日本心理臨床学会 第26回大会 自主シンポジウムⅡ2007年9月28日(金) テーマ:障害受容に向けてのアプローチ -高次脳機能障害者を有する患者とその家族に対する心理教育- 障害受容に向けてのアプローチ ~家族のアセスメントから~ 障害者職業総合センター障害者支援研究部門 話題提供者:仲村信一郎 Ⅰ.はじめに これまでの障害受容に関する理論をここで 紹介する。 患者本人の障害受容だけではなく、家族の 障害受容にも視野を拡大する必要がある。 しかし、家族といってもその形態は様々であ る。従って、家族を支援するためのアセスメ ント(構造と機能)を踏まえて、障害受容につ いて言及したい。 Ⅱ.家族支援に関するヒアリング 1.問題の所在 脳外傷親の会、支援センターの職員等への ヒアリングで、様々な家族が浮き彫りになり、 本人の支援ができる基盤のない状態にある 家族の問題も視野に入れなくてはならないこ とがわかった。 2.具体例 Ex1親は本人への対応でかなり疲労しており、親自身 のケアが必要な家庭が多い。 Ex2本人と家族との関係が崩れてしまっている家庭もあ る。 Ex3家族会の中でも、親子の場合と夫婦の場合とでは 関りの仕方、自立の入れ方に違いが見られる Ex4家族が配偶者だけの場合より娘や息子がいる場合 の方が、本人の支援者になりやすい(配偶者だけの 場合、将来の見通しが持ちにくい)。 3.ヒアリングからの課題 ・そもそも家族が支援者になりうる要件は何 であろうかという家族アセスメントの課題 ・病識の欠如等の障害特性を踏まえた家族 支援の課題 →トータルパッケージを活用した高次脳機能障害 の職場復帰好事例はある。 参考文献:当機構の調査報告書No.58「高次脳機能障害を有する者の 就業のための家族支援に関する研究」 (当機構研究部門ホームページからダウンロード可) Ⅲ.話題提供の内容 ・家族の構造(何が)と機能(どうなって いるか)という視点でのアセスメント方 法 ・家族の機能の中で、家族の障害特性 の理解と、障害の受容についてこれま での理論を述べる。 1.家族の構造 家族の構造をアセスメントするツールと しては、家族構成図(ジェノグラム、エコ マップ)がある。ヒアリングや観察に基 づいて構成図を作成し、これによって家 族構造を把握することが出来る。 次に、NPO法人コロポックルさっぽろに委託 された研究事業の事例をもとにジェノグラム とエコマップを一体にした図を紹介する。 (1)エコマップ 事例参考:NPO法人 コロポックルさっぽろ H病院 SW 作成日 年 月 日 時点の状況 コロポックル 作業所 精神科 障害者職業センター 母60代 父死別 ジェノグラム 姉H18 死去 保健所 本人30代 元職場 交通事故脳挫傷 ヘルバー派遣 事故後精神不安定 妻30代 精神保健手帳2級z ことばの教室 長男7歳 次男5歳 児童相談所 近隣住民 (2)家族構造の4つのサブシステム (ミニューチンの考えに基づく図) 家族外サブシステム 夫婦(両親)サブシステム 社会資源 (関係機関等) 親子サブシステム 世代間境界 同胞(子供)サブシステム (3)家族のライフサイクル(6段階) (岡堂哲雄;「家族心理学講義」,金子書房,1991) 第一段階:新婚期 第二段階:第一子の出産・育児期 第三段階:子供が学童期/家族内役割(負担)調整 第四段階:子供が10代(青少年)期 第五段階:子供が巣立つ時期 /進路決定(就労支援等)がメインの時期 第六段階:加齢と配偶者の死の時期 /親亡き後の不安への対応 (注)いつの時点で障害を持ったかで、障害受容の時期等変化する。 2.家族の機能:家族がどうなっているか (1)家族の親密度(きずな)と家族の調整・方 針決定(かじとり・パワー)の視点 ①4つのモデル 家族の親密度合・ 関与の仕方 * オルソンらの円 環 凝集性( 家族のきずな) モデル 家族メンバー間の距離と親密さのパ ターン。 *ミニューチンらの構 遊離状態← 明瞭状態 → 纏綿状 造派家族療法 態 家族の調整・ 方針決定 順応性( 家族のかじとり) 家族特有の人間関係のルー ル 左記の親密度による提携・ 境界に 加えてパワー 情緒的関与の仕方 コントロール * 家族機能のマクマ a) 関与しあわない,b) 感情抜き ① 硬直的② 柔軟的③ スター・ モデルとプロ の関心,c) 自己愛的関与,d) 共 放任的: 無秩序な家庭, セス・ モデル 感的関与,e) 絡み合い ④ 混沌 * ビーヴァーズ・ モデ ル 家族の機能水準( 5つの側 遠心的(家族を外側に追いやる力)← 面) における 家族の構造( 家 →求心的(家族内に吸収し埋没させる 力) 族の勢力構造等) (1)②オルソンの円環モデル(4つのモデルの代表) 家族の凝集性(きずな) 遊離(バラバラ) ( か家 じ族 との り順 )応 度 ( て ん や わ ん や ) 混 沌 中 間 型 ( き構 っ造 ち り化 ) ( 硬 直 結合(ピッタリ) 極 端 型 柔 軟 融 通 な し ) 分離(サラリ) 極 端 型 バ ラ ン ス 型 てんめん(ベッタリ ) 極 端 型 中 間 型 極 端 型 <家族がどうなっているか> オルソンの家族関係測定尺度(FACES)を日本では立 木が改訂版の質問紙を開発している。 (1)③家族イメージ法(亀口,2000) <家族がどうなっているか> 亀口憲治「家族臨床心理学」東京 大学出版会,2005 1.シールの色の違いは力(発言力、影響力、元気のよさ)の差を現す。 濃(強い←) 薄(→弱い) 2.シールを1人に1色選んだら、枠内に貼り付ける。その時、シールに付いている印 は、家族がよく向いている方向に向ける。 3.シールを貼ったら、家族の誰か(父、母、自分、兄、姉など)を記入する。 4.家族内の2人が(父-母、父-自分など)がどのような関係であると思うか、結び つきの強さの線で書き加える。 父 母 A子 私 父 父 妻 娘 私 娘 私 母 (2)家庭の役割:くつろぎ機能としつけ機能 「児童心理」編集委員会;「気がかりな子」の理解と援助,2005) くつろぎ機能 家庭は、食事や睡眠を とる場所で、家族とくつ ろぎ、好きな遊びに興ず る場である。ある程度の わがままが許され、ある がままの自分を出せる 場所でもある。 ≧ しつけ機能 家庭は食事の方法や身 辺の片付けなど自立の ために必要な基本的な 能力を獲得する場である。 また、相手を思いやり、 自分をコントロールしな がら生活する、対人関係 の基礎を学ぶ場でもある。 (3)障害特性の理解と受容 ①本人の障害受容理論 障害受容について最初の研究はデンボら(1956)で、 (身体)障害は人間の価値を低めるものではないと いう価値転換の過程 ライト(1960)は、(身体)障害の受容を支える4つの価値 転換(失った価値以外の価値に気づく、障害が全体の評価にならない、 外見より内面性を重視、比較ではなく内在価値) 障害受容の過程が、価値転換からステージ理論へ コーン(1961)5段階(ショック→回復への期待→悲嘆・喪→防 衛→最終的適応)、フィンク(1967)4段階 尚、キューブラ・ロス(1969)は死の受容の5段階だが類似 (参考文献;中村義行ら,障害臨床学,2003) (3)②家族の障害受容の過程(先天性障害) ショック:障害発生の直後の混乱 否認:ショックを何とか和らげようとして、何かの間違いでは ないかと障害の事実を認めようとしない防衛反応。 悲しみ・怒り:悲しみと怒りが続くうちに、抑うつ的な気分 が生じる 適応:悲しみ、怒り、抑うつ等の感情が頂点に達した後、穏 やかに障害児を持ったことの諦めと現実受容が始まる。 再起:障害児を積極的に家庭の中に引き受け、親としての 責任を果たそうとし始める。 (ドローターら,1975) (3)③家族の障害受容の過程 (後天性障害:統合失調症の場合) 1)病認識過程 2)現実容認過程(否認・重大さの認知) 3)希望発見過程 4)本格的取り組み 5)共に生きる喜び 受容の度合いはそれぞれの家族や本人に よって様々である。 (大島啓利ら,1900) (3)④脊髄損傷等の身体障害の社会受容 (南雲,2002)から、見えにくい障害受容へ 昔の障害という意味、「苦」「けがれ」「できない」とみなされ た。(→逆にできなくなったことが周囲から分かりにくい、自 覚できにくい障害もある;内部・知的・精神障害等。) 障害を負った後の心の苦しみを緩和するには、自己受容と 社会受容が必要であるが、社会受容の問題に対しては十 分に焦点が当てられていない。(→障害差別禁止) 自己受容が不十分であることだけに焦点を当てるのではな く、社会受容がなされていないと捉え、家族支援していくこと も重要。 ※内部障害者の場合、名札や執務室に 「ハートプラスマーク」をつけ、 外部に存在を知らせ理解を求める。 (関西電力特例子会社かんでんエルハートの取り組み) (3)⑤本人・家族の高次脳機能障害理解 (綱川,「調査報告書No.58」,2004) (3)⑥高次脳機能障害者の障害認識促進 障害認識が自覚できにくい場合 トータルパッケージ等の作業を実施し、 ①失敗や困難な出来事について、本人と共に障害と の関係や職業生活への影響を把握 (簡易事務作業等で見落とし等の都度フィードバック) ↓ ②補完手段(定規を置いて指でなぞり読み上げ等)の 活用による成功体験を積むことにより障害認識を 促す。 (刎田,2007) (4)家族のサポート体制 ①観察者としての機能(健康維持等) ②管理者としての機能(医療機関等との交渉) ③介護者としての機能(身体・情緒サポート) (渡辺俊之他;「リハビリテーション患者の心理とケア、 医学書院、2000) (5)家族状況の把握 家族・本人の支援に対する動機付け 家族役割:受障後の変化 家族間の交流パターン 家族の意思決定者、支援の主な協力者は誰 家族内では弱者が強者になることもある 家族が疲労困憊していないか。 (6)家族のアセスメントまとめ 家族のアセスメントまとめ 家族の構造(何が) 家族構成はどうなっているか?(ジェノグラム・エコマップで把握) →家族のサブシステムはどうなっているか? →家族ライフサイクルはどの段階か? 家族の機能(どうなっているか) 家族の「きずな」と「かじとり」の視点で、オルソン円環モデルのバランス型・ 中間型・極端型のいずれか? 家族の各メンバーはどのような家族イメージを持っているか(家族イメージ 法など) 家族では、「くつろぎ」と「しつけ」バランスがとれているか? 家族の障害の受容ができているか? 家族のサポート体制がとれているか? 家族状況はどうなっているか?(課題への動機付け、主協力者は誰、家族 の疲労度など) Ⅳ.おわりに 家族の構造(何が)と機能(どうなってい るか)をアセスメントして、家族の状態に 合わせた適切な支援を実施すること。 障害の受容の過程は様々である。障害 認識の自覚が進んだら、補完手段で成 功体験を積むようにしていく。(家族の意 思を尊重し、課題を選択すればストレス も少ない)。 補足 ※今回全体を通しての引用・参考文献は話 題提供者の著作:報告書No.75「補遺 家族 支援の枠組みと関係機関の取り組みの課題 」からで、障害者職業総合センター研究部門 のホームページからPDFファイルをダウンロ ードできます。 http://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/hou koku/houkoku75.html
© Copyright 2024 ExpyDoc