格子系のフェルミオンシミュレーション

物性物理学:ミクロからマクロへ
要素: 原子、電子: 質量、電荷、スピン、軌道、、
要素間の相互作用:クーロン相互作用
アボガドロ数:6×1023 = 100億×60兆
>(地球人口)×(一人の細胞数)~4×1023
細胞 – 器官 – 個体 – 民族 – 人類
要素の性質から想像もできないような新奇さ、多様さが発現
(例)水素や酸素 ⇔ 川を流れる水や氷、水蒸気の性質
電子 ⇔ 光学的性質:透明な物質、光沢のある物質
電気的性質:絶縁体、電気伝導体、超伝導体、誘電体
磁気的性質:強磁性体、反強磁性体
複雑さと多様性の源泉
― 相互作用と量子性 ―
★相互作用
互いに相互作用しない多粒子系の熱平衡状態は
密度一様で構造のない単調な世界であり、退屈である
相互作用→
例 万有引力 → 星の発生、宇宙の構造形成
クーロン相互作用 → 液体や固体への凝縮、
化学反応、生体反応
競合、相乗効果、せめぎあい→不均一と構造形成、多様性
局所的にエントロピーの減少する領域の発生
相転移の結果生じる秩序状態(固体・液体・気体相転移、
さまざまな構造の固体、磁性、超伝導)
複雑さと多様性の源泉
― 相互作用と量子性 ―
★量子性
粒子としての性質と波としての性質; 二重性
シュレーディンガー方程式
ハミルトニアン
運動エネルギー
相互作用エネルギー
不確定性原理
運動エネルギーと相互作用エネルギーの競合
相転移
ー相互作用による新たな性質発現の典型ー
例:気体、液体、固体の間の相転移
液相・気相転移
1次相転移 → 臨界点
水の例
218気圧
374℃
密度
液体
気体
気体
密度感受率
等温圧縮率
臨界点: 圧縮率の発散
わずかな圧力変化が
大きな密度変化を引き起こす
応答とゆらぎ
密度感受率、圧縮率 ⇔ 密度ゆらぎ
ゆらぎ
外場に対する応答
非平衡状態での反応 ⇔ 平衡状態での空間相関
揺動散逸定理
気相液相転移臨界点: 密度ゆらぎの相関が長距離に及ぶ
臨界蛋白光 (critical opalescence)
アインシュタイン、スモルコフスキー、オルンシュタイン、ゼルニケ
原子の存在の根拠の一つ
液相気相転移と二元合金相分離
圧
力
液体
(A-rich)
液体 (A-rich)
沸点
急冷
臨界点
気体
(B-rich)
温度
気体 (B-rich)
二元合金(A-B alloy)
高温で溶かして一様に混ぜ合わせた
2種類の金属を冷やす
Fe-Ni、Sn-Pb(はんだ)など
もう一つの相転移の例:磁気転移
電子スピン:磁化 m = 0 の無秩序状態(常磁性相)から
が揃う
m ≠ 0 の秩序状態(強磁性相、磁石)
への相転移
密
度
磁
化
m
液体
対応
常磁性
強磁性
気体
Tc 温度T
臨界点 相違点:
合金、液相気相転移;
粒子数保存
→相分離による2相共存
秩序形成と対称性の破
れ
高温
エントロピーの利得
F = E - TS
自発的対称性の破れ
低温
強磁性秩序
または
エネルギーの利得
対称性の破れとランダウの現象論
ランダウの現象論
自由エネルギー密度 f を
マクロ変数である磁化mの解析関数であると仮定する
上下反転の対称性から、f はmの偶関数
a 2 b 4
f (m)  m  m  ......
2
4
a a0 (T  Tc ) Tc :相転移温度(臨界温度)
a0 , b 温度によらない正定数
m
m0
T  Tc
強磁性
0
L. Landau
(1908-1968)
a
m   m0  
0
b
Tc T
常磁性
熱平衡
自由エネルギー最小の状態
T  Tc
相転移をミクロな模型であらわす:イジング模型
結晶格子点i上に配位したスピンSiが
±1というどちらかの値を持つ
H   J  Si  S j
イジング模型
i, j
強磁性イジング模型でのエネルギー
イジング模型の平均場近似
H   J  Si  S j
i, j
平均場近似 まわりのスピンからの相互作用の効果を
均して取り入れ、ゆらぎを無視する
Nz
H   J [  Si  S z 
S
2
i
2
z 最近接格子点の数
  ( Si  S )( S j  S )]
平均場
N
m  S   Si / N
i, j
i 1
1 2 1 4
f (m)  F / N  am  bm
2
4
ランダウ現象論
4
Jz T  Jz
( Jz )
a
, b
と等価
3
2 k BT
3(k BT )
気体液体相転移
普遍性クラス
強磁性転移
液体
磁
場
Tc
x
温度
臨界点
気体
見かけ上全く異なった相転移が同じ構造を持つ
イジング模型の強磁性
⇔二元合金の相分離
⇔液相気相転移
対称性の破れ方、励起、
ゆらぎの発散の仕方、臨界指数
によって、多彩な相転移は
同一の普遍性クラス 少数の普遍性クラスに分類される
臨界指数
普遍性クラスは臨界指数によって特徴付けられる
同じ普遍性クラスに属する相転移は
同じ臨界指数を持つ
臨界指数の例:γ
圧縮率の発散のしかた
1 2 1 4
イジング型のランダウ自由エネルギー f ( m)  am  bm
2
4
イジング型の臨界指数
磁場中
イジング模型
2次元
平均場
3次元 近似
 | T  Tc |   7 / 4 1. 24 1
臨界点
m | T  Tc |   1/ 8 0. 325 1/ 2
1
m | h |   15
気相
4. 8
3
液相
平均場近似からのゆらぎを
考慮した正しい臨界指数も
同じ普遍性クラスであれば
互いに同じ値を持つ
空間次元が低いほど平均場近似からずれ、
ゆらぎの効果が大きくなる
異なる普遍性クラス
イジング対称性;上向きと下向きの2種類の対称性の破れ
離散的な対称性の破れ
H   J  Si  S j
i, j
Siがベクトル
平面内任意の方向を向くことができる → XY模型
立体角任意の方向
→ハイゼンベルク模型
連続的な対称性
の破れ
連続対称性の破れの
ほうがゆらぎが大きい
臨界指数の異なる、別の普遍性クラス
相転移は少数の異なる普遍性クラスで分類される
まとめ







物質の性質が多様なのは、原子の種類が多いからではな
く、(1)要素(原子や電子)の間の相互作用 (2)量子力学
的効果があるからである
相互作用が生み出す多様性さの典型は相転移である
液相気相転移の臨界点のような相転移臨界点では、わず
かな外場に対する応答が発散し、ゆらぎの空間相関が長
距離におよぶ(例:液相気相転移の臨界点での臨界蛋白
光)
多くの相転移は「自発的な対称性の破れ」を引き起こす
対称性が破れる相転移の本質はランダウの現象論や平均
場近似によって、ゆらぎを無視する範囲で理解できる
液相気相転移、2元合金の相分離、イジング模型の磁気転
移は相転移の構造が等価になっている
相転移は少数の普遍性クラスによって分類され、同じ普遍
性クラスに属する相転移は見掛けが全く違っても同じ臨界