川崎重工業株式会社 代表取締役常務 車両カンパニープレジデント 金花

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川崎重工業株式会社
代表取締役常務
車両カンパニープレジデント
かねはな よしのり
金花 芳則
さ
ん
今回は、東京都港区の川崎重工業株式会社に金花代表取締役常務 車両カンパニープレジデン
トをお訪ねし、インタビューさせて頂きました。
インタビューの要旨をご理解頂く上で参考にして頂きたく、始めに金花常務のご経歴を簡単に
ご紹介いたします。
金花常務は 1976 年に川崎重工業 ( 株 ) に入社され、その後、2007 年 車両カンパニープロジェ
クト本部長、2009 年 執行役員 車両カンパニーバイスプレジデント、2012 年 常務取締役 マー
ケティング本部長を歴任され、2013 年 代表取締役常務 車両カンパニープレジデントにご就任
されました。
インタビューを通じて、経営方針、海外展開、鉄車工への期待など幅広くご意見を伺いました。
( インタビュア 鉄車工常務理事 山中 秀一 )
インタビュア ( Q ) 本日は、お忙しい時にも
拘らずインタビューにお時間を割いていただ
き、ありがとうございます。
早速ですが、鉄道関係 ( 車両カンパニー )
の国内、海外の事業分野の 2014 年度の見
通しについてお聞かせいただけますでしょう
か。
金花常務 2014 年度の受注はシンガポール
LTA 新線向け車両や既存契約の Option 車両
等を受注したものの、北米向けや国内向け大
について差し支えのない範囲でお聞かせくだ
型案件のあった前年度に比べ減少しました。
さい。
売上も北米やアジア等の海外向け売上高が
減少したことにより、前年度に比べ減収し、
金花常務 国内市場は全体の発注両数が減る
営業利益も減収や利益率の低下等により減益
傾向にあり、特に最近の案件で仕事量を確保
となりそうです。
しようとする会社間で熾烈な受注競争が続い
ています。
インタビュア ( Q ) 最近の国内および海外の
海外市場は特にアジア各国で鉄道インフラ
鉄道車両事業の需要動向について、どのよう
整備が活発で、産業振興のため技術移転と現
に見ておられるでしょうか。
地生産をセットにした案件も多く、米国では
また、その動向を踏まえ、国内、海外各々
バイアメ要求が高くなる傾向があります。こ
の市場における事業拡大に向けた戦略・施策
のため、海外案件を受注しても日本の工場で
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完成車を製造できない案件が多く、国内の操
業・雇用の確保という観点からは難しい問題
です。
当社は国内が最重要市場と考えており、兵
庫工場の一定の操業・雇用なくしては海外展
開もおぼつかない状況です。
インタビュア ( Q ) 御社は長年、北米やアジ
アなどの海外へ鉄道事業を展開されておられ
ます。海外では高速鉄道や都市鉄道の計画が
多数ありますが、一方、欧州ビッグ 3・韓国・
シンガポール LTA 新線向車両
中国などの海外メーカーとの競争はますます
インタビュア(Q) 昨年10月に(株)海外交通・
激しくなるものと思われます。グローバル市
都市開発事業支援機構 (JOIN) が設立されま
場で競争に勝ち抜く戦略のポイントについて
した。官民挙げての鉄道システム輸出の拡大
差し支えのない範囲でお聞かせください。
に期待が高まっておりますが、必要な戦略な
どについてお考えをお聞かせください。
金花常務 当社が競争力を発揮できる国内・
北米・アジア市場に注力し、各市場でバラン
金花常務 日本政府が策定した成長戦略の重
スの取れた継続的受注を目指しております。
点項目の一つに鉄道インフラ輸出があり、官
海外市場では、北米市場の NY エリアを中
民一体で高速鉄道、都市交通の売り込みを展
心とした北東回廊、シンガポールや台湾など
開しており、JICA・JBIC から資金支援も柔
で継続的に車両を納入し、お客様と信頼関係
軟に検討頂いております。鉄道運行、保守・
を築いてきました。技術力と品質、納期通り
リースを履行する事業体を海外に設立しなけ
に納入する契約履行能力、当社主導で海外競
ればならない場合、これまでは銀行借入とな
合会社も時にはパートナーとして取り込む柔
る資金調達が主流でしたが、JOIN は資本出
軟性を評価して頂き、非価格競争力で受注を
資が可能となり、該当案件の実現性が増す場
重ねていきたいと考えております。中国や韓
合があるはずで、いいスキームと考えおりま
国企業と価格競争をするつもりはありません。
す。建設資金、事業継続能力がない国・地域
の事業者は「PPP(*)」と言いますが、収入は
長期的な当該国通貨で、初期投資の資機材は
輸入のため為替や損益面でリスクがある案件
があり、民間企業のビジネスとして成り立つ
案件となるよう官民一体で案件形成していく
ことが重要と考えております。また、中国主
導で設立されるアジアインフラ投資銀行の動
きや他国の関与は注意しておく必要があると
考えています。
WMATA7000( ワシントンメトロ ) 5
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(*) 補注
PPP:Public Private Partnership
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インタビュア ( Q ) 技術開発や市場開拓など
表彰で「日本機械工業連合会会長賞」を受賞
注力されている取り組みと課題についてお聞
されましたが、BPS の特長、省エネ効果、今
かせください。
後の事業展開についてお聞かせください。
世界初のサスペンション機能を持つ CFRP
( 炭素繊維強化プラスチック ) フレームを採用
金花常務 BPS は当社が開発した高速充放電
した鉄道車両新型台車「efWING」を開発、
が可能な大容量のニッケル水素電池であるギ
納入されましたが、開発の目的、効果などに
ガセルの性能を活かしたシステムです。従来
ついてお聞かせください。
の鉄道用電力貯蔵設備は、列車の停止や減速
の際に発生する回生電力を充電しそれを電力
金花常務 技術開発においては、当社の本社
需要が高い時に再利用する省エネが目的でし
部門である技術開発本部を始め、航空宇宙部
たが、東日本大震災以降は災害時に電力供給
門など他部門の多様な技術を結集して取り組
が止まり、列車が駅間に停車した際に乗客を
んでおります。
安全に避難させるため、BPS の電力で列車を
「efWING」はその代表例であり、総合輸
隣接駅まで移動させるためにその特性が評価
送機器メーカーである当社でしか創造できな
されて採用されました。
い製品であると自負しています。
駅間で列車が停止した場合乗客の自力避難
約 1 トン/両の重量軽減になり、電力量節
に困難を伴う、モノレール、地下鉄運行会社
減・軌道への負担軽減に貢献できるので、昨
様を始め、多くの鉄道事業者様からご関心を
年 3 月に熊本電鉄殿で初の営業運転を開始し
頂いております。
て以来、鉄道事業者様からの問い合わせも多
く、いくつかの鉄道事業者様から本線走行試
験の機会を頂いております。
「efWING」の
付加価値を評価してくださる鉄道事業者様へ
売り込みを図っていきます。
BPS
インタビュア ( Q ) お立場上、ご多忙な日々
をお過ごしかと思います。気分転換などはど
efWING( 熊本電鉄 )
の様にされておいででしょうか。 また、座右
の銘などをお持ちでしたらお聞かせください。
インタビュア(Q) 昨年、東京モノレール(株)
殿に停電時の非常走行を目的とした鉄道シス
金花常務 休日にはジムで汗を流すことで気
テム用地上蓄電設備 (BPS) を世界で初めて納
分転換にしています。座右の銘は「善く行く
入されました。BPS は、( 一社 ) 日本機械工業
ものは轍迹なし(よくいくものはてっせきな
連合会の平成 26 年度 優秀省エネルギー機器
し)」という老子の言葉です。上手に歩く人
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は足跡を残さない、立派な仕事を成し遂げた
人ほど、これは自分がやった仕事だと記録を
残さないという意味です。目立たない貢献が
価値ある貢献というものだと、老子が説いて
おり、それを心掛けるようにしています。
インタビュア ( Q ) 最後になりますが、金花
様には鉄車工の理事として鉄車工の活動にご
支援頂いております。そうしたお立場から、
鉄車工として果たすべき役割につきまして、
忌憚のないご意見をお聞かせください。
金花常務 車両契約者の選定が価格だけで行
われる場合、コストを下回る価格競争になる
傾向があります。供給会社が経営体力を疲弊
し、長期的に見れば業界全体、鉄道事業者様
にも影響が出ると懸念しております。発注者
側に価格・技術を含めた総合評価方式を採用
して頂くとか、業界全体が技術的・経営的に
発展していくような意見の醸成、働きかけを
期待いたします。
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