認知症高齢者の心理的理解

認知症を知ろう
~地域で自分らしく暮らしていくために~
平成21年3月21日 (土)
社会福祉法人 湘南愛心会
特別養護老人ホーム かまくら愛の郷
副施設長 岩瀬 枝美子
(神奈川県認知症介護指導者)
ねらい
認知症の基礎的理解と
認知症の人の気持ちを知ろう
痴呆(痴呆の時代) ⇒ 認知症へ
(H16年12月)
痴呆だから何を言ってもわからない
(痴呆になったらおしまいだ!)
提供側優位の視点
対症療法での対策。
身体拘束・閉鎖的環境へ隔離。
「嘘をつく」 「子ども扱い」 「無視する」 「放置する」
「行動を中断する」「急がせる」
「恐怖の対象」
原因やケアの方法がわからない
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新しい認知症ケアの時が来ています
* 原因が病気であることがわかった。
* 認知症の人の内的体験が解明された (アルツハイマー病国際会議京都)
* 自分なりに懸命に生きようとしている。
* 正しくサポートすることで穏やかに暮らすことができる。
原因の解明と共にケアの方法が解りかけている
尊厳を支え思いを汲む
「生きることを支えるケアの必要性」
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認知症の人の生活とは
*本人なりに必死で生きている。生きようとしている。
* なりたくてなった人はいない。
* ケアをする側が、正しく理解し接することで、
生きいきと穏やかに生活することができる。
* 自分も認知症になる可能性があり。
* 自分の大切な人が認知症になっていくかもしれません。
「してあげる介護から、生きることの支援へ」
できないのではなく、やる機会がない。暮らしの中で出番を。
さりげないお膳立てと、助け舟を。
認知症があっても、立派に生きてきた大人です。残された人生、遠慮や失
意の中で暮らすのではなく、本人が力を振り絞り自分らしく生きる姿を、
皆で支えていきたいものです。
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認知症とは
☆ 認知症の定義
記憶障害に加え、複数の認知障害があるために
社会生活に支障をきたすようになった状態。
*認知障害の中でも記憶障害が中心となる症状で、
早期に出現することが多い。
*いったん正常に発達した知的機能が、持続的に低下
する不可逆的状態をさすのが一般的。
★ 認知症と区別すべき病態
意識障害・せん妄、加齢による認知機能の低下、
うつ状態による仮性痴呆、精神遅滞ほか。
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認知障害
脳の神経細胞が、病気にかかると“認知能力”が
低下し“認知障害”といわれる。
“認知障害”が大人になってから起こった場合が
「認知症」 なのです。
*子供の時とか、生まれつき神経細胞の発達が、うまく
いっていない時にも、“認知障害”はおこるが、それは
「認知症」といわず“知的障害・発達障害”といわれます。
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認知症になる病気はたくさんあります
前頭側頭型認知症
進行性核上性まひ
アルツハイマー
型認知症
慢性硬膜下血腫
その他
脳血管性
認知症
レビー
小体型
認知症
身体の異常が脳に影響して
生じる認知症
正常圧水頭症
脳腫瘍、転移癌
各種脳炎、脳症
クロイツフェルト・ヤコブ病
薬剤誘発性認知症(アルコール・向精神薬
慢性低血糖
肝硬変症
慢性腎不全
甲状腺機能低下
その他の内分泌異常状態の持続
ビタミン欠乏(B1、 B12 葉酸 など)
その他
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認知症の症状
 中核症状
脳の神経細胞が病気になったり、壊れてしまった
結果、その神経細胞が担っていた認知機能が損な
われるために起こる症状。
 周辺症状
中核症状によるゆがんだ外界認知に、性格、
素質、環境、心理的状況、身体的状況、などが
複合的に作用して起こる症状。
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認知症の中核症状
① 記憶障害
新しく経験したことを、記憶にとどめることが、困難となる
② 見当識障害
ここはどこで、今はいつなのか、わからなくなる状態
③ 問題解決能力障害・判断力の低下・実行機能障害
計画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化する、
判断するということが、できなくなる。
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記憶の障害
1) わからなくなる
2)できなくなる
わからなくなったことを忘れたという
近時記憶が障害→わからなくなる→今の把握が不確かになる。
a)急激な変化に弱い
転居・施設入所(その場や状況が、わからず(失見当)困惑や混乱が起こる。
徘徊が、しばしば認められる。
人を捜す、安心の場所を捜す、知った人を求める
“所を得る” と徘徊消失することもある。
受け止めてくれる人・安心の人を得るなど安心して過ごせる。
1
1
徐々に慣らし、変化はゆっくりと。
b)変化するものほどわすれやすい
記憶の障害2
日時がわからなくなる
いまは何時、ついで何日、何曜日、何月、季節は、など忘れる。
まだ記憶に焼きつかない新しいもの、複雑なもの、自分に関係ないも
のなどは、早く忘れる。
c)変化しないものは忘れにくい
例:生年月日など。
(逆に考えると、記憶の学習では→変化させないで、簡単にパターンかして
なじませながら、繰り返し教える)
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d)前後の比較ができなくなる
直前→近時記憶→ついには過去の記憶→引き続いた今の把握も不確か
記憶の障害3
知的判断や行為の障害現れる。
例:傘もささずに、ずぶぬれで歩いていたりする。
e) 意味がわからなくなる
感覚失語で音はわかっても、言葉の意味がわからず理解できない。
例: おむつ交換・更衣・排泄などの介助の時の抵抗。
(言葉で伝えてもわからず、乱暴でもされると思い抵抗)
手で振り払ったり、足蹴りなどをする。
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3
2) できなくなる
記憶の障害4
長年にわたり、いままでできていた食事、排泄、更衣な
どの日常生活動作や、身近な人との社会生活活動能力が
障害される。
・失行症→ 一連の行為の遂行に必要な、総体的に
まとまった行為ができない。
・失認症→ 視・聴・触覚などを介して対象を認知できない。
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加齢によるもの忘れと認知症の違い
・ 加齢による物忘れ
体験の一部のみを忘れるため、他の記憶を
“伝”にして、思い出すことができる。
・ 認知症による物忘れ
体験の全体を忘れているので思い出す“伝”
がないため思い出せない。
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認知症の知りたいことガイドブック 中央法規 著者:長谷川和夫より一部抜粋
認知症と加齢に伴う物忘れの違い
 認知症に伴う物忘れ
日常生活に支障あり
 加齢に伴う物忘れ
日常生活に支障なし
*認知症の初期(前段階)の記憶障害と加齢による記
憶障害との区別 は、必ずしも容易ではない場合があ
る。
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著しい記憶障害・認知障害のために生活に支障をきたす
認知症と加齢に伴う物忘れの違い
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記憶障害
(激しい物忘れ)
見当識障害
(場所の見当が
つかめない)
判断力の低下
(実行できない)
体験の
つながりが
ない
正しい
状況が
つかめない
簡単な道具の操作
ができない
徘徊
いつも不安な気分
パニック状態
混乱
間違い行動
認知症の知りたいことガイドブック 中央法規 著者;長谷川和夫より一部抜粋
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人が不安なく生きる
認知症と加齢に伴う物忘れの違い3
「自分がだれなのか」「今いると所はどこなのか」
「いまはいつなのか」「自分はなにをしているのか」
「知ってる人がいる」「知ってる場である」
「習慣的に覚える生活の日課」や「大まかな流れ」
「状況の成り行き」「何月」「季節は」「朝・昼・夜」など。
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認知症の人の状態の移ろいやすさ
不安・不快
心身のストレス
無為
中核症状
周辺症状
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症状増悪
自立度低下
体調悪化その人
らしさの消失
中核症状
その人らしさ
安心・快
リラックス
力の触発
中核症状
その人らしさ
適切な環境とケアで不安と混乱を最小に導くこと
高齢者痴呆介護研究・研修センター 永田久美子主任研究主幹による
認知症の中核症状と周辺症状
せん妄
幻 覚
妄 想
(認知症ケア学会誌より)
睡眠障害
中核症状
不 安
多 弁
多
ん 動
記憶障害
焦 燥
依 存
見当識障害
抑うつ
異 食
問題解決能力の障害
心 気
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暴言・暴力
判断力・実行機能障害
仮性作業
徘 徊
不潔行為
過 食
介護への抵抗
異常と言われる行動が、起こりやすい状況
・ 「だめ」という注意、禁止、否定
(逆らってはいけない どうやったら、やる気にさせるか)
・ いらだち口調、早口(理解できない)
・ 入浴や更衣の介助(入浴の理解ができない)
・ 夕方から夜(体内時計、身体のホルモン?)
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1
“大切な家族でさえわからなくなっていく本人の不安”
異常と言われる行動が、起こりやす い状況 2
認知症では見当識や判断の障害があるため自分の
周囲で起こることを正確に理解すること が難しくなる。
「どこだ?」「何だ?」「誰だ?」と、常に疑問符を抱 えている
ストレスの蓄積
感情が刺激され、攻撃的な
言動や興奮状態を招きやすくなる
この人なら大丈夫
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認知症の人との接し方
認知症の人にとっては、接し方自体が状態の安定や向上に向けた重要な
ケアとなる
自尊心を
傷つけない
 手間取る行動、介護で大変な時ほど、
本人はどうしていいか苦しんでいる時
です。
 奇異な目や突き放した態度をとらない
(敏感に感じ取り、反応する)
 相手のどんな場面でも肩の力を抜き、
ゆったり関わる。
(叱ったり、脅かさない)
 言葉だけでなく、しぐさ、眼差し、
態度などでの関わりが大切です。
認知症の人との接し方2
感情は
むしろ
研ぎ澄まされ
ています
 瞬間瞬間に感じる喜怒哀楽はとても豊
かです。嬉しい、楽しい、誇らしい気持
ちの余韻は残ります。
 不快感、悔しさ、怒り、哀しい気持ちは
尾を引きます。
 感性、美しいもの、豊かなものを求める
気持ち、年長者としての誇りとプライド
は持っています。
 他者や子どもをいつくしむ気持ちは、それを
うまく表せない分あふれるほどに秘めていま
す。
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 一度にいくつもの事を話すと混乱するの
わかる言葉
を使い、簡
潔に伝える
で、伝えるときは、単純な内容で、順を
追って一つずつ伝える。
認知症の人との接し方3
 本人に伝わる呼び名、言葉を用いる。
 本人の生まれ育った国の言葉は効果
がある。
 本人の心と身体が動く「言葉」「話題」
を探す。
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 現実にあり得ないような話でも、
話を聞く
逆らったり、訂正したりしない
(間違いを訂正すると、かえって混乱したり不快を募らせ
る)
認知症の人との接し方4
 本人の得意な話や、最も輝いていた時
代の話は真剣に聞いてあげる。
 混乱が強い場合は、話に入り込まず
そっとしておく
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 折に触れ、名前、日時、場所などの基本的
なことを知らせる
(本人のわかる呼び名で呼ぶ、ケアする人の名前を知らせる)
新しい事を
ゆっくりと、
繰り返す
 時間と出来事の関係を知らせるようにする
(例 : 「朝「時間」 ごはん「出来事」ですよ」など)
 見やすい日めくり、暦、時計を身近に置く
認知症の人との接し方5
 すぐに忘れてしまうのが認知症です。一瞬一
瞬の関わりが大切です。つねに一期一会。
 本人にとってなじみの人は、暮らしていく上
での頼みの綱、この人の言うことならば。
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愛着(きずな)
帰属意識
認知症の人との接し方6
(仲間に入りたい)
慰め(安定性
認知症
高齢者
その人らしさ
(物語性)
没頭性(役割意識)
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頑張り過ぎずに勇気を出して「助けて」と!
 長丁場の介護を、一緒に乗り越えてくれる
専門職や、仲間を探しましょう。
 地域には必ず相談窓口があります、同じ苦労をしている家族
の会もあります。
 一人で悩まずに、まずは誰かに「ちょっと助けて」といいま
しょう。
 認知症のケアは、迷いの連続です。
 本人と家族を中心に専門職がチームを組んで支え、共に考え
、苦労を分かち合って進んでいきましょう。
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認知症介護の妙案!
 介護保険サービスの定期的利用
 認知症の知識や介護技術を得る
 入浴などは、他人の力を借りる
 経済的支援サービスの利用
 自分の心のケア
 家族会(同じ苦労をしている方いっぱいいます)
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認知症介護の妙案!2
3
1
認知症介護の妙案!3
3
2
認知症介護の妙案!4
3
3
認知症介護の妙案!5
3
4
認知症介護の妙案!6
3
5
認知症介護の妙案!7
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6
認知症介護の妙案!8
3
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認知症介護の妙案!9
3
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認知症介護の妙案!10
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認知症介護の妙案!11
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長谷川和夫 著 ~認知症知りたいことガイドブック まえがき より
私達が、長い人生を旅していると、自分の大切なものを失うことがあります。
例えば、財産を失ったり、職を失ったり、あるいは配偶者や家族と死別するなど
の喪失体験です。ところが、認知症の人が体験する喪失体験は、自分の所有
するものではなく、まさに自分自身の一部なのです。
認知症にかかると、私達は社会生活に必要な認知能力を失っていきます。
今までの知識や体験を思い出す能力、情報を分析したりまとめていく能力、
あれかこれかを判断して決めていく能力、あるいは自分が生きがいを持って楽
しんできた趣味に必要な能力など・・・。
その人を特徴づけているこれらの高次の精神機能を喪失していくのです。自分自身が
次第になくなっていくことを体験している認知症の人は、いったいどんな気持ちに
なるのでしょうか。
15年前に私が診察したアルツハイマー病の患者さんの奥様と、たまたまある
会議でお会いしました。当時、その患者さんは53歳までキリスト教の牧師をして
いました。・・・
その方は、13年後に逝去されました。奥さまのお話では徘徊や攻撃行動が続いて
たいへんな苦労をされたとのことでした。ところが亡くなられた後に、書棚の中から
五線紙に書かれたご主人の走り書きを発見されたのです
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僕にはメロディーがない
和音がない 響鳴がない
頭の中にいろんな音が
秩序を失って騒音をたてる
内容抜粋
メロディーがほしい 愛のハーモニーがほしい
この音に響鳴するものは もう僕から去ってしまったのか
力がなくなってしまった僕は もう再び立ち上がれないのか
帰ってきてくれ 僕の心よ 全ての思ひの源よ 再び帰ってきてくれ
あの美しい心の高鳴りは
もう永遠に与えられないのだろうか
いろんなメロディーが
ごっちゃになって気が狂いそうだ
(記 岩切 健 さん)
苦しい 頭が痛い
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2
これを拝読した私は、言葉を失いました。
私達は認知症の方のこうした喪失の体験と心の痛みを
まえがき2
はたして十分に理解しているのでしょうか。
これは他人のことではなく、私達や私達の家族にも起こってくる
可能性が高いことです。
しかし恐れることはありません。認知症を克服する医療は進歩しつつ
あり、介護の体制も整いつつあります。
多くの人が認知症をよく理解して、できることに取り組んでいただけ
れば望外の喜びです。
認知症介護研究・研修東京センター長
聖マリアンナ医科大学名誉教授
長谷川 和夫
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3
貴重な時間をいただき感謝申し上げます。
ご清聴ありがとうございました
参考文献・引用文献
『認知症の知りたいことガイドブック』
長谷川 和夫 著
『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』
『深層心理を読み解きケアの方法をさぐる』
加藤 信司 著
『認知症を正しく理解するために』
長谷川 和夫 著
『鏡の中の老人 痴呆の世界を生きる』
竹中 星郎 著
『痴呆老人の理解とケア』
室伏 君士 著
『認知症高齢者のメンタルケア』
4
4
『アルツハイマー病 ケアの要点』
永田 久美子 監修
『いっぱいごめん いっぱいありがとう』
岡上 多寿絵・文