スライド 1

不活化技術導入への取り組み
2008年7月5日
信州大学医学部附属病院
輸血部・先端細胞治療センター
下平滋隆
目的と目標は
• 輸血血液の安全性向上のため,パラダイム
転換を図り,不活化技術の導入を目指す。
• 最新かつ正確な情報を収集・開示して,将来
の血液事業,行政による制度設立,国際競
争力のある学術事業の発展に貢献する。
• 医療現場における質の高い治療の提供が
可能となり,国民医療・福祉に寄与する。
輸血は
“血液型抗原,組織適合性抗原の
発見など医学の発展に貢献する
一方で,輸血による感染症や副作
用とその対策の歴史でもあった。”
米国における輸血による感染リスク
輸
血
単
位
あ
た
り
の
リ
ス
ク
血小板の細菌
HBV
HCV
HIV
Blajchman MA et al N Engl J Med 2006;355:1303-05
輸血による感染症リスクが軽減できる対策
リスク
対
策
細菌の混入
全血小板,全赤血球に対する細菌検査; 病原体不活化
HIV,HBV,HCV,HTLV,
プール検体より個別NAT; 病原体不活化
西ナイルウイルス
シャーガス病
全ドナーについて微生物スクリーニング検査
ヒトヘルペスウイルス-8
全ドナーについて抗体/NAT検査; 保存前白血球除去
(特に免疫不全受血者)
A型肝炎ウイルス,
パルボウイルスB19
全ドナーについて抗体/NAT検査
vCJD(BSE)
プリオン吸着フィルター; ドナーの異常プリオン検査
Blajchman MA et al N Engl J Med 2006;355:1303-05より抜粋
輸血後肝炎リスクの推移
血液法・薬事法改正
2003年
400mL献血・成分献
血
NAT(20プール)
1986年(8.7%)
2004年
献血の確立
1969年(16.2%)
NAT(50プール)
2000年(0.001%)
移行期
(31.1%)
NAT(500プール)1999年
HBs 抗原検査
HCV抗体検査(第2世代)
1972年(14.3%)
1992年(0.48%)
HCV抗体検査(第1世代)
HBc抗体検査 1989年(2.1%)
売血 (50.9%)
1960
HBV発見1968年
1970
HCV発見1988年
1980
1990
2000
年
日赤の輸血血液の感染対策
• HCV, HBV, HIVの3種ウイルスの伝播防止のため
NATを導入した。現状では20人プールのNAT検査を
している。
• この3種以外のウイルスのNAT検査や細菌の全数検
査は実施していない。
• その代わり医療に供給した血液サンプルを長期保存
し後に追跡調査(遡及調査)出来る体制にしている。
• また,医療機関での適正使用の推進,輸血前後感染
症検査が周知されている。
• 新興・再興感染症の脅威への対策は,問診等の強化
にて対応している 。
• 全製剤の保存前白血球除去,初流血除去が導入さ
れている。
HIV 陽性者県別年次推移
HIV感染症が増加の一途を辿る日本
人
(現在,HIV陽性者 1万人)
400
東京都
300
200
大阪府
100
0
1990
1995
2000
2005
神奈川県
千葉県
茨城県
長野県
地球温暖化と海外渡航者の増加とともに
予期しない病原体の国内進入リスクが非常に
高くなっている
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病
病原性大腸菌O157
チクングニヤ熱
鳥インフルエンザ
西ナイル熱
SARS
シャーガス病
ブラジルでデング熱大流行
死者50人超=感染防止へ
軍出動も検討 2008年3月
デング熱
国内でもウエストナイル熱
(2005年9月)およびチクング
ニヤ熱(2007年1月)の患者
が海外帰国者から確認
インドネシアの鳥インフルエンザ抑制は無理=感染死者数100人 2008年1月
鳥インフルエンザ死者19人に=中国 2008年2月
「ウイルスすでに拡散」―香港 2008年6月
【Morens DM. Nature. 2004;430:242–9より改変】
日赤の輸血血液の感染性リスク
• 輸血によるHCV, HBV, HIV感染は,NAT導入により
99%以上抑えることに成功している。
• にもかかわらず年間数10例前後の肝炎患者が発生
するリスクがある。
• HIVの感染者が増加の一途を辿っている社会背景
がある。
• 検査未実施のウイルス等の病原リスクは問題となら
ないか。
• 血小板の使用期限は4日間に延長されたが,細菌
感染のリスクは軽減されたか。
• 新興・再興感染症が移入された場合,輸血血液の
供給はどうなるか。
病原体不活化技術に関するコンセンサス会議
( 2007年3月トロント)
Vox Sang (2007) 93:179-182
• 安全性の高い技術が開発された場合には,病原体
不活化技術を導入すべきである。
• コストを第一の理由にして導入の可否を決定すべき
ではない。
• 輸血血液すべての品目,すべての製品に不活化を
導入すべきである。
• 不活化技術導入に際し,HBcAb,CMV,HTLV-1,
細菌培養等の廃止できる検査,放射線照射はでき
るだけ廃止すべきである。
• 市販後調査が非常に重要であり,国際的な
Harmonizationが必要である。
Pathogen Reduction-
A New Paradigm in Transfusion
Safety
Advisory Committee Recommends
HHS Make Pathogen Reduction A High Priority
Harvey Klein, NIH, the panel chair
www.hhs.gov/ophs/bloodsafety/index.html
血液の安全性と確保に関する諮問委員会
(ACBSA) から保健福祉省に対する勧告
2008年1月9日・10日
Committee Resolution
• 受血者にとって,既知のあるいは未知の病原による
脅威の低減化を図ることは必要である。
• スクリーニング検査を増やすことで血液に安全性を
担保したとしても,検査経費が足かせとなる。検査
技術開発のための継続的な投機は困難となる。
• 不活化導入掛かる費用は,不要となる検査諸経費
の削減分で相殺できる。
• 以上の質疑より,血液の安全性と確保に関する諮
問委員会は,保健福祉省(HHS)に対して,病原体
不活化は高いプライオリティーがあると勧告した。
Toxicology program
Acute Toxicology
Repeated Dose – 1 month
Repeated Dose – 3 months
General Pharmacology
Reproductive Toxicology
Genotoxicity
Carcinogenicity
Phototoxicity
Neonatal Toxicity
Admeasurement
Occupational Safety











輸血用血液製剤の病原因子不活化の現状
不活化法
不活化する
ウイルス等
適用製剤
S/D処理
脂質膜のあ
るウイルス
血漿
北欧で使用されてきたがCJD関連で使用
激減。
スイス・オクタ
ファルマ社
メチレン・
ブルー処理
脂質膜のあ
るウイルス
血漿
主要国で再び導入が進んでおり,EU諸国,
英国,フランスで一部導入,ノルウェー,ス
イス,カナダ,オーストラリア,メキシコ
2001年欧州でCEマーク取得
マコファーマ
リボフラビン
処理
ウイルス・細
菌・原虫・白
血球
血小板
血漿
2007年血小板CEマーク取得
ナビガント社
ソ ラ レ ン 59
処理
ウイルス・細
菌・原虫・白
血球
血小板
血漿
10万回以上の血小板輸血,20カ国で使用。
2002年CEマーク取得,フランスAFSAP,
ドイツPEI承認。ベルギー保険薬価収載。
米国 申請中。アジアにおいてタイ,シンガ
ポール,ベトナム承認。中国,韓国 申請中。
ソ ラ レ ン 303
処理
同上
赤血球
米国 第Ⅰ相臨床試験
諸外国の導入状況
会社名
米国・バク
スター社と
シーラス社
Spectrum of light used in PI technologies
X, G
Radio
WAVE LENGTH
(nm)
High energy
200
250
UVC
300
350
UVB
UVA
400
590
VISIBLE
MB
Protein
INTERCEPT
DNA/RNA
Low energy
Mirasol
UVC
Cerus Corporation Lily Lin博士より
750
Platelet PI technologies
Technology
Regulatory status
Commercial
status
INTERCEPT
Blood System
CE Mark: 2002
AFSSAPS: 2005
PEI : 2007
Class III
Drug/Device
Available
Mirasol PRT
CE Mark: 2007
Class II Device
Available
UVC
R&D
Lily Lin博士より
Plasma PI technologies
Technology
Regulatory status
Commercial
status
OCTAPLAS
CE Mark: 1998
Pharmaceuticals
Available
PLAS+SD
FDA approved:
1998
Pharmaceuticals
Taken off the
market in 2002
Theraflex MB
CE Mark: 2001
AFSSAPS: 2005
PEI: 2007
Class III
Drug/Device
Available
INTERCEPT
Blood System
CE Mark: 2006
AFSSAPS: 2006
Class III
Drug/Device
Available
Mirasol PRT
CE Mark:
expected 2008
Class II Device
RBC PI technologies
Technology
Regulatory status
INTERCEPT Phase I
Blood System
Commercial
status
Class III
Drug/Device
Mirasol PRT
R&D
INACTINE
Phase 3 trials R&D stopped
due to antibody
formation
Lily Lin博士より
Theraflex: Methylene blue + white light (590 nm)
Clinical use to date
More than 3 million units transfused worldwide
Politis et al. Vox Sang 2007;92(4):319-26 (5 year experience)
–
–
–
–
–
8,500 MB-plasma compared to 54,435 control untreated FFP
Loss of in vitro coagulation activity was acceptable (n=88)
AE: 1:8,500 MB-plasma vs. 1:2,177 control FFP
SAE: 0 in MB-plasma vs. 5 in control FFP
No seroconversions for infectious diseases
Catalonia 2005 experience (DGTI MacoPharma symposium)
–
–
–
–
–
39,026 units transfused
AE: 1:443 MB-plasma
79% allergic reactions, 14% febrile reactions, 7% TRALI (4 cases)
Switched to male plasma in January 2007
No increase in the number of units transfused in Catalonia
TTP patients treated with MB-plasma
Lower rates of sustained remission and higher
rates of recurrence – less effective than control FFP
– Alvarez-Larran A et al. Poster ASH December 2007
• 40 MB-plasma vs. 30 control FFP
– Alvarez-Larran et al Vox Sang 2004;86:246-251
• 27 MB-plasma vs. 29 control FFP
– de la Rubia J et al. B J Haematol 2001; 114:721-3
• 7 MB-plasma vs. 13 control FFP
National toxicology program - 6/12/2006
A 2-year bioassay in rats/mice showed that MB is
carcinogenic.
– Increased incidences of pancreatic islet cell adenoma and
adenoma or carcinoma in male rats.
– Increased incidences of carcinoma and of adenoma or
carcinoma in the small intestine of male mice .
– Equivocal carcinogenic activity in female mice - marginally
increased incidences of malignant lymphoma.
– MB administration caused methemoglobinemia and a
regenerative Heinz body anemia with secondary injury to other
organs in rats and mice
– Unknown potential mutagenicity of the metabolites of MB
Mirasol PRT: Riboflavin +broadband UV (265-370 nm)
Toxicology studies
Subchronic toxicity study in dogs
– Li et al. Vox Sang 2005;89(S1):135
– Li et al. Vox Sang 2005;89(S2):56 (5P-114)
– Maternal and development study in rats
– Li et al. Vox Sang 2005;89(S2):56 (5P-113)
Mirasol PRT: Platelet characteristics
In vitro studies
– Increased platelet metabolism and P-selectin expression
– No loss of mitochondrial structural and functional integrity
during storage
– Preserves adhesive and cohesive functions
•
•
•
•
Ruane et al. Transfusion 2004;44:877-885
Li et al. Vox Sang 2004;87:82-90
Li et al. Transfusion 2005;45:920-926
Perez-Pujol et al. Transfusion 2005;45:911-919
Phase I
– Reduced recovery and survival of platelets stored for 5 days
but still within normal historical ranges
• AuBuchon et al. Transfusion 2005; 45: 1335-1341
現状
使用中・開発中の不活化技術 (PI technologies)
不活化
技術
病原体
不活化なし
細胞外の
病原体
HBV,HCV,HIV
が101.8個以上
あるものを廃棄
殺せる
10-4個まで減少
殺せる
10-6個まで減少
殺せる
10-4個まで減少
殺せる
10-6個まで減少
殺せる
10-4個まで減少
ただしHIVは10-1
個
細胞内の
病原体
見つけられない
不十分
殺せる
不十分
殺せる
殺せない
対象製剤
血漿
○
血小板 ○
赤血球 ○
○
×
×
○
○
×
×
○
×
-
-
治験中
前臨床試験段階
前臨床試験段階
前臨床試験段階
血小板の
保存期間
4日
―
7日
4日
―
―
供給量へ
の影響
変化なし
変化なし
血小板3万本増加
血漿82万本増加
変化なし
変化なし
変化なし
需要量
変化なし
血漿57万本増加
変化なし
変化なし
変化なし
不明
EU
ノルウェー
スイス
オーストラリア
カナダ
メキシコ
EU16カ国
アジア諸国
米国・中国・韓国
(承認待ち)
フランス
ベルギー
EU16カ国
なし
なし
発癌性の報告あり
白血球も不活化で
きる。血小板,血
漿を同じ装置で処
理できる
不活化処理により
血小板を活性化する
光照射不要な技術
しかし安全性を評
価するには治験例
数が少ない
まだ人間に使用し
た試験はない
血小板に障害を与
える
治験・承認
した国々
備考
メチレン
ブルー
ソラレン
リボフラビン
アクリジン
UVC
不活化技術導入によるメリット
•
•
•
•
•
•
•
•
•
細菌検査,サイトメガロウイルス検査が必要ない。
新興・再興感染症に対する病原体を不活化できる。
GVHD予防のための血液照射は不要になる。
白血球除去フィルターも不要になる。
血小板使用期限が5~7日間に延長でき,期限切れ
による廃棄の対策になる。
全血献血から血小板製剤への利用が可能になる。
血漿製剤の6ヶ月間保管後の供給対応は必要ない。
VVRなど採血に伴うリスクの大きい成分採血を減ら
すことが期待され,献血者減少の対策になる。
血小板中の血漿成分を減らす方法では,血漿の有
効利用と非溶血性副作用を減らすことにつながる。
不活化技術導入の課題
• 赤血球の不活化技術は,世界的に臨床試験段階で
ある。
• A型肝炎ウイルスやヒトパルボウイルスB19など高
ウイルス量の不活化能には限界がある。BSEは病
原体の一つとされるが,プリオンは不活化できない。
• 血小板機能,凝固因子活性に影響の出る不活化法
がある。
• 臨床試験を行う場合,承認までに長期間を要する
可能性がある。
• 輸血血液安全監視体制(ヘモビジランス)の構築を
前提とする。
• 不活化製剤の需給調整についての検討を要する。
• 導入には国の財政支援を要する。
不活化技術の承認・導入へのプロセス
【血小板製剤を例として】
1. 血小板製造方法の変更と新しい製造方法による製造所(血液センター等)で
の製造許可。
2. ある製造所で製造方法を確立するために,その品質規格を設定,品質規格
を検証する分析方法の確立。確立した製造方法により連続した3回以上の
製造物をもとに分析を行い,設定した規格の中に入ることの証明。
3. 新しい製造方法で製造した血小板製剤の品質と安全性試験 (試験は前臨
床試験と臨床試験の両方)の実施。 安全性に関する諸外国の蓄積データ
の専門家による詳細な評価。
ただし欧州の方法と同じ範囲であるならば,ICH*のハーモナイゼーションの
観点から日本での臨床試験は経験的なもので可能。
4.ここまでの試験結果をもとに,血小板製造方法の変更として承認申請。
5.承認が下りた段階で,その製造方法を使って他の製造所でのバリデーション
(医薬品の製造や品質管理に必要な設備・手順・工程が,期待される結果を
与えることを検証し,それを文書化すること)が必要。
各々の製造所でのバリデーション終了後,製造所毎に製造方法変更の許可
が必要。
*ICH:
International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration
of Pharmaceuticals for Human Use (日米EU医薬品規制調和国際会議)
臨床試験プログラム(案)
•
•
•
•
毒性試験の専門家による評価判定
不活化能の基準設定を行い,不活化技術の評価判定
諸外国における前臨床~臨床試験の分析評価
日米EU医薬品規制調和国際会議 (ICH)のガイドラインに
基づく包括的な臨床試験,市販後調査の整備
• アフェレーシス血小板:
 Phase I/II 10人の日本人健常者に対する安全性・耐用性試験,
回収率・半減期評価
 Phase III/IV 100人(1,000~1,500単位)の日本人患者に対する
出血予防・止血効果,5~7日間保存血小板の臨床評価
• 血漿:
 Phase I/II 10人の日本人健常者化合物体内動態試験・クマリン系
薬剤の回復評価
 Phase II/III 100人の日本人の先天性または後天性凝固障害患者
に対する止血効果,その必要単位数評価
提 案
• 将来を見据えて病原感染の脅威および副作用防止
のために,不活化技術導入の結論を出す時期である。
• 薬害の教訓を活かし,現在から将来における輸血安
全水準を国民に開示する必要がある。
• 輸血副作用,有害事象を収集,解析,情報開示を行
う独立したヘモビジランスの構築は不可欠である。
• 輸血安全対策の世界標準に準拠して,不活化技術
に関しての長期の安全性を含む評価は,各国が協
力してデータの蓄積と情報交換を行なう市販後調査
が重要である。
• 日本赤十字社との連携による治験・不活化導入には,
国の財政支援・組織の連携,企業や研究機関等が
協力・支援できる体制が望まれる。