heartland.geocities.jp

海軍の作戦術
軍事学セミナー
2014年8月30日
戦争(戦略)
> キャンペーン/作戦(作戦術)
> 海戦(戦術)
Dr. Milan Vego,
R.K. Turner Professor
of Operational Art
JMO Professor
Joint Military
Operations
US Naval War
College
Phone:
(401) 841-6483
Email:
[email protected]
https://www.usnwc.edu/Acad
emics/Faculty/MilanVego.aspx
近代以前の陸戦には
作戦の概念が無い


全軍が一団となって戦略移動。別働
隊はあっても、本隊との連携は乏し
い。
個々の会戦の間の連続性が薄い。
なぜ作戦術が必要になったのか

工業生産力の拡大
→交戦戦力の増加:戦闘正面の長大化
→戦闘損失の補充余力の増加

軍の組織の強化
→1会戦の敗戦だけでは軍は崩壊しない
ソ連の作戦術の特徴


キャンペーン間の時間的・空間的
連携
継続的な作戦
近代の海軍作戦の特徴

空間的広がり:
地理的に広範囲での軍事活動
太平洋戦争)

(例:
時間的広がり:
1回の海戦(艦隊決戦)では勝負がつ
かない。 (例:ガダルカナル周辺の
一連の海戦)
海軍の作戦術



1回の艦隊決戦だけでは敵海軍を撃滅でき
ない。敵艦隊の数は多く、配置範囲も広い。
連続的・連携のある複数の海戦によってのみ
作戦目標の達成は可能。
作戦術の目的の1つは有利に戦える場所を
選ぶこと
段階的な海軍作戦の事例:
1942年の米国海軍の作戦
作戦目標はニューブリテン、ニューアイル
ランド、ニューギニア



第1段階:ガダルカナル
第2段階:中部ソロモンとニューギニア北
東海岸
第3段階:ラバウル
海軍作戦の類別
1.艦隊 VS 艦隊
2.艦隊 VS 沿岸
3.沿岸地区の地上軍の支援
4.敵の海上交通路の攻撃
5.味方の海上交通路の防衛
6.海洋核抑止戦力の攻撃/保護
WW1後も各国の海軍は作戦術を認
識せず。戦術指向。

日米とも艦隊決戦を重視。

独も艦隊決戦指向。Uボートは脇役。




船団攻撃手段としての潜水艦はどの国も軽
視、艦隊攻撃手段と見なす。
各国とも機雷戦を軽視
英国海軍は大規模な上陸作戦は無理と判
断。小規模な作戦のみ可能と結論。
米国海兵隊は大規模上陸作戦を研究
狭海アプローチ(narrow seas)



海軍作戦の類別のうち、1~5は全て陸
地が絡む。
海上交通も始点・終点は陸地。途中に
チョーク・ポイント
狭海とは、陸地に囲まれた、あるいは
陸地に隣接した海のこと
作戦根拠地の位置
内線と外線
(Central vs Exterior Position)
内線
長所: 戦力の集中が容易
例:
英国(大陸諸国のシーレーンを扼す位置)
ドイツ(北海とバルトの2つの狭海を扼す。)
日本(バルチック艦隊の迎撃)
短所: 海外との交通線の確保に難(英国)
戦力が小さければ内線の利を活かし
きれない。(キューバ海上封鎖)
外線
長所: 敵を多くの場所で攻撃できる。



外線の利を活かすには、敵より優勢な戦力と
機動力が必要。
戦略的に守勢でも、戦術的攻勢が可能。(ド
イツ占領下のノルウェー)
外線は開かれた海よりも閉ざされた海で有
利。(WW2においてドイツがフランスを占領
したため、英仏海峡は交通不能に。)
基地の位置



狭海では中央部に位置した基地が、辺
境部の基地より有利。
航路を横切る位置(クレテ、キプロス、
キューバ)、航路の終点の基地は有
利。
本土にある基地は陸上からの攻撃に弱
い。島にある基地は海からの攻撃に弱
い。
チョーク・ポイント・コントロール
ジブラルタル、英仏海峡、ダーダーネルス、
GIUKギャップ など


ブルーウォーター海軍と雖も制海権確
保にはオープン・オーシャンに加えてチ
ョーク・ポイントの制圧が必要。
チョークポイントにおける制空権も必
要。
チョーク・ポイントの封鎖



中立国の海峡封鎖は、強国が弱小国を
封じ込めるために有利。(WW1のデンマ
ーク)
封鎖だけでは狭海を制圧しきれない。
狭海内部は引き続き敵が支配したまま
(例: WW1&2のバルト海、アドリア
海)
陸からチョーク・ポイントを制圧(WW2の
バルト海、黒海)
重心
(center of gravity)




フォークランドでの当初の英軍の重心
は2隻の空母、上陸後は第3コマンド旅
団。
レイテでは米軍は日本艦隊の重心を見
失った。
これからはコンピューターネットワーク
が重心となりうる。
重心への正面攻撃を避け、間接アプロ
ーチで重心を無力化する。
海上輸送戦



狭海では小規模多数の船団が有利。
航空攻撃の標的となり難い。1航程を1
夜で通過できる。
狭海の出口で大型の船団に組み替え
る。
陸上航空兵力による自国の海上輸送
路保護が有効。
作戦術は米国海軍内で普及してい
ない




作戦術は、高密度通常戦で最も有効。
核戦争と低強度紛争では影が薄い。
WW2後には大規模な海軍作戦は実行
されず作戦術は忘れられる。核戦争と
COIN戦に焦点。
海軍における教育は戦術が主体
ネットワーク・セントリック・ウォーやエ
ア・シー・バトルは戦術
エア・シー・バトル
敵を混乱させ破壊し撃破する縦深攻撃



敵のコマンド、コントロール、コミュニケ
ーション、コンピューター、インテリジェ
ンス、サーベイランス、レコノサンス(偵
察)を混乱させる(C4ISRまたはC4I)
敵のA2/AD(接近阻止・領域拒否)プ
ラットフォームおよび兵器を破壊する
敵の兵器とフォーメーションを撃破する
今後の海軍作戦




最も蓋然性が高いのは沿岸部での作戦
伝統的な作戦要素である空間、時間、戦
力に情報が加わる
情報戦の支持者は戦略、作戦、戦術を区
別していない。しかし、それぞれに異なる
手段が必要。さもなければ、指揮官は情
報の海に溺れてしまう。その結果、戦場の
霧と摩擦は増す。
情報量が増すと、コマンド&コントロール
の集中化ではなく分散化が必要。
海軍戦略の古典
ブルーウォーター学派
Alfred Mahan(1840-1914、米国)
海軍少将、海軍大学校長
Julian Corbett(1854-1922、英国)
弁護士、作家
大陸学派
Raoul Castex(1878-1968、フランス)
海軍少将
Wolfgang Wegener(1875-1965、ドイツ)
海軍少将
Mahan
Corbett
Castex
Wegener
敵艦隊の撃滅
○
△
○
△
通商破壊
△
○
△
通商保護
×
○
機雷戦
×
沿岸防衛
×
地上軍の支援
×
○
艦隊の集中
○
△
艦隊保全策
×
○
地理の重視
内線の優位
×
○
×
△
○
○
○
Vego, Milan, "Naval Classical Thinkers and Operational Art",
The U.S. Naval War College, 2009 に基づく。
米国海軍大学の合同海洋作戦コース
レイテ作戦のケース・スタディ
戦域の構造と地理



日米両海軍の位置と作戦線の長所・短所は? 両
軍の指揮官は長所を最大化し、短所を最小化した
のか?
日米の地上部隊および陸上航空兵力の位置と作戦
線の長所・短所は?
両軍の決勝点(Decisive Point)はどこか? 両軍の
指揮官は自身の決勝点を認識していたか?
レイテ作戦のケース・スタディ
作戦要素



両軍の時間、空間、戦力を論じよ。
それらの要素は日本軍のフィリピンにおける作戦計
画にどのような影響を与えたか?
両軍のレイテ湾における時間、空間、戦力を比較せ
よ?
レイテ作戦のケース・スタディ
作戦機能





指揮構造はレイテ作戦にどのような影響を及ぼした
か?
両軍はレイテ湾作戦において、どのような保安、欺
瞞、心理作戦をおこなったか?
米軍指揮官はレイテ作戦で作戦補給の問題にどの
ように対処したか?
日本軍指揮官はレイテ島でどのように戦力を維持し
か?
米軍指揮官はレイテで敵に対して優位な位置を占
めるために、どのように部隊を動かしたのか?
レイテ作戦のケース・スタディ
キャンペーンとその要素

日米それぞれの強みと弱みは何であったか?

日米それぞれの作戦の重点は何であったか?

どの指揮官が重心をよく理解していたか?


レイテ湾の戦いにおいて日本の限界点はどのように
表れていたか?
敵の撃滅と目的達成に作戦術はどのように関係し
ていたか?
レイテ作戦のケース・スタディ
作戦立案




豊田提督の定めた作戦目標をどのように評価する
か? 日本の作戦スキームに勝算はどれほどあっ
たのか? どのようにすれば、より勝算は向上して
いたか?
日本の計画の欺瞞を説明し評価せよ。どの程度成
功したか?
作戦順序とシンクロナイゼーションはどう異なるの
か? 日本に作戦順序改善の余地はあったか?
作戦術の観点から、日米それぞれの作戦立案を批
評せよ。
参考資料
1.Vego, Milan, “Operational Warfare at Sea: Theory and
Practice”, Routledge, 2008 (キンドル、コボ版あり)
2. “Naval Strategy and Operations in Narrow Seas”,
Routledge, 2003 (キンドル、コボ版あり)
3.
“Major Naval Operations”, Naval War College, 2008
httphttphthttps://www.usnwc.edu/Academics/Faculty/MilanVego.aspx
4.
”Military History and the Study of Operational
Art”, Joint Force Quarterly, 2nd Quarter 2010.
5. “Naval Operations and Classical Thinkers“, Naval War
College, 2009,
https://www.usnwc.edu/Academics/Faculty/Milan-Vego.aspx
5.“Air-Sea Battle“, May 2013, Air-Sea Battle Office.
6. “Joint Military Operations, Feb-Jun Syllabus“, Naval
War College,
米軍の対応に関する見解A
作戦術の欠如を認識。クラウゼビッツや孫子が
米軍の教育課程に加わる。ソ連の作戦術を研
究。
↓
作戦術の概念が米軍に導入される。1982年に
操典FM-100(Operation)にエア・ランド・バトル
が盛り込まれる。
↓
湾岸戦争。WW2で米軍が成しえなかった包囲
撃滅戦。