誰が熱帯林を破壊しているのか 安部竜一郎 東京大学大学院総合文化研究科博士課程 (環境問題の政治社会学) 住民の焼畑でしょう か? コスモ石油のホームページから 企業による伐採でしょうか? 熱帯林行動ネットワークのホームページより インドネシア・スマトラ島リアウ州 http://www.jca.apc.org/jatan/ それとも、農地への転 換? (財)地球・人間環境フォーラムのホームページより:タイ東北部コラート *写真は樫尾昌秀氏(FAO/RAPA) http://www2.odn.ne.jp/~aab27900/index.html 熱帯林破壊の犯人探し 1.住民説:焼畑+伐採 2.農地転換説:プランテーション・農地拡大 3.企業説:商業伐採 *それぞれどう説明されているか(フレーミング)を確かめてみよう! ポイントは…誰? ・誰が森林を使っているか ・誰が森を守るべきなのか 1.住民説 伝 統 的焼 畑 (自 然 の再 生 スピ ー ド内 ・ 持続 的) ⇒人口増→非持続的焼畑→森林減少 人口増→貧困→伐採→森林減少 *対策:定地型農業 水田や野菜畑など土地の集約的利用 ⇒食料増産→焼畑やめて、伐採も中止 ►対策の主人公は・・・政府+援助機関(NGO 含) ・・・と見えるけど 農薬や化学肥料、種苗メーカー (アグリビジネス)が儲かる仕組み 2.農地転換主因説 大規模牧畜地化やプランテーション ⇒大規模な森林伐開→森林減少 対策:植林政策+適切な規模の需要 ⇒選択的伐採→植林というサイクルによる 長期的・持続的な林業→森林保全 ►対策の主人功は・・・政府+林業技術者 3.商業伐採主因説 対策a:リサイクルやリユースによって、 紙や木材の需要を減らす+二次林の利用 や植林、ケナフなどの非木材紙の開発 ⇒木材需要減→原生林保護 対策b:原生林伐採反対の世論喚起 ⇒原生林保護 ▸対策の主人公は・・・NGO+先進国の消費者 3つの説を比べてみると・・・ 責任 焼畑説 理由 対策 守り手 住民 人口増 集約農業 アグリビジネス 農地転換 地主 政策 植林 商業伐採 企業 政府 保護 林業者 NGO *住民はどこに行ってしまうのか? インドネシアの熱帯林をめぐるコンフリクト 森林面積(2000年)1億1千万ha(58%) →年130万ha消失 Cf.日本の森林面積2,500万ha(66%) オランダによる植民地支配 ティーク、黒檀などの高価値木の伐採、植林 独立後 森林の国有化=企業に森林事業権を与えて伐採認可 80年代 森林劣化による丸太輸出の禁止+大規模植林事業の導入 インドネシア:南スマトラ州ムシ・パルプ事業の場合 南スマトラ州 インドネシア・南スマトラ州ムシパルプ事業(環境保全型開 発) =44万ヘクタールの産業造林+最新式パルプ工場 ブナカット パルプ工場 黒塗部分が植林コンセッション 南スマトラ州ムシ・パルプ事業 70年代 国際協力機構JICAによる試験植林開始 88年:保護林から商業林(伐採可)へ区分変更 89年:スハルト大統領(当時)の取り巻き企業が 植林事業権を獲得し、林地の囲い込み開始 →伝統的焼畑を営む住民と対立 植林会社による共有林伐採(96.1筆者撮影) マルガの森の物語 マルガ(氏族):ムラユの慣習的な血縁共同体 マルガによる慣習統治 1932年にオランダ政庁より森林管理承認書 慣習法(おきて)に基づく持続的利用 村落共有林=墓所=水源=禁止林 耕作及び販売目的の伐採禁止 狩猟採取のための森 耕作林:慣習法に基づく粗放型焼き畑 火入れルールの徹底 外部者のアクセスを制限 「森林劣化」をめぐる政府・事業者と住民との解釈のずれ 政府 事業者 林地住民 劣化の原因 劣化したもの 対策 住民の焼畑 木材資源 大規模植林 商業伐採 植林 生活基盤 (サブシステン ス) 植林の中止 入会の復権 *森林は住民にとって、耕地や林産物、水などを供給してくれ る生活資源であると同時に、墓地や慣習法など先祖代代の生 活を裏付ける社会・文化的資源でもあった 対立で何が起きたか 植林地が放火される►►森林火災の原因の一つ 植林会社事務所にデモ、所長を軟禁 植林会社の作業員住宅が放火される 林業副大臣を軟禁し、共有林返還を約束させる ⇒共有林の伐採・植林の中止 サブシステンスに注目することで、何がみえてくるのか ① 技術の問題 大規模造林は住民のサブシステンスを無効化した。 ② 政治の問題 慣習法による伝統的統治 →村長を中心とした権威主義的な行政システム ③ 経済の問題 耕地を失った住民は、植林地の季節労働やアブラ ヤシ・プランテーションへの出稼ぎに頼ることになる →流動性が高まる →開発事業へ労働力供給 ④ 環境の問題 天然林、二次林、草地のパッチワーク 二次林→焼畑→草地→二次林のサイクル +天然林(共有林) ⇒ わずかに残った天然林 +熱帯アカシアの単相林 +アブラヤシやゴムの大規模プランテーション リスクを誰が引き受けるのか 焼畑説 対策 リスク 引き受け手 集約農業化 病害虫 住民 土地の 囲い込み 住民 立ち退き 住民 農地転換説 林業・植林 伐採説 保護林 森は誰のもの? 「熱帯林を守れ!」のスローガンの背景に・・・ 「森林へのアクセスを誰が握るのか」 住民⇒国家 企業 林業専門家 NGO? 森をいったん奪われると・・・ 耕地不足(人口が増えたわけではない) →休耕期間が短くなる →火入れなど、おきてを守らなくなる ⇒森林に回復できず 外部の雇用(プランテーションなど)に依存 →自給自足部分が無くなる →貨幣経済へ全面依存 ⇒共有林を伐採した方が金になる:非持続的な伐採 住民による伐採も・・・ 熱帯林行動ネットワークのホームページより インドネシア・スマトラ島リアウ州 練習問題 サブシステンス志向は、「旧き良き時代」へのノスタ ルジアとは異なります。 林地がごくわずかしか残されていない現状では、 いったん崩れてしまった住民の伝統的森林利用を 復活させようとしても難しいでしょう。 本日の授業をふまえて、環境と住民のサブシステ ンスの両方を尊重するとすれば、どのような方策が 考えられるでしょうか。あなたなりの意見(理由を含 め)を述べてください。
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