ユーザインタフェース 第8回 Contextual Designとユーザ調査法 ユーザビリティ、 「ユーザ中心設計」再考 • いままで、自分たちがつくろうとしているモノを先に決 め、ユーザが使いやすいかを問うていないか? – 「ユーザ」の語が示すように、「先にモノありき」 – モノがユーザにとって便利になるというだけ – 実際に ユーザが本来やりたかったこと 全体がそ のモノの登場で可能になるかは議論していない • 時代を変えるためになすべきは、モノの設計ではなく、 人間があるゴールに到達するプロセス全体の再設計 – 人間が何かの欲望や必要のために実施する 一連の行動全体を支援するartifact(人工物)群 をデザインする という発想に変える必要あり Contextual Design • 真の意味でのユーザ中心設計のひとつの手法 – Hugh Beyer and Karen Holtzblatt, Contextual Design: Defining Customer-Centered Systems, Morgan Kaufmann, 1997 • Ethnography(民俗誌学)を取り入れた手法 – 同じモノでも 文脈 が異なればまったく違うもの – 民俗誌学者は異文化を理解するために、実生活の 場に入り込み、根気強い観察でそこで暮らす人々の 暮らしや考え方を理解する • ユーザの行動とその背景にある文脈を理解し、 ユーザの タスクそのものの再設計 を目指す 6つのステップで設計 1. Contextual inquiry (コンテキスト調査) – 対象者の生活、仕事の現場(文脈)で観察を重視したインタビュー 2. Work modeling – 調査から得られた行動を構造的に分析 3. Consolidation – 構造的に分析した個々のユーザのモデルを統合 4. Work redesign – – 統合した行動のモデルを物語り形式の シナリオ として描く ユーザがタスクを実現するためにとる行動を再設計 5. User Environment Design – ユーザがタスクを行うシステム環境の設計図を描く 6. Prototyping and Implementation – – システム設計図をもとに プロトタイプ をつくる。 ユーザによる ユーザビリティ評価 を都度、行いながら、実装 Contextual Inquiry (コンテキスト調査) • インタビューはコンテキストの調査に古くから使用 • 従来インタビュー法の欠点 – 予定通りのインタビュー • 仮説にたいするYes/Noを取得するだけ。 • 仮説がほしいのに… – 要約される情報 • 人間はなるべく手短に説明するように訓練されている – ユーザの意見ではなく、行動を収集するべき • ユーザの意見を聞いても、時代を変えることはできない • 個々の行動を分析すれば、問題が見える Contextual Inquiry の例 • トヨタ車「ラウム」 – 出入りにセンターピラーが邪魔 – でも、これを無くすと構造上、脆弱 – センターピラーを ドアと一緒に動かす • これをユーザは発想してくれない • でも 体をぶつける行動はしてくれる アンケートではダメなのか? • アンケートでは,コンテキスト が収集できない. • [例] ユーザインタフェースの授業について – あなたは,この授業に満足していますか – 改善してほしい点は何ですか? • 常に満足か不満かのどちらかのはずがない. – どんなときに満足して,どんなときには不満か? – その原因は何か? • 改善してほしいものは, – どんなときに,どんな問題 があるから, どのように 改善するのか 意見を聞いてはダメ • 不満をもつユーザは 多くの問題点を挙げる. • 満足しているユーザは無口. • ユーザの意見を聞くと,不満をもつユーザの ためだけの改善 • 満足しているユーザに 不満をもたせる. • 双方のユーザの要求を バランス をとりなが ら満足させるべき 「師匠と弟子」方式のインタビュー法 • Karen Holtzblatt(カレン・ホルツブラット)が提唱 – 設計者はユーザの「声」ではなく「体験」を分析 – コンテキスト・インタビュー • 現場 を再現して、 行動 を詳細に聞く • 目的は、分析されていない 生のデータ の収集(意見はユーザの分析結果) – 以下の3つが特徴 1. 教えを請う • インタビュアはユーザに弟子入りする。 • ユーザ(師匠)は仕事を見せながら説明する。 2. 根ほり葉ほり聞く • インタビュア(弟子)は、不明点をその場でどんどん質問する。 3. 確認する • インタビュア(弟子)は、理解した内容をユーザ(師匠)に話しチェックしてもらう。 • ポイントは、ユーザがインタビュアに 教えるつもりになること 意見を聞くのではなく, どのようにふるまっているかを調査 • ふるまいは 嘘をつかない • 不満をもつユーザ – 不自由なふるまい で不満を示す. – センターピラーのために,体を丸めて車に乗る • 満足しているユーザ – 軽やかなふるまい で満足を示す. • ふるまいは 必要以上に誇張しない – たとえ不満があっても,センターピラーに意図的に 体当りする ユーザはいない – 意見を聞くと,ユーザは,不満を必要以上に強調して しまう. メールマガジンについての例 ○インタビュア 【教えを請う】: 今のお話によると、毎日50 通以上のメールマガジンに全部目を通してフォルダに分 類するということですが、随分時間がかかりそうですね。 ●ユーザ: いえ、そんなに時間はかかりません。なぜなら、 目を通すといっても、斜め読みしかしないからです。発信 者名と件名から、だいたい内容の想像は付いているので、 後は本文の見出しだけサッと目を通せばいいんです。ど のメールマガジンも、本文の最初のほうと、最後のところ に「おいしい」情報が載っていることが多いので、差し当 たり一番下まで見てから、もう一度興味があった見出し の部分まで戻って、そこだけはじっくり読みます。 メールマガジンについての例 ○インタビュア 【根掘り葉掘り】:「おいしい」情報 とはどんな情報なんですか? ●ユーザ:「100万円当たる!」とかの懸賞・キャン ペーン情報はやっぱり見ますね。それから私が 取っているメールマガジンには、結構人気のコラ ムがあるのですが、それは最後に載っているんで す。 メールマガジンについての例 ○インタビュア 【教えを請う】:気軽に登録していると、 メールマガジンの数がどんどん増えていきそうですが、 何か対策はあるんですか? ●ユーザ:メールマガジンに登録して最初の5通くらいは、 ちゃんと読むようにしています。そうすると、そのメールマ ガジンがだいたいどんな内容を扱っているのかわかるん です。それで、あまり興味が湧かないようならば解除して しまいます。 メールマガジンについての例 ○インタビュア 【根掘り葉掘り】:解除は簡単にできるん ですか? ●ユーザ:簡単です。普通はメールマガジンの最後のとこ ろに解除用のアドレスが書いてあるので、それをクリック して解除メールを送ったり、サイトに飛んで解除手続きを すればいいんです。 ○インタビュア 【確認する】:なるほど。解除用のメールを 送るのが一番簡単なんですね。 インタビューの留意点 • 師匠と弟子の関係は壊れやすい。 • 注意するべき3点 – 専門家であることを悟られない • 事前に勉強しておくが、気づかれては教えてくれない • 「ご存じとは思いますが…」と言われたら要注意 – 仮説検証しない • 「○○は便利ですか」は意見を聞くことになる。 • 目的は、バイアスがかかっていない生データの収集 – 無駄に粘らない • 師匠が話題を終えれば、「他には?」などと粘らない • ユーザが話し終えれば、もう何も得られないということ。
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