膨張性超速硬繊維補強コンクリート コンクリート工学研究室 岩城 一郎 1 膨張性超速硬繊維補強コンクリートとは? • 首都高速道路における種々の制約条件, 要求性能に合致した床版補強材料および 工法の開発 • 共同研究体制 - 材料開発:太平洋セメント㈱ 工法開発:㈱NIPPOコーポレーション 実機(製造装置)の改良:小野田ケミコ㈱ 性能評価:日本大学工学部 施工性の評価:首都高速道路㈱ 2 研究の背景 • 首都高速道路:供用後30年以上 経過した橋梁が急増(延長の約4割) • 重交通下における鋼製橋脚・ 図・写真:首都高速道路㈱HPより 床版の疲労劣化が社会問題 • 首都高における床版補強対策: 交通規制を必要としない床版 下面より実施(桁増設,鋼板接着, 炭素繊維シート接着) →補強効果?→再劣化の報告 • 路面上からの補強(床版上面増厚) か,打換えの選択を迫られている. 3 従来の床版上面増厚工法 • 大型重機による硬練りコンクリートの強制振動 • 通行止めあるいは昼夜間の車線規制下による 連続作業 NIPPOコーポレーションHPより 4 首都高速道路と東北自動車道の違い • 首都高:昼間の車線規制,夜間の通行止めに よる工事が許されない.→夜間(21時~6時)の 一車線規制下での緊急作業のみ許可 • 首都高:連続した高架橋(路線延長の約82%) ⇔東北道:土工部と単発の橋梁 • 首都高:画一的な条件がほとんどない (縦横断線形,分合流,床版・舗装の状態等) →プレキャスト部材がなじまない. 5 首都高における床版上面増厚の課題 1.夜間の一車線規制下における緊急工事 ・ 近隣住民に配慮した振動・騒音対策 ・ 大型重機の使用不可 2.連続した高架橋 ・ 施工前後でレベルを一致→増厚厚さ40mm 従 来 都市内高速道路 3.プレキャスト不向き ・ 生コンベース →硬化時間の制約 施工後 施工前 施工後 80 防水層 防水層 床版切削(10mm) 床版切削(10mm) 既設床版 既設床版 増厚床版 既設床版 6 既設床版 30 20 50 増厚床版 アスファルト 舗装 アスファルト 表層 アスファルト アスファルト 基層 舗装 40 アスファルト 舗装 60 80 20 施工前 床版が抱える共通の課題 • ひび割れからの水および有害物質(例えば塩化 物)の侵入による疲労耐久性の低下(すり磨き, 土砂化,鋼材腐食) →新旧コンクリートの一体化と増厚コンクリートの ひび割れ制御対策が不可欠 床版上面 (土砂化) 床版下面 (鋼材腐食) 7 開発の基本コンセプト • 一夜間の緊急施工→超速硬コンクリートの使用 • 低振動・低騒音対策→コンクリートのワーカビリ ティーの向上と,高周波バイブレータを搭載した 軽量・小型のフィニッシャによる締固め • 増厚厚さ40mm→Gmax=13mm,最適配合設計 • ひび割れ制御対策→繊維の使用と超速硬 セメントと相性の良い膨張材の使用 • 膨張性超速硬繊維補強コンクリートの開発 • 簡易フィニッシャの開発 8 本材料・工法の要求性能 • フレッシュ性状:スランプ5-15cmとし,可使時間30 分以上を確保 • 強度特性:交通開放時(材齢3時間)の圧縮強度 24MPa以上,同 新旧コンクリート界面の付着強度 1MPa以上 • 膨張収縮特性:初期の自己収縮を顕著に抑制し, 1週間後も膨張側に移行しないことを目安 • 騒音:振動締固め時の騒音を従来工法と比較し, 顕著に低減(最低80dB以下を目安) • 疲労耐久性:輪荷重走行試験による疲労耐久性を, 無補強供試体に対して少なくとも10倍以上確保す ることを目安 9 主な試験項目 室内試験 • スランプの経時変化 • 圧縮強度試験 • 付着強度試験 • 膨張収縮試験 • 曲げ試験(無筋,RC) • 押抜きせん断試験(RC) 実機試験 • スランプの経時変化,圧縮強度試験,付着強度試験, 膨張収縮試験 • 施工性試験(騒音測定含む) • 輪荷重走行試験 10 使用材料および配合 使用材料 記号 物性値 --- 水 上水道水 W セメント 超速硬セメント C 密度:3.01g/cm3, 比表面積:4690cm2/g 膨張材 早強性膨張材 EX 密度:3.19g/cm3, 比表面積:4520cm2/g 細骨材 陸砂 S 表乾密度:2.61g/cm3,絶乾密度:2.57 g/cm3,吸水率:1.66%,単位容 積質量:1.70kg/lit.,実積率:66.2%,粗粒率:2.88,微粒分量:1.38% 粗骨材 硬質砂岩砕石 (JIS 6号砕石) G 最大寸法13mm,表乾密度:2.63g/cm3,絶乾密度:2.60 g/cm3,吸水 率:1.01%,単位容積質量:1.51kg/lit.,実積率:58.1%,粗粒率:6.31 繊維 鋼繊維 SF 繊維長:30mm, 繊維径:0.62mm,密度:7.85g/cm3 高性能減水剤 SP ポリカルボン酸エーテル系化合物, 密度:1.04~1.06 g/cm3 凝結遅延剤 JS ジェットセッター(専用品) 混和剤 W /B (%) SF100 SF80 V F15 N onF 40.5 s/a (%) W C 412 412 55 175 412 412 U nit C ontent(kg/m 3) Ex S G Fiber SP 20 935 808 100 10.34 20 938 811 80 10.34 20 937 810 15 10.34 20 954 825 0 10.34 JS 6.48 6.48 6.48 6.4811 スランプの経時変化 25 S F100 S F80 V F15 N onF スランプ (cm ) 20 15 10 5 0 0 10 20 30 40 50 60 経過時間 (m in) 70 80 90 12 圧縮強度試験 3時間 7日 28日 90 80 90 80 60 2 f' c (N/mm ) 50 40 30 20 10 No.1 No.2 Ave. 70 60 2 f'c (N /m m ) 70 20℃一定恒温室内での実験結果 50 40 30 20 要求圧縮強度 10 0 0 SF100 SF80 VF15 N onF 0 24 48 72 96 120 材齢 (hour) 144 • 冬期は,養生マットによる給熱養生が必要 13 168 付着強度試験 100mm 超速硬繊維補強 コンクリート 1.5 変位計:容量25mm,精度1/1000mm 1.0 ロ-ドセル センターホール 型ジャッキ :容量30kN データロガ- 1 0.5 2 要求付着強度 油圧式加圧機 0.0 SF100 SF80 VF15 N onF N o.3 N o.2 N o.1 N o.4 N o.3 N o.2 N o.1 N o.4 N o.3 N o.2 N o.1 N o.2 ユニバーサルジョイント N o.1 ft( N /m m 2) 既設コンクリート 40mm 2.0 40mm 2.5 供 試 体 14 テンションバー 膨張収縮試験 200 200 Ex20-SF100 Ex0-SF100 Ex20-SF100 Ex0-NonF Ex0-SF100 Ex0-N onF 100 0 TY PE 始発時間 終結時間 Ex20-SF100 44分 60分 Ex0-SF100 57分 66分 Ex0-N onF 63分 73分 0 -100 ひずみ (μ) ひずみ(μ) 100 -100 気中養生 -200 -300 -200 -400 -300 0 6 12 18 注水からの材齢(時間) 24 -500 0 5 10 15 20 25 注水からの材齢 (日) 30 35 • 鋼繊維および膨張材による収縮拘束・収縮補償 効果が顕著に現れている. 15 40 曲げ試験(JIS) 12 25 20 15 10 5 0 0 2 6 4 Displacement (mm) 8 10 8 6 4 2 0 SF100 SF80 VF15 SF100 SF80 VF15 12 2 Load (kN) 30 2 35 10 曲げ強度 (N/mm ) SF100-No.1 SF100-No.2 SF100-No.3 SF80-No.1 SF80-No.2 SF80-No.3 VF15-No.1 VF15-No.2 VF15-No.3 曲げ靱性係数 (N/mm ) 40 10 8 6 4 2 0 • 繊維の混入により優れたじん性を付与 16 曲げ試験(RCはり) TYPE 160 40 SFRC-Ex G max W/B ( mm) ( %) 13 37.5 BASE 3 W 185 Unit Content(kg/m ) Ex S G SF 20 824 760 100 C 473 SFRC-Ex D16 50 s/a ( %) 52.5 50 75 1900 SP 6.41 JS 7.89 30 80 70 荷重 (kN) 60 50 40 30 Over Lay-0 20 Over Lay-40 10 Over Lay-60 0 0 10 20 30 40 50 中央変位 (mm) 60 70 80 17 押抜きせん断試験 700 Over Lay-0 荷重 (kN) 600 Over Lay-40 500 Over Lay-60 400 300 200 100 0 • 増厚による耐力の増加,変形性 能の低下 0 5 10 15 20 中央変位 (mm) 25 18 30 実機試験 • 平成19年1月17日@神戸(8℃, 55%R.H.) Unit Weight (kg/m3) W/B (%) s/a (%) Air (%) SP (B×%) JS (B×%) W C EX 37.5 52.5 3.0 0.7 0.9 185 473 20 S G SF 824 760 100 19 試験結果 150 ひずみ(μ) スランプ( cm ) 20 15 100 50 10 0 0 2 4 6 5 8 10 12 14 16 18 20 22 24 時間 150 0 10 20 30 時間( 分) 40 50 60 ひずみ(μ) 0 100 50 • 3時間圧縮強度:31.9N/mm2 • 3時間付着強度:1.13N/mm2 • 騒音測定結果(5m離):オフレール方式 0 87dB→本工法70-73dB(5m) 0 24 48 72 96 時間 120 144 20 168 輪荷重走行試験(大阪大学にて) 3000 160 ・h-i 6-7・i ・h-i 5・h-i 6-7・h 0-1´・i 2-3・i 4-5・i ´・h-i 3・h-i 4-5・h 0-1・i 2-3・h H3 1・h-i 0-1´・h 2000 0-1・h 0・g-h 5 H1 7 6 0・e-f H2 4 8 0・c-d :ひずみゲージ(コンクリート表面) :ひずみゲージ(下側主鉄筋) (単位:mm) 表-10 図-13 供試体概要図 輪荷重走行試験載荷プログラム 供試体 137.2kN 走行回数(回) 117.6kN 147kN 176.4kN 205.8kN 無補強 RC 床版 - 400,000 180,000 74,600 - 膨張性超速硬繊維補強コンクリート 上面増厚補強床版 50,000(注 1 200,000 400,000 400,000 447,400 (注 1 上面増厚補強施工前の荷重走行回数 21 床版中央活荷重たわみ(mm,98kN換算) 輪荷重走行試験結果の一例 2.5 無補強RC床版 上面増厚補強床版 2.0 1.5 1.0 0.5 上面増厚補強後 上面増厚補強前 0.0 100 101 N eq Pi / Po ni m 102 103 104 105 106 107 等価繰返し荷重走行回数(×104回,98kN換算) 22 まとめと今後の課題 都市内高速道路に適用するための種々の条件 • 材料面:フレッシュ性能,力学性能に関する照査 • 施工面:低振動・低騒音施工を可能にする締固め装置 • 都市内高速道路において適用可能な床版上面増厚 材料・工法の開発 • 疲労耐久性に関する機構解明(輪荷重走行試験の データ蓄積) • 製造・施工の合理化・効率化(配合選定,リスク回避) • 首都高上での実施工試験に向けた準備 23
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