Document

開業医定員制と医師偏在への解消へ
患者を大切にするドイツの医療と裁判外紛争処理
からの抜粋
東京医科歯科大学名誉教授 岡嶋道夫
2010年 岡嶋道夫
1
開業医定員制と医師偏在解消への努力
• 1970年代には、ドイツや日本も含めて、多くの国
で医師の需要増加を見越して医科大学を多数増
設した
• 間もなくして医師過剰現象が現われ、その調整
が行われることになった。わが国でも1990年代
には医師過剰を心配する声が強くなった
• しかし、2000年代に入ると、ドイツでも日本でも
突如として医師不足傾向が顕在化し始めた
2010年 岡嶋道夫
2
開業医の地域別、専門医別の定員制
• ドイツでは1993年に、開業医の過剰や集中を防
ぎ、医療供給を適正にする目的で、従来の医師
開業認可規則に定員制の条文を導入
• 中・長期計画としての開業医の定員制を実施
• その場合、連邦の地域開発計画資料を参考にし
て行政地域に準拠して医療圏(計画区域)を設定
• 医療圏ごとに専門医1名あたりの住民数を定め
るという形の定員制で、住民が増減すれば、そ
れに比例して定員数も変化する
2010年 岡嶋道夫
3
開業医の需要計画
医療圏の分類と専門医1人あたりの住民数
算出は人口密度と都市構成を基本にしている
国会図書館レファレンス 平成20年11月号戸田典子から
2010年 岡嶋道夫
4
専門医1人当りの住民数(1993年)
例示
人口密度高い地域
1 中核都市
密度の低い地域
9 農村的地域
例:ベルリン
デュッセルドルフ
フランクフルト
ミュンヘン
例:ガルミッシ
ュ・パルテンキ
ルヘン.アルプ
ス地方
2269
1585
>
1674
1474
麻酔
25958
<
137442
眼科
13177
<
25196
外科
24469
<
48592
6916
<
13697
一般医学(家庭医)
2004年より
産婦人科
2010年 岡嶋道夫
5
耳鼻咽喉科
16884
<
37794
皮膚科
20812
<
60026
内科
2004年より
3679
12276
<
8912
31876
小児科
14188
<
26505
神経科
12864
<
46384
整形外科
13242
<
31398
精神療法
2577
<
23106
放射線科
25533
<
136058
泌尿器科
26641
<
55159
2004年に制度改革で内科専門医の多数が家庭医に転向した。
他の科では人数枠に変更なし。
2010年 岡嶋道夫
6
• この場合、医師過剰であった1990年の実情を算
出根拠にしたが、これは現在まで続いている
• 定員制といっても開業医の配置換えをするといっ
た強行手段を取るのではなく、定員を超えた供
給過剰の地区での新規開業を許可しないで、供
給不足の地区での開業を推進しようとするもの
である
• 定員に満たない医療圏数(医療圏数×専門医の種類)は
1996年には 29.7% であったが
2008年には 8.4% に減少し、
その効果が現われている
2010年 岡嶋道夫
7
専門医の充足度 (毎年ほとんど変化しない)
人口800万のW-L地方の27医療圏(計画区域)
専門医別(2007年9月)、●は充足、左端の列が家庭医
家庭医 麻酔 眼科 外科 産婦 耳鼻 皮膚 内科 小児 神経 整形 精神 放射 泌尿
2010年 岡嶋道夫
8
• 現在、施行後15年を経過したところであるが、充
足度が150%あるいは70%という地区がまだ
残っているとのことである
• 自分の気に入った地域で開業する自由は制限さ
れるが、医師の間では大きな反対もなく受入れら
れている。規制がないと、狭い地域で限られた数
の患者の奪い合い、収入の減少ということになり、
医師自身にとっても不都合になる
• 開業応募者の採用は委員会(保険医協会と疾病
金庫から同数の委員)が行うが、選抜方法の詳
細は開業認可規則で定められている
2010年 岡嶋道夫
9
州別、専門医別に見た開業可能な医療圏数
とその医師数(医療圏は総数395) 2008年
国会図書館レファレンス 平成20年11月号戸田典子から
2010年 岡嶋道夫
10
• このように、現在多数の地域並びに大多数の専
門において定員は充足されているが、
充足度のもっとも低いのは家庭医(一般医学の
専門医資格がないと開業できない)。EUでは家
庭医として開業を始める医師は、1995年より最
低2年間の家庭医としての卒後研修が必須
医師偏在の抑止
• ドイツの地形は比較的単純、専門医制度が確立
していて、定員を定めやすい、といった事情が日
本と異なるが、開業医の定員制という大胆な制
度を作っている精神には学ぶべきものがある
2010年 岡嶋道夫
11