東アジア経済経営論 - 駿河台メディアサービス

比較経営(中国)
2004.5.27
市場体制への移行
――比較体制論的考察――
主要内容:
◎ 3つの経済体制
◎計画体制から市場への移行の必然性
◎体制移行の2つのモデル
◎中国型移行の特色と問題点
目次
第1節
第2節
第3節
第4節
第5節
中国における3つの経済体制
社会主義市場経済と市場社会主義
体制移行の2つのモデル
中国型体制移行の特色と問題点
漸進的改革に対する見方
第一節
中国における3つの経済体制
1、 3つの経済体制
2、 改革以後の計画メカニズムと計画思
想の後退
表6-1 3つの経済体制モデル
所有制
配分メカニズム
意思決定制度
スターリン型・ソ 国有制
連型経済体制
計画
中央集権制
毛沢東型経済
体制
(緩い計画)
緩い集権制と行
政的分権化
計画と市場の併
存から市場主体
へ
分権化
鄧小平型経済
体制・社会主
義市場経済
公有制
公有制を核と
する多重所有
制
2、改革以後の計画メカニズム
と計画思想の後退
(1)陳雲: 「鳥籠経済」
「計画を主とし、市場を従とする」戦略
趙紫陽:「社会主義初期段階論」
「国家が市場を調節し、市場が企業を導
く」戦略
「双軌制」
市場メカニズムと計画メカニズム併存
(2) 財・サービス・生産要素の
三つの配分方法
●指令性計画――一種の法律的性格を持ち、
達成できるように、資材を優先的に配分す
るシステム。
●指導性計画――達成されることが、期待さ
れるものの、指令性計画と異なり、義務的
なものではない。
●市場調整。
三つの価格
●政府固定価格。
●政府指導価格。
●市場価格。
(3) 市場化とは
指令性計画による配分の割合が小さくなり、
市場調節による配分の割合が大きくなる過
程である。
価格決定において、政府固定価格の比重が
低くなり、市場価格の比重が高くなる過程
である。
(2)市場化の進展
 指令性計画による工業生産の割合:
1984
1987
1993
40%
17%
7%
第2節
社会主義市場経済の欠陥
1993年第14回党大会に「社会主義市場経済」
が打出され、市場を主体とする経済体制に
転換していくと決定。
なぜ、経済は市場主体でなければならないか。
なぜ、計画経済主体ではいけないのか。
計画体制の欠陥
1. 情報処理能力の不足、情報量と情報処理
能力のアンバランス。
◎経済が後退し、限られた財の生産にのみ集中す
る時計画体制は有効に機能する。
◎一時的特殊な目的に即した体制、平時に採用さ
れない理由:
a.消費者の意識を無視する。
b.現実に必要とされる膨大な数の財やサービスを
国家が計画する事は不可能である。
2. 誘因または刺激非両立性
(incentive incompatibility)
中央・企業・労働者の間、誘因が一致しない
◎中央と企業の関係
中央:企業が低めに生産能力を申告してくる
と疑い。
企業:中央が多めに生産課題を押しつける
と信じ、生産課題をめぐってバーゲニングが
開始。
2. 誘因または刺激非両立性
(incentive incompatibility)
企業と労働者、労働者と企業との一体感が欠
け、なるべく手を抜いて仕事をする。
企業側は労働者を働かせるように物的刺激
と精神的刺激を行う。
3. 能動的精神
と欲望の創出の失敗
計画体制の最大の失敗:
刺激の問題、社会や経済をダイナミックに
発展させる精神あるいは欲望とその精神を
生みだす、制度的装置がない。
以上の三つの難問を克服で
きる唯一の経済機構:
競争的市場
その高い情報処理能力、刺激能力により、
社会や経済を前に進める強力なエンジン
→リスクに挑戦する企業家が誕生
→新しい技術や産業が勃興してくる。
第3節 体制移行の2つのモデル
1、社会経済体制は二つの方向に分解する:
①資本主義化への道(free road to
capitalism)
②社会主義体制の下の市場経済化の道
共通点:
計画経済 →市場経済
2、体制移行の2つのアプロッチ
①急進主義・ビッグバン(ショック療法)
②漸進主義・進化的アプローチ
(中国)
両者の遣い:
単なる進め方の速度の差ではなく、歴史観
や哲学の差でもある。
3、移行の初期条件比較
①市場が存在するケースと存在しないケース
②集権性が強いケースと弱いケース
③制度化が進んでいるか否かの区分
④海外との繋がり:開放か閉鎖か
⑤産業構造の進展度合
第四節
中国型体制移行の特色と問題
1、中国式改革成功の秘密
(1) 分権化
毛沢東時代に地方分権化を進み、改革後、
地方間の競争を生み出し、市場を形成し、
発展する。
(2) 海外との繋がり
華僑は中国と世界とを結びつける貿易のパー
トナーであり、資本の提供者でもある。
市場経済とは何か、資本主義経営とは何かを
教えてくれる先生である。
(3) 市場マインドが人々の間にきわめて強かっ
た。
中国人=華僑=商人
(4) 改革の順序
農業→都市部門・非農業部門
2、中国型移行の問題点
漸進主義は
「痛みの伴う改革の先送り」もたらしし
がちである。
第5節 漸進的改革による
市場経済への移行に関する見方
 ロードマップなき市場経済への移行
(1)避けられない移行期における矛盾と衝突
衝突がないことを期待することができない。
重要なのは、衝突の行先が崩壊であるか、
それとも調和であるかである。
漸進的改革による
市場経済への移行に関する見方
2 「秩序」と「無秩序」
市場は一夜できあがるものではない。市場化という長くか
つ苦痛を伴う過程において、古いルールが完全に消滅して
おらず、新しいルールがまだできあがっていない状況では、
混乱や「無秩序」という様相を呈する
漸進的改革による
市場経済への移行に関する見方
(3) 担い手は「専門家」から「民衆」へ
計画経済: 制度を信じないで「専門家」を
信じ、「法制」に頼らず「人治」に頼る→聖人
が必要、「専門家治国論」
市場経済: 勘定ができて、損を避けて利
益を稼ぐことを知ることができれば、専門家
でなくても一般人できる → 制度は安定的、
長続きする。