透析基礎学習会 Vol.3 抗凝固剤 抗凝固剤の種類と特徴 ヘパリンの中和方法 ダイアライザを凝固させないためには 血液は異物と接触すると 凝固するという性質を持つ 血液回路 ダイアライザ チャンバ内の空気 凝固!! 抗凝固剤の使用が必須 【Ⅰ】抗凝固剤の種類と特徴 現在認可されている抗凝固剤 ①ヘパリン ②低分子ヘパリン ③メシル酸ナファモスタット ④アルガトロバン ①ヘパリン 抗凝固剤の代表として使用されている その理由として 強力で安定した作用を持ち安価である ・分子量:3000~20000(未分画) ・凝固因子のⅩaとⅡaの両方に作用し ATⅢと結合し抗凝固作用を発揮する ・半減期: 45分から60分 一般的なヘパリンの使用方法 プライミング液(生食)にヘパリン1~2ml をいれプライミングを行い、透析開始時 に初回投与量を注入し、その後持続投 与する 初回量:1000~3000単位 持続量:500~2000単位 / hr 平均:全量で約4300単位使用 当院:全量で平均約4200単位使用 このようにヘパリンの 投与量には個人差がある そのためにモニタが必要 ACT:活性化凝固時間 通常120~150でコントロール 初回投与量でACTを120~150まで延長 させ、持続投与量でそれを維持する 当院でのヘパリンの使用方法 全量で20mlになるように希釈 初回投与量 : 6ml 持続投与量 : 3ml / hr ヘパリン5mlを20mlで希釈して使用 ヘパリン3mlを20mlで希釈し 開始時にワンショットで2ml追加して使用 同じ5mlの使用でも意味が違う! 問題 全量で20mlになるように、 ヘパリン4000単位を希釈して 使用している患者様の 初回投与量と持続投与量(/hr)は それぞれ何単位になりますか? また、先ほどの例では それぞれ何単位になりますか? 【ヒント】 シリンジ1ml当たりに ヘパリンが何単位あるかを考える ヘパリンの問題点 【抗凝固に関するもの】 凝固時間の延長による出血の憎悪 ATⅢ欠乏症には作用が不十分 陰性荷電のため陽性荷電膜に吸着される 【抗凝固作用以外のもの】 脂質代謝異常→不整脈・高脂血症 骨脱灰作用→骨粗鬆症・腎性骨異栄養症 血小板活性化→残血・不均衡症候群 HIT (ヘパリン起因性血小板減少症) 発症 :ヘパリン投与5~14日後に発症 機序 :ヘパリン依存性抗体の出現 合併症:動静脈血栓(心・脳・四肢・肺) 頻度 :0.5~5% 経過 :ヘパリンの中止で速やかに回復 HITは重大な血栓合併症を発症する 危険が高いため、血小板減少が見られ た時はHITを疑う! ②低分子ヘパリン 当院では現在「ミニヘパ」を使用 ・ヘパリンを分画して得られた 分子量4000~8000の低分子部分から構成 ・ヘパリン同様にATⅢを介して抗凝固作 用 を発揮するが、Ⅱaにはほとんど阻害 作用が なく、Ⅹaに対して強い阻害作用 を持つ 抗Ⅱa作用 → 凝固時間の延長 抗Ⅹa作用 → 体外循環時の凝血抑制 体外循環路の抗凝固作用を強く保ち つつ、凝固時間の延長は軽度に抑え る事ができる そのため 軽度の出血傾向のある症例でも使用可能 ・半減期がヘパリンの約2倍 そのため 開始時のワンショットのみで使用可能 通常投与量 = 7~13 / Kg体重×透析時間 ・脂肪分解・骨脱灰作用・血小板活性化 作用全てにおいてヘパリンより軽度で あ る ・適切な投与量のモニタが容易でない 【ACTが当てにならない】 どうしてACTが当てにならないの? ・低分子ヘパリンが作用する因子は? →Ⅱa因子はトロンビン →トロンビン時間(凝固時間の延長) ・ACTは何をみているのか? →活性化凝固時間 モニタには活性化Ⅹa因子を用いた凝固時間の 測定が報告されている 当院でのミニヘパの使用方法 ・開始時に2500単位(5ml)を単回投与 より安全に使用するためには へパリン同様全量20mlになるように希釈して持続 投与する ・投与部位はVチャンバー手前 ダイアライザを通過するときに透析される恐 れがある ③メシル酸ナファモスタット 当院では現在「ナファタット」を使用 ・分子量約500の蛋白分解酵素阻害薬 半減期が約8分 抗凝固作用が体外循環路のみに限局 出血性病変がある患者様にも使用可能 ・まれにアレルギー反応あり アナフィラキシーショック ・陽性荷電のため陰性荷電膜に吸着される (ダイアライザはほぼ陰性荷電膜) ・血小板への抑制作用 通常使用方法 ・プライミング液に20mg ・開始後は20~40mg / hrで持続注入 ・注入方法は5%Tzに必要量希釈し、 持続投与(生食では白濁する) 当院でのナファタットの使用方法 ・開始時に30mg / hrを持続投与 時間当たりの投与量×透析時間 を5%Tzに希釈し、 3hHDなら 30ml / hr 4hHDなら 21ml / hr 5hHDなら 17ml / hr ・プライミング液には アレルギー反応の予防から希釈しない ・基本的にトイレ中断はしない! ④アルガトロバン 当院では現在「アルガロン」を使用 ・ATⅢを介さずに抗凝固作用を発現 ATⅢ欠乏症(70%以下)に適応 ・半減期は30~40分 そのため出血性病変には不向き 通常使用方法 ・開始時に10mg ・開始後は5~40mg / hrで持続注入 当院でのアルガロン使用方法 ・開始時に25mg / hrを持続投与 アルガロン 1A:10mgは20mlのため 4時間分として25×4=100mgが必要 その量は200mlになるため、500mlTzの 200mlを破棄し、アルガロン10Aを注入して 全量で500mlになるよう希釈する これを4時間で持続投与する (120ml / hr) 【Ⅱ】ヘパリンの中和方法 硫酸プロタミン ・血中のヘパリンと選択的に結合することに よってヘパリン作用を阻害 ・一般的にヘパリン量:プロタミン量を 10:9で投与する 局所ヘパリン化法 A側よりヘパリン、V側よりプロタミンを注入、抗凝 固作用を回路内に限定する方法 ・凝固時間を測定し、注入量を決めなければ な らない ・ヘパリン・プロタミン複合体が数時間後に 解離、 ヘパリン作用が出現【リバウンド】 現在は低分子ヘパリンやNMの使用が一般的で ほとんど使用されない 透析開始後(ヘパリン投与後) 出血傾向が判明した時に使用する 当院でのプロタミンの使用方法 使用したヘパリンと同量のプロタミンを5% Tz100mlに溶解してVチャンバより200ml / hrで投与開始 15分後(50ml)ACT測定 ACT:110 未満 プロタミン中止! 10分後(80ml)ACT測定 ACT:110 未満 プロタミン中止! 医師に指示をもらう 【Ⅲ】ダイアライザを凝固 させないためには ①セット・プライミング時のエアー抜き 中空糸内のエアーをきれいに抜くにはダ イアライザの下(赤)から上(青)にゆっくり と充填する これは透析開始時に血液が充填されてい く時にもいえる ②血流の確保 ・血流がゆっくり過ぎると体外循環路との 接触 が長くなり、凝固が亢進されやすい ・特に陰圧時は血液が中空糸内に充分無い のに透析液側(外側)から陰圧をかけて 除水 するために凝固しやすい そのため 特に血流に対して除水量の多いHDFやナ ファタットの使用時には気をつける 最後に… ・適切な抗凝固剤の使用 ATⅢが低い患者様に、ヘパリン量をいくら増や してもあまり意味がない・・・など ・適切な投与量の使用 ヘパリンならACTを測定し、初回投与量を増や すのか持続投与量を増やせば良いのか・・・な ど お疲れ様でした 臨床工学課
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