老健の作業療法における作業療法士 の問題関心 -日本作業療法学会誌抄録を手がかりとして- 東京都板橋ナーシングホーム 介護保健課 作業療法士 田島明子 はじめに 背 景 昨今、ますます老健におけるリハビリテーションヘの期待は大 きい。 しかし、これまで医療機関での役割が主であった作業療法士 にとって、老健は新たな領域だ。 老健は、「医療」「生活」の中間的重層性を持ち、「認知症高齢 者」という「医療モデル」的発想では介入困難な人たちを対象 としている ↓ 研究疑問:作業療法士にとって、介入の方向性・価値・範囲等、 不確定感を感じることがあるのでは? 研究目的:老健の作業療法に対する作業療法士の問題関心の 諸相を明らかにする 対象と方法 対象 ・2000~2005年の日本作業療法学会抄 録誌のなかから、老健の作業療法(入所 のみ)をテーマとした演題 方法 1)各演題について、演題名・概要・セラピストの問 題関心を整理し、カード化した。 2)それらカードを内容の類似性で分類、分類を代 表するタイトルをつけた。 結果1各カテゴリーのタイトル ・a:脳の可塑性 ・b:リハのあり方 ・c:新しいアクト ・d:マンパワー問題 ・e:新たな役割 ・f:効果の検証 ・g:評価表の検討 ・h:利用者ニーズに着目 ・i:認知症高齢者の生活行動特性 ・j:ADLの訓練方法の検討 ・k:認知症高齢者の興味・関心 ・l:看・介護職のリハに対する認識 ・m:集団活動の効果 ・n:入所者の作業に対する意味付 与 ・o:入所によるストレス (症例検討) 結果2 各カテゴリーの内容 カテゴリー名 a b c d e f g h i j k l m n O 症例検討 内容 認知症高齢者に対する、感覚統合アプローチや、学習ドリルの効果について検討。 第1報、第2報と して 報告 され たも ので あり 、2 00 1年 であ るか ら、 介護 保険 開始 当初 に行 われ たも の。老健におけるリハの実態をアンケート調査法で調べ、老健のOTに求めら れる もの 、問 題点 、あ り方 を探ったもの 独経、ペットロボット、動物、コラージュボックス、手織り、などを、認知症 高齢 者や 抑う つ的 な高 齢者 に導入し、良好な反応が引き出せたその結果の報告。 マンパワーがキーワードにはなるが、一研究は、工夫しだいで、高次脳機能障 害者 への アプ ロー チが 可能 となったことの報告、もう1事例が、マンパワー不足の解消により、利用者へ の密 度の 濃い 関わ りが 可能 となり、車いすからのずれ落ちによる転倒が防止でき、座位姿勢も改善できたケースの紹介。 同一職場からの報告であり第1報から第3報であるが、「リハビリテーション 実施 計画 書」 を老 健ス タッ フ間で導入するにあたって説明会を行ったということで、説明会についての反 応を アン ケー ト調 査し 、さ らに、演習形式でワークショップを行ったということで、その反応についての報告である。 回想法や作業活動が認知症高齢者の行動に与える効果についての検証を行ったもの。 老健では、対象が高齢、あるいは認知症高齢者であるため、既存の評価表では 、問 題点 の把 握し ずら さが あるということで、フローチャート化したり、表情や行動から主観的満足度を 把握 しよ うと いう 試み 、客 観的QOL評価の有効性、ぬりえ作品の認知症スクリーニングテストとしての 有効 性が 検討 され たり して いた。 施設入所していても、代用可能な作業活動を導入することで、ご本人の作業遂 行欲 求を 満た せる こと や、 園芸活動に対するクライエントの反応、どのような老健入所者がどのような学 習ニ ーズ を持 って いる かを 聴取したもの、があった。 認知症高齢者の日中・夜間の生活行動パターンの把握や、生活パターンと心身 機能 の関 連性 の検 討、 健常 高齢者と認知症高齢者の生活行動様式を比較することで、入所認知症高齢者Q OL の向 上に 結び つけ てい こうという意図を持った研究が見られた。 家庭浴槽を用いた入浴訓練の効果や、転倒状況とADL能力の関連性を検討し たも の、 靴底 用滑 り止 め使 用によって立ち上がり動作の自立度や安定感が増した症例の紹介をしたもの、等の内容が見られた。 認知症高齢者の「興味・関心」について類型化を行ったり、認知症高齢者に、 ハプ ニン グや 乳児 行動 のビ デオを見せて、感情や行動が引き出せたという報告、あるいは、コーピングス タイ ルと 、A DL や認 知能 力との関連を検討したものがあった。 問題行動のある認知症高齢者の処遇について、他職種へ症状の理解を促し、適 切な 環境 を設 定で きた こと で問題行動が減少した症例の紹介、ケアスタッフが園芸療法の効果についてど のよ うに 捉え てい たか 調査 を行ったもの、「生活リハビリ体制」に変更した半年後に、看護・介護職員に その 反応 につ いて 聴取 した もの、介護職との連携課題についての取り組みによって、情報の浸透、共有す る情 報量 の増 加、 ケア プラ ンと実施計画書との関連性が高くなった等の良好な結果が得られたことの報告 、等 があ った 。看 護・ 介護 職員と連携していくうえで、看護・介護職がリハビリについて、どのような認 識を 持っ てい るか を知 るこ とを目的とした研究がほとんどであった。 「ロールプレイ」や「イメージング体操」、「グループOT」、「小集団活動 」、 「喫 茶活 動」 等と 表現 される、集団での活動が、認知症高齢者の行動変容(不適応行動の減少、自主 性が 芽生 えた )や 、他 者へ の関心、ADL能力の向上、等の良好な結果に結びついたという報告であった。 「ライフストーリー」をもとにアクティビティを導入し、良好な結果が得られ た報 告や 、帰 宅要 求を うま く利用し歩行訓練を行ったことで、歩行機能が増し、帰宅要求も減少した症例 の紹 介、 「作 業バ ラン ス」 という枠組みから、老健入所者の作業に対する意味付与の状況を明らかにしたもの等があった。 施設入所による環境変化、施設生活によるストレス、主観的幸福感について検 討し たも の、 ある いは 、集 団・個別の作業療法による主観的幸福感・QOLの変化に着目したもの、また 、施 設入 所者 のポ ジテ ィブ ソーシャルサポートと抑うつの関係について検討したものがあった。 対象・目的/効果に着目すると、対象は「超高齢」「重度認知症」「終末期」 であ るこ とが 多く 、目 的/ 効果は、「活動意欲を引き出す」「問題行動の減少」 「心 身機 能の 向上 ・ADL の改 善」 「自 宅退 所」 「摂 食方法の改善」「役割獲得」「介護者の障害受容」であった。 結果3各年度ごとのカテゴリー別演題数 表2 各年度ごとのカテゴリー別演題数 a b c d 2000 2 2001 1 2 2002 3 2003 1 2004 1 2005 1 1 1 計 2 2 7 2 継続的に発表がある e f g 1 1 2 1 1 2 3 1 1 1 3 3 8 h i j k 1 2 4 1 1 2 1 1 1 2 3 6 4 3 発表数が減少 l m n o 症例検討 その他 計 1 3 1 11 4 2 16 2 3 3 1 17 1 1 2 3 11 3 3 1 14 3 2 3 16 5 7 6 7 15 2 85 発表数が増加傾向 比較的継続的に発表がある 考察1 カテゴリー内容のまとめ 結果1は、次の6つにまとめられると考えられた。 ① 高齢者、認知症高齢者に適した、ADL訓練法、アクティ ビティ、評価方法の検討(c、g、j) ② マンパワー問題をいかに回避し、個別的な質の高い サービスを提供するかの模索(d) ③ 看護・介護職にリハに対する認識を深めてもらおう、情 報の共有化を目指したもの(l) ④ 入所者の心理的状況に着目し、施設生活におけるスト レスを軽減し、主観的満足度の向上を目指す(n、o、h) ⑤ エビデンスに基づいた介入の検討(a、f、m) ⑥ 認知症高齢者の行動特性や興味・関心の把握(i、k) 考察2 作業療法士の問題関心の図式化 マンパワー問題 の回避 看護・介護職と の連携 l ストレス軽減 生活真満足度 の向上 表出手段 ADL o 作業活動 c (認知症)高齢者(とする) 認知症高齢者の 行動特性・興味・ 関心の把握 n i 評価法の検討 g m まとめ 老健における作業療法士の問題関心の諸相が明らか になった。 1. 2. 3. 認知症高齢者をADLや作業活動などの表出手段にいかに結び つけ、施設生活におけるストレス軽減や生活満足度の向上を目 指すか、ということに注目を寄せている。 昨今は、入所者の個別性に着目して、個別的に支援していこうと いう視点や介入の仕方にシフトしている。 看護・介護職との連携については、徐々に演題数が増えてきてお り、今後さらに注目をされていく可能性がある。 課題・問題(上記番号に対応) 1. 2. 3. 1における目標設定は、「在宅復帰」という目標設定を回避する可 能性を含むと考える。 今後、マンパワー問題をいかに解決するか。 今後、実践モデルの構築が望まれる。
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