民事再生手続を用いた学校の 再建における法律問題 弁護士苗村博子 1 学校法人ー全債務の弁済が出来ない ときにどうするか 債務の任意整理 再建的な法的手続の検討 破産手続の検討 2 法的手続の違い 民事再生手続 事業の継続性 事業は継続しなが ら手続を進める。 破産手続 基本は停止 手続の遂行者 基本は元の経営陣 破産管財人 学校法人の民事再生手続の特徴 学校経営の維持 学生、教職員の保護 卒業生への対応 注)1 資金繰りの確保の重要性(スポンサーの存在) 学費等収入のある時期が限られる。 理事等役員の責任追及 債務免除には、債権者の同意が必要 日本私立学校振興・共済事業団の債権 清算価値保障 校地校舎、教材等の評価 4 個別に述べるテーマ ①学生の債権の取扱 ②校地、校舎等の担保権者との関係 ③清算価値保障と財産評定 ④債務免除益とスキーム選択 ⑤再生申立と補助金 5 1.学生の債権の性質と倒産法上の取 扱 再生債権説 共益債権説 学生が授業料を払い込んだ 後に、学校が授業等を提供 する契約と考える。注)2 在学期間中、双方が役務を 提供すると考える。注)3 6 在学契約における学校の役務とは? 判例は特になにも特定せず。注)4 学校と学生間では特に契約書は作成 されず、学則や入学案内による一律的 な規律がなされる。注)5 学説は 注)6 学生の身分取得を契約の内容とする説 身分取得は契約内容ではないとする説 7 共益債権説の考え方 大学であれば、通常4年間で、卒業までの 授業を提供することが前提とされている ↓ 学校側には、授業を提供する義務があり、 学生側には、その間継続的に授業料を支 払う義務がある。 8 在学契約は、双方未履行契約 学校(再生債務者)が履行を選択すると、学 生は、共益債権として、授業を受ける権利 を有する(民事再生法49条4項)。注)7 学校(再生債務者)が解除すると、学生は、 共益債権として、納付授業料の返還請求で きる(同法49条5項)。注)8 9 共益債権説の問題 過大なスポンサーの負担 学校は、手続開始時には、前払授業料を運転 資金や借入金返済で使ってしまっているため、 スポンサーは、その期分、授業料なしに、授業 等の役務を提供しなければならない。 理論上の問題 最後の授業を払ってしまった者を救済できない。 10 在学契約の再検証 基本の契約 卒業を目的 個別の契約 学生の授業料の先履行 学校は、その分だけ授業等の役務を提 供する。 11 その結果は? 在学契約は、双方未履行契約ではな い。 ↓ 学生が授業料を先に支払う義務を負い、学 校はそれに対して、後からその期の授業を 提供する義務を負う契約なのだと考えるこ ととなる。 12 その結果は? 学生の債権は再生債権 民事再生法の予定する双方未履行の契 約の履行選択や、解除の問題は起こら ず、学生は、学校が解除をしても、再生 債権として未受講部分の授業料の返還 請求権を有するに過ぎないことになる。 学校の授業継続 新たな契約締結と同じ。 13 再生債権説の長所、短所 長所 スポンサーは、授業料が前払いさ れている間の経費全額を負担する 必要がなく、支援がしやすい。 短所 学生は、授業料を支払ったにもか かわらず、その期間の残りの授業 を受けられない。 14 かような考えは学生に不利益か? 学校が破産してしまえば、学生の授業料返 還請求権が財団債権だとしても、全額を回 収できないリスクも大きい。 転学支援が効を奏さない場合には、例えば 2年生、3年生にとっては、それまでの授業 料、在学中に過ごした時間を無駄にする可 能性も高い。 15 問題点の調整 卒業できる利益は、多くの学生にとっては、 数ヶ月の授業料の再負担のリスクを越える のではないか。 授業料の前払期間が長く、学生に不当な不 利益を与える場合には、少額債権の有利 弁済の方法で保護できるのではないか。 注)9 16 2.校地校舎の担保権者との関係 民事再生手続においては、抵当権者、 リース債権者は、別除権者といわれ、民事 再生手続に拘束されることなく、その権利を 実行することができる 。 17 校地校舎を取り巻く法制 学校法人の寄附行為及び寄附行為の認可 に関する審査基準(以下、「認可基準」)第1 の1(1)は校地校舎が設置基準を満たして いることを認可要件としている。注)10 大学設置基準は34条から40条の3まで校 地、校舎等について定めている。 認可基準第1の1 (2)は、認可の基準に基 本として自己所有を要件としている。 学校の校地、校舎等への別除権行 使ー設置基準との関係 別除権者の強制執行により、学校の校地、 校舎等がなくなってしまえば、認可基準を満 たさなくなる。 大学のように相当の広大な校地が必要な 場合において、新たに確保することは、困 難。 新校舎があまり遠方となれば、学生から、 在学契約の趣旨と異なるとの不満 注)11 19 別除権者への対処(1) 別除権者である担保権者と任意の交渉を する。 ①別除権に相当する金額の返済を長期分 割にしてもらう。 ②校地校舎等をスポンサーや第三者に売 却して、リースバックするという方法は, 認可基準が、校地校舎の原則自己所有 を求めていることから難しい。注)12 20 別除権者への対処(2) 別除権者が強制執行を敢行するような場合 には、担保権消滅請求(民事再生法148条 から150条)で対抗することになる。 21 担保権消滅請求とは? 裁判所の許可により、対象物件の価額を裁 判所に納付することで、事業継続に欠くこと ができない財産上の担保権を消滅されるこ とができる(民事再生法148条) 。注)13 価額に不満があれば、債権者は価額決定 の申立てをすることができる(同法149条)。 注)14 22 校地校舎に担保権消滅請求が認めら れるか。 設置基準を大きく越える空地などでは、不 要とされるが、設置基準を満たすために必 要な校地は、148条の「再生債務者の事業 に欠くことのできない」ものと認められる可 能性が高い。 相当額を裁判所に納付できなければ、許可 は得られない。←スポンサーの協力が必要。 23 3.清算価値保障と財産の評定 破産配当率を上回る弁済をしなければなら ない(民事再生法25条2号、174条2項4 号の趣旨) 注)15, 注)16 財産評定における資産価値の把握 注)17 不動産を始めとする有形固定資産の評 価 校舎としての価値vs一般不動産としての価 値 図書や教育研究用機器備品といった学 校法人独特の勘定科目についての評価 基本金については、財産評定の対象とな らない。 25 4.債務免除益の問題 一般の会社等の場合、会社が清算されず に存続すれば、債務が免除された額は、利 益と見なされ、これに課税される。 →評価損等で損益通算してもなお、利益があ がり、税金が支払えない場合は、スポンサーに 事業譲渡をして、元の会社 自体は清算するなどの措置 が必要。 26 学校法人の場合 学校法人は、法人税法上、収益事業のみ、 課税される。したがって、学校経営に関して の負債については、債務免除益の問題を 考慮することなく、再生手続を進められる。 但し、区分経理がなされていて、収益事業 分に区分される負債については免除益の 対象となる。 5.民事再生と補助金の支給 民事再生の申立-補助金の減免対象とな るか? 私立学校振興・助成法第5条4号に該当する か? 28 私立学校振興・助成法との関係 借入金返済が民事申立により出来なくなる のは、保全処分(民事再生法30条)注)18の 効果、手続中返済が出来ないのは、再生債 権は再生計画に従っての弁済しかできない との趣旨(同法85条)注)19によるものではな いか? ありがとうございました。
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