スポーツ経済学 2309417 浜 宇芳 1 スポーツの経済的価値の認識 • スポーツは、本来、自由時間の活用、健康の 維持増進、精神的充足感の達成、社会的関 係・連帯系などに価値が強調されてきたが、 最近では、経済企画庁調査企画官であった 妹尾芳彦が「我が国の当面する最も重要な 経済問題のひとつである」と指摘して以来、ス ポーツの経済的価値がわが国の政策レベル でも注目されるようになった。 • スポーツの経済的価値に着目した先駆的な視点 は、1950年代後半から1960年当初にかけて スタートした旧西ドイツの2つの画期的な国民ス ポーツ振興計画「ゴールデン・プラン」(体育・ス ポーツ施設建設設備15カ年計画)と「第2の道」 (一般市民に対するスポーツ活動の奨励)の中に 見出され、「運動不足が原因で起きる病気は、当 然経済に大きな影響がある」として運動不足が 国民経済に無視できない影響を及ぼすかについ て、具体的なスポーツ振興に取り組んでいた。 2 国民(内)スポーツ総生産の規模 1.国民(内)スポーツ総生産(GNSP・GDSP)とは スポーツが国民経済に果たす役割を示すひとつの指 標として、「国民スポーツ総生産」もしくは「国内スポー ツ総生産」といった概念が導入された。 国民がスポーツ参加に要する財やサービスの購入、 政府公共機関による施設の建設・整備、民間産業部 門のスポーツ供給総額などを算出し、国民総生産 (GNP)あるいは国内総生産(GDP)に占める割合から国 民のスポーツ動向を把握し、政策に反映していこうと するのがGNSP、GDSPのコンセプトである。 国民総生産(GNP)とは、一般に「ある一定期間 (通常1年単位で測られることが多い)に、分析の 対象とされる“ある国の経済において”“生産され た”、すべての財・サービスの付加価格額の“総 額”である」と定義されている。 国内総生産(GDP)とは、「海外で稼いだ所得や 投資に対する配当、金利受取りなどの要素所 得」をGNPから差し引いた額のことである。 GDSP、GNSPは、生産面、分配面、支出面の3 面のいずれかによって求められる。 2.ヨーロッパ諸国のスポーツ経済規模 国民スポーツの経済規模に関して最初に本 格的な分析を試みたのは、イギリスのスポー ツ審議会の以来を受けて、経済予測分析の シンクタンク「ヘンリー・センター」が実施した 調査分析とヨーロッパ評議会(CE)スポーツ振 興審議会の「スポーツの経済的インパクト: ヨーロッパ研究」があげられる。 ヨーロッパ評議会は、1989年、加盟諸国のスポーツ経 済規模を明らかにするために、イギリスのウエールズ・ス ポーツ審議会の政策調査委員長H.G.ジョーンズを中心 とした研究プロジェクト・チームを発足させた。参加国はイ ギリス、デンマーク、フィンランド、ベルギー、フランス、ドイ ツ、アイスランド、オランダポルトガルの9カ国であった。各 国の国民経済規模はもちろん、スポーツ振興に関して政 府主導(ベルギー、オランダ、ポルトガル、イギリス)か民間 主導(デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド)によっ て、スポーツ関連支出の流れ(フロー)も大きく異なる。これ ら9カ国のスポーツに対する民間最終消費支出学は約35 0億~400億ドルであり、約200万人の雇用を創出して いると報告している。 4.日本のスポーツ経済規模 国民経済の視点から、わが国のスポーツ経済の規 模を最初に本格的な分析を試みた(財)自由時間デザ イン協会の調査によると、国民が1年間にスポーツ関 連の財やサービスに支出した総額は、1980年には、 2兆円に過ぎなかったが、1989年には4.3兆円にま で達している。 しかし、その当時のわが国の経済状 況は、バブル期真っ直中にあり、バブルの崩壊と共に、 日本経済は急降下し、余暇市場、スポーツ市場も最 近ではマイナス成長に陥るきわめて厳しい状況に直 面するようになった。 3 スポーツ経済の健全な発展に向 けて • スポーツはこれまで単に時間(ヒマ)とカネを費やす消費財・サービ スとして経済学では扱われてきた。願望的に解釈してみても、ス ポーツ参加・観戦による一時的なストレスの解消、楽しみの享受、 健康体力の維持増進、非公の予防といった心理的、社会的そして 身体的効用が認められてきたにすぎない。 • また、スポーツ大会やイベントの開催、プロスポーツの誘政による スポーツのツーリズム(旅行者増)、雇用機会の創出・拡大などを 通じて、“まちづくり”“ムラおこし”といった地域経済の活性化につ ながることも広く知られるようになった。しかし、反面またスポーツ 施設・空間の整備開発による環境破壊の問題や破壊行為(バンダ リズム)、騒音、迷惑駐車、交通渋滞、夜間照明など競技場周辺 の地域住民に対する「スポーツ公害」といった望ましくない(ネガテ イブ)経済波及効果もクローズアップされてきている。 4 スポーツ産業の動向 1.スポーツ産業の概念 従来は生産される財貨およびサービスの種類によって、 企業の活動を「産業」として分類するのに対し、新たな産 業分類は「文化産業」などのように、多彩な企業活動のう ち、ある特定の価値観を軸として再編される一連の活動 から構成されるものである。 スポーツ産業という概念もそうした文脈から理解すること ができ、需要サイドからスポーツという軸を中心に広がる 特定生活領域に着目して、消費者の各種要求に対応する という観点から、関係する産業を捉え直したものといえる。 スポーツ産業には「スポーツの享受」を核に多様な業種が 連携・連動するという「業際性」という性格が求められる。 2.スポーツ産業の特性 • スポーツ産業は、製造業、サービス業に広が る横断的産業であり、それぞれ特質を有する 業種の集合であるが、これを総体としてみた 場合には、大きく以下の特徴が認められる。 ①横断的産業として「業際性」への対応が求められ る産業である ②文化を産業化したものである ③サービス業の比重が高い産業である そして、サービス産業化が進行したものとして のスポーツ産業は以下の特性を持っている。 <スペース・立位重視型の産業> <消費者・顧客参加を前提とする産業> <時間加工型の産業> <内生化が可能な領域が多く含まれる産業> ④最終消費財およびサービスを扱う産業である ⑤選択財を扱う産業である ・スポーツ産業は以下の特性を持っている。 <一般経済状況の影響をうけやすい産業> <依存効果、デモンストレーション効果の多く みられる産業> <市場細分化傾向の強くみられる産業> 5 スポーツ産業の領域と分類 1.スポーツ産業の領域 スポーツ産業を「消費者サイドから、そのス ポーツ享受を軸に、各種産業を再構成したも の」とすれば、その領域は広範なものになり、 市場規模もかなり拡大する。 2.スポーツ産業の分類 (1)領域を拡大したスポーツ産業 (2)国民スポーツ総生産(米国)にみるスポーツ産業 米国では、国民スポーツ総生産(GNSP)による以下の4 類型で把握する方法が一般的なものになっている。 ①レジャーとするスポーツ部門 ②スポーツ用品部門 ③プロスポーツ部門 ④スポンサーシップ (3)レジャー白書(自由時間デザイン協会)にみるスポーツ 産業 6 スポーツ産業の発展 • スポーツ産業の発展 わが国において、スポーツが産業としての形を見せ始めたのは、 明治末期頃、スポーツ用品・用具の国産化が行われてからのこと である。大正期にはスポーツ用品業界が形成され、運動具製造 販売組合が設立されている。 昭和に入り、製造業、卸売業、小売業の三層が文化してくると「産 業」としての体制が整いはじめる。この頃、スポーツを専業とする 総合スポーツ小売店も誕生している。 その後、戦時体制から外来スポーツが制限されるが、終戦後、 「スポーツ用品を製造し、学校へ供給せよ」とするGHQ勧告もあり、 学校運動具を中心とした戦後のスポーツ産業の復興が急速に始 まる。 また、大衆娯楽としてスポーツ中継が人気を集め、スポーツのマ スメディア化が進むが、一般の社会体育活動の本格的な普及は 昭和30年代に入ってからである。 高度経済成長下、東京五輪を契機としたス ポーツの大衆化から、昭和30年代後半はス ポーツ人口が急増する。この時期、スポーツ 卸商協同組合、全日本運動用品工業団体連 合会、全日本運動用具小売商組合連合会な どが設立され、製造、卸、小売の三層構造の 明確化および層内連携の強化がみられ、ス ポーツ産業は産業としての本格的な展開期 を迎える。 昭和50年代中頃には供給過剰の様相が見えだし、人々 のライフスタイルの多様化の影響もうけてスポーツ市場は 急速に成熟していく。 昭和50年代後半には、用品・用具を中心に展開していた スポーツ産業は成熟期を迎え、市場細分化、製品差別化 および価格政策、流通政策の見直しが進むが、一方でス ポーツ施設サービス業関連が脚光を浴び、これらがス ポーツ産業全体の活性化へ重要な役割を果たすように なってきた。 昭和の終わりから平成にかけての好況期(バブル経済期) においては、リゾートスポーツの分野の急成長、スキー、 ゴルフ等の大型スポーツの活況がみられる。また、スポー ツ産業の領域の拡大が進み「場」「もの」「サービス」の複 合化を基礎とするスポーツ産業が市場を拡大した。
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