生産量差異の本質 生産量差異=固定間接費配賦額-固定間接費予算額 =(実際生産量×固定間接費配賦率) -(予定生産量×固定間接費配賦率) または・・・ 生産量差異=(実際生産量-予定生産量)×固定間接費配賦率 実務では生産量差異は単に操業度差異と呼ばれることが多い。 生産量差異は、製品原価計算目的で固定間接費率を計算する際に基準操業 度として用いた予定生産量と実際生産量が一致しないときに生じる。 1 生産量差異(つづき1) 予定生産量と実際生産量が等しい場合には、生産量差異は生じない。 実際生産量が予定生産量より少ない場合、設備の利用度が予定よりも小さい ので、生産量差異は不利差異となり、固定間接費は配賦不足となる。 図表15-3に示す19x9年の生産量差異 (実際生産量-予定生産量)×固定間接費予定配賦率=生産量差異 (140,000時間-150,000時間)×$1=-$10,000または$10,000U $10,000の生産量不利差異は、P/L上の製造コストを増加させる。 固定間接費の発生額は$150,000 製品には$140,000しか配賦しておらず、製品販売時に費用となっている のも$140,000だけである。 しかし、最終的には$150,000を費用としなければならないので、残りの $10,000を追加する。 2 生産量差異(つづき2) 実際生産量が予定生産量を上回った場合には、19x8年のように、設備の利 用度が予定よりも高いので、生産量差異は有利差異となり、固定間接費は配 賦超過となる。 生産量差異=(170,000個-150,000個)×$1=$20,000F この場合は$170,000が製品に負担させられている。 しかし・・・ 実際に発生したのは$150,000であり、$20,000だけ費用を過大に計 上している。 そこで、$20,000の有利差異の分だけ当期の費用を減少させることに なる。 3 生産量差異の問題 生産量差異は、当初に固定間接費率を算定するために用いた活動量からの 乖離によるコストを示す伝統的な尺度である。 多くの企業では生産量差異は短期的には管理できないと考えている。 生産量に責任を負うマネジャーは何らかの説明や調査をしなければならない ことがある。 予定生産量を達成できない原因・・・ 総売上高の期待はずれ、生産スケジュールのまずさ、異常な機械の故障、 熟練労働者の不足、ストライキ、風水害などによる遊休etc… 4 生産量差異の問題(つづき) 変動間接費には生産量差異は生じない。 生産量差異の問題は、コントロールのための会計と製品原価計算のため の会計とのコンフリクトにより、固定間接費について生ずる。 固定間接費予算はコントロール目的に役立つのに対し、製品原価計算におけ る配賦率の計算では固定間接費をあたかも変動費であるかのように扱う。 固定費は変動費のように単純に割り算できない。 固定費はひとかたまりで発生し、また、ひとかたまりの生産販売キャパシ ティの投入に関係しており、製品1単位の生産・販売には関係ない。 5 固定間接費率算定のための予定活動量の選択 全部原価計算フレームワークにおける固定間接費率は、基準操業度として選 択した活動量によって異なる。 活動量が大きくなればなるほど配賦率は低くなる。 経営者は多くの場合、活動量は毎月変化するものの、少なくとも1年間は製品 1単位について単一の代表的な標準固定費を配賦したいと考える。 固定間接費率の計算における予定総固定間接費と予定活動量は、少な くとも1年間を対象にしなければならない。 多くのマネジャー・・・ 基準操業度における予定活動量として年間予算活動量を利用したがる。 少数派は・・・ 長期(3~5年)平均的な見積もりである「正常」活動量 最大キャパシティまたはフルキャパシティ(実際的生産能力) 6 続き 固定間接費率は製品原価計算と長期の価格決定には重要であるが、 コントロールのためにはあまり意味はない。 経営の活動量が低いとき・・・ 直接コントロールできる固定費はほとんどない 経営の活動量が高いとき・・・ 多くの固定費は短期的には、広範囲の予想活動量にわたって管 理不能である。 7 実際、正常、標準原価計算 製造間接費差異は標準原価計算システムに限定されるものではない。 多くの企業では、実際直接材料費と実際直接労務費を製品・サービスに付加 しているが、製造間接費の配賦については予算配賦率を用いている。 このような手続き・・・正常原価計算(normal costing) 全部原価計算におけるコストの配賦について、正常原価計算とほかの2つの 基本的な方法とを比較 実際原価計算 正常原価計算 標準原価計算 標準価格または 標準配賦率 × 直接材料費 実際原価 実際原価 直接労務費 実際原価 実際原価 予定配賦率 変動製造間接費 固定製造間接費 実際原価 × 実際投入 達成した実際産出量 に対して許容される 標準投入量 8 続き 表から固定間接費を除けば、直接原価計算による3つの基本的なコストの配 置方法についても同様に比較することができる。 正常原価計算と標準全部原価計算ではともに生産量差異が生じる。 さらに・・・ 正常原価計算システムと標準原価計算システムでは、直接原価計算 と全部原価計算のいずれにおいても、それ以外のすべての製造間接 費差異が計算される。 9 直接原価計算と全部原価計算の調整 図表15-4では、図表15-2と15-3に示した営業利益の調整を行なっている。 先に示した2つの図表間での営業利益の差は、固定間接費率に期首在庫量 と期末在庫量の差をかけることによって説明できる。 19x9年を考えると、在庫の変化は20,000個であるから、純利益の差は 20,000個×$1.00=$20,000となる。 10 営業利益の調整(図表15-4) 19x8 19x9 合計 $60,000 30,000 $30,000 $45,000 65,000 $-20,000 $105,000 95,000 $10,000 $1 $1 $1 期末在庫量 30,000 30,000 30,000 10,000 –20,000 10,000 10,000 利益の差 $30,000 $-20,000 $10,000 営業利益 全部原価計算 直接原価計算 固定製造間接費配賦率 期首在庫量 11 19x9年の固定製造間接費の流れ(図表15-5) 固定製造間接費 棚卸資産(貸借対照表) 費用(損益計算書) 直接原価計算 $15,000 $15,000 期首在庫固定間接費 $30,000 全部原価計算 $15,000 製品販売時費用 $14,000 $14,000 期末在庫固定間接費 $10,000 売上原価 $30,000+$140,000-$10,000 =$160,000 費用として計上される固定間接費 $160,000+$10,000=$170,000 生産量(不利)差異 $10,000 $10,000 12 解説①(図表15-5) 全部原価計算では固定間接費は2ヶ所に現れる。 売上原価と生産量差異 $30,000の固定間接費は19x9年以前に発生し、期首在庫に含まれて繰り 越されてきている。 19x9年には$140,000の固定間接費が製品に配賦され、$10,000はまだ 19x9年の期末在庫に含まれている。 従って・・・ 19x9年の売上原価に含まれる固定間接費 $30,000+$140,000-$10,000=$160,000 生産量差異$10,000 合計すると、19x9年に全部原価計算で費用として計上される固定間接費 は$170,000。 直接原価計算で計上される$150,000よりも$20,000多い。 従って、19x9年の直接原価計算の利益は$20,000多くなっている。 13 解説②(図表15-5) 直接原価計算による利益と全部原価計算による利益の差は、販売量と生産 量の関係によって決まる。 販売量が生産量を上回る場合、すなわち在庫が減少する場合は、直接原価 計算の利益が全部原価計算の利益より大きくなる。 JIT在庫・生産システムでは、販売量と生産量が等しく、在庫は極めて小さい。 このことは、JITシステムにおいては直接原価計算と全部原価計算の利益 の差が重要ではない事を意味している。 14 なぜ直接原価計算を利用するのか なぜ多くの企業では内部報告のために直接原価計算を利用するのか。 全部原価計算の利益が生産量に影響されるのに対し、直接原価計算の 利益はそうでないから。 図表15-3の19x9年の全部原価計算による損益計算書。 営業利益$45,000 19x9年12月、10,000個追加生産。 売り上げ利益への影響は? 売上総利益は変化しない。 売上総利益は生産量ではなく販売量によるから。 15 つづき① しかし、生産量差異は変化する。 生産量=140,000個の場合 生産量差異=(150,000-140,000)×$1=$10,000U 生産量=150,000個の場合 生産量差異=(150,000-150,000)×$1=0 150,000個生産すると、生産量差異は0になる。 新たな営業利益は売上総利益から販売費・一般管理費を差し引いた金 額($160,000-$105,000=$55,000)に等しくなる。 従って・・・ 販売量が増えなくても、生産量を10,000個増やすことによって、全部原価 計算の営業利益は$45,000から$55,000へと、$10,000増える。 16 つづき② マネジャーの業績を営業利益によって評価する。 全部原価計算アプローチを企業が採用している場合・・・ マネジャーは営業利益を増やすために無駄に製品を生産する誘惑に かられる。 直接原価計算の場合・・・ このような誘惑は存在しない。(生産量は直接原価計算による営業利 益には影響しない) 企業は、どちらのシステムが業績に関してよりよいシグナルを示すかによって 選択する。 販売指向の企業・・・ 利益が主に販売量によって決まる直接原価計算を好むかもしれない。 生産指向の企業・・・ 追加的な生産によって営業利益が増える全部原価計算を好むかもし れない。 17 その他の差異の影響 変動予算差異 Greenberg Companyの例に戻って、19x9年に関して追加的な事実を想 定する。 変動予算差異 直接材料費 直接労務費 変動製造間接費 固定製造間接費 0 $34,000U $3,000U $7,000U 補足データ 140,000個のアウトプットに対して許容される 標準直接作業時間 1時間当たり標準直接労務費率 インプットとなる実際直接作業時間 1時間当たり実際直接労務費率 変動製造間接費実際発生額 固定製造間接費実際発生額 35,000 $6.00 40,000 $6.10 $31,000 $157,000 18 変動予算差異つづき 変動予算差異は変動間接費と固定間接費の両方について生じる。 実際額 140,000個に対する 変動予算額 変動予算差異 変動製造間接費 $31,000 $28,000 $3,000U 固定製造間接費 157,000 150,000 7,000U 19 固定製造間接費差異(図表15-7) 実際固定製造間接費 配賦額 $157,000 固 定 費 製造間接費消費差異 =$7,000U 実際額 生産量差異 =$10,000U 予算 $150,000 固定費 $140,000 固定間接費配賦不足 =$17,000 配賦される$14,000 (140,000@$1.00) 140,000 150,000 活動量 19x9年の固定製造間接費差異(データは図表15-3より) 20 解説(図表15-7) 図表15-7は、固定間接費の変動予算差異と生産量差異の関係を示してい る。 固定間接費の実際発生額と製品への配賦額との差は、配賦不足(または配 賦超過)の間接費である。 $157,000の実際固定間接費は配賦される$140,000よりも大きいため、固定 間接費は$17,000の配賦不足になっている。 これは差異が不利になっていることを意味する。 $17,000の固定間接費配賦不足は、(1)生産量差異$10,000Uと、(2)固定製 造間接費変動予算差異(製造間接日消費差異)$7,000Uという2つの要素か らなっている。 生産量差異以外の差異はすべて、本質的に変動予算差異である。 変動予算差異は、達成されたアウトプットに対する変動予算額と実際額との 差額を構成する。 変動予算は、製品原価計算よりもむしろ計画とコントロールを支援するために 設計される。 生産量差異は製品原価計算を支援するために考え出されたものである。 21 図表15-8 19x9年に関する図表15-3の全部原価計算の修正 単位(1000) 販売量160,000×$5 期首在庫30,000×$4 生産量140,000×$4 期末在庫10,000×$4 標準売上原価160,000×$4 標準総利益 変動予算差異 変動製造間接費($34,000+$3,000) 固定製造間接費 生産量不利差異 総差異 売上総利益 非製造原価 営業利益 $800 $120 560 $680 40 640 $160 $37 $7 $10 54 $106 $105 $ 1 22 解説(図表15-8) 図表15-8は、新たな事実を反映した全部原価計算による損益計算 書である。 新たな差異は、生産量差異と同様に、全て19x9年の利益に負担させ られる不利差異であるため、$44,000だけ利益を減少させる。 差異が有利になれば、営業利益を増加させることになる。 23 標準原価差異の処理 標準原価計算の支持者は、差異は一般に当期のコントロールに影響されると 主張する。 当期に達成可能であるとみなされる場合は特にそうである。 従って、差異を棚卸資産原価に計上することはできず、代わりに、その期 の利益に対する調整として考えるべきだということになる。 これに対して、差異が生じた期の生産量に関連する棚卸資産と売上原価に差 異を配賦するほうがよいとする論者もいる。 この手続きを、差異の追加配賦という。 追加配賦によって、棚卸資産評価額は製品生産に要した「実際の」コスト をよりよく反映したものになる。 実際には、差異と棚卸資産の水準が重要でない限りは、差異を追加配賦 しないことが多い。 24 標準原価差異の処理(つづき) 実務では、一般に、全ての際を当期利益の調整項目とみなす。 損益計算書上で差異を表示する場所は、概して重要ではない。 図表15-8では、差異を「実際」売上総利益の要素として示している。 しかし・・・ 差異は損益計算書のどこか別の箇所に、完全に独立した区分として表示 することもできる。 このように表示を区分することは、製品原価計算(すなわち標準原価計算)と 損失の認識(不利差異は無駄と非効率を示しており、棚卸資産原価に含めら れない「損失lost」または「費消expired」コストである。すなわち、ムダな資産で はない。)を区分するのに役立つ。 差異の表示区分は営業利益には影響しない。 25 生産量差異とその他の差異の比較 生産量差異は、固定製造間接費会計が予算コントロール目的と製品 コスト計算目的という2つの利用目的に役立たなければならない。 図表15-3では、図表15-2で分析した変動間接費と固定間接費 をグラフで比較している。 予算コントロールの線と製品原価計算の線が、変動間接費のグラ フでは一致しており、固定間接費のグラフでは異なっていることに 注意する。 製造間接費の配賦過不足は、常に製造間接費の実際発生額と配賦 額の差である。 製造間接費の配賦不足=(変動予算差異)+(生産量差異) 変動製造間接費=$3,000+0=$3,000 固定製造間接費=$7,000+$10,000=$17,000 26 図表15-2 差異分析 (A)実際直接作業時間 × 実際直接労務費率 直接労務費 (B)変動予算基準の 実際直接作業時間 × 標準直接労務費率 40,000×$6.10= $244,000 40,000×$6= $24,000 40,000×($6.10-$6) =価格差異$4,000U (C)変動予算基準の 標準直接作業時間 × 標準直接労務費率 (35,000×$6or 140,000×$1.50)= $210,000 5,000×$6 =数量差異$30,000U 変動製造間接費 (35,000×$6or 140,000×$1.50)= $210,000 差異なし 変動予算差異$34,000U (配賦) $31,000 (D)製品原価計算 差異なし 40,000×$.80 =$32,000 消費差異$1,000F (35,000×$.80or 140,000×$.20) 5,000×$.80= =$28,000 差異なし 能率差異$4,000U 変動予算差異$3,000U $28,000 差異なし 配賦不足$3,000U 固定製造間接費 合計額$150,000 $157,000 消費差異$7,000U 合計額$150,000 差異なし 変動予算差異$7,000U 140,000×$1.00 =$140,000 生産量差異$10,000U 生産量差異$10,000U 配賦不足$17,000U 27 留意点 注意点 変動予算の変動費の上下。 予算コントロール目的・製品コスト計算目的が 完全に調和している点。 変動予算の総コストは常に標準変動費と一致する。 なぜなら・・・ それらは生産量に応じた標準コストに基づいている。 28 留意点(つづき) 変動費とは対照的に変動予算の固定費は常に生産量には関係なく一 定である。 しかし・・・ 予算コントロール目的と製品コスト計算目的で摩擦が生じる。 実際生産量と標準生産量は異なり生産に許容される標準コストは変 動予算と異なる。 この違いが生産量差異である。 29 コントロール目的と製品原価計算目的と製造間接費の比較 図表15-3 変動製造間接費 固定製造間接費 実際$31000 予算$28,000 FBV=$3,000 実際$157,000 固定間接費配賦不足 FBV 予算$150,000 PVV 単位あたり生産コスト =$.20 140,000 150,000 生産量 配賦額$140,000 予定生産量 140,000 150,000 生産量 FBV=変動予算差異 PVV=生産量差異 30
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