りなく受け渡すこと により、生命は継続していきます。 一方で、DNAの塩基の変化(突然 変異)と自然選択により生命は進 化してきました。 生命=情報の受け渡しと言えるか もしれなませんね。
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