フラクタル

数学アラカルト第11回
フラクタル科学入門
群馬高専 電子情報工学科
鶴見 智
[email protected]
この講義では何を学ぶか
世の中には、一見複雑に見えるが実は簡単
な規則に支配されているという現象が多々あ
る。マンデルブロはフラクタル(fractal)という
造語で複雑な形の中にある簡単な数学的規則
性を表現した。この概念は、数学にとどまら
ず、自然科学や情報工学まで幅広く応用され
ている。この講義ではフラクタルの数学およ
び物理の基礎を学ぶ。
講義内容



フラクタルの基礎
フラクタル数学
フラクタル物理学
参考書
理解の助けとなるであろうテキストをあげる。
1. B.B.Mandelbrot : The Fractal Geometry of
Nature (1982) [第1版は1977年](広中平祐監訳
「フラクタル幾何学」日経サイエンス社(1985))
フラクタルの創始者による著書。これによってフラクタルは広く知
られるようになった。
2.高安秀樹「フラクタル」朝倉書店(1986)
フラクタル研究初期のテキスト。著者の学位論文をもとに書かれた。
3.本田勝也「フラクタル」朝倉書店(2002)
4.松下貢「フラクタルの物理(Ⅰ)」「フラクタルの物
理(Ⅱ)」裳華房(2002、2004)
日本の代表的フラクタル研究者による学部レベルのテキスト。
最初は4から読むと良い。
5.M.Barnsley: Fractals Everywhere, New York,
Academic Press(1993,1988 )
反復関数系によるフラクタル画像生成研究のきっかけを作った名著。
Ⅰ.フラクタルの基礎
マンデルブロ「フラクタル幾何学」(参考
文献1の序より)
幾何学はなぜ、しばしば味気無いとか、つまらな
いと言われるのであろうか。雲や山の形、海岸線と
か樹木の形を表せないということが、その理由の一
つであろう。<略>
私はこの挑戦にこたえるべく考えをめぐらせた結
果、自然の新しい幾何学を展開し、多くのいろいろ
な分野でそれを利用できるようにした。それによっ
て我々の身のまわりの不規則で断片的な形の多くが
記述でき、私がフラクタルと呼んでいる形のグルー
プとして確認されることにより、たくましい理論が
できあがるに至る。
(太字強調は講義担当者によるもの)
複雑さの中の規則性
たしかに、雲の形、山並み、海岸線、ガラス
のひび・・・みんなどこか似ている。これら
の形には何か共通する性質があるのだろうか。
山並み
ブロッコリカリフラワー
対称性と相似性





回転対称性
並進対称性
左右対称性
相似性
離散自己相似
マトリョーシカ人形
フラクタルの先駆者たち
1875~1935 数学の危機の時代
レイモン(1875), ワイエルシュトラス(1872,1895),
カントール(1877), デデキント(1877), シェルピンス
キー(1915,1916), ペアノ(1890), ルベーグ(1903),
高木貞治(1903), ハウスドルフ(1919),
ベシコビッチ(1935,1937), 寺田寅彦(昭和8年,1933)
1960~ フラクタルの確立の時代
リチャードソン(1961),マンデルブロ(1967)
海岸線の長さ
・L.F.リチャードソン「海岸線の長さについて」
(1961)
ブリテン島の海岸線の長さを測る
ポルトガルとスペインの国境の長さの問題
・B.B.マンデルブロ「英国沿岸の長さはどれだ
けあるか?」(1967)
自然界には固有のスケールをもたないものがある
どのように測るか
手順
1.地図の縮尺にあわせてデバイダ-を適当
に広げておく
2.前の終点が次の始点になるように海岸線
上をたどる
3. 次の式で海岸線の長さの近似値を出す
海岸線の長さ=[1区間の長さ]×[個数]
4.デバイダ-の縮尺を変えて繰り返す
海岸線の長さと縮尺(スケー
ル)との間の関係
なんと、海岸線の長さは決まっていると思っていた
ら、スケールを変えると変わる!
L(r) ~ 定数 r
1D
しかしDは一定値となった
D  1.3
これは何を意味しているのだろう
一部分の拡大を続けていくと・・・
自己相似性
どんな部分でも拡大するともとの図形と同じ形
をしている、つまり固有のスケールを持たない
↓
スケール不変性=自己相似性
(self-similarity)
マンデルブロは自己相似性の特徴をもつ図形、
形、現象をフラクタル(fractal)と名付けた
指数Dについて


自己相似のなんらか指標を表していると
考えられる
次元と関係しているのか
次元について(1)

位相次元 DT
線分:2等分すると1/2の線分が2個
正方形:一辺を2等分して正方形を
作ると大きさ1/2の正方形が4個
立方体:同様に大きさ1/2の立方体が8個
1次元
2次元
3次元
21
22
23
DT 次元の図形は一辺を2等分するともとの図形
のミニチュアが 2DT 個できる。
一般に1/rの部分N個に分けられたとき
1
log N
DT 
log1 / r
Nr
DT
この整数 DT を位相次元という。
次元について(2)

ハウスドルフ次元 DH
なめらかな曲線は、 rがゼロに近づくに従って、
長さL(r)は真の曲線の長さに近づいていく。し
かし、海岸線の長さは、rがゼロに近づくに
従ってどんどん細かい折れ曲がりに入り込んで
行くため、無限大に発散する。しかし、漸近
的にはrのべき則に従って発散する。
いいかえると、
N  r DH


 有限 0

D  DH
D  DH
D  DH
となる指数 DH が存在する。これをハウスドルフ次元
という。 DH は非整数でもかまわない。
ハウスドルフ次元は自己相似の複雑さの度合いを
表す指標である。
フラクタルの定義
フラクタルとは、ハウスドルフ次元が位相次元
より大きくなる集合である。すなわち、
DT  DH
(マンデルブロ「フラクタル幾何学」第3章)
Ⅱ.フラクタル数学
コッホ曲線
一部を拡大
しても元と
同じ形が現
れる
コッホ曲線の作り方
1. 長さ1の線分を用意する
2. その線分を3等分する
3. 3等分した線分の真中を消す
4. その中に長さ1/3の線分を2本使って
三角形の斜辺を作る
5. 以上の操作を繰り返す
Javaによる実験をやってみよう
r 

1 n
の長さの線分が
3
N  4 できるので
n
log 4
DH 
 1.26
log 3
シェルピンスキーギャスケット

r 

1 n
2
の長さの三角形が
N 3
n
log 3
DH 
 1.58
log 2
できるので
パスカルの三角形はフラクタ
ル?
二項係数
n
Cr n1 Cr  n1Cr 1
2で割った余りを色分けすると
代表的な数学集合のフラクタル



カントール集合
マンデルブロ集合
ジュリア集合
カントール集合
非可算の要素をもち測度(長さ)ゼロの集合
r 

1 n
3
の長さの線分が
N  2 できるので
n
log 2
DH 
 0.63
log 3
マンデルブロ集合

複素差分力学系のフ
ラクタル
zn  zn21  c, n  Z, z, c C
初期値z=0からスタートした解が
発散するか(黒)、収束するかで
c平面を色分けしたもの
自己相似性の確認
Javaによる実験をやってみよう
ジュリア集合
zn  z
2
n1
 c, n  Z,
z, c C
c = -1に固定し、発散する初期値集合と収束する
初期値集合でz空間を塗り分けたもの
Javaによる実験をやってみよう
フラクタル図形はどうしたら
作れるか?

「再帰呼び出し」を使う
コッホ曲線、マンデルブロ集合、
ジュリア集合

「反復関数系(IFS)」で生成する
バーンスレイのシダ、カオスゲーム
アフィン変換
アフィン変換
∥
一次変換
+
平行移動
反復関数系でフラクタルをつ
くる
アフィン変換の組(反復関数系:IFS)で
繰り返し変換してつくることができる
例:シェルピンスキーギャスケット
 x   0.5 0  x   0
W1 y    0 0.5 y    0
 x   0.5 0  x   0.5
W 2  y    0 0.5 y    0 
 x   0.5 0  x   0 
W 3  y    0 0.5 y    0.5
決定論的反復関数系という
カオスゲーム
各変換を確率的に選択して点を打つと高速に画
像をつくれる
確率論的反復関数系という
フラクタルアニメーション
2つのフラクタル画像の反復関数系が
わかっていれば、パラメータをなめらかにつ
なぐことでアニメーションをつくれる。
Javaによる実験をやってみよう
IFSはデータ圧縮として使える
通常の画像は
400 4001bit  20Kbyte
反復関数系では
6  3 4byte  72byte
つまり約1/280に圧縮できたことになる
参考:1byte  8bit
フラクタル画像符号化
フラクタルブロック符号化アルゴリズム
(A.Jacquin’89)
Javaによる実験をやってみよう
Ⅲ.フラクタル物理
自然の中のフラクタル



厳密に自己相似性が成り立つものは
まれ
無限階層性はありえない
ハウスドルフ次元では厳密すぎて使い
にくい
フラクタル次元
相似次元
log N
D
log1/ r
自己相似集合については相似次元と
ハウスドルフ次元は等しい。
フラクタル次元の求め方






スケール変換法
カバー法
ボックスカウント法
視野拡大法
回転半径法
密度相関関数法
実際のフラクタル次元









海岸線、川
…
川の水位
…
肺の血管
…
脳のしわ
…
銀河の分布
…
月のクレータの分布…
固体の表面
…
雲
…
金属結晶
…
1.1~1.5
1.1
2.17
2.73~2.79
1.2
2.0
2~3
1.33
1.66
フラクタルの物理現象
・固体表面
・乱流
・凝集体
・緩和過程
・放電パターン
・ジョセフソン接合
・高分子
・分子スペクトル
・ブラウン運動
・希釈磁性体
・パーコレーション・1/fノイズ
・電析パターン
・ 通信エラー
シミュレーション・モデル


DLA
パーコレーションモデル
モデル1:DLA
格子上に種となる1つの格子点を考え原点とする。
原点を中心とする大きな円周上か
ら1つの粒子を放つ。その粒子は
ランダムウォークをしながら、
種の1つの周囲の1点に到達した
ら付着させる。別な粒子を放ち、
同様のシミュレーションを繰り
返す。
例:凝集体、結晶成長
吸着粒子数約5000個
DLAは厳密な自己相似ではなく、統計的自己
相似性が成り立っている。
DLAのフラクタル次元は、回転半径法、また
は密度相関関数法により、
1.71
D
2.50
(2次元)
(3次元)
が理論的、シミュレーションからわかってい
る。
モデル2:パーコレーション
正方格子の隣り合う2点を結ぶ線分をボンドといい、
各ボンドは有と空が取れるとする。有が取れる確率を
p 、空が取れる確率を 1  p とする。
p を大きくしていったとき、p  pc ですべての点が
つながり、ひとつのクラスタになる。その状態を臨
界状態という。
例:山火事の延焼、金属と絶縁体の混合物
ボンドの有の確率(明るい点の割合)を変えると
確率0.3
ばらばらの小さなクラスタ
ができる
確率0.6
ほぼ一つのクラスタに
なっている
( pc  0.5 )
社会のフラクタル現象


単語の出現頻度、所得の分布
時間軸上のフラクタルの例:
株価の変動、交通量、
インターネットのトラフィック
↓
両対数で直線にのる分布
=べき乗法則(power low)が成り立つ
べき乗法則 (1)

単語のランク(ジップの法則)
(the,of,and,to,I,or,sayの順)
説(1)言葉の相互作用に起因する
ある単語ばかり多くても伝わらない
同じ頻度で現れても伝わらない
説(2)よく使う単語ほど省略されていることに起因
する
単語の長さと出現頻度べき乗法則に従う
べき乗法則 (2)
都市の人口と都市のランク
(東京、横浜、大阪、名古屋、京都、
神戸、札幌、北九州、福岡の順)

都市はその人口に比例して人々の群れを引き寄せる
力をもつ。人々が移動したり、新しい都市をつくる
ことで都市の大きさが変化する。これをシミュレー
トすることでべき乗法則を示せる。
べき乗法則 (2)

輸入額と国別ランク
(アメリカ、サウジアラビア、
オーストラリア、インドネシア、
イラン、カナダ、韓国の順)
国、企業という多数の要素が複雑に相互作用してい
るため?
べき乗法則 (4)

株価の変動
大金持ちもあまりお金
を持っていない人も単
位は異なるが同じよう
に売買の決断をしてい
るため自己相似的機構
が生じる?
フラクタルの応用
フラクタル工学:
フラクタル理論を工学へ応用していく分野
例: 画像解析・識別、テクスチャ解析、
リモートセンシング、CG、画像生成、
画像符号化、暗号系、フラクタル音楽
フラクタルの画像生成・画像解析

フラクショナルブラウン運動(FBM)
ブラウン運動を自己相似な確率過程で表現
すると
1 / 2
B(st)  s
B(t )
↓
指数1/2の自己相似過程である
これを一般化したものがFBMで、確率積分
でつぎようにかける
FB(0)  0
FB(t )  C  [ {(t  s) H 1 / 2  (s) H 1 / 2 }dB(s)
0

  (T  s)
t
0
H 1 / 2
dB(s)
Hが小さいときは激しく振動する軌跡を示し、
大きくなるに従い平坦になる。

FBMの応用

画像の生成
CG、アニメーションへの応用

テクスチャ画像の解析
医用画像、リモートセンシング、自然景観、
工業製品の検査画像、壁紙
まとめ
フラクタル=何らかの仕方で全体と相似
な部分からなる図形・性質



自己相似性
べき乗法則
フラクタル次元