宇宙の軍事利用に反対する 「宇宙基本法」に際して 石附 澄夫 2006年10月16日 宇宙の平和利用 1969年国会決議 1969年国会決議 • 我が国における宇宙の開発及び利用の基本に 関する決議(1969年5月9日衆議院本会議) :我 が国における地球上の大気圏の主要部分を越 える宇宙に打ち上げられる物体及びその打ち上 げロケットの開発及び利用は、平和の目的に限 り、学術の進歩、国民生活の向上及び人類社会 の福祉を図り、あわせて産業技術の発展に寄与 すると共に、進んで国際協力に資するためにこ れを行うものとする。 「平和目的の解釈」と実践 • 「非軍事」であるという解釈が国会の 審議・答弁で定着 • 1985年:一般化理論:自衛隊が米国のフリー サット衛星を利用した通信を行なう際に出てきた 政府統一見解: – 「一般的に利用されている機能と同等の衛星 であれば(自衛隊が)利用することは可能」 • 情報収集衛星もこの理論によって導入され た – 宇宙の「軍事化」を目指す人々にとっては「限定」 「宇宙の平和利用」 の変更の動き 宇宙基本法(仮称)骨子(1) • 第一:総則 • 一、目的 – 背景:冷戦後の世界の社会経済構造の急激な変化へ の対応 • 宇宙開発は有効な手段 – 「研究開発中心」の見直し • 総合安全保障、産業の振興、国民経済の発展、国民生活の 向上、人類社会の福祉への寄与 – 戦略的な宇宙開発 • 国、地方公共団体の責任 • 宇宙開発戦略本部(従来は関係官庁が別々) 宇宙基本法(仮称)骨子(2) • 二、基本理念 – 1. 「宇宙条約の定める宇宙空間の平和的利用」に関 する規定に則り国際の平和及び安全並びに我が国の 安全保障への寄与 – 2. 宇宙関連産業の競争力の強化、産業の振興への 寄与 • 情報の収集、通信の確保、正確な測位、機器開発、 役務の提供 – 3.宇宙科学の推進 • 豊かな国民生活、将来に夢 宇宙基本法(仮称)骨子(3) • 第二:政府に宇宙開発基本計画の策定の 義務 • 第三:内閣に宇宙開発戦略本部を置く • 第四:基本的施策 – 1. …我が国の安全保障に資する… – 6. 国は、安定的な需要の創造… 「宇宙の軍事化」を推進する人々と その論理(1) • 政界:自由民主党政務調査会宇宙開発特 別委員会:『中間報告』:2006年4月12日 • 経済界:日本経団連:『提言』:2006年6 月20日 「宇宙の軍事化」を推進する人々と その論理(2) • 経済界:日本経団連 – 航空宇宙産業界の「窮状」 日本の宇宙関連の経済の規模 『経済産業省産業構造審議会航空機宇宙産業分科会宇宙産業委員会:宇宙産業化WG報告書』 (2004)より 「宇宙の軍事化」を推進する人々と その論理(2) • 経済界:日本経団連 – 航空宇宙産業界の「窮状」 – 一般化理論(1985年) – スーパー301条(1989年)と日米衛星調達合意(19 90年) • 競争力への危機 • 自民党「防衛族」と学者 – ミサイル防衛構想(cf.北朝鮮) – 中国の「脅威」(有人飛行の成功) 自由民主党政務調査会宇宙開発特別 委員会:『中間報告』(1) • 従来の宇宙開発行政を「キャッチアップ」戦略、 技術開発主導と批判 • 官民の役割の明確化 – 官: • • • • 民の顧客としての需要創出 宇宙戦略の策定 基幹ロケットの維持とそのコスト負担 宇宙開発のリスクを負う – 民: • ロケット・衛星の製造 自由民主党政務調査会宇宙開発特別 委員会:『中間報告』(2) • 安全保障(広義と狭義)のための利用を主 張 – 1969年「宇宙の平和利用」国会決議とそれを 巡る国会答弁での解釈「非軍事」を、宇宙技 術の最適利用分野である「広義の安全保障分 野(とくに外交・防衛」との間に垣根ができたと 批判 – 「国際標準」によって「平和の目的」の「今日的 定義」への変換を訴えている 自由民主党政務調査会宇宙開発特別 委員会:『中間報告』(3) • 「安全保障」「産業化」「研究開発」を「3本 の軸」とする • 宇宙開発目的の変更 – 従来:「国威発揚」「夢」 – 爾後:「広義の安全保障=総合安全保障戦 略」 • 「国家戦略」の要請:内閣府の下に組織を 作ることを提言 自由民主党政務調査会宇宙開発特別 委員会:『中間報告』(4) • 武器としての宇宙技術 • 諸外国では宇宙技術は安全保障上重要な技術として認識され(米国 では武器として認定されている)、そのため衛星やロケットの輸出管 理はもちろん、大学や研究所などにおける技術情報の流出にまで気 を配っている。わが国においては、平和利用決議の下で、特段の注 意を払うことなく積極的な学術交流を行っているが、諸外国に見られ るような厳格な技術管理がなされているとは言いがたい。また、情報 収集衛星の開発においても、JAXAが開発委託を受けたが、機密情 報の管理で防衛庁、内閣官房などとの認識の差があったともいわれ ている。平和利用決議の見直しは、単に決議の解釈を再検討するだ けでなく、それによって培われた技術者や政策担当者の認識を改め ることも含まれなければならない。 日本経団連 • • • • • 2000年「ビジョン」 2001年「グランドストラテジー」 2003年「要望」 2005年「第3期科学技術基本計画に対する要望」 2006年6月「我が国の宇宙開発利用推進に向けた提言」 • 一貫しているのは、 – 実用化・産業化・社会インフラ注1の構築、官民の役割 分担、財政支出(重点4分野注2並みの位置づけ)、政 府横断的な宇宙政策の策定及びそのための新組織 • 注1)通信・放送、地球観測、測位など • 注2)情報通信、ライフサイエンス、ナノテク・材料、環境 • 次第に比重を増しているのが、 – 「総合的な安全保障確立」観点の訴え 日本経団連2006年6月「我が国の宇 宙開発利用推進に向けた提言」(1) • 「国家戦略」 • 「国際競争」:ロシア、中国、韓国、インド=低コス トでのサービス提供 • 「安全保障への活用」 – 狭義の安全保障:対テロ・ミサイル – 広義の安全保障:大規模災害、環境問題 – 1969年「宇宙の平和利用に関する国会決議」を障害 視 – 宇宙条約の平和利用解釈を従来の「非軍事」から国 際的スタンダードの「非侵略」に「合わせ」よ 日本経団連2006年6月「我が国の宇 宙開発利用推進に向けた提言」(2) • 「宇宙基本法」の策定 – 政治主導・議員立法 • 「国会決議」の「重み」への対抗 • 宇宙開発予算利用の拡充と利用の拡大 • 官民連携 – 開発研究と産業化・事業化の役割分担 • 国家機関技術の具現化 – 海洋地球探査システム – 宇宙輸送システム 総合的安全保障とは? 「安全保障」・「危機管理」 • 二つの問題を一緒にしている – 国際政治・軍事 – 災害・環境問題 • 前者は政治の問題 • 後者は対「自然」の問題 「宇宙基本法」の議員立法を目指す 人々の本当の狙い • 先細りの航空宇宙業界を救う – 「安定的な需要の創造」を国に要求(日本経団連『提 言』) • 宇宙の軍事利用 – 1969年国会決議の解釈の見直し • 「非攻撃的」、防衛目的のものは「平和利用」であると解釈し 直す(「非軍事」から「非侵略」へ) – 宇宙条約(1966年国際連合採択)の「国際標準」注の 解釈に合わせる • 注)推進者側によると、大陸間弾道弾の宇宙空間の「通過」 は認められている(「配置」が禁止)。偵察衛星、通常兵器の 宇宙空間配備も認められている。 「『宇宙基本法』制定の 動き」の問題点と我々 が訴えるべきこと 「宇宙基本法」制定の動きの問題点(1) • 宇宙の軍事利用 – 憲法第9条 – 日本独自の(外国にはない)普遍性をもった価 値、「国際社会の中で名誉ある地位」を主張す る根拠を失う。 • Cf.ミサイル防衛計画との関連 – 近隣諸国との関係 – 日本の安全保障政策の転換 「宇宙基本法」制定の動きの問題点(2) • 「軍産複合体」の支配する経済社会体制へ の道 – 「安定的な需要の創造」を国に要求(日本経団 連『提言』を反映) – 「軍事機密」の壁(その裏で税金の無駄遣 い?) • 効果の検証が不能(情報収集衛星=IGSの例) 情報収集衛星(Informtion Gathering Satellite, IGS) 2003年3月28日1号機2号機打ち上げ、2006年9月11 日3号機打ち上げ • 「衛星が本来持つ能力が発揮されていない可能性」に 関する二つの解釈 1. 地震災害(2004年新潟中越地震)でも、機密のた めにデータを使われなかった(あるいは「情報収集活 動の性格上」使われたか否かは答弁できない=20 05年政府答弁) 。あるいは、データの質が悪いのに 機密を理由にそれを隠している。 2. 日本経団連2006年『提言』:1969年国会決議、お よび1985年「一般化原則」のため、能力が発揮でき なかった。 「宇宙基本法」制定の動きの問題点(3) • 学問倫理の問題 – 科学・技術を「存在に対する知的探求心」や民(たみ) の福祉のためでなく「軍産複合体」の利益に奉仕させ ることになる – 「公開・自主・民主」の原則 原子力基本法第二条: 原子力の研究、開発及び利用は、平和 の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営のもとに、 自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際強 力に資するものとする。 – 参考: Oda、M. (1998) Nature, 391, 431, Maintaining science culture in Japan:トップダウン 方式に対する批判と、理研や宇宙研に見られるボトム アップ方式の “scientific culture” の維持を訴えた。 宇宙基本法に当たって民(たみ)の側か ら要求すべきこと • 1969年国会決議(『平和利用原則』)および従 来の解釈の保持・踏襲 • 原子力基本法と同様に「公開・自主・民主」の原 則を宇宙開発(宇宙活動)にも適用する – 宇宙開発の軍事化の防止 – 軍産複合経済体制への歯止め
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