7章.移送サービスでの運転に必要な知識と心構え

2章.利用者理解
本章のポイント
1.移動困難者とは
2.肢体不自由者
6.知的障害者・発達障害者
3.視覚障害者
7.精神障害者
4.聴覚・言語障害者
8.高齢者
5.内部障害者
9.障害を持つ子ども
1.移動困難者とは
移動制約者
高齢者、障害者、妊娠中の女性、けが人等。
移動困難者
・独立した歩行が困難であり、単独で
公共交通機関の利用が困難な者。
車いす使用者でも、脳血管障害によるまひ、事故による脊髄損傷等
移動困難者となった理由は異なる。
利用者一人一人の障害や置かれている生活環境などをよく理解する。
参考:ICF(International Classification of Functioning, Disability and
Health)
2001年5月のWHO総会で採択された人間の生活機能と障害の分類法。
■移動困難者の移動に関連する法律
・介護保険法
高齢化に対応して平成12年度より設けられた社会保険制度。
(65歳以上が被保険者)
要介護認定の結果による支給限度額の範囲内で、利用者が希望するサービ
スを組み合わせて利用できる。
・障害者自立支援法(平成18年4月施行予定)
①身体、知的、精神障害別の縦割りサービスを一元化し、施設・事業を再編
②市町村が責任をもって一元的にサービスを提供
③サービスの利用量と所得に応じた負担を利用者が行うとともに、国と地方自
治体が責任をもって費用負担
④就労支援を抜本的に強化
⑤支給決定の仕組みを透明化、明確化
※サービスの提供者は地方自治体へ公費負担分を請求する代理受領方式 。
■重複障害について
■高齢者数
・在宅の身体障害者のうち2種類の
障害を併せ持つ者は5.4%。
高齢者は約2千5百万人。
■障害者数
・肢体不自由と内部障害の重複は
約3割。
肢体不自由者は約180万人。
高齢者
24,993
肢体不自由者
3種類以上の重複障害
10,000人
(5.7%)
1,797
視覚障害者
306
聴覚・言語障害者
361
聴覚・言語障害
と内部障害
8,000人
(4.6%)
視覚障害と
聴覚・言語障害
13,000人
(7.4%)
視覚障害と内部障害
14,000人
(8.0%)
863
内部障害者
肢体不自由と
内部障害
51,000人
(29.1%)
注1)
知的障害者
聴覚・言語障害と
肢体不自由
50,000人
(28.6%)
視覚障害と肢体不自由
29,000人
(16.6%)
459
注2)
精神障害者
2,239
0
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
図 わが国の高齢者・障害者(平成13年) (千人)
注1)知的障害者の在宅は329.2千人、施設入居は129.9千人。
注2)精神障害者は外来患者の人数
資料:「平成17年版 障害者白書」内閣府、平成17年
「知的障害児(者)基礎調査」厚生労働省、平成12年
資料:厚生労働省「身体障害児・者実態調査」(平成13年)
図 障害の重複状況(身体障害者・在宅)
表 障害の重複状況(知的障害者・在宅)
(複数回答)
単位:%
視覚障害
13.6
聴覚または 音声機能、言語機
能または、そしゃ
平衡機能の障害 く機能の障害
11.0
23.0
肢体不自由
65.9
内部障害
18.6
資料:厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」(平成12年)
■年齢階層別障害者数
・知的障害者
・身体障害者
不詳
0.7%
~17歳
2.5%
65歳~
2.8%
不詳
4.4%
~17歳
28.4%
18歳~64歳
36.6%
65歳~
60.2%
18歳~64歳
64.4%
総数:3,327,000人
資料:厚生労働省「身体障害児・者実態調査」(平成13年)
総数:329,200人
資料:厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」(平成12年)
2.肢体不自由者
身体障害者(知的障害、精神障害を除く)全体の半数以上を占める
約180万人(平成13年度)
(1) 原因
■疾患別の分類
脳性疾患
脳性まひ、脳外傷後遺症、脳水症など
筋原性疾患
筋ジストロフィー、重症筋無力症など
脊椎・脊髄疾患
脊髄損傷、二分脊椎など
骨関節疾患
ペルテス病、関節リュウマチ、先天性股関節脱臼など
その他:骨系統疾患(先天性骨形成不全症など)、代謝性疾患、
四肢の変形等、弛緩性まひ(ペルテス病など) など
■事故などによる原因
交通事故、労働災害などによる、下肢切断、脊髄損傷など
(2) 障害のあらわれかた
1)肢体不自由者の運動障害
障害部位や原因によって、身体の特定の部位が動かせない、自分
の意志どおりに動かすことができないなどの運動障害があらわれる。
○義肢などの使用者
切断等の理由から車いす、義肢などを使用。
○脳血管障害により左右いずれかの片麻痺の人
左右いずれかの片麻痺の状態であることが多い。
片方の手足で車いすをコントロール。
軽度の場合は杖歩行、または下肢装具をつけて歩行。
○脊髄損傷による四肢麻痺の人
脊髄の神経切断、損傷を受けた位置により麻痺が生じる場所が異なる。
便意を感じなかったり、体温調整ができない、床ずれするなど
常に介助が必要 。
○脳性麻痺の人
出産時に何らかの原因で酸素が不足し、脳の細胞が損傷をうけたこ
とが原因で麻痺が生じる障害。
麻痺だけでなく、意思と関係なく身体が不随意の動きをしたり、手足
に硬直が生じることもある。
重度障害の方は、知的障害と重複している場合もある
○進行性筋萎縮症の人
進行性の筋肉が萎縮する疾患の総称
・神経原生(末梢神経に障害が生じて筋肉が萎縮する)
・筋原生(筋肉そのものに異常が生じて萎縮する)
筋原生の代表的な症状が「筋ジストロフィー症」
遺伝性で、首の座りや姿勢を維持するのが難しい 。
○リウマチの人
多くは関節を動かすと痛みを感じる。
特に足など力のかかる部分は、大きな負担に耐えられない。
2)肢体不自由者の障害等級
5級
12.6%
6級
4.7%
不明
1.1%
◇1級を例にした四肢・移動機能等
(身体障害者福祉法による分類)
1級
13.9%
2級
25.4%
4級
22.7%
3級
19.5%
総数:1,749,000人
資料:厚生労働省「身体障害児・者実態調査」(平成13年)
上肢
1)両上肢の機能を全廃したもの
2)両上肢を手関節以上で欠くもの
下肢
1)両下肢の機能を全廃したもの
2)両下肢を大腿の 2分の1 以上で欠くもの
体幹
体幹の機能障害により坐っていることができ
ないもの
乳幼児期
以前の非
進行性の
脳病変に
よる運動
機能障害
上肢
機能
不随意運動・失調等により上肢を使用する日
常生活動作がほとんど不可能なもの
移動
機能
不随意運動・失調等により歩行が不可能なも
の
(3) 移動に関しての制約
1)行動
松葉杖
①歩行が可能な下肢障害者
図
(杖、義足等の使用者を含む)
座った状態から立ち上がる時に負担が大きい。
T杖
多脚杖
エルボークラッチ
主な杖の種類
②車いす使用者
車いすの座面の高さを基準にして、生活空間の各部を合わせ、
水平方向の移動だけで生活が可能なようにする。
高いところや非常に低い位置にあるような物を取ることは難しい。
※移送サービスの利用者としては、車いす使用者が最も多い
2)公共交通機関利用で困ること
○階段、段差だけでなく、極端な人混み、狭い通路、急なスロープ、通路
の傾斜等の通過も困難。
○車いす使用者は、視点が常に低い位置にある。
高い位置にあるものが見づらかったり、手が届かないことがある。
○杖歩行をしている人、高齢の人は、短い距離の移動でも疲労を感じる。
ベンチ等休憩する場所が見つけられず不便を感じている。
(4)サービス提供時のポイント
○義肢などの使用者
介助の注意点を利用者に確認。
○脳血管障害により左右いずれかの片麻痺の人
介助の注意点を利用者に確認。
○脊髄損傷による四肢麻痺の人
体温調整ができないので、車内の温度を調整する。
シートにクッションを乗せることで床ずれを防止する。
○脳性麻痺の人
不随意の動きをしたり、手足に硬直が生じることもあるので、座席
への着席時やシートベルトの着用の際にも注意。
○進行性筋萎縮症の人
筋ジストロフィー症は首の座りや姿勢維持が難しい場合もあり、
筋肉が弱っていることから身体に触れる介助は十分に配慮。
○リウマチの人
骨が弱い場合や、関節が自由に曲がらない人が多く、
座席への着席時やシートベルトの着用の際にも注意が必要。
3.視覚障害者
(1)原因
※何らかの原因によって、眼から視覚中枢までの経路での損傷によって、
視覚機能が障害をきたした場合を視覚障害という。
・眼疾患の例(老化に伴うもの)
①緑内障
水(房水)が眼に溜まって眼圧が高くなる(眼球が固くなる)病気。
高くなった眼圧は眼の神経や血液のめぐりに悪い影響を与えて、視
神経が徐々に機能しなくなり、治療をしないと失明に至る。
②白内障
目の中のレンズが濁ることにより、視力が低下して霞んで見える。明
るいところへ出ると眩しく見にくい。
どんなに調整しても眼鏡があわない。ぼやけて二重、三重に見える。
(2)障害のあらわれかた
1)視覚障害者の視野
○弱視(ロービジョン。主として白内障、強度近視など)
盲と弱視の境界視力は、0.02~0.04未満
弱視 強度弱視 0.04~0.1未満
軽度弱視 0.1~0.3未満
正常な視野
弱視ではっきりと見えない様子
(イラストの配色は視野障害とは関係ありません。)
○視野狭窄、中心暗点、視野欠損等
視野の一部に欠損があり、
周囲の情報を十分に視覚的に捉えることができない。
(緑内障などが原因)
中心暗点
周辺視野狭窄
視野欠損
(イラストの配色は視野障害とは関係ありません。)
2)視覚障害の障害等級
○全盲は最も程度の重い1級
6級
10.6%
◇視覚障害の障害等級の判定基準
(身体障害者福祉法による分類)
不明
0.3%
5級
11.3%
1級
34.9%
4級
9.3%
3級
9.0%
2級
24.6%
総数:301,000人
資料:厚生労働省「身体障害児・者実態調査」(平成13年)
1
級
両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、
屈折異常のある者については、矯正視力について測った
ものをいう。以下同じ)の和が 0.01 以下のもの
2
級
両眼の視力の和が 0.02 以上 0.04 以下のもの
3
級
両眼の視力の和が 0.05 以上 0.08 以下のもの
4
級
1)両眼の視力の和が 0.09 以上 0.12 以下のもの
2)両眼の視野がそれぞれ 5度以内のもの
5
級
1)両眼の視力の和が 0.13 以上 0.2 以下のもの
2)両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
3)両眼による視野の 2分の1 以上が欠けているもの
6
級
一眼の視力が 0.02 以下、他眼の視力が 0.6 以下のも
ので、両眼の視力の和が 0.2 を超えるもの
(3) 移動に関しての制約
1)行動
○全盲の場合、聴覚、触覚、臭覚、平衡感覚、振動感覚で空間認知
○空間認知の方法として最も重要なのは触覚
その他、音(聴覚)、気流の流れ(触覚)、匂い(嗅覚)、床・壁・交通機関の
振動(振動感覚)、床・地面の傾斜(平衡感覚)によって周囲の状況を把握。
○情報量が限られ、行動において極めて慎重、かつ緩慢な行動となり
がち
2)公共交通機関利用で困ること
○経路の案内、施設内の案内など、主として音声による情報案内
が必要。
○単独歩行をしている視覚に障害のある人のうち、ホームからの
転落経験のある人は6割とも7割ともいわれている。
○経路の確認、運賃の確認が困難。
●
券売機では、お金やカードを入れる位置、行き先の選択、他社線への乗り継ぎの
ためのボタンがわからない。
● タッチパネル式券売機では利用がいっそう難しい。
● 何か聞きたくても、尋ねられる係員を探すことができない。
(4)サービス提供時のポイント
■歩行介助で注意すること
○相手の手で介助者の肘の付近をもってもらうか、肩に手を置いてもらう。
○「左側に曲がります」「右側に自転車が置いてあります」など説明。
■視覚障害者の車両への乗降時に注意すること
対 応
セダン
○車体に近い側の手を屋根の部分にふれてもらう。
○反対側の手を開いているドアの上部にふれてもらう。
ワンボックス ○屋根に頭をぶつけないように注意し、ステップがあることにも注意
○グリップの位置など車内の様子を説明
※盲導犬の乗降
足や尻尾をドアではさまないように注意。
■誘導・警告ブロックについて
○旅客施設や歩道には、視覚障害者用の誘導・警告ブロックがある。
○白杖(はくじょう)を用いた単独歩行の技能が備わってこそ有効に
活用できる。
誘導・警告ブロック
■位置関係を示す方法
クロックポジション
○時計の文字盤に見立てて、視覚障害の方に物の位置や方向を示す方法
○右の方向なら3時、左なら9時
一般的にはテーブル上の料理等の位置を示す時、進行方法を説明する時
に便利。
4.聴覚・言語障害者
(1) 原因(聴覚障害)
1) 聴覚障害
①先天性難聴:遺伝性難聴、母体の妊娠中の事故など
②後天性難聴:ウィルス感染症、薬物障害、頭部外傷、血行障害など
■感音系の障害(音を感じる器官の障害)
内耳の音を感じる器官の障害。
音がひずんで聞こえたり、雑音のように聞こえたりする障害。
■伝音系の障害(音を伝える器官の障害)
外耳や中耳の音を伝える器官の障害。
伝わりにくい障害で、補聴器で音を大きくすれば聞こえる 。
2) 言語障害
「話す、聴く」というコミュニケーションが難しい状態。
①脳性まひ ②脳卒中後遺症 ③知的障害や発達障害 ④構音障害
(2) 障害のあらわれかた
1)聴覚障害:
聞こえる程度: 軽度難聴~全失聴
聾:音や話しことばがほとんど聞こえない
難聴:聾より軽い
老人性難聴 :
音としては聞き取れるが、言葉としてははっきりと聞き取れない。
2)言語障害:
失語症 (大脳の言語野の障害により言葉の組み立てや理解が困難)
構音障害(発声発語器官の動きや形態の異常により明瞭な発音が困難)
音声障害(声帯の異常により発語が困難)
吃音
(なめらかに話すことが困難)
3)聴覚障害の障害等級
不明
4.9%
◇聴覚障害の障害等級の判定基準
(身体障害者福祉法による分類)
1級
0.3%
2級
25.4%
6級
29.2%
5級
1.4%
3級
20.2%
4級
18.5%
総数:346,000人
資料:厚生労働省「身体障害児・者実態調査」(平成13年)
2
級
両耳の聴力損失がそれぞれ 90デシベル以上のも
の(両耳全ろう)
3
級
1)両耳の聴力損失が 80デシベル以上のもの
2)平衡機能または言語機能の喪失
4
級
1)両耳の聴力損失が 70デシベル以上のもの
2)両耳による普通語声の最良の語声明瞭度が50
パーセント以下のもの
3)音声機能または言語機能の著しい障害
5
級
平衡機能の著しい障害(ただし2つの重複する障
害は1級上とする)
6
級
1)両耳の聴力損失が 60デシベル以上のもの
2)一側耳の聴力損失が 80デシベル以上、他
側耳の聴力損失が 40デシベル以上のもの
(3) 移動に関しての制約
1)聴覚障害者の行動
○視覚にたよっている
○いつも注視を続けなければ、突然の事態に対応できない
○自分の発声を聞くことができず、十分な発声ができない事が多い
2)公共交通機関利用で困ること
○旅客施設内、ホーム、車内での案内放送が聞えない場合がある。
○ホーム等では列車の接近や発車合図に気がつかない場合がある。
○事故や故障で運休している時の情報がすぐに得られない。
(4) サービス提供時のポイント
手話、身振り、表情、筆談、文字盤など
コミュニケーションが難しい場合は、必ず車を停めてから行う。
■音がひずむタイプの難聴者には大きな声では話しかけない
○コミュニケーション方法の基本
・表情や身振りが良く見えるように
・補聴器、口話によるコミュニケーション
・言い方を変えてみる工夫
・筆談によるコミュニケーション
・手話によるコミュニケーション
・視覚を活用したコミュニケーション
○方角、場所、物の位置を案内する
地図等を使用する。
5.内部障害者
(1)原因
心臓、腎臓、呼吸器、ぼうこう、直腸、小腸および血液の免疫の機能障害
腎臓機能障害
慢性糸球体腎炎、腎機能不全など
心臓機能障害
心弁膜症、刺激伝導障害、心筋症など
呼吸器機能障害
肺結核、肺気腫、気管支拡張症など
膀胱・直腸機能障害
膀胱腫瘍、直腸腫瘍、潰瘍性大腸炎など
小腸機能障害
上腸間膜血管閉塞症、小腸軸念転症 など
ヒト免疫不全ウィルス
(HIV)による免疫機能
障害
細菌、ウィルス、カビなどの感染源への耐久
力が低下し、健常者では何の問題も生じない
環境において、疾患を発生しやすい。
膠原病、パーキンソン病 膠原病の代表的な疾患であるベーチェット病
等の難病
は、何らかの原因で白血球の異常が生じて起
こると考えられている。
(2)内部障害のあらわれかた
一般的な身体上の障害にくらべ周囲の認識や理解を得られにくい。
1)代表的な疾患
腎臓機能障害
慢性腎不全になった場合、からだ中に水分や老廃物がたまって尿毒症状(だ
るい、吐き気、食欲不振、動悸、むくみ、けいれんなど)が現れる。
糖尿病の進行で腎臓の機能を補い、人工的に血液を濾過するための
人工透析に定期的に通院している人もいる。
心臓機能障害
心臓機能が低下した障害で、ペースメーカー等を使用している人もいる。
呼吸器機能障害
酸素ボンベを携行、人工呼吸器(ベンチレーター)を使用している人もいる。
膀胱・直腸機能障害
膀胱疾患や腸管の通過障害で、腹壁に新たな排泄口(ストーマ,オスト
ミー)を人工的に造設している。
オストミーを持つ人をオストメイトという。
小腸機能障害
栄養を吸収する小腸の機能が損なわれた障害。
定期的に静脈から輸液の補給を受けている人もいる。
ヒト免疫不全ウィルス(HIV)による免疫機能障害
抗ウィルス剤を服薬している人もいる。
膠原病、パーキンソン病等の難病
平衡を維持できない場合等日常生活に著しく制約を受ける。
2)内部障害の障害等級
○全体の半数以上が1級の障害者
○心臓疾患が最も多く、ついで腎臓疾患が多い
4級
20.0%
不明
0.8%
◇心臓機能障害を例にした内部障害の障害等級
の判定基準(身体障害者福祉法による分類)
1
級
2
級
1級
59.0%
3級
19.4%
2級
0.7%
総数:849,000人
資料:厚生労働省「身体障害児・者実態調査」(平成13年)
心臓の機能の障害により自己の身辺の日常生活
活動が極度に制限されるもの
―
3
級
心臓の機能の障害により家庭内での日常生活活
動が著しく制限されるもの
4
級
心臓の機能の障害により社会での日常生活活動
が著しく制限されるもの
(3)移動に関しての制約
○長時間立っているのが困難な場合がある。
○長い距離を連続して歩くことや階段の昇降が困難な場合がある。
○心肺機能が低下している方にとって、
・携帯電話等の電波によるペースメーカーへの影響に注意する
・街中等空気の汚染されている場所に近づけない
・酸素ボンベの携行が必要
○膀胱・直腸等の機能障害の場合、排泄に問題がある。
オストメイト:人工肛門、人工膀胱を造設している人もいる
排泄物を溜めておく袋(パウチ)の洗浄設備が必要。
(4)サービス提供時のポイント
腎臓機能障害
定期的な人工透析に通院している人の送迎において
・シャント(人工腎臓へ確実に大量の血液を送るために動脈と静脈をつないだ部分 )
のある腕は、圧迫したり乗降時にぶつけないようにする。
・出血した時は本人に血管の針刺し部分を押さえて止血をしてもらう。
・乗降時には抱える部位に注意して介助し、骨折に注意。
・食事療法への理解
・気分不良や体調変化に注意
透析直後に血圧低下や足のツリや動悸などがあった時は安静に。
送迎途中に、いつもと違うことがあった(違う様子だった)時は、
必ず運行管理責任者、家族へ連絡する。
■医療機器を使用している場合の注意点
心臓機能障害
ペースメーカー等を使用している人。
携帯電話の電源は切る。
呼吸器機能障害
酸素ボンベを携行、人工呼吸器(ベンチレーター)を使用している人。
酸素供給器
2m以内は火気厳禁。
容器が車内で倒れないように固定。
人工呼吸器、酸素供給器
チューブやコード類が車内で引っかかったりしないように注意。
6.知的障害者・発達障害者
(1)原因、障害のあらわれかた
1)知的障害
①概ねIQが75以下
②コミュニケーション,身辺処理,家庭生活,社会的スキル,地域資源の利
用,自立性,健康と安全,学業,余暇,労働など社会適応スキルの複数に
支援が必要である
③18歳までに明らかになっている
・原因としては、ダウン症候群などの染色体異常や出産時の酸素不足・脳の
圧迫などの周産期の事故,生後の高熱の後遺症などによる脳の機能障害
が考えられる。
知的障害の障害等級
不詳
12.2%
軽度
22.2%
◇知的障害の障害等級の判定基準
最重度
13.8%
重度
28.1%
中度
23.6%
総数:329,200人
資料:厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」(平成12年)
代表的な症候群
・最重度、重度、中度、軽度の4つの区分があり、
知能測定値による判定では、知能指数及びそれに
該当する指数が最重度ではおおむね0~19のもの、
重度ではおおむね20~34のもの、中度ではおおむ
ね35~49のもの、軽度では50~75のものとなって
いる。
・ただし、知能測定値の他にも、知的能力や職業能
力、社会性等の指標を用いて、程度別に判定する
方法もある。
療育手帳:知的障害児・者のための手帳制度。
都道府県によりその名称は 「愛の手帳」「緑の
手帳」などさまざま。
ダウン症
染色体異常を伴う障害。
先天性の心臓疾患など内臓の奇形や白血病などの疾患の合併も多い。
コミュニケーション能力などに個人差が大きい。
性格は一般に陽気で温厚、愛嬌がある。
理解に比較して言語などによる表出機能が遅れている発達特徴がある。
2)発達障害
発達の過程で,特定の能力や心理的機能の発達が阻害される障害で,脳の
中枢神経のなんらかの機能障害と考えられおり,養育態度の問題など環境
要因や教育が原因で発達が阻害されたものは,発達障害には含まれない。
①広汎性発達障害(PDD) 、自閉症
先天性の脳の機能障害であり、原因は解明されていない。
・社会性の発達の障害
・言語的発達およびコミュニケーション能力の障害
・非常に狭い関心やこだわり行動
例:違う道順で帰るなどルールが守られないと大混乱となる
7割は知的障害を伴っていますが、知的障害があっても描画・音楽・計
算・記憶力などに突出した能力を持っている人もいます。
高機能自閉症:知的障害を伴わないタイプの自閉症。
アスペルガー症候群:三つの特徴のうち言語的発達および
コミュニケーションの障害が顕著でないタイプ。
②AD/HD(注意欠陥・多動性障害)
以下の三つの特徴が、通常7歳までに発現している。
・不注意:適切に注意力が持続しない状態
・多動性:落ち着きなく動きまわったり、常に体の一部を動かす
・衝動性:外部からの刺激に対して衝動的に反応してしまう
③学習障害(Learning Disabilities )
知的発達には遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する
能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指す。
※学習障害がある場合、次のような困難が考えられます
●乗り換えの時間が計算できない、ゆとりを持って乗り換えができない
●時刻表や料金表を見間違いやすい
●耳からの情報と目からの情報とどちらか一方では理解しにくいことがある
※②③ともに、脳の働きに関係した原因がある障害。
(2)移動に関しての制約
・主に自閉症の人
○社会的なルールや常識が理解しにくいことがあり、列車やバスの車内で
知らない人に話しかけてしまったり、車内で奥に詰めたりしないことで他の
利用者から誤解を招く恐れのある人がいる。
○コミュニケーションに障害のある場合、自分から人に助けを求められない
○事故等で普段乗車している急行の運転が中止されたり、遅れたり、乗り
場が変更になると、理解しにくい
・主にAD/HDの人
○ものごとをパッと見て判断し、思いこみで行動することがある
○長時間、座席に落ち着いて座っていることが困難な人もいる など
・主に学習障害(LD)の人
○一生懸命聴いているが内容の理解ができない(聴覚系の困難)
○迷子になりやすい人もいる(空間認知の困難)
○時刻表などの文字をきちんと読むことができない人もいる(読字障害)
(3)サービス提供時のポイント
・精神障害がある人と同様、道順を急に変えたり、急に話しかけたりすると、
不安になる場合があるので、できるかぎり予定どおりの運転をすると共に、
出発前に十分に意思の疎通を図る。
・日差し、窓からの風などが気になっていないかなど、ふだんよりいっそう、
車内の環境についての配慮を心がける。
○ゆっくりやさしくゆとりを持って応対する 。
○急がせたりすると混乱するので、慌てさせない
対応例:渋滞で到着予定時間に間に合わない時は、
早めに利用者が理解しやすい方法で確実に伝える。
説明内容を印刷したものを見ながら声でも説明する。
発達障害者:感覚過敏や感覚鈍麻の傾向を持っている人が多い。
○車内のにおい、音、光、座面の生地の材質などに特に敏感
○疲労、移動時間の長さ、空腹に特に敏感な人。逆に鈍感な人。
○痛みや触覚に対して特に敏感。逆に鈍感な人。
7.精神障害者
(1)原因、障害のあらわれかた
脳内の神経伝達の仕組みに何らかの異常が生じるためではないかと考え
られている。
服薬とリハビリテーションを続けることで、ゆっくりと回復。
精神障害の障害等級
3級
18.5%
1級
23.1%
◇東京都を例にした精神障害の障害等級の
判定基準
障害年金の等級に準拠する。
1級‥他人の援助を受けなければ、ほとんど自分の
用を弁ずることができない程度
2級‥必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、
日常生活が困難な程度
3級‥日常生活又は社会生活に制限を受けるか、日
常生活又は社会生活に制限を加えることを必
要とする程度
2級
58.3%
総数:356,410人
資料:厚生労働省「衛生行政報告例」(平成15年度)
■代表的な疾患
①統合失調症
幻覚、妄想、思考障害、意欲減退、睡眠障害などの様々な精神症状によって、
判断を行ったり、対人関係が結んだりすることが困難になる。
治療を受け、十分な休養と睡眠をとって規則正しい生活のリズムを作ると回復。
②気分障害
通常の範囲を超えた気分の変化があり、その気分に支配されて生活が制約
を受けてしまうような状態。
「うつ病」
暗い気分に支配された状態
「躁(そう)病」昂揚した気分に支配された状態
③パニック障害
突然、激しい不安にかられ、動悸や息切れあるいはふるえなどの症状。
パニック発作は通常数分間でおさまりますが、発作の起こった状況・場所
に対する不安感が強く残ると、その状況を避ける。
④過換気(無呼吸)症候群
不安などで呼吸を早くすることによって炭酸ガスを多く吐き出し、血液中のpH
(ペーハー)がアルカリ性に傾いて、ふるえ、動悸、しびれ感、めまいなどの症
状が出現する状態。
⑤てんかん
脳内に正常よりも強い電気的変化が突発的に生ずることにより、
意識が薄れたり、やけいれんの発作が起きる病気。
(2)移動に関しての制約
●以前に、乗務員さんに不快な応対をされたことにより、それ以来、乗務員さん
を見ると怖くなる人もいる
●駅員や乗客の私語や笑いを自分と関係づけて考えて(関係念慮)、苦しく感じ
ることがあります。
●構内のアナウンスや駅員の話の内容の理解に時間がかかることがあります。
●緊張のあまり、お腹が痛くなったり吐き気がするときがあるので、トイレの近く
に座るようにしている人もいます。
(3)サービス提供時のポイント
○精神的な不安や、つらさに共感することが大切
○同じ質問を繰り返されても、いやな顔をせず、ゆっくり、
心のゆとりを持って利用者の用件を聞く姿勢が大切
○興奮しているときには、訴えずにはいられない不安を感じていると理解して、
まず話しをよく聞き、単純に否定したり、肯定したりしない。
○過喚起症候群には、紙袋を口にあてて二酸化炭素の多く含まれる自分の吐
いた空気を再び吸う再呼吸法を試みる(ビニール袋は使用しない)。
○安易に精神科治療を薦めたりするなど、治療の中身に立ち入るような言動は
慎む。
※てんかんの発作への対応
○発作が起こることがある(いつ起こるかわからない)
○転倒などでケガをしないように保護し、周囲に危険物があれば遠ざけて、
安全に休ませる。
○多くの場合は数分で意識が戻るが、回復が遅れるときは救急車を呼ぶ。
8.高齢者
(1)加齢による変化を理解する
高齢者:65歳以上 (後期高齢者:75歳以上)
○筋力、機敏性、順応性の低下、視力や聴力なども低下するのが一般的
○長い距離を歩いたり、素早く行動することが困難
○疾病等により、様々な複合障害があることもある
○筋力の低下に伴い、からだ全体のバランス能力が低下
○つまづきやすくなり、転倒して、大きなけがにつながる可能性がある
○骨が脆くなっているので、転倒の防止は特に重要
1)高齢期の体の変化と対応
<脳>
記憶力が低下するため、新しいことは繰り返し伝える
<耳>
高音を中心に聞こえが悪くなる。
車内でも、できるだけはっきりと聞こえる大きさで話す。
重要なことは停車させて確実に伝える。
<目>
老眼、明るさや色を識別しにくく反応が遅くなったりする。
「白内障」は、75歳以上の90%の人がかかる。
<体温調節>
体温調節機能が低下し温度感覚が鈍る。
<運動機能、平衡感覚>
運動・反射神経が低下したり、平衡感覚が鈍る。
→動作を急がせない、座る場所を常に確保できるようにする。
<感覚機能>
五感が全般に低下する。
→体の一部をどこかにぶつけたり挟んだりしても痛みを感じにくくなるため、
サービス時には手足の位置や傷の有無に注意する。
<排泄機能>
排尿回数が多くなったり、我慢ができなくなったりする。
→移動中のトイレマップを作ったり、気軽にトイレに行けるよう促す。
<骨、関節、筋力>
骨がもろくなり骨折しやすい、筋力低下で力が入りにくい、関節が堅くなり手
足が伸びにくいなど。
→無理な姿勢を取らせたり、足腰に強い衝撃が加わったりしないように注意。
特に転倒の予防は大切。
2)高齢者に多い疾病と対応
<脳血管障害>
脳の血管が詰まる脳硬塞や、脳の血管が切れる脳出血の総称。
多くは手足の麻痺や言語障害を伴う。
<認知症>
脳や身体の疾患を原因として、記憶・判断力などの障害がおこり、普通の社
会生活がおくれなくなった状態。
脳血管障害による認知症
全体に能力が低下するというよりは、一部できることもある。
アルツハイマー病
脳が病的に小さくなり、知能低下や人格の崩壊がおこる。
直近のことを忘れてしまう「記憶障害」、今、ここがどこかわからなくなる「見当識
障害」 、場にあった行動がとれない「判断力の低下」など
徘徊などもがあることもあり周囲との摩擦がおこりがち。
<骨・関節障害>
加齢に伴う筋力低下やバランスを崩しやすいといった身体的要因が重
なるため転倒しやすくなっている上に、老化により骨がもろくなるため、
ちょっとしたことで骨折する。
(2)移動に関しての制約
公共交通を利用しての移動に不安を感じている利用者が多い。
○階段の上り下り、車両の乗降等は身体的負担が大きい。
○運賃表等の小さな文字が見えにくい 。
○新しい券売機等の操作がわかりにくい。
○周囲の人の動くスピードについていけない。 など
(3)サービス提供時のポイント
■乗降時
○移動、コミュニケーションに時間がかかることが多いので、ゆとりを持って対応
する
○乗降時に急がせないようにして、ご本人のペースで動いてもらう
■歩行時
○介助者は足もとに転倒しやすい状況(段差・障害物)がないか確認する
○バランスを崩したり、危ない場合はすぐに手が出せるようにする
■会話
○高齢の利用者は、同じことを繰り返すことがあるが、
いやな顔をせず、ゆっくり利用者の用件を聞く姿勢が大切
9.障害を持つ子ども
(1)障害を持つ子どもを理解する
○発達段階、性格行動、知的レベルの把握とともに、成人と同様に障害別にあら
われてくる生活上の困難さへの理解を深めることが必要
■児童福祉法での児童の定義
1.乳児 満1歳に満たない者
2.幼児 満1歳から、小学校就学の始期に達するまでの者
3.少年 小学校就学の始期から、満18歳に達するまでの者
■障害児の通学する学校の種類
○知的障害者を教育する養護学校
○肢体不自由者を教育する養護学校
○病弱者を教育する養護学校
※平成19年度以降は全て特別支援学校となる予定
○地域の小中学校には知的障害、肢体不自由、病弱・虚弱、弱視、難聴、言語
障害、情緒障害のための学級をおくことができる。
(2)移動に関しての制約、留意点
■日常生活で留意すること
・子どもの成育歴、障害、発達状況、現在までの療育の取り組み等を把握
・性格や行動特性を正しく理解する
・「障害=その子ども」ではなく、子どもの個性を尊重する
■特に外出時で留意すること
・室内で生活していることの多い障害児を外出させることは重要
・知的障害や発達障害を持っている場合、非常に多動で、迷子になりや
すい。
※三鷹市で実施されている、知的障害児の位置探索サービス
対象:18歳以下の多動性の障害児等で、サービスが必要と認められる方
内容:障害児にPHS発信機を所持して頂くことにより、障害児の現在地を
リアルタイムに把握することが可能。