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千と千尋の経済学
専修大学 「経済の世界」
作間 逸雄
『千と千尋』について
• 叶精二著『宮崎駿全書』(フィルムアート社、2006
年)は、『千と千尋の神隠し』について、奔放なイメー
ジで「危ういバランスをとりまとめた奇跡的作品」と
評している。実際、たとえば、銭婆のエピソードは、
当初の構想(湯婆婆の黒幕)と異なるし、カオナシは
メインなキャラになる予定ではなかった。にもかかわ
らず、『千と千尋』は、宮崎の代表作のひとつとなっ
た。
• 千尋の冒険と成長の物語が軸になっているが、もう
ひとつのテーマは、人間の生活の営みとしての経済
である。
ススワタリと釜爺の場面(1)
• 釜爺 わしゃあ、釜爺だ。風呂釜にこき使われとるじじいだ。
•
チビども、はやくせんか!
• 千尋 あの、ここで働かせてください!
• 釜爺 ええい、手は足りとる。そこら中ススだらけだからな。いくら
でも代わりはおるわい。
• 千尋 あっ、ごめんなさい。あ、ちょっと待って。
• 釜爺 じゃまじゃま!
• 千尋 ……あっ。
• 重さで潰れたススワタリの石炭を持ち上げる千尋。ススワタリは逃
げ帰ってゆく。
• 千尋 あっ、どうするのこれ?ここにおいといていいの?
• 釜爺 手ぇ出すならしまいまでやれ!
• 千尋 えっ?……
ススワタリと釜爺の場面(2)
• 石炭を釜に運ぶと、ススワタリみんなが潰れた真似をし
だす。
• カンカンカンカン
•
• 釜爺
こらあー、チビどもー!ただのススにもどり
てぇのか!?
•
あんたも気まぐれに手ぇ出して、人の仕事を取っ
ちゃならね。働かなきゃな、こいつらの魔法は消えちま
うんだ。
• ここにあんたの仕事はねぇ、他を当たってくれ。
• ……なんだおまえたち、文句があるのか?仕事しろ仕
事!!
ボランタリーの有害性
油屋経済
• 利潤動機に支配される経済であるが、徹底し
ていない。当初の構想では、銭婆の世界をそ
の、より徹底したバージョンにしようとしていた
のかもしれない。
• 油屋は、雇用が保証されている!どうやら過
剰雇用。
• 湯婆婆 まったく……つまらない誓いをた
てちまったもんだよ。働きたい者には仕
事をやるだなんて……
油屋経済(名前の剥奪)
湯婆婆
千尋
湯婆婆
フン。千尋というのかい?
はい。
贅沢な名だねぇ。
今からおまえの名前は千だ。いいかい、千だよ。
分かったら返事をするんだ、千!!
千
は、はいっ!
ハク様
湯婆婆は相手の名を奪って支配するんだ。
いつもは千でいて、本当の名前はしっかり隠しておくん
だよ。
名前とは?
油屋には、油屋なりのよさがある
• 市場経済もひとつの協力の仕組みである。それなり
の“力”を発揮することがある。ヘドロまみれの河の
主を救出する場面はどうだろう。
。
• 湯婆婆 んーーー油屋一同、心をこめて!!
エイヤーーーーソーーーーレーーーー
• 河の主 ……佳き哉……
• 千 あっ……
• 千の手に残る団子。
カオナシの献身(1)
• 千に両手いっぱいの金を差し出す。
•
•
•
•
カオナシ え、え、……
千 ……欲しくない。いらない!
カオナシ え、え……
千 私忙しいので、失礼します!
• こぼした金に群がる群衆をすり抜けて千が出ていく。
カオナシの献身(2)
• 千 あなたは来たところへ帰った方がいいよ。
私がほしいものは、あなたにはぜったい出せ
ない。
• カオナシ グゥ……
• 千 おうちはどこなの?お父さんやお母さん、
いるんでしょ?
• カオナシ イヤダ……イヤダ……サビシイ
……サビシィ……
カオナシについての論点
• カオナシの解釈は、むずかしい。
• 「打ち出の小槌」のように、ひとがほしがるも
のを提供することができる。
• 千尋も、カオナシのおかげで河の主を手助け
することができる。
• 顔がない?!
• 「利他」?「ひとのために」?という危険性?
• 湯婆婆経済を混乱させるが、銭婆経済では、
それなりに役に立つ。
銭婆経済という、もうひとつの可能性
• 銭婆
あたしたち二人で一人前なのに気が合わなくて
ねぇ。ほら、あの人ハイカラじゃないじゃない?魔女の双子な
んてやっかいの元ね。
• 銭婆
今夜は遅いからゆっくりしていきな。おまえたち
手伝ってくれるかい?
• 銭婆
まぁ、もうちょっとお待ち。……さぁ、できたよ。髪
留めにお使い。
• 千 わぁ……きれい。
• 銭婆
お守り。みんなで紡いだ糸を編み込んであるから
ね。
• 銭婆 おまえはここにいな。あたしの手助けをしておく
れ。
• カオナシ あ、あ……
非利潤動機の経済
「市場」と「非市場」の相互交流
• 共通のルールがある。ひとびとは、あくまで、「個」と
して生きている。
• 銭婆 おまえを助けてあげたいけど、あたしにはどう
することも出来ないよ。この世界の決まりだからね。
• 湯婆婆経済と銭婆経済の交流の可能性
• 釜爺
昔は戻りの電車があったんだが、近頃は
行きっぱなしだ。それでも行くか千?
• 千 うん、帰りは線路を歩いてくるからいい。