系外惑星HD189733bに関する 赤外観測の進展 北海道大学 理学部 地球科学科 惑星宇宙グループ 高橋康人 1 卒業研究概要・目的 研究概要: Swain et al. 2008、Grillmair et al. 2008、Knutson et al. 2007の論文講読 研究目的: 系外惑星研究において先駆的な成果を収めている これらの論文の講読から、この分野の研究の具体 的手法と今日の課題を学ぶ。 将来的な目標: 系外惑星の大気放射スペクトルの数値モデルを構 築し、大気の成分分析という観点から系外惑星の多 様性を探る。 2 系外惑星 系外惑星とは? ・太陽系外で、恒星の周りを 公転する天体。 発見された系外惑星の特徴 ・主星に近く大型のものが多い。 (ホットジュピター) 発見手法 ・トランジット法 ・ドップラー法 ・その他 候補発見個数 ・429 個( 2010/02/01 時点) (発見された系外惑星の質量と個数) 縦軸:発見個数 横軸:木星質量比 3 (The Extrasolar Planets Encyclopaedia より) 対象系外惑星 HD189733b 基本データ 2005年10月5日 F.Bouchy らが発見 方角: こぎつね座付近 主星: HD189733 距離: 19.2 pc 質量: 木星質量の1.13倍程度 軌道長半径: 0.031 AU 発見方法 トランジット法 惑星種類 ホットジュピターのひとつ 4 (HubbleSite より) (HD189733bのイメージ図) Swain et al. 2008 概略 論文詳細 題名:The presence of methane in the atmosphere of an extrasolar planet. 著者:Swain, M. E., Vasisht, G. & Tinetti, G. 掲載紙:Nature 452, 329-331 (2008). 論文要旨 HD189733bの近赤外波長域における大気透過スペ クトルから、メタンの吸収特徴を検出。 5 研究手法 観測 ハッブル宇宙望遠鏡を使用。 軌道5周回の間にHD189733bのトランジットを観測。 大気透過スペクトル 惑星の大気層を通過した主星のフラックスが持つスペク トル。 → 惑星大気の特徴を含む。 抽出方法 トランジット中のスペクトル – トランジット前後のスペクトル 6 トランジットによる光度変化 上図縦軸:光度変化 下図縦軸:残差 横軸:改ユリウス暦(分) 青:H帯(1.6-1.8μm) 赤:K帯(2.0-2.4μm) 系統誤差のみ補正済み 赤はオフセット済み 2007年5月25日観測 (Swain et al. 2008 より) 第一食は2周回目で起きている。 食に伴う光度減少は明らかだが、加えて食の間にも周縁減光による 7 光度変化が見られる。 観測結果とモデルの比較 水色:水のみの理論モデル 橙色:水+メタンの理論モデル 黒三角:観測値 (Swain et al. 2008 より) 1.5及び1.9μm ・水の特徴 1.7及び2.2μm ・メタンの特徴 さらに少量のアンモニア あるいは一酸化炭素を加えると、一致が改善 8 Grillmair et al. 2008 概略 論文 題名: Strong water absorption in the dayside emission spectrum of the planet HD189733b. 著者:Grillmair, C. J. et al. 掲載紙:Nature 456, 767-769 (2008). 論文要旨 HD189733bの中間赤外波長域における日面放射 スペクトルから、水の吸収特徴を検出。 9 研究手法 観測 スピッツァー宇宙望遠鏡を使用。 半年間にわたって、計10回の二次食を観測。 惑星日面放射スペクトル 惑星の日面側から放射されるスペクトル。 大気層による吸収がある波長帯では、強度が減少する。 抽出方法 二次食前後のスペクトル - 二次食の間のスペクトル 10 観測結果とモデルの比較 縦軸:主星に対する惑星の フラックス比 横軸:波長 黒点:今回の観測結果 三色の線:予測モデル値 Pn:熱再分配パラメータ κe:大気上層の不透明度 10μm以下の波長 帯におけるなだら かな傾斜 6.5μm付近におけ る小規模なピーク ↓ いずれも水の特徴 (Grillmair et al. 2008より) 11 Knutson et al. 2007 概略 論文 題名: A map of the day-night contrast of the extrasolar planet HD189733b. 著者: Knutson, H. et al. 掲載紙:Nature 447, 183-186 (2007). 論文要旨 HD189733bの日面放射スペクトルにおける波長 8μmの赤外線の強度変化から、惑星表層の温度分 布マップを推定。 12 研究手法 観測 スピッツァー宇宙望遠鏡を使用。 8μmの赤外線を観測。 トランジット開始直前から二次食終了直後までのほぼ 公転半周の期間。 高い時間分解能 0.4秒毎に撮像。・・・細かい時間変化をとらえる →軌道位置とデータの対応 13 軌道半周期にわたる光度変化 最初の減衰がトランジット、二 回目の減衰が二次食。 トランジット後から二次食直前 にかけて、光度が増加。 →惑星の日面が視界に入っ てきたため。 最大光度・最小光度が各食中 心とずれている。 縦軸:二次食中心を1とした相対光度 横軸:トランジットの中心を原点とする公転周期 点:観測値(500点毎に集約) (Knutson et al. 2007より) 14 惑星表層の温度分布の推定 ある時点での軌道位置と光度 から、惑星の経度方向とそれ に対応する光度を決定。 最大光度・最小光度の点が恒 星直下点・恒星対蹠点からそ れぞれずれて、いずれも東半 球に存在している。 実際にこのような温度分布で あるとすれば、複雑な大気循 環が存在する可能性を示唆。 (Knutson et al. 2007より) 下図縦軸:主星に対する相対光度 下図横軸:惑星の経度 上図:下図を基に全球の温度分布を モルワイデ図法で表したもの 15 今後の課題 観測対象の拡大 観測条件の整った惑星系の発見、および観測機器の 改良。 分析手法の確立 遠方にあり、なおかつ恒星よりもサイズの小さい惑星 の情報をいかにして得るか。 理論モデルの改良 いずれの論文においても、結果解釈に理論モデルの 存在が不可欠。 →より再現性の高いモデルの必要性 16 参考文献 Swain, M. R., Vasisht, G. & Tinetti, G. The presence of methane in the atmosphere of an extrasolar planet. Nature 452, 329-331 (2008) Grillmair, C. J., et al. Strong water absorption in the dayside emission spectrum of the planet HD189733b. Nature 456, 767-769 (2008) Knutson, H. A. et al. A map of the day–night contrast of the extrasolar planet HD189733b. Nature 447, 183–186 (2007). The Extrasolar Planets Encyclopaedia http://exoplanet.eu/ HubbleSite http://hubblesite.org/ European Space Agency http://www.esa.int/ 17
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