第2講 株式会社の業務執行 の責任

受託者の義務
前提論としての
株式会社取締役の義務と責任
1) 善管注意義務と忠実義務

取締役は、会社から経営を委託された者であり、委任の定め
が適用される(会330条)

そのため、「善良なる管理者の注意」をもって事務を処理し、
会社のためにその職務を執行する義務を負う(民法644条・
善管注意義務)
* 「取締役の責任」とは取締役会構成員としての個々の取
締役の会社に対する責任一般をさす
だから…
取締役会決議に参加した取締役で、議事録に異議をと
どめなかった取締役は決議に賛成したものと推定される
(会423条3項3号)
 会社は営利を目的としているので、取締役は、
会社や株主にとって最も有利となるように忠
実に業務の遂行に当たる義務を負う(忠実義
務)
会355条
取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を
遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わな
ければならない
善管注意義務と忠実義務の関係
その1
取締役の法的義務
善良なる管理者の注意義務
競業
忠実義務
利益
相反
*会356条:競業と利益相反を一括して一条に…
善管注意義務と忠実義務の関係
その2
善管注意義務
忠実義務
会社のための業務執
行において懈怠がな
いようにつとめること
*取締役としての
地位を自らの利益
のための利用する
ことの禁止
2) 善管注意義務とBJR
 取締役の善管注意義務は、通常の企業人な
らばどう判断したかという「ビジネス・ジャッジ
メント・ルール(経営判断の原則)」を基準に
決定される
 つまり、合理的に判断し、最善を尽くしてやっ
たかどうかが問われる
BJRの正体-その1-
ケース:IJPCプラントの破綻
三井石油化学
イラクでのプラント建設
取締役会
ところが…
イラン・イラク戦争勃発!
イラク軍
ビジネス・ジャッジメント・ルール
 意思決定が会社の利益のためになされたか?
 経営決定の過程で慎重であったか?
 決定された行為は適法か?
 決定内容が明らかに不合理とはいえないか?
Yes
責任を負わない
No
責任を免れない
3) 新旧の「取締役の責任」規定
旧・商法266条第1項
下記行為をした取締役は連帯して責任を負う
①290条第1項(利益配当の限度額)の規定に違反する利益配
当に関する議案を総会に提出し又は、293条の5第3項(中間
配当の限度額)の規定に違反する金銭の分配を為したるとき
―違法に配当又は分配された額
②294条の2第1項(株主の権利行使に関する利益提供の禁
止)に違反して財産上の利益を供与したとき―供与利益額
③他の取締役に対し金銭の貸し付けを為したとき―未弁済額
④前条第1項の取引をなしたるとき-自己取引金額
⑤法令又は定款に違反する行為をなしたるとき―会社が蒙っ
た損害額
新会社法では…
423条
①取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人…は、
その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた
損害を賠償する責任を負う。
②取締役又は執行役が〔利益相反取引・競業取引〕の規定に
違反して〔当該取引〕をしたときは、当該取引によって取締役、
執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定
する。
③〔利益相反取引・競業取引〕によって株式会社に損害が生じ
たときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠った
ものと推定する。
(以下、略)
4) 取締役の義務と責任の整合性
重要なのは旧・商法266条1項5号の「法令違反」行為。
*訴訟もこれに集中
ほとんどの訴訟で、善管注意義務を果たしたかどうかが問われる
「善良なる管理者の注意義務」法令違反との関係
=法令違反があると当然に善管注意義務違反か?
a) 旧商法254条3項と266条5項の微妙な「すれ違い」
どう説明づける?
「株主の利益をはかる」ためには取締役
は何でもできる!
えっ?、絶対うそ!!
そこで…
「法令違反」行為は禁止される
=法令に違反すると自動的に「善管注意義務違反」
旧・商法266条1項5号は取締役の「儲け
るためならなんでもできる」という行き過ぎ
を抑止する役割を担っている、という「大
儀」
ところが、「法令違反」を厳格に解釈
するとその機能は非現実的になって
しまう
b) 野村證券事件
信託銀行
野村證券
10億円
TBS
投資
投資アドバイス等
限定説
フィルター
下記以外の法令
公序・良俗にかかわる法令
会社法的な利害にかかわる法令
330条3項
355条
法令違反行為?
*かつて266条1項5号
違反
法令違反
非限定説
すべての法令
法令違反の可能性
5) BJRと「法令違反」の関係
取締役の
義務の厳
格な運用
=株主の
利益
BJRの適用
法令違反=客観的
義務違反
非限定説
限定説
取締役の
経営判断
の重視
=会社の
機動性
確保