第 23 回環境化学討論会,亀田豊,ポスター発表(京都;2014 年) P-098 パッシブサンプラーによる都市内河川水中 PPCPs モニタリング ○亀田豊 (千葉工業大学工学部) 【はじめに】 一般的に行われている水中汚染物質のモニタリングは、「河川水を特定の時刻に採水し、分析値を評価する」手法で グラブサンプリングと呼ばれる。海外ではこの方法で得られたデータを snapshot data と称するように、得られた水質 データは採水した時刻のデータでしかない。現在の公共用水域における水質調査は典型的なグラブサンプリングであり、 降雨の影響ができるだけ小さい日程や潮汐の影響のない時刻に採水することで、採水地点の月平均データと評価してい ることが多い。しかし、このデータの代表性を定量的に評価した事例はあまり見られず、ある意味、水環境モニタリン グ世界の「アンタッチャブル」となっていた。しかし、海外でも特に環境中に非定常に放出される物質のモニタリング ではグラブサンプリングの時間代表性について議論が始まっている。EU やアメリカではグラブサンプリングとパッシブ サンプリングを併用することでこれらの問題を解決することが議論されている。アメリカでは USGS がパッシブサンプ リングのガイドライン(Guidelines for using passive samplers to monitor organic contaminants at superfund sediment sites)1)を提示しているほか、EU でも 2015 年までに水環境を健全な状態にするための方針を定めた報告書「WFD Chemical Monitoring Activity document」2)にもパッシブサンプリングが盛り込まれている。水中汚染物質の一つであ る医薬品やパーソナルケア商品中の化学物質は PPCPs と称され、生態毒性の評価が蓄積されつつあるが、水域への排出 パターンはヒトの生活パターンに大きな影響を受け、時間的な変動が大きいことが予想される。そのため、従来のグラ ブサンプリング方法で得られた結果を暴露濃度とした生態リスク評価や公共用水域の化学物質管理は必ずしも妥当で あるとは考えにくい。 そこで、本研究では PPCPs である化粧品由来の防腐剤や抗菌剤を対象としたパッシブサンプラーによるモニタリング の可能性評価を目的として、室内試験によるキャリブレーション試験による sampling rate の把握とその結果を利用し た実際の都市内河川へのパッシブモニタリングへの適用を行った。 【方法】 分析対象物質:化粧品等に用いられることの多い、以下に示す防腐剤及び抗菌剤 15 種とした。 2-phenoxyethanol(2-PE)、 Isopropylmethylphenol(IPMP)、Chloroxylenol(CX)、Methylparaben(MP)、Ethylparaben(EP)、Isopropylparaben(IPrP)、 Propylparaben(PrP) 、 Isobutylparaben(IBP) 、 Butylparaben(BP) 、 Chlorophenesin(CP) 、 Triclosan(TCS) 、 Benzophenone-1(BP-1)、Bensophenon-2(BP-2)、Benzophenone-3(BP-3)、Benzophenone-6(BP-6) パッシブサンプラー:フェノール性水酸基を有する化合物に高い吸着性を有する SDB-RPS(住友 3M 社製)の上に拡散抑 制膜を乗せたものを Chemcatcher®ホルダー(住友3M 社製)にいれた。 室内キャリブレーション試験:パッシブサンプラー16 個を 30 L の水槽に、上下二段のカルーセルに乗せ、約 1~17 ppb の対象物質の混合標準液を用いて流水式暴露試験を行った。定期的に上下一つずつパッシブサンプラーを回収し、 SDB-RPS に吸着した対象物質量を分析した。暴露試験はカルーセルの回転速度を 3 段階(10 rpm、30 rpm、50 rpm)の それぞれについて行い、各々の sampling rate を計算した。暴露期間中の平均水温は 10rpm 系で 28.8̊C、30 および 50 rpm 系で 18.3̊C であった。 都市内河川モニタリング調査場所:生活排水の混入率の高いさいたま市新川とし、11 月 21 日から 15 日間グラブサンプ Pharmaceuticals and personal care products monitoring in an urban river by passive samplers ○Yutaka Kameda Chiba Institute of Technology, 2-17-1 Tsudanuma, Narashino, Chiba, 275-0016, Japan, Tel +81-474-47-4756, Fax +81-474-78-4756, E-mail [email protected] 第 23 回環境化学討論会,亀田豊,ポスター発表(京都;2014 年) リングとパッシブモニタリングを行った。 グラブサンプリング:3 日間隔で 6 回新川河川水をグラブサンプリ Table 1 Sampling rates (L/d) of target compounds from calibration tests ングし、研究室にて対象物質濃度を測定した。 パッシブサンプリングによるモニタリング:パッシブサンプラー3 個を専用ケージ(なでしこ)に入れ、グラブサンプリング地点に 15 日間浸漬放置した。平均水温は 12.4̊C であった。 分析方法:河川水中対象物質濃度は Kimura et al3)の報告に従って 測定した。SDB-RPS 中の対象物質吸着量は、サロゲートを加えたデ ィスクを酢酸エチルで超音波分解後、グラファイトカーボンでク リーンアップし、最終的に TMS による誘導体化後、GC/MS により Kimura et al3)の報告に従って分析した。 【結果と考察】 2-PE IPMP CX MeP EP IPrP PrP IBP BP CP TCS BP-1 BP-2 BP-3 BP-6 温の影響を検討しなければならないが、水温の影響が大きくなけれ ば本研究で得られた sampling rate の実河川への幅広い適用が期待 できる。 リングデータから得られた TWA の対比を示す。検出された多くの物 2000 1500 1000 0 た。一方、MeP と BP-3 はグラブサンプリングによる TWA のほうが 35 小さい値を示し、それぞれ 0.89 倍、0.59 倍であった。これらの結 30 量汚染物質モニタリングへの有効性も示唆された。 【謝辞】 TCS 100 40 リングでは未検出の EP がパッシブサンプリングでは検出され、微 IPMP 150 最も高く 3 倍以上、2-PE、IPMP、PrP および TCS は1~2 倍であっ ラブサンプリング間隔の妥当性が考えられる。また、グラブサンプ 15 CP 0 ブサンプリングの値を上回った原因は、夜間における濃度低下やグ 10 200 も高いもしくは同等の値を示し 1.1~3.4 倍であった。CP と CX が 0 Concentration (ng/L) れた。また、多くの物質でグラブサンプリングによる TWA がパッシ 5 250 50 シブサンプリングにより TWA が精度高く推定できることが示唆さ 0 Duration (day) 質がグラブサンプリングによる TWA がパッシブサンプリングより 果から、グラブサンプリングでは時間変動が大きい物質でも、パッ 2‐PE 2500 300 Concentration (ng/L) Fig.2 にパッシブサンプラーから計算された TWA とグラブサンプ 0.072 0.113 0.106 0.085 0.108 0.103 0.126 0.126 0.129 0.082 0.135 0.049 0.039 0.132 0.062 500 質の濃度変化を示す。3 日おきに 7:00~16:25 の時間帯にグラブサ い物質や TCS や BP-3 のように濃度変動が小さい物質が検出された。 average 0.061 0.131 0.119 0.081 0.092 0.082 0.118 0.109 0.113 0.077 0.135 0.040 0.035 0.128 0.062 3000 Fig.1 に新川でのパッシブサンプラー設置期間における対象物 ンプリングした結果、2-PE や IPMP、MeP のように濃度変動の大き 50rpm 0.069 0.122 0.094 0.101 0.112 0.099 0.145 0.133 0.137 0.077 0.152 0.022 0.020 0.120 0.033 3500 Concentration (ng/L) sampling rate はほぼ一定であることが明らかとなった。今後、水 30rpm 0.085 0.087 0.104 0.071 0.120 0.128 0.116 0.135 0.136 0.092 0.117 0.084 0.062 0.148 0.084 4000 Table 1 にキャリブレーション試験で推定された対象物質の sampling rate を示す。パッシブサンプラー直上の流速に関係なく、 10rpm 5 10 15 Duration (day) CX MeP 25 PrP 20 15 BP‐1 10 BP‐3 5 0 EP 0 5 10 15 Duration (day) Fig. 1 Target compounds concentrations in Shinkawa river by grab sampling method 1000 本研究における防腐剤および抗菌剤の分析は、さいたま市健康科 学研究センター木村久美子博士に行っていただいた。ここに感謝の 100 【参考文献】 1) 2) 3) http://www.epa.gov/superfund/health/conmedia/sediment/p dfs/Passive_Sampler_SAMS_Final_Camera_Ready_-_Jan_2013. pdf#search='Guidelines+for+using+passive+samplers+to+mo nitor+organic+contaminants+at+superfund+sediment+sites' http://cliwat.eu/xpdf/Guidance%20no%2019%20-%20surface% 20water.pdf#search='WFD+Chemical+Monitoring+Activity+do cument Kimura et al.(2014) Chemosphere, in press Grab sampling TWA 意を表す。 10 1 0.1 0.1 1.0 10.0 100.0 1000.0 Passive sampling TWA Fig. 2 Passive sampling TWA compared to grab sampling TWA
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