立教大集中講義2004.7 銀河の力学構造と自己重力多体系の 非線形現象 郷田直輝(国立天文台) 1 講義目次 §0 はじめに §1 宇宙の階層構造 §2 階層構造の形成 §3 自己重力多体系の力学構造と基礎概念 §4 基礎方程式((無衝突)ボルツマン方程式) §5 重力熱的破局及び宇宙の進化とエントロピー §6 無衝突ボルツマン方程式の平衡解 §7 緩和と力学構造 §8 カオス的遍歴と緩和~新しい統計力学の構築に向けて~ セミナー:JASMINE(赤外線位置天文観測衛星)計画と銀河系の 力学構造の構築 2 ★スケジュール AM(10:30~12:00) PM1(13:30~15:00) PM2(15:30~17:00) 7/7(水)§0,§1,§2, §3 9(金) §6 §4 §5 §7(前半) セミナー (16:00~17:00) 14(水) §7(後半) §8 3 ★参考書 基礎的なもの ○Binney&Tremaine: Galactic Dynamics, Princeton (○Binney&Merrifield: Galactic Astronomy, Princeton) ○Saslaw: Gravitational Physics of Stellar and Gravitational System, Cambridge ○加藤正二:天体物理学基礎論、後藤書房 4 その他(各トピックス) ○重力熱的破局、宇宙の進化とエントロピー 杉本大一郎:「宇宙の終焉」、ブルーバックス、講談社 ○宇宙の進化とエントロピーについて 杉本大一郎:「いまさらエントロピー?」、丸善 ○銀河について 家 正則:「銀河が語る宇宙の進化」、培風館(1992) ○力学系に関して 丹羽敏雄:「力学系」、紀伊国屋書店(1981) 丹羽敏雄:「数学は世界を解明できるか」、中公新書(1999) ○ハミルトン系のカオスに関して 相沢洋二・原山卓久:「カオスを視る」、別冊・数理科学 1998年10月号 小西哲朗:「大自由度ハミルトン系」、数理科学 1999年8月号 A.J.Lichtenberg&M.A.Lieberman: Regular and Stochastic Motion Springer-Verlag(1983) ○エルゴード性、KSエントロピーについて 中野藤生・服部眞澄:「エルゴード性とは何か」、パリティ物理学コース、 丸善(1994) ○カオス的遍歴に関して 金子邦彦・津田一郎:「複雑系のカオス的シナリオ」、朝倉書店(1996) 5 ★単位について ○出席+レポートの総合点 *レポート問題:講義の終了後に出題 6 §0.はじめに 宇宙の階層構造:広大なスケールに渡り様々な天体 が存在 ★物理ーーー>天体の構造形成、天体現象 ★“宇宙”ーーー>物理学:地上の実験室系では 見られない現象 特に、自己重力多体系の物理: 緩和過程、力学 構造 7 §1.宇宙の階層構造 中性子星 大きさ(cm) 質量(太陽質量) 密度(g/cm3) 地球 太陽 銀河 銀河団 超銀河団 106 109 1011 1022 1025 1 10-6 1 1011 1014 1015 5 1.4 10-24 10-28 10-29 1015 1026 8 ★自己相似性 階層構造毎の運動は、ほぼ相似的。 もちろん、厳密には全く異なる。 9 §2.階層構造の形成 2-1重力不安定性 ○広大なスケールに渡る:密度で44桁! ○自己相似的な運動 “自己重力がなせるわざ” ★重力 実際的に長距離力 スケールフリー 10 補足:自然界の構造 大きさvs密度の図を参照 ★重力ーーー>縦系列を形成 cf. 星や銀河の典型的なサイズ 重力以外の物理過程(“力”)が関与 11 池内 了著「宇宙と自然界の成り立ちを探る」(サイエンス社) 12 ★重力不安定性による構造形成 (標準的シナリオ) 自己重力で固まろうとする ◎密度ゆらぎ(むらむら)が重力不安定性で成長 密 度 場所 *ちょっとした密度の高いところが成長して銀河などに進化 していく 密度の高いところ 銀河 銀河団 超銀河団 集団化 集団化 13 ★宇宙進化過程での構造形成シナリオの概観 14 §3.自己重力多体系の力学構造と基礎概念 個々の天体の力学構造と形成過程は? *力学構造: “平衡状態”での重力ポテンシャルの形や 粒子の分布(密度、速度、エネルギー) “単純な”系である自己重力系を考える 3-1 自己重力多体系 系の構成粒子(天体)が、お互いの万有引力によって運動 し、束縛されている系 これらの系での力学構造を中心に今後考える (詳細な形成過程は考えない) 15 ★階層的集団化による銀河形成シナリオ:複雑な物理過程 16 3-2 太陽系の力学構造 惑星運動 ニュートン力学 ○2体問題: 解析的に解ける(ケプラー運動) ○実際の太陽系:“多体”問題 *しかし、太陽が惑星に比べて十分重い 摂動法 3体問題:ラプラス、ポアンカレ・・・幾何学的、測度論的 手法の確率 複雑な軌道を描く場合あり “カオス” “カオス研究へ” 17 太陽系: ・楕円軌道も実際には他の惑星からの重力を受け て複雑に変化 ・非常に高い確率で太陽系は壊れない しかし、壊れる可能性はゼロではない ★では、銀河などの多体系は? 大自由度系 ・球状星団・・・・・・105個の星 ・銀河・・・・・・・・・・1011個の星+ダークマター どうなっているか? 18 3-3 基礎概念 I ビリアル平衡と力学的時間尺度 N体系:運動方程式 i i m x i x N ( ij ) , 1,2,3 : i 1,2, , N (1) ( j i ) 重力ポテンシャル ( ij ) j i Gm m x x i j 1 i x をかけて、粒子で和をとる。 (ij) i i i i x i (2) i m x x (i x , j i ) (1)式に 19 (2)式の右辺:ポテンシャルエネルギーテンソル W i j i x ( x x ) i ( ij ) i j x i Gm m 3 (3) x ( i , j i ) x j xi (3)式を変形(iとjを交換しても対称:同じものを足して2で割る) W j i j i ( x x )( x x 1 ) i j G m m j i 3 2 ( i , j i ) x x 上式はαとβについて対称。従って、(2)式の右辺も対称。 i i i m x x i 2 d 1 I 1 i i i i i m x x x 2K (4) x 2 2 2 dt 20 Virial定理 2 1 d I 2 K W (5) 2 2 dt ここで、 I m x x , K i i i 1 i i i m x x 2 (5)のtraceをとるーーー>scalar virial tensor I 2K W i 1 i i 2 i j j I m x , W Gm m / x x GM 2 / 2 R, 2 i j 1 i 2 K m x 1 MV 2 2 2 21 ○Virial平衡 2 K W 0 GM V R 2 力学的時間尺度 R tc (crossingtime) R / V GM 1 tdyn ( dynamicaltime) G 3 1 2 22 3-4 衝突系と無衝突系 (I)衝突系 重力散乱による2体緩和 2 テスト粒子が V になるタイム スケール 0.04N tr tc lnN / 2 N:粒子数 t c :crossing time ★2体散乱による効果が、考えている時間までに十分 効いている系のことを衝突系とよぶ 例:球状星団 tr 108 yrs 1010 yrs 宇宙年齢 衝突系 球状星団の力学進化:重力熱的カタストロフィー “比熱”が負 23 (II)無衝突系 2体散乱の効果が、考えている時間までに十分に 効いていない系 例:楕円銀河 tr 10 yrs 10 yrs 宇宙年齢 無衝突系 17 10 楕円銀河は、星とダークマターからほとんど成る 無衝突自己重力多体系と見なせる 24 ★二体散乱による緩和時間の導出 G(m1 m2 ) tan v 2b 2 ψ v b m2 m1 v 2 sin( ) v 2 ○velocity(v、v+dv)、impact parameter(b,b+db)をもっている 星の時間dtでの散乱の回数 2bf (v, t )vdtdbdv 25 ○mean square velocity change v 2 平均回数 v v小角度散乱、 m1 m2 ( m) v 4Gm 16G 2 m 2 2 2 v v vb v 2b 2 velocitychangeは、 v 2 2bf (v, t )vdtdbdv 11 32G m f (v)dtdbdv平衡系を考える vb 2 2 dtdbdvを考える 26 0 1 v f (v)dv n v 1 , b2 b1 b2 db ln b b1 cut - off : b2 R 系のサイズ 大角度散乱はまれ b1 大角度散乱が効くスケ ール 90 散乱のimpactparameterとする 2Gm 2Gm tan 1 2 b 2 vb v 4 b2 Rv2 , 以上より、 ln ln 2Gm b1 Gm N virial平衡を使うと、 v 2 , R b2 N 従って、 ln ln 2 b1 v 以上より、 v 2 N 32G 2 m 2 nv3 ln t 2 27 緩和時間 v 1となる時間 t r v 3 v tr 2 2 32G m n ln N 2 3 3 3 v R 4 nm R M を使う 2 3 24G m M ln N 2 0.04N tc v 2 Gm N を使う , R N ln 2 tc R v 28 §4.基礎方程式((無衝突)ボルツマン方程式) 流体: 局所熱平衡<<力学的時間<<大局的平衡 *場所の関数のみで記述可能 恒星系:力学的時間<<局所熱平衡~大局的熱平衡 *場所と運動に独立に依存(6次元位相空間) ◎(確率)分布関数or位相密度関数で記述 f ( x, v , t ) *密度分布との関係 3 x d vf ( x , v ) 29 ★無衝突系:その系で、考えている時間尺度では、衝突項が効かない場合 位相空間のある点から別の点へジャンプはなく、スムーズに動い て、位相空間での“流体”は質量保存する。 従って、分布関数は、“流れ”にそって保存する。 df f fw 0, w x , v dt t w d x 0 * 流体: dt t x f f v f 0(CBE) t x x x ポアッソン 方程式 3 =4 G =4 G d v f ( x , v ) 30 ★衝突系 f f f v f t x x x t coll f : 衝突項 t coll 衝突項による時間変化の項が、平均ポテンシャルに よる時間変更の項より、十分小さい場合は、無衝突系 とみなすことができる。 31 ★BBGKY方程式からの導出 N体系:6N次元位相空間(Γ空間) 分布関数: f w1 , w2 , , wN , t : N 6 6 6 3 3 f w1 , w2 , , wN , t d w1 d wN 1,: d w d x d v , N Liouville's T heorem df f dt t 1 x (N ) (N) N (N ) f dx dt v (N) f dv dt f ( N ) N f ( N ) f ( N ) v 0 t x x v 1 32 ★Liouville’s Theoremの証明 Liouvilleの定理:ハミルトニア ン形式の力学方程式に 従う系に対して、位相 体積は、系が運動する ときは 一定に保たれる。つま り、 G0 dp0 dq0 dpdq (1) Gt あるいは、無限小の位 相体積素片に対して次 式が成り立つ。 dp0 dq0 dpdq (2) ここで、 p 0 , q 0 は、初期時刻 t0での位相点で、 G0はそれを含む 領域。また、時刻 tにおいて、位相点は領 域Gtに移るとする。 33 (1)式の右辺を変形すると 、 p, q 0 0 dpdq dp dq Gt G0 p 0 , q 0 となる。そこで、ヤコ よい。つまり、 p, q 1 - - - (3) 0 0 p ,q ビアンが 1となることを証明でき れば 先ず、次の関数行列式 の性質を用いる。 p, q p ' , q ' p, q (4) 0 0 0 0 ' ' p ,q p ,q p ,q ただし、 p ' , q 'は、任意の時刻 t 'での運動量と座標の値 である。 34 t0と t 'を一定とみなして、こ の等式を tで微分する: d p, q ( p ' , q ' ) d p, q 0 0 dt p , q p 0 , q 0 dt p ' , q ' t 'は任意だから、微分し た後で t ' tと置ける。 ヤコビアンの中の主対 角成分の項だけが残り 次式が得られる: d p, q ( p, q ) 0 0 dt p , q p0 , q0 p i qi i p q (5) i i 35 ところで、運動方程式 は、 dqi H dpi H , (5) dt pi dt qi で与えられるので、こ p i qi 0 pi qi れを使うと、 従って、 d p, q 0、すなわち、ヤコビア 0 0 dt p , q ンは時間に依存しない 。 初期条件 ( p, q ) p0 , q0 =1を使って、ヤコビ アン (3)式が実際に1に t t0 等しいことが確かめら れる。 36 Liouvilleの定理から、分布関数 は位相軌道に沿って 一定である。 事実、系を表す点が位 相空間を運動するとき 、位相点 の数は不変: f p, q, t dpdq f ( p ' , q ' , t ' )dp' dq' Liouvilleの定理から、 dpdq dp' dq'なので、 f p, q, t f ( p ' , q ' , t ' ) すなわち、 fは位相軌道に沿って一 定である。 Q.E.D 37 ◎BBGKY Hierarchy Liouville's T heorem df ( N ) f ( N ) N f ( N ) f ( N ) v 0 (1) dt t x x v 1 38 ◎1体分布関数に関する方程式 (N) 6 6 f w1 , t f w1 , w2 , , wN , t d w2 d wN 6 6 (1)式の両辺に d w2 d wNの操作を行う。 (1) f (1) f (1) ( w1 , t ) v1 w1 , t t x1 1 f 6 6 d w2 d wN (2) x1 v1 (N ) ; GM x x 39 ◎(2)式の導入の際の注意点 ○第1項:単純に f w1 , t の定義より明らか 3 (N ) ○第2項: f / x d x 0 2,3, , N を使う 一般的に x で、 f ( N )が十分に速くゼロに近 づく。 3 (N ) ○第3項: f / v d v 0 2,3, , N を使う v で、 f ( N )が十分に速くゼロに近 づく。 一般的に (1) 40 f は、 w1 , , wNに関して対称。 (N ) よって、 (2)式の右辺は、 12 f 6 6 ( N 1) d w2 d wN x1 v1 (N ) 2体分布関数: ( 2) (N) 6 6 f w1 , w2 , t f w1 , w2 , , wN d w3 d wN 従って、(2)式は、 f (1) f (1) 12 f ( 2 ) 6 v1 ( N 1) d w2 (3) t x1 x1 dv1 41 2体分布関数を1体分布 関数の積で書ける部分 (無相関)と 相関に関わる部分に分 けて記述する。 ( 2) (1) (1) f ( w1 , w2 , t ) f ( w1 , t ) f ( w2 , t ) g ( w1 , w2 , t ) ここで、 f Nf (1)とおくと、 f f w1 , t v1 t x1 ( N 1) f 6 w1 , t 12 f ( w2 , t )d w2 N v1 x1 12 g 6 N ( N 1) w1 , w2 , t d w2 (4) x1 v1 42 次に、 6 3 3 12 f (w2 , t )d w2 12 f (w2 , t )d x2 d v2 1 3 G ( x2 , t ) x1 x2 d x2 x1 と、 N 1 N - 1 Nを使うと結局、 (4)式は、 f f f x , v , t v t x x v g 1 3 3 2 N Gm x , v , x2 , v2 , t d x2 d v2 (5) v x2 x x2 43 (5)式の右辺:衝突項に相当 (2体相関に関する項) *この項が無視できれば、無衝突ボルツマン方程式 (CBE)に帰着 ◎gを知るためには、3体分布関数が必要。 3体を知るためには、4体が必要。 さらに、・・・・・・:Hierarchy! 結局、N体分布な関数が必要。 *解くためには、どこかで打ち切る。 44 ★CBEの解法 I.Dynamics ○directに解く数値計算 一般には、6次元+1次元(時間)の計算で困難(対称性 があり、変数が少数の場合は、可能) 位相分布を粗野化し、その代表を質点で近似 (N体近似): N体計算 ○Jeans方程式(+仮定)に帰着し、解く ○平衡解の周りの摂動計算 II.平衡解(定常解) Jeansの定理を用いる(後で解説) 45 ★Jeans方程式の導出 ◎Stellar-hydrodynamics equations CBEの両辺にv v v をかけて速度積分を行 う l m n i j k (モーメント方程式) f 3 l m n f 3 v v v t d v vi v j vk v x d v l m n f 3 vi v j vk d v 0, (1) x v l m n l m n 3 vi v j vk vi v j vk fd v (2) l m n i j k 46 ◎0次のモーメント:連続の式 v 0 (3) t x *導出上の注意: f 3 f 3 f 3 t d v v x d v x v d v 0 (4) ○第1項:単純に、定 義により、 (3 )式の第1項は明らか。 3 = fd v 1 3 ○第2項: v v f d v を使う ○第3項:発散定理に より、表面積分に置き 換えられ、 v で fは十分に速くゼロに近 づくとしている。 47 ◎1次のモーメント:運動方程式 v l vk vl 0 (5) t xk xl k ここで、 velocitydispersion tensorを次のように定義する 。 kl2 vk vk vl vl vk vl vk vl これを用いると (5)式は、 連続の方程式 も用いて 次のように変形される 。 vl vl kl2 vk ( 6) t xk xl xk k 48 ◎(5)式の導出上の注意: f 3 f 3 f 3 vi t d v j vi v j x j d v j x j vi v j d v 0 (7) ○第1項: viの定義より (5)式の第1項は明らか ○第2項: vi v j 1 vi v j f d v より、 (5)式の第2項は 3 明らか。 vi f 3 3 ○第3項: vi d v f d v ij v j v j を使う。 49 ★この(6)式が、Jeans equationsと呼ばれる。 vl vl kl2 vk t xk xl k xk k ○流体のオイラー方程式と大体同じ形。 左辺は、平均の流れに沿ってみた平均速度の Lagrange微分。 右辺第1項は、重力 右辺第2項は、圧力の相当。 ただし、流体と違い一般的には非等方なテンソル 50 * を知るためには、次の高次のモーメント方程式が 必要。したがって、このvelocity dispersion tensorに 何らかの仮定を与えて解くことを行う。 2 kl 51 ★衝突系:フォッカープランク方程式 ボルツマン方程式 df f dt 衝突項を考える。 6 w, wd wdt : 6次元位相座標wにある星が dtの 間にw wに散乱される確率とす ると、 3 f w w, w f w w w, w f wd w w w, w f w w 6 w, w f w w, w f w wi wi i 1 1 6 2 w, w f w O(w3 ) wi w j 2 i , j 1 wi w j 52 結局、衝突項は、次のようになる。 f wDwi f i 1 wi 6 1 f wDwi w j , 2 i , j 1 wi w j 3 Dwi wi w, wd w 6 2 以上の衝突項で与えられるボルツマン方程式が、 フォッカープランク方程式 53 ★フォッカープランク方程式の変形 恒星系への応用: (a)Orbit-averaged approximation 星の数が大 encounterは効かない 速く変動する変数とそうでないものを分離 位置空間で、平均 作用変数のみの関数 (b)Local approximation encounterはある、一点xで起こるとする 衝突項は、速度だけの関数 54 §5.重力熱的破局及び宇宙の進化とエントロピー I.重力熱的破局(Gravothermal Catastrophe) 自己重力系の“熱力学” “常識”とは違う ◎通常:T1>T2の場合 Q T1 T2 T 55 ★熱力学第2法則: 閉じた系(断熱系) dS 0 S1 S 2 U1 U 2 ( S1 S 2 ) U1 U 2 エネルギー保存則: U1 U 2 0 1 S 温度: T U U , N 1 1 ( S1 S 2 ) U1 0 T1 T2 T1 T2ならば、 U1 0となる。内部エネルギ ーは 温度が高い方から低い 方へ移動。 56 ★比熱は正:熱をもらえば温度が上がり、失えば 下がる。 従って、T1は下がり、T2は上がる。結局、一定の温度T となり落ち着く。 ところが、・・・・・ 57 ★自己重力系は比熱が“負“ 例 ガス球 圧力(内部エネルギー)で 支えられている。 *中心から内部エネルギーを 外へ移動 圧力が下がる T2 T1 自己重力で縮む(断熱圧縮) 中心部の方が温度が上がる。 温度差がさらに生じて熱がさらに移動。 “暴走” 58 ★本質的理解:孤立系の場合 Virial平衡 2T+W=T+E=0 T=-E 内部エネルギーEを下げる 温度(運動エネルギーT)が上がる。 59 ★球状星団を考える (衝突)恒星系:本来は、ボルツマン方程式 *しかし、本質は、ガス球での理解と同じ “平衡状態”:等温球 静水圧平衡の式 dP GM 2 dr r P kT( T : 一定) const. (内側) 断熱壁 ρc ρe r 2 境界は外圧(Pe)で支える必要あり (ビリアル平衡:2T+W=3PeV) 60 ★平衡曲線(リニアシリーズ) -E 709 ρc/ρ e 密度比が709を超えると不安定。熱的破局を起こす。 61 ★エントロピーは? S Q T , Q1 Q, Q2 Q 1 1 S S1 S 2 Q T2 T1 T1 T0 T1 , T2 T0 T2 T1 T2 Q T02 T1 T2 0 S 0 エントロピーは増大! 62 ★自己重力系 エントロピーは増大(熱力学第2法則) しかし、‘通常’の系とは違って、温度分布や 物質分布は一様にならずに非一様化! 63 ★熱的破局のその後 破局は止められるか? 実際の系 発散することはない 中心付近:密度大 近接連星生成 熱源となる! 安定化 *星の中の構造と同等 ◎その後の進化 Gravothermal Oscillationなど 参考:天文月報1989年10月号:稲垣省五 「留守番時代に入った球状星団の力学進化の研究」 64 II.宇宙の進化とエントロピー 宇宙はなぜ進化できるのか? “進化”とは: 生物学:ある生物が何代もの世代交代を繰り返すうちに、突 然変異などを含む変化で違った外観や機能を持つ 別の種族に変わっていくこと。 天文学:構造が次第に出来てくる変化のこと。 例.星の進化ーー>星の一生 宇宙は実際、進化している (だからこそ、なぜ“進化”できるのかと問える) ビッグバンーーー>宇宙の階層構造 65 ★では、なぜ進化できるのか? 現在のような多様な構造 (生物や人類までいる) 実はよく考えると“不思議” ★なぜ、不思議なのか? 物理学ーーー>エントロピー増大則 宇宙の進化は、一見この法則に矛盾 *Gravothermal Catastrophe: 自己重力系では、エントロピーは増大しても、温度 や密度が非一様化することが可能。 構造ができることは分かったが、ではなぜそれが 66 維持できたり、さらに進化できるのか? ★エントロピー増大則 ◎地上での実験 閉じた容器(断熱とする) 気体の拡散 気体の混合 温度の一様化(等温化) 左右に分かれ秩序立っている 温度 金属の棒 温度 温度 乱雑になっている 温度 温度が一様 この逆は、経験的に起こることはない! 非可逆過程 67 ★高温ーーー>低温へ熱が移動 熱力学第2法則 ◎原子の世界で見ると 次第に乱雑な運動が拡がっていく ◎分子の運動の平均化 全体の分子の乱雑な運動 エントロピーが増加 *孤立系(断熱系) ○エントロピーが増加する ○エントロピーが最大の状態ーー> グローバルにはもはや変化無し 熱平衡状態 68 (補足)なぜ、非可逆なのか? ★ミクロな過程:可逆 例:電光掲示板(各々の電球がでたらめに点滅) 文字(秩序状態) 無秩序化 ほぼ一様化 元に戻れる確率は非常に小さい。 電球の数が多くなればなる程小さくなる (分子~10の23乗個) 69 ★エントロピー増大則を宇宙全体に適応 ◎ボルツマン 宇宙の“外”には宇宙はないーー>宇宙は孤立系 宇宙全体のエントロピーは増大 ーー>宇宙は熱平衡状態に向かっている 温度の分布も物質の分布も一様になってしまうはず 宇宙は熱的死へ しかし、 現在の宇宙:多様、秩序 むしろ、昔の宇宙(ビッグバン) 熱平衡状態ーーー>多様な構造 進化 矛盾しているのでは? “不思議” ◎本当に矛盾しているのか? ◎なぜ、多様な構造が生まれうるのか? 70 なぜ、“進化”できるのか? ★エントロピー増大則とは一見矛盾 なぜか? ★適応可能か? ◎エントロピー増大則ーー>断熱系に関しての法則 ○宇宙は断熱系か? “宇宙全体”ーー>“地平線”が広がっている (見える宇宙は広がっていく) そこで、仮想的な一部分を考える *宇宙全体に比べれば十分小さいが、十分多くの銀河を含むほどは 大きい。 *境界は宇宙膨張と共に膨張 ーーー>正味の熱の出入りはない なぜならば、もしあれば、その部分系は特別 ーーー>一様性に反する このような断熱系を考えることは可能。 しかし、各々の天体は孤立していない ーー>開放系(外に開いた系) 天体は周りの空間にエネルギーを捨てることができる 71 ★エントロピーを捨てる T0: 周りの空間温度 < 放出される T1:表面温度 熱量δQ1 熱伝導 流入する < (<0) T2:底部の温度 熱量δQ2(>0) 例:鉄板の定常的な熱の流れ ○定常 δQ1=ーδQ2 ○エントロピーの増加 δS=δQ/T (温度の逆数に比例) 72 ○熱の出入りによるエントロピー の増加 δSe= δQ1/T1+δQ2/T2 =(-1/T1+1/T2)δQ2 *δQ2>0 *もしT2>T1ーー>1/T1>1/T2 ーーー>δSe<0! 外からもらうエントロピーより多くのエントロピーを外部に捨て ている 負のエントロピー(ネゲントロピー)を喰った ○全体のエントロピー δS=δSe+δSi(内部での熱伝導という非可逆過程) 定常ーー>変化しないーー>エントロピーも変化無し δS=0ーー>δSe=ーδSi 非可逆過程によって発生するエントロピーをちょうど同じ割合で外界に 捨てている 73 ーー>温度が一様にならずに定常を保っている ★大気への応用 大気はなぜ水蒸気 で飽和していないのか? 太陽 ~6000K 熱輻射(可視光) 温度小 大気 水や二酸化炭素が吸収 ~300K 温度大 赤外線放射 海 ーー>鉄板の例と同じ 下から熱せられ、温度の低い上層部から熱を捨てている もし、太陽が低温で赤外線を放射または高温で紫外線を放射 ーーー>大気の頂上で熱を吸収 ーーー>大気は水蒸気で飽和。大気の温度分布は一様 ーーー>生命体はなかったであろう 74 ★生物 生物も熱平衡状態から離れた状態 ネゲントロピーを喰っている 食物の エントロピー 排泄物の エントロピー エントロピー小 (原子や分子の並び方が 規則的) エントロピー大 植物の光合成:太陽光線(高温)のエントロピーの低さを物 質に固定する機構 75 ★天体(星) 核反応 熱伝導 空間へエントロピーを 捨てている 定常ーー>熱伝導によるエントロピー =核反応というネゲントロピー源 重力エネルギーの解放 天体(自己重力系)ーー>エネルギー源を 内包している 76 進化=部分系のエントロピーが減少する変化のこと。 しかも、一様化という常識的熱平衡状態とは逆の方 向に向かうもの 全体では、エントロピーは減少はしない 77 ★宇宙は熱的死には至らない 宇宙の中の閉じた系のエントロピーが増えても、その系は実 験室系で見られる系とは異なって、物質分布や温度分布は 一様にならない。むしろ、非一様、多様性が発現 ★理由 (1)自己重力の作用により部分系にエネルギー流入(星なら ば、核反応) 廃熱を外部に捨てるーー>系のエントロピーは下げられる 自己重力系はそのエネルギー源を自己の中に内包 78 (2)廃熱、すなわち非可逆過程の進行によって発生 したエントロピーの捨て場としての空間が十分にある 空間の温度が小<--宇宙の膨張 ますます膨張ーー>温度が下がる ーー>捨て場は常に確保 宇宙の膨張こそが進化の源泉 79
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