会計学総論B 第11回、第12回 戦略的意思決定 2 戦略的意思決定とは Strategic decision 企業環境にかかわらせた経営の基本構造の変 革を伴う随時的な意思決定 多角化戦略、拡張戦略,M&A、財務戦略、国 際戦略など 会計学総論B 3 戦略的意思決定の必要性 企業の生産(ないしサービス)能力の変革を伴 う 諸資源の投資が必要で、意思決定の効果が長期で 、変更が困難 投資から得られる利益が実現するまでに長期 を要するのが普通 資本コストが考慮されなければならない 会計学総論B 4 戦略的意思決定における基礎概念 キャッシュ・フロー(現金流出入額) 原投資額 年々の増分利益 処分時の正味増分キャッシュ・フロー 経済命数と減価償却費 現在価値概念 資本コスト 会計学総論B 5 キャッシュ・フロー 未来増分原価、未来増分収益 原投資額 キャッシュ・アウトフロー 通常初年度一括投資 年々の増分利益 キャッシュ・インフロー キャッシュ・インフロー=税引後利益+減価償却費 処分時の正味増分キャッシュ・フロー キャッシュ・インフロー 残存資産の処分から 会計学総論B 6 経済命数と減価償却費 キャッシュ・フローには、減価償却費は含めない 税金の計算には、減価償却費を含める 耐用年数は法定耐用年数ではなく、経済命数 を用いる 経済命数は、投資案がキャッシュ・フローを生み 出す期間 会計学総論B 7 現在価値概念 将来の100万円は現在の100万円に比べて、利 子分だけ少なくなる 利子が年1%だとすると 現在の100万円は、1年後101万円になる 1年後の100万円は、現在99万円である 100万円×(1+0.01)=101万円 逆に 100万円÷(1+0.01)≒99万円 会計学総論B 8 現在価値の求め方 現在価値= 将来の貨幣価値 年数 (1+利子率) 10,000円の現在価値(利子率1%) 0年 1年 2年 3年 4年 10,000 9,901 9,803 9,706 9,610 5年 9,515 10,000円の現在価値(利子率10%) 0年 1年 2年 3年 4年 10,000 9,091 8,264 7,513 6,830 5年 6,209 会計学総論B 9 複利現価係数表 1 n (1+r) n\r 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1% 0.9901 0.9803 0.9706 0.9610 0.9515 0.9420 0.9327 0.9235 0.9143 0.9053 2% 0.9804 0.9612 0.9423 0.9238 0.9057 0.8880 0.8706 0.8535 0.8368 0.8203 3% 0.9709 0.9426 0.9151 0.8885 0.8626 0.8375 0.8131 0.7894 0.7664 0.7441 4% 0.9615 0.9246 0.8890 0.8548 0.8219 0.7903 0.7599 0.7307 0.7026 0.6756 5% 0.9524 0.9070 0.8638 0.8227 0.7835 0.7462 0.7107 0.6768 0.6446 0.6139 6% 0.9434 0.8900 0.8396 0.7921 0.7473 0.7050 0.6651 0.6274 0.5919 0.5584 7% 0.9346 0.8734 0.8163 0.7629 0.7130 0.6663 0.6227 0.5820 0.5439 0.5083 8% 0.9259 0.8573 0.7938 0.7350 0.6806 0.6302 0.5835 0.5403 0.5002 0.4632 9% 0.9174 0.8417 0.7722 0.7084 0.6499 0.5963 0.5470 0.5019 0.4604 0.4224 10% 0.9091 0.8264 0.7513 0.6830 0.6209 0.5645 0.5132 0.4665 0.4241 0.3855 n\r 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11% 0.9009 0.8116 0.7312 0.6587 0.5935 0.5346 0.4817 0.4339 0.3909 0.3522 12% 0.8929 0.7972 0.7118 0.6355 0.5674 0.5066 0.4523 0.4039 0.3606 0.3220 13% 0.8850 0.7831 0.6931 0.6133 0.5428 0.4803 0.4251 0.3762 0.3329 0.2946 14% 0.8772 0.7695 0.6750 0.5921 0.5194 0.4556 0.3996 0.3506 0.3075 0.2697 15% 0.8696 0.7561 0.6575 0.5718 0.4972 0.4323 0.3759 0.3269 0.2843 0.2472 16% 0.8621 0.7432 0.6407 0.5523 0.4761 0.4104 0.3538 0.3050 0.2630 0.2267 17% 0.8547 0.7305 0.6244 0.5337 0.4561 0.3898 0.3332 0.2848 0.2434 0.2080 18% 0.8475 0.7182 0.6086 0.5158 0.4371 0.3704 0.3139 0.2660 0.2255 0.1911 19% 0.8403 0.7062 0.5934 0.4987 0.4190 0.3521 0.2959 0.2487 0.2090 0.1756 20% 0.8333 0.6944 0.5787 0.4823 0.4019 0.3349 0.2791 0.2326 0.1938 0.1615 会計学総論B 10 年金現価係数表 n (1+r) -1 n r(1+r) -n 1-(1+r) r n\r 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1% 0.9901 1.9704 2.9410 3.9020 4.8534 5.7955 6.7282 7.6517 8.5660 9.4713 2% 0.9804 1.9416 2.8839 3.8077 4.7135 5.6014 6.4720 7.3255 8.1622 8.9826 3% 0.9709 1.9135 2.8286 3.7171 4.5797 5.4172 6.2303 7.0197 7.7861 8.5302 4% 0.9615 1.8861 2.7751 3.6299 4.4518 5.2421 6.0021 6.7327 7.4353 8.1109 5% 0.9524 1.8594 2.7232 3.5460 4.3295 5.0757 5.7864 6.4632 7.1078 7.7217 6% 0.9434 1.8334 2.6730 3.4651 4.2124 4.9173 5.5824 6.2098 6.8017 7.3601 7% 0.9346 1.8080 2.6243 3.3872 4.1002 4.7665 5.3893 5.9713 6.5152 7.0236 8% 0.9259 1.7833 2.5771 3.3121 3.9927 4.6229 5.2064 5.7466 6.2469 6.7101 9% 0.9174 1.7591 2.5313 3.2397 3.8897 4.4859 5.0330 5.5348 5.9952 6.4177 10% 0.9091 1.7355 2.4869 3.1699 3.7908 4.3553 4.8684 5.3349 5.7590 6.1446 n\r 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11% 0.9009 1.7125 2.4437 3.1024 3.6959 4.2305 4.7122 5.1461 5.5370 5.8892 12% 0.8929 1.6901 2.4018 3.0373 3.6048 4.1114 4.5638 4.9676 5.3282 5.6502 13% 0.8850 1.6681 2.3612 2.9745 3.5172 3.9975 4.4226 4.7988 5.1317 5.4262 14% 0.8772 1.6467 2.3216 2.9137 3.4331 3.8887 4.2883 4.6389 4.9464 5.2161 15% 0.8696 1.6257 2.2832 2.8550 3.3522 3.7845 4.1604 4.4873 4.7716 5.0188 16% 0.8621 1.6052 2.2459 2.7982 3.2743 3.6847 4.0386 4.3436 4.6065 4.8332 17% 0.8547 1.5852 2.2096 2.7432 3.1993 3.5892 3.9224 4.2072 4.4506 4.6586 18% 0.8475 1.5656 2.1743 2.6901 3.1272 3.4976 3.8115 4.0776 4.3030 4.4941 19% 0.8403 1.5465 2.1399 2.6386 3.0576 3.4098 3.7057 3.9544 4.1633 4.3389 20% 0.8333 1.5278 2.1065 2.5887 2.9906 3.3255 3.6046 3.8372 4.0310 4.1925 会計学総論B 11 資本コスト cost of capital, capital cost 資本の利用から生じる価値犠牲のこと 現在価値に割り引くための割引率 投資案の採否を決定するための切捨率 銀行からの借入 社債の発行 → 新株の発行 → 利益の留保 → → 利息 利息 配当金 他に投資した場合の利益 会計学総論B 12 平均資本コストの求め方 加重平均コスト 調達源泉ごとの資本コストを、 その構成比率によってウエイトづけして 平均を求める 会計学総論B 13 資本コストの計算例 借入金 社債 70億円(6%) 50億円(8%) 資本源泉 金 資本金 60億円(10%) 内部留保 20億円(12%) 額 資本構成 平均資本コスト コスト率 借 入 金 70億円 35% × 6% = 2.1% 社 債 50億円 25% × 8% = 2.0% 資 本 金 60億円 30% × 10% = 3.0% 内部留保 20億円 10% × 12% = 1.2% 200億円 100% 合 計 8.3% 会計学総論B 14 設備投資意思決定 設備資産に関する資本支出の計画 資本予算として実施される 会計学総論B 15 設備投資意思決定の特徴 経済性計算は、投資プロジェクトを会計実体と して実施する 発生主義会計の収益・費用ではなく、未来の予 想キャッシュ・フローで評価する 計算期間は、投資の開始からその効果がなくな るまでの間 投資金額が比較的大きく、投資を行う前に十分 な検討が必要 会計学総論B 16 設備投資の経済性計算 設備投資意思決定において、投資案の優劣を 決めるための方法 原価比較法 投資利益率法 回収期間法 現在価値法 内部利益率法 会計学総論B 17 原価比較法 2つ以上の投資案があるとき、その原価の低い方を優 位な投資案として採用する方法 年額原価法 年額原価=資本回収費+操業費 資本回収費 利子率を考慮しないで、減価償却費のみで計算する方法 投下資本に資本回収係数(年金現価係数の逆数)を乗じた 値として求める方法 操業費 労務費、動力費、維持費など機械・設備を運 転するのに必要な原価 会計学総論B 18 例題1 現状維持 操業費=\10,000,000 新機械導入 資本回収費+操業費 =\10,000,000÷3.7908+\8,000,000 =\10,637,966 現状維持が有利である 会計学総論B 19 投資利益率法(return on investment method) 投資案の年々の平均利益の原投資額に対する 割合を求め、その大小によって投資案を評価す る方法 ①総投資額を用いる方法(総投資利益率法) ②平均投資額を用いる方法(平均投資利益率法) 総投資利益率= 年々の税引後利益 平均投資利益率= 総投資額 ×100 年々の税引後利益 平均投資額 ×100 会計学総論B 20 投資利益率法の長所・短所 長所 ①収益性を考慮していること ②会計上の利益と整合性があること ③計算が簡単であること 短所 ①時間的要素を考慮していないこと ②会計(発生主義会計)上の利益を用いているので、 減価償却費などの埋没原価を計算に含めているこ と ③支出額の決定(資本的支出か収益的支出か)に恣 意性が入ること 会計学総論B 21 例題2 A機械 減価償却費:(800万円-0円)÷5年=160万円 税引前利益:500万円-160万円=340万円 税引後利益:340万円×(1-0.5)=170万円 平均投資利益率:170万円÷(800万円÷2)=42.5% B機械 減価償却費:(600万円-0円)÷5年=120万円 税引前利益:400万円-120万円=280万円 税引後利益:280万円×(1-0.5)=140万円 平均投資利益率:140万円÷(600万円÷2)≒46.7% B機械が有利である 会計学総論B 22 回収期間法(payback method) 原投資額を回収するのに必要な期間を計算し、それ が短いものを有利と判断する方法 原投資額の回収にはキャッシュ・フローが用いられる 収益性よりも財務流動性あるいは安全性に重点をお いた方法 回収期間= 原投資額 年々のキャッシュ・インフロー 会計学総論B 23 回収期間法の長所・短所 長所 ①キャッシュ・フローによって計算を行うので、計算の 恣意性が除かれる ②安全性を重視している ③計算が簡単でわかりやすい 短所 ①キャッシュ・フローの時間的要素を考慮していない ②投資額回収以後の収益性を無視している 会計学総論B 24 例題3 A機械 年々のCF:170万円+160万円=330万円 回収期間:800万円÷330万円≒2.42年 B機械 年々のCF:140万円+120万円=260万円 回収期間:600万円÷260万円≒2.31年 B機械が有利である 会計学総論B 25 現在価値法(present value method) キャッシュフローを現在価値に割り引いて投資 案の評価を行う方法 資本コストによってキャッシュ・フローの現在価 値を求め、インフローとアウトフローの現在価値 の大きさによって、投資の採否を決定する 正味現在価値法と現在価値指数法がある 会計学総論B 26 正味現在価値法(net present value method) 正味現在価値の大きさによって投資の優劣を 決定する方法 資金効率がわからない NPV= CIF1 1+r + CIF2 (1+r)2 CIF3 CIFn-1 CIFn + +‥‥+ + -COF 3 n-1 n (1+r) (1+r) (1+r) 会計学総論B 27 現在価値指数法(present value index method) キャッシュ・フローの現在価値によって投資の資 金効率を計算する方法 現在価値指数が大きいものほど資金効率がよ い 現在価値指数= キャッシュ・インフローの現在価値合計 原投資額 ×100 会計学総論B 28 現在価値法の長所・短所 長所 ①貨幣の時間的要素を考慮している ②内部利益率法より計算が簡単 ③相互排他的代替案の区別ができる 短所 ①現在価値に割り引くための資本コストを決定するの に問題がある ②完全市場を前提としている 会計学総論B 29 例題4 A機械のNPV= 330万円 330万円 330万円 260万円 260万円 + +‥‥+ -800万円 2 5 1+0.1 (1+0.1) (1+0.1) =330万円×3.7908-800万円 ≒451万円 B機械のNPV= 260万円 + +‥‥+ -600万円 5 1+0.1 (1+0.1) =260万円×3.7908-600万円 (1+0.1)2 ≒386万円 A機械が有利である 会計学総論B 30 内部利益率(internal rate of return method) キャッシュフローを現在価値を考慮して、投資案 の内部利益率を算出し、この利益率によって投 資案の評価を行う方法 内部利益率とは、投資案のキャッシュ・インフロ ーの現在価値とキャッシュ・アウトフローの現在 価値を等しくする割引率のこと 内部利益率の大小によって順位づけするが、 内部利益率が資本コスト(切捨率)を上回らない ときは投資案は採用されない 会計学総論B 31 内部利益率 以下の算式を成立させるiの値 CIF1 1+i + CIF2 (1+i)2 CIF3 CIFn-1 CIFn + +‥‥+ + =COF 3 n-1 n (1+i) (1+i) (1+i) 会計学総論B 32 内部利益率法の長所・短所 長所 ①貨幣の時間的要素を考慮している 短所 ①再投資に関して一定の仮定をおいているので、相 互排他的投資の正しい順位づけが出来ない ②2つ以上の利益率が求められることがある ③マイナスの値になることがある ④投資規模を考慮に入れられない 会計学総論B 33 例題5 A機械 330万円 330万円 + (1+i)2 330万円 +‥‥+ (1+i)5 =800万円 1+i 上の式が成り立つiを求めると、約15%になる または、800万円÷330万円≒2.4242を求め、 年金現価表から5年で2.4242に近い利率を求める B機械 260万円 1+i + 260万円 (1+i)2 +‥‥+ 260万円 (1+i)5 =600万円 上の式が成り立つiを求めると、約11%になる または、600万円÷260万円≒2.3077を求め、 年金現価表から5年で2.3077に近い利率を求める 両者資本コスト以上であるが、A機械が有利である 会計学総論B 34 設備投資の経済性計算の実際 日本 経済性計算 22% 総合的評価 71% 日本における経済性計算の方法 回収期間法 52.2% 投資利益率法 36.8% 内部利益率法 5.5% 現在価値法 4.9% アメリカにおける経済性計算の方法 内部利益率法 49% 現在価値法 19% 回収期間法 8% 投資利益率法 12% 日本では、安全性を重視し、経済命数が短い 会計学総論B 35 リスクの取扱い キャッシュフロー、経済命数などの予測に不確 実な側面 確率を利用して、期待値によってリスクを評価 PPMなどにより、投資案を組み合わせる 回収期間の短い投資案を採用 会計学総論B 36 リースの問題 設備資産を一定期間借り受けて使用する賃貸 契約 短所 ①リース料が高い 短所 ①多額の初期投資を必要としない ②B/S上固定資産として計上されない ③契約期間が税法上の耐用年数より短い ④損金算入できる 会計学総論B 37 期中評価・事後評価 設備投資意思決定は投資金額が巨額で、途中 での変更が困難 ⇒ 事前管理が中心 期中管理・事後管理も重要 会計学総論B
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